東京に出たから、新潟というかけがえのない故郷ができた
きっと新潟の人だけではなく、故郷を出て都会で暮らしている人は「東京新潟物語」という広告に、共感するところばかりでしょう。
「東京新潟物語」の制作に携わるキーマンは、新潟県長岡市にある日本酒の蔵元・吉乃川株式会社の峰政祐己さん。どのような狙いを持って、この広告をつくったのでしょうか。
(聞き手:佐野)
新潟と東京をつなぐ新幹線が舞台
── 新潟出身の人で「吉乃川」を知らない人はいない! と、新潟出身の編集長から聞いています。
峰政祐己(以下、峰政) 吉乃川は、新潟にこだわり、新潟の米と水で新潟の人たちの晩酌の酒を醸してきました。だから、県民の方に認知してもらっているのだと思います。
── 「東京新潟物語」は、どのような狙いを持って制作されたのでしょうか。
峰政 東京と新潟をつなぐ新幹線という空間のなかで、両地を行き来している人に向けて、発信できたらいいのではないか、と思ったんです。
── 新潟は東京から約2時間しかかからないので、行ったり来たりする人が多いですよね。「新幹線」を選んだことが興味深いです。
峰政 私自身、上越新幹線によく乗るのですが、新潟への出張族や単身赴任の方々、東京に遊びに行く新潟県民と、逆に新潟に遊びに来る人たちなど多様なお客様が利用する新幹線で、いろいろな思いを乗せた電車だなと感じていました。
また、上越新幹線は、埼玉、群馬、新潟しか通っていないので、広告を掲載したいと思う企業は、東京都内の公共交通機関や停車駅の多い東北新幹線と比較すると、とても限られています。言い換えれば、広告を出す場として上越新幹線は穴場だった、ということもあります。
東京にいるから、地元のよさがわかる
── 主人公の女性の設定が詳細ですが、ターゲット層も決まっているのですか?
峰政 これまで3シリーズ作ってきましたが、登場する女性は、回を重ねるごとに徐々に歳を重ねています。はじめは就職で新潟から上京してきた女性を描きました。
でも、じつは作成当初から継続する予定があったわけではないんです。2年間で成長し、新潟の良さを理解する姿を描きたかったのですが、予想以上によい反応をいただいたので、その後、大人になっていく形になりました。
「東京新潟物語」は、モデルと同じ世代の20代の若い人たちと、その親世代を第一のターゲットとして作っています。
リアルタイムで同じ時期を過ごしている方々はもちろんですが、僕と同じくらいの30-40代にも伝わるといいなと思っています。少し前の自分と重ね合わせてノスタルジーを感じることも、ありますよね。たとえば、若かった頃は上京したばかりでワクワクしたとか、恋愛に夢中だったとか……。
共感してもらえる内容になっていたらうれしいです。
── 2015年の春シリーズから、セリフが枠外に出て映画っぽくなりましたね。
峰政 そうですね。今までは女性の思いが、主人公のセリフとして、一人称でキャッチコピーになっていました。登場人物がシリーズ毎に変わっていて、現在は3人目です。結婚して東京で暮らしている設定で、旦那さんの視点から世界を切り取っています。
── ストーリー性を感じます。
峰政 見てくれる人が次を期待するなら、ストーリー性があるといいかなぁと。僕もそうですけど、仕事で東京と新潟を頻繁に行き来する人も多いですから。ただ、皆さんそれぞれに東京新潟物語のイメージを作られるので、話が順調に進みすぎだとか、こうなった方がよかったというような、いろいろなご意見をいただくのが悩みどころです。
峰政 逆質問になりますけど、一番共感してくれた「東京新潟物語」を教えてくれませんか?
── 「子供の頃から見ていた長岡の花火を見に行かなかった、初めての夏。」です。大人になるにつれて、地元の花火大会に行かなくなった自分(編集長・佐野)と重なりましたね。
峰政 新潟の人も幼いころから長岡花火をずっと見てきたけど、社会人になると次第に見に行かなくなってしまうんですよね。開催日は8月2、3日と決まっているからです。働いていると、平日開催の年にはなかなか帰れません。だから「あ、今頃花火が上がっているんだろうなぁ」って思うことが、大人になる感覚なんだと思います。
── 東京にいるから、地元のよさがわかる。だから「東京新潟物語」に共感してくれる人がいるのかもしれないですね。
── 「東京新潟物語」を通して伝えたいことを教えてください。
峰政 伝えたいことと聞かれると難しいのですが、東京では、なかなか見られなくなった良さが新潟には残っていると思うんです。日本の原風景のような、地域の人の素朴な生活の中で「吉乃川」が愛され、飲まれ続けているんだということを、伝えたいと言えばいいのかな。
「吉乃川」は新潟の県産米と水を使った新潟の晩酌のお酒です。東京では日本酒を飲んでいなかった人が、新潟に来て初めて、安くておいしい日本酒を知るってことが多いんです。「新潟に行ったらお酒を飲みたい」、「長岡に帰ったら吉乃川を飲みたい」「東京に行っても新潟の酒を飲みたい」……新幹線で広告を眺めながら、ふとそんな気持ちになってもらえればいいですね。
── 地域で取材をすると、お酒が美味しいなと感じるし、必ず夜は誰かの家で飲み会が開かれます。
峰政 お酒は嗜好品ですが、コミュニケーションツールとしての要素が大きいと思うんです。地域の人の輪の中に自然と日本酒がある世界は楽しいですね。「東京新潟物語」でも、直接的に日本酒を載せているものは少ないのですが、その裏にある日本酒を飲むシーンを感じ取ってもらえればと思います。
広告の中の登場人物の間、広告と、それを見る人の間、それぞれの人と人との間にお酒があるといいなと。心が揺れたときに、飲みたいお酒が日本酒になれば、最高ですね。
(一部写真提供:吉乃川株式会社)
お話をうかがった人
峰政 祐己(みねまさ ゆうき)
吉乃川株式会社 取締役 営業副本部長 兼 企画部長
1972年兵庫県西宮市生まれ 3歳から東京・千葉で育ち、新潟にはスキーで行ったことがあるという程度。マーケティング会社を経て、2005年より吉乃川株式会社に入社。外から見た新潟、「吉乃川」の良さを、広告宣伝や営業活動を通して、国内外の方々に伝えている。
この会社のこと
吉乃川株式会社
住所:新潟県長岡市摂田屋4丁目8番12号(東京支店:東京都文京区湯島3丁目17番10号)
電話番号:0258-35-3000(東京支店:03-3834-4081)
参考価格:極上吉乃川 1.8L:2,500円(税込2,700円)、720ml:1,200円(税込1,296円)、300ml:500円(税込540円)
公式サイト:吉乃川
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