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【花屋】下北沢「milcah」‐ 野菜のように花を選び、職人のように花と向き合う ‐

サブカルの町、下北沢。歩けば歩くほどハマっていき、行くたびに表情が変わります。そんな下北沢は、駅を心臓部として老若男女が入り乱れる、比較的ごちゃごちゃとした町です。

その喧騒から少し離れたところに、鉢や植木が並んだ、看板のない花屋がひとつ。うっかり見過ごしそうになる花屋「milcah」(ミルカ)は、ひっそりと下北沢の裏道にお店を構えています。

あえて威圧感を出す理由

静かなところにお店を出したかった、というのは「milcah」の店主の山田英輔さん(以下、山田)。青森の実家が花屋だったという山田さんは、東京で独立して「milcah」を出店し、今年で4年目になります。

「milcah」のオーナー、山田さん
「milcah」のオーナー、山田さん

お店に来るお客さんは内装業やデザイン関連の仕事をする人や、美容師さんなど美的感度の高い方々から、地元のおじいちゃんおばあちゃんまで幅広い層です。看板が無いため、お花屋さんだということはただ外から見ているだけだと分かりにくいかもしれません。

milcahの外観

内装は黒で統一、大きな鏡が壁に張られ、腰丈ほどの花器におおぶりの枝ものが数本生けてあります。こうした空間づくりの裏には、山田さんがこだわる高級感が反映されているようです。

あえて敷居の高い雰囲気を出したかったんです。誰でもふらっと立ち寄れるというよりは、ちょっと威圧感のある見た目にしてハードルを上げておく。すると、それを乗り越えて入ってきてくださったお客様は、よりじっくり花を見てくれるようになるかもしれません。

こういった店構えだと、自分だけが知っているお店だという特別感を感じることもあるようで、リピーターになってくださることもあります。」

店内にはドライフラワーのアレンジメントも

黒だとより花の色合いが引き立ち、独特の雰囲気。花屋さんと言うと、葉っぱが床に散らばっていたり濡れていたりすることもありますが、ガラスケースで保存された花を眺めるのではなく、常温で花の香りや風合いを楽しんでもらいたいという山田さんは、花の配置などにも気を配ります。

「この前来たお客さんが、今日また来てくれたとして『品揃えや雰囲気が少し変わったな』と感じてもらえるように、陳列もバランスを考えて時々入れ替えたりもします。この空間そのものが、大きな花のアレンジメントのような場所です。」

自然を相手にする仕事

「milcah」のこだわりは花の産地と生産者さんを選ぶところから始まります。ですから、もし同じ花を別のお店で見たことがあったとしても、よくよく見てみると、色艶や花びらの開き具合など、品質の違いを感じることができるといいます。

milcahのお花

「技術が進歩していますから、どこでもいろいろな花を栽培して売ることはできます。でも生産者さんの手間暇によって、花の品質ってまったく違ってくるんです。そういう意味で、花選びは野菜選びとも似ていると思います。だからmilcahでは、この花はこの方から、あの花はあの生産者さんから、というふうに仕入先に足を運んだりもしながら、厳選しています。」

こうした産地にこだわる理由は、生産者さんとのコミュニケーションはもちろんのこと、花という品物を扱ううえでもとても重要です。

「自然を相手にしている商売ですから、決まった生産者さんと契約していても、突然の嵐とか冷夏とか天災によっては店に花が届かないことだってあります。そういうときに臨機応変に対応できるように、この花はどこから来ているかということもきちんと把握する必要があるんです。」

アレンジメント

花を育てる人の思いを引き継ぎ、お客さんにきちんと花を届けようと思っても、自然災害はどうしようもない壁です。ですが、事前に季節感や天気を日々確認していれば、お客さんを必要以上にがっかりさせることもないですし、代替の提案をすることもできるのです。

花屋は職人であれ

花はモノではありません、生き物です。命と向き合う職業ですから、ていねいに扱うのは当然のこと、ただ右から左へ、お客さんへ花を手渡すだけが花屋の仕事ではありません。どのように花が開き、枯れ、散っていくのかもつぶさに把握する必要があります。

また、花そのものはもちろん、花のある暮らしやその場の雰囲気すらも、花屋は担っていると山田さんはいいます。

「お客さんからいただくご注文は、ギフトや装飾が多いので、ただ飾って華やげるだけではなく、どういう彩りを添えたいかというところまで考えます。適所に花を配置するためにも、花のつぼみの開き方や枯れ方まで知っている必要があるんです。」

milcahのドライフラワー

奇をてらうわけではなく、日々の気候や花の変化にじっと目を凝らすと逆に新しい発見や、挑戦したいことが見えてくる。だからこそ、引き出しの多さは常に意識しているそうです。

「自分が表現したいものとお客さんとの要望の、どちらも反映させたものを作ることができるのがプロだと思います。花屋は職人であり、場づくりをする裏方。だからこそ、新しいものには常にアンテナを張っていたいと思います。」

「milcah」を見つけたら、多少入りづらくても、思い切って一歩踏み出してみてはいかがでしょうか。もしかしたら自分の出身地から来た花と出会えるかもしれません。

milcahの内観

このお店の情報

milcah
住所:東京都世田谷区代沢5-36-12
アクセス:京王井の頭線・小田急小田原線「下北沢駅」南口より徒歩5分
電話:03-5787-6699
営業時間:11:00~20:30
定休日:毎月第1、3木曜日、年末年始、お盆
公式HP:milcah公式サイト

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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