営みを知る

【花屋】西荻窪 枝屋 - 記憶に残る、暮らしを彩る一輪を探して -

お花屋さんで偶然見かけた一輪の花を、自宅のテーブルに飾ろうと思い立つことはあるでしょうか。

西荻でお店を構えて約10年経つお花屋さん「枝屋」の長谷川さんは、お花は記録ではなく記憶のなかで生きるものだといいます。すぐ散ってしまうからもったいなくて買えないと思うのか、その時間を存分に楽しむか、ちょっと考え方を変えるだけで、お花との向き合い方が変わるかも。

枝屋
「枝屋」の長谷川さん

お花屋さんへ入るのはハードルが高い?

お店に入ると、華やかというより緑が多くて落ち着いている印象を受けます。「枝屋」では、季節のお花も扱っていますが、長い枝ものをたくさん置いています。扱いづらいため、他のお花屋さんではあまり置いていないものも多くて、珍しがって来てくださるお客さんもいらっしゃるそうです。

枝屋

「10年近くお店をやっているため、顔見知りのお客さんが多いです。年齢層も幅広いんですが、若い方だとお花屋さんで一本だけお花を買うということに抵抗があるようで『一本だけでもいいですか』とおっしゃる方もいますね。」

都会に住んでいると、日常生活で自然に触れる機会は決して多くはありません。今は田舎でも、空き地や土いじりのできる場所は減ってしまいました。だから、お花がブーケや贈り物としてでないと買ってはいけない、特別なものになっていったのでは、と長谷川さんはいいます。

枝屋

「お花屋さんって入ったら何かを買わなきゃいけない気になりませんか? お店自体がコンパクトなので、雑貨屋さんや本屋さんみたいに、ふらりと立ち寄りづらいのかもしれませんね……。年間を通してお花屋さんに行かないという方も多いと思いますよ。」

言われてみると、たしかに雑貨屋や本屋、コンビニなんかはまったく抵抗なく入ることができますが、お花屋さんは何か明確な目的がないと入らない、入れない場所のような気がします

こうした先入観があるお客さんを迎え入れるために、「枝屋」ではあえて入荷したての新しいお花を店頭に出しているそうです。

枝屋

「花屋はシーズンより早く仕入れますから、つぼみのものが多いんですが、すでに咲いているもののほうが目立ちます。それに、花の種類や植え方についてなど、お客さんとの話のきっかけになりやすいんです。」

店頭で植物の手入れをしていると、「もう春ですね」や「きれいなお花ですね」などと、道行くひとに話しかけられることがよくあるそうです。植物を見たり触れたりするだけで、どこか心がホッとして人との距離がぐっと近づくのかもしれません。

年中行事に欠かせなかった花

本来身近なものであったお花が、特別なものになってしまったのはなぜなのでしょうか。日本には四季があり、節目に年中行事がもうけられていますが、季節の催事そのものがだんだん消えていっていることに理由があるのでは、と長谷川さんはいいます。

「クリスマスやハロウィンなど、外来のイベントはパーティ感覚でどんどん定着していくのに、反対に日本古来の季節の行事はどんどん無くなってしまっているように感じます。お花は、そうした伝統行事に常に関わってきました。」

フジザクラ
3月~5月に咲く、フジザクラ

「ひな祭りやこどもの日など、人形を飾ることすら値段が高くて出したり仕舞ったりするのが手間だから、どんどん生活から省かれていく。季節の行事が廃れていくのと同時に、お花を飾るという暮らしも遠のいてしまったのではないでしょうか

でも、年中行事を楽しむということは、ていねいに暮らすということと近いような気がしますね。そうした季節の移ろいを、行事とお花の移り変わりで感じるのは、四季がある日本で生活するからこそ楽しめることだと思います。」

記録ではなく記憶に残すもの

今は、スマホや携帯電話を一人一台持っているような時代です。また、そこで貯めた情報を誰かと共有することも簡単になりました。同時に、過ぎていく時間、移り変わる季節の中で様々なことを記録することが重視されるようになりました。変わりゆくものを、逐一貯めていきたいと思いがちですが、長谷川さんは「お花は記録ではなくて、記憶に残すもの」とおっしゃります。

「よく、お花はすぐ枯れてしまうからもったいなくて買えないとおっしゃるお客さんがいます。でも、お花は枯れてしまうからいいんです。その短い命とどう付き合っていくかがお花を楽しむコツだと思います。

たとえばバラ。今は香りが強いバラもありますから、一輪買って花びらが散るまで飾っておいて、散った花びらを集めてお風呂に浮かべると、とてもいい香りのバラのお風呂が楽しめます。たった一輪で、そこまで楽しみ尽くすことができますから、お花はただ飾って見るためだけのものではなくて、生活の隙間を満たしてくれるものなんだと思います。」

すぐにお花が枯れてしまっても、そうした「花のある暮らし」という記憶はいつまでも残ります。お花そのものにかけるお金と時間というよりは、お花とともにある生活まで見つめると、より自分らしいお花との向き合い方が見えてくるのではないでしょうか。

さいごに、ふだんの暮らしのなかで、お花を取り入れるときのコツを長谷川さんに伺いました。

枝屋

「なにも豪華な花瓶を用意する必要はありません。ビンやコップでもいいですし、ワインのボトルは倒れにくくて一輪挿しなどにはぴったりだと思います。あとは、丈の長いお花は、そのまま生けるのではなく短くカットして大丈夫です。長いストローで水を吸うとき短い方が楽なように、お花も楽に水を摂取できるから。

実は、東京都和光市で、少しでもお花を通して季節感を感じたり、自然と触れる機会を増やしたりするためのスクールを作ろうかと計画中なんです。そういったスクールや、お店にお客さんが来たときは、植物に関して分からないことや気になるお花があったら、気軽にお話したいですね。」

お店の情報

枝屋
住所:東京都杉並区西荻南3-21-9
最寄駅:JR中央総武線西荻窪駅
電話番号:03-3335-7337
営業時間:13:00~19:00
定休日:木曜日
公式ページ:公式サイトFacebook

枝屋

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立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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