営みを知る

【花屋】花と暮らした記憶が蘇る、中目黒「atelier cabane」(アトリエカバンヌ)

物心つく前から、日課になっているものがあると、それが無い暮らしがまったく想像できないということがあります。

東京の中目黒の、バスが走る路面沿いに、白壁の「atelier cabane」(アトリエカバンヌ)はあります。ここは、アレンジメントのアトリエ兼お花屋さん。店主の高橋有希さんにとって、お花はまさに「暮らしのなかにある当たり前のもの」だったといいます。

atelier cabane

時間の経過とともに変わる花の表情

はじめはディスプレイの仕事場のために借りたスペースでしたが、だんだんお客様が集まるようになり、花屋として営業を始めました。ご両親や高橋さんのおじいさんやおばあさんも、盆栽や土いじりが日課だったといいます。

お店の中を見渡すと、生花よりも天井や壁にディスプレイされた、ドライフラワーの花束やリースなどが目を引きます。渇いたお花でありながら、どこかあたたかみを感じるのは、ドライフラワーならではの良さがあるからだと高橋さんはいいます。

atelier cabane

「同じお花でも、ドライと生花では見え方がすごく変わります。生花だと目立たなかった葉脈や、繊維の筋や色合いのグラデーションが、乾燥させることで、きれいに見えてくるんです。同じ花でも、生花とドライでまったく違う色味になりますし、雰囲気もがらりと変わります。その変化が、私はすごく楽しいんです。」

じっくりゆっくり乾いていく花が、だんだん小さくしぼんでいく様子や、筋が浮き出てくる様子は、花が咲き誇って散るまでを見ているのと同じくらい、豊かな花の表情を楽しむことができるのです。

atelier cabane

また、ドライフラワーだけでなく、花にまつわる遊びのなかに「香り」もあります。自然由来の香りが大好きだという高橋さんは、生花を乾燥させるときのプロセスと同じように、香りも変化を楽しむことができるといいます。

「季節によって、惹かれる香りが変わることってありませんか。ジメジメしている季節は、スッキリするミント系がいいとか、寒い冬になれば、スパイス系の重ための香りがいいとか。人工物だと、一年中同じ香りですけど、花や自然由来の香りは、一定ではない良さがあります。同じ植物の香りでも、気温や湿度など環境によって微妙に変化するんです。」

香りは、視覚や聴覚と比べて記憶に残りやすいとも言われています。だからこそ、綺麗な見た目だけでなく、五感を研ぎ澄ませて向き合うことで、一輪の花でも様々な視点で味わうことができるのでしょう。

花は買うものではなく遊び触れるもの

花屋として植物を仕入れるときは、売れ行きや流行などを意識することもありますが、基本的には自分がかつて他のお店でお花を買っていたように、好きなものを選ぶという高橋さん。今でも、ふと目にとまったお花を買うことが日常と化しているそうです。

「今、花を買うということが日課になっている人ってどれくらいいるのか分かりませんが、お花に目がいく時って、たいてい自分の生活や心に余裕があるときだと思うんです。私にとっては花を買うことが、心をメンテナンスする方法のひとつになっています。ちょっと落ち込んだ時や、元気がない時に一輪でも買って帰ることで、だいぶ気分が変わるんです。」

自分の心と向き合うために、生き物である植物は、確かに大切な存在かもしれません。けれど、花を買う、という行為が日常化するというのは、ある側面から見ると、買わないと自然が手に入らないという環境なのでは、と感じます。

atelier cabane

けれど高橋さんは、日常的に植物には触れているはず、と話します。

「たとえば、道端に生えている草をむしったり、花の蜜を吸ったり、植物を潰して色を出したり……。無意識のうちに、誰もがどこかで植物に触れているはずなんです。

私自身、今も話しながら何気なく葉っぱをむしったり、枝をぱきぱき折ったり、植物に触れつづけていました。子どもの頃、そういうこと、しませんでした? ああいう時って、植物だと思って触れているというより、一緒に遊んでいる感覚に近いと思うんです。その延長で、お花屋さんを利用したらいいんじゃないかなって思います。」

atelier cabane

花は、触れて遊ぶものではなく買うものだという意識になったとたん、敷居が高くなってしまう。だからこそ、買わなくてもすぐそこに植物は在るのに、なぜか気づかなくなってしまうのかもしれません。

昔、何気なく手にとったり、見つめたり、むしったりした花々の記憶が、スッと蘇ってきそうな「atelier cabane」。中目黒という立地も手伝って、ただおしゃれなお花屋さんかと思いきや、かつて何気なく植物に触れて暮らしていたことを、思い出させてくれる「花と遊ぶ」ヒントをくれるお店です。

このお店のこと

atelier cabane
住所:東京都目黒区上目黒2-30-7-102
アクセス:東急東横線、東京メトロ日比谷線「中目黒駅」より徒歩10分
電話:03-3760-8120
営業時間:11:00~19:00
定休日:不定休
公式HP:atelier cabane(アトリエカバンヌ)

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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