営みを知る

【花屋】八王子「FLORAISON」− 男による男のための花屋へようこそ −

※こちらのお店は閉店いたしました

「花? そんな女々しいもの、買ってられないよ。」

かつて、世の男性はそんなことを呟いていたとかいないとか。いずれにせよ、花屋に立つ男性は繊細なイメージを持つ人も少なくなかったようです。そして、花を買うということが恥ずかしかったり抵抗があったりする男の人も、今よりも多かったといいます。

FLORAISONの外観

八王子にある「FLORAISON」(フロレゾン)は、男ふたりで切り盛りし「男らしさ」を謳う、ちょっと変わったお花屋さん。店頭にはいくつかの切花が置かれ、中に入れば黒い内装の店内はどこかシックな印象です。

既存の花屋に一石を投じようと、常にオリジナル性を追求する「FLORAISON」。天野竜一さん(以下、天野)、森井弘保さん(以下、森井)のふたりは、新卒で入った会社で出会い、起業して「FLORAISON」をオープンしました。

天野さんと森井さん
左から、天野さん、森井さん

ホストがお手本? 男ふたりで始めたお店

天野さんは、美大出身。学生時代から花屋でアルバイトをするなど、ずっと花と関わってきました。一方、森井さんは大学時代は農業を勉強し、新卒入社した会社で初めて花に触れ、知識を得るごとに楽しくなっていったといいます。

「実は森井からは3回くらい、一緒に花屋をやろうと誘われました。でも、美術がベースにある自分と、花屋未経験で農業を勉強していた森井とで、方向性が合うのか不安で『とりあえず300万円くらいあれば起業できるんじゃない?』とアドバイスだけして、断ったんです。でも、その話をした一年後、突然森井から電話がかかってきて『天野、300万円貯まった。次どうすればいい?』って。あの日のことは忘れられないですね。」(天野)

FLORAISONにならぶ色とりどりの花たち

森井さんの熱意に押された天野さんは、一緒に花屋を開業することを決意、下積み時代を経て「FLORAISON」をオープンさせました。当時、男の人が花屋の店頭に立つということは、それほど多くはなく、その潮流を逆手にとって「男の花屋」としてオープンさせました。

花束をつくる天野さん、森井さん

「コンセプトを明確に打ち出すことで、男性も花を気軽に買えるようになったかなと思います。花を贈りたくて真剣に相談してくれるお客さんもいますが、お任せで注文してくださる方も多いです。ぼくらとしては女性が喜ぶようなものも提案できるし、男心もわかるので、そういう時はちょっと照れくさいお客さんの気持ちもすべて引き受けて『任せてください!』と。」

花を選ぶ森井さん

花を選ぶ森井さん②

今は直接お客さんと顔を合わせて要望を聞いたり、コミュニケーションを取りながら花を扱う日々。接客の楽しさや、相手を思いやる気遣いは、接客業の上級者でもあるホストをお手本にしているとか。

「FLORAISON」に百合がない理由

そんなふたりはお花を選ぶ視点も一味違います。天野さんは直感で、注文とイメージにピタリとくるものを選んでいき、ビビッドカラーで仕上げていきます。一方の森井さんは、ていねいにお客さんの要望を聞き、しっかりそれに合うものを形にするのが得意です。

花保ちのいいガーベラ

「もともと油絵をやっていて、自分が表現したい色の世界を活かせるのが花だったんです。だからオリジナリティがあって色鮮やかなものを届けたいという気持ちもあるし、あとは色彩が強いと男らしさを強調できるかなと思います。だから、ウチには百合を置いていません。」(天野)

新装の店舗の開店祝いや、大きな花束などには、百合は定番のセレクト。ですが、ほかと同じじゃつまらない。そう思った天野さんたちは、百合を店舗には置かないと決めました。注文を受けた場合は、別途で仕入れてアレンジメントに盛り込むこともあるけれど、普段は取り扱わないのがこだわりだそう。

花をとりまく時代も変わっている

花屋さんと言えば、綺麗な花の色合いと香りにつつまれた、華々しいイメージがあります。ですが実際は、水をたくさん入れたバケツをいくつも運んだり、朝早くから仕入れたお花の手入れをしたり力仕事がほとんど。働く側にも、ある程度の覚悟が必要です。

ですが、花屋さんのきらびやかな世界に憧れてお店で働き始めた人のなかには、そのイメージを捨てきれず、好みの花を多く仕入れたはいいものの、お客さまには売らずに「この花は私のもの!」と、ただただ眺めるのが楽しみだというような人もいたと言います。

「ぼくがずっと疑問だったのは、店頭に立っている人が花のことを何も知らなかったり、興味がなかったりすることがある、という事実。仕事人としても花屋としても、花を基軸にビジネスをする意識がなければ元も子もないです。」

カーネーション

きちんと花を届け、自分たちも花と関わっていくには、お店として営業を続けていくことが大前提。けれど、自分たちのお客さんを、自分たちで削っているような売り方をしている花屋さんも、たくさんあります。

日保ちがする花であっても、今までの売り方だとお客さんの手元に渡る頃には、すぐ枯れてしまうことも。だから「花は高い割にぜんぜん楽しめない」と勘違いするお客さんを生んでしまい、結果として花から遠ざかってしまうのです。

けれどだからこそ、今までの花屋のスタイルは好きじゃない、時代に合わせて花屋の在り方も変わっていくべきと天野さんは話します。

FLORAISONの中にならぶ花々

「もう、花屋はただ花を売るところではないと思います。商品の企画をしていかなければならないなと。今の花の需要はほとんどがギフトですが、一輪で遊べるおもしろさも伝えていきたいんです。」

花屋としてのプライドと、お客さんのことを思うからこそ、慣習から外れたことにも挑戦したいというふたり。他にも、男性だけを集めてビールを飲みながらアレンジメント教室を開く、サイケデリックな内装の花屋さんを作る……など、アイディアは尽きません。新店舗を出そうという話が出ていますが、どんなコンセプトの花屋にするかは、まだ秘密。

花を愛で、花を想うひとは、男であっても女であっても魅力的です。でも、もしまだちょっと小っ恥ずかしい男性は「FLORAISON」へ足を運んでみてはいかがでしょうか。ことばにならない男心までも汲み取って、すてきな花を届けてくれますよ。

※こちらのお店は閉店いたしました

ほかの花屋さんの記事はこちら

感想を書く

探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

詳しいプロフィールをみる

探求者

目次

感想を送る

motokura

これからの暮らしを考える
より幸せで納得感のある生き方を