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顔のない、しなやかなこけし。松田弘次工人の「南部系 キナキナ」

西荻窪にある、紅茶とこけしのお店「西荻イトチ」。お店を切り盛りする伊藤さんに、すてきなこけしをひとつずつご紹介いただきました。今日は東北六県のうち、岩手県のこけしです。

細く長く好きでいて。紅茶とこけしのお店「西荻イトチ」の伊藤ちえさんの想い

顔がないこけし

「次はこれですね」と伊藤さんが差し出したこけしは、華奢な体つきなうえに、顔がありません。つるりとした表面で、サイズもそんなに大きくなく女性の手のひらでも収まりの良い形です。

こけし,キナキナ

「これは、岩手の南部系のキナキナというこけしです。キナキナ、とは岩手県でのこけしの呼び名のひとつで、昔は、あかちゃんがおしゃぶりやおもちゃとして使われていたこけしでした。そのため、顔の部分が小さい球体で、描彩がなく、頭がグラグラと動く独特なこけしです。」

なるほど、胴体が細身なのは、あかちゃんが握りやすいサイズのためなのですね。

こけし,キナキナ

キナキナには顔がないため、どこが正面なのかは、胸元あたりの丸い木目で判断します。

「このキナキナは、松田弘次工人という方に作っていただきました。松田さんは、今は70後半くらいのお年です。顔がないこけしですが、松田さんが木地を熟知されているからこそ、どこを正面にするかはすぐ判断できるのだと思います。熟練の技が成せる技のひとつだと思います。」

中には、「こけしが怖い」という人もいます。人の顔が描いてあるから、部屋の中に置いておくと視線を感じるのだ、という声も聞いたことがあります。ですが伊藤さんは、キナキナは、こけしが苦手なひとでもとっつきやすいこけしなのでは、と仰ります。

「こけしの平均サイズが8寸(約24センチ)くらいなんですけど、それだと存在感がありすぎるというか、部屋に馴染まないものも多いんです。でも南部系のキナキナは、インテリアとしても置きやすいというのが特徴だと思っています。」

こけし,キナキナ

こけしの産地は東北が主ですが、岩手のこけしというのは、つくっている方がとても少ないと言います。岩手に住んでいる方でも知らない人が多いくらいだそうです。でもだからこそ、伊藤さんは「お店がオープンするときには、必ず岩手のこけしを置いておきたいと思っていた」と仰っていました。

こけし,キナキナ

このキナキナを作った松田工人は、もともと木地師で、こけしの他にもお椀や生活に使うものを作っていたそうです。あかちゃんのおしゃぶりとして使われることは、今はほとんど無いそうですが、つくっている人も少ないということもあり、一部のこけし好きには人気を集めているキナキナです。

こうした、地元の人すら知らないようなこけしも、実は随所に散らばっているのでは、と思います。

「できればお店には、全系統置いておきたいと思っています。岩手のこけしのように、数が少なくなっているこけしほど、きちんとご紹介したいです。」

表情がないからこそ、何かもの言いたげに見えてくる、キナキナ。そのなめらかな手触りと存在感は、ぜひ手に取って近くて感じていただきたいです。

お店の情報

西荻イトチ
住所:東京都杉並区西荻北2-1-7
電話番号:03-5303-5663
定休日:月曜日 ※臨時休業あり
公式HP:http://tea-kokeshi.jp/

南部系こけし キナキナ
工人名:松田弘次

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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