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【花屋】オンラインショップ「はなささら」‐ センスの良さと利便性は両立できないの? ‐

視点を変えると、花の贈り方、花の選び方も多様になる。そんなことを「はなささら」の店主・東英美(以下、東)さんのお話をうかがっていると、感じます。

東さんが切り盛りするお花屋さん「はなささら」は、かつて中野に実店舗を構えていました。そして、妊娠・出産を機に東さんは、お店をたたみ、今はオンライン限定の花屋として運営しています。

「はなささら」の東さん
東英美さん

パリで見た、花と日常的に触れ合う暮らし

東さんと花との出会いは、幼少期にさかのぼります。

幼い頃公園で花を摘んで花瓶に生けることが大好きでした。その花を摘みに行っていた「笹良(ささら)公園」。身近な公園のような存在のお花屋さんになって欲しいという願いを込めて「はなささら」と名付けました。(「はなささら」公式サイトより)

東さんは花屋を出店する前、フランスのパリへ花屋修行に出かけました。おしゃれでハイセンスなイメージの大都会に降り立った東さんは、日本にはないパリならではの花のある暮らし方を目にします。

中野にあった「はなささら」のお店
中野にあった「はなささら」のお店 ※現在は閉店

「日本にいると華やかなイメージがあるパリですが、店頭に置いてあるのも枝ものや緑がいっぱいで、野原に咲いているような花を扱っていたりもします。

朝のマルシェでもたくさんの花が売られているし、日本よりも花を買うということが日常的な行為になっているように感じました。」

パリでは、お店によって店主の趣向や雰囲気がまったく違い、独自の世界観を作り上げています。そのため、花を買いに来る人もそれぞれの好みに合わせて行きつけの花屋を探すそうです。

「花屋さんは、本当に自由なスタイルで花を売っていますし、買いに来る人も、お店の人とおしゃべりに来る感覚の人も多いんじゃないかなと感じました。そういう意味で、パリの花屋は花を売り買いするだけの場所ではなくて、ちょっとした社交場のようにもなっているのかもしれません。」

一輪の良さは「相手にやさしい」こと

子どもの頃から花に触れ、パリでの修行の後、自分のお店を持った東さん。

大人になってからは友人が、花束ではなく一輪のバラを贈り物として買っているのを見て「一輪を贈れたら素敵だな」と思ったのをきっかけに、「はなささら」の看板商品でもある「はなてがみ」の構想を練り始めました。

はなささらの「はなてがみ」
一輪郵便「はなてがみ」

「一輪の良さは、花に慣れていなくても気軽にやりとりできる大きさであるということです。

贈り物として、花束はインパクトがあるし綺麗ですが、普段慣れていない人に贈ると、送られた側はどう処理すればいいか分からなくて、早くに枯らしてしまったり扱いに困ってしまうことがあるのではないでしょうか。

そういう意味で、一輪は買う人にとっても貰う人にとっても気負わないもので、いいなって。」

東さんの「一輪をもっと気軽に贈り合いたい」という気持ちを、実際に形にしたのが「はなささら」の看板商品でもある一輪郵便「はなてがみ」。これは、一輪のお花に100文字までメッセージを印刷した手紙を同封して、届けることができるというものです。

料金は全国一律で、お花も好みで選べます。郵便ですから、自宅のポストにお花を届けることができます。ある日、帰ってきたら花が一輪届いていた、なんてシチュエーションが距離を越えて実現できるのです。

花のある暮らしをつくるのも花屋のつとめ

現在、「はなささら」はオンラインショップのみを運営しています。実店舗を出す予定はあるかと伺うと、現時点では未定だということです。

「いつかまた、という思いはあります。もともとオンラインショップを始めたのも、『はなてがみ』のアイディアを思いついたのも、ほかの人と同じことはやりたくない! っていう私の性格のおかげでもあるんです。

だから、実店舗を始めるにしても何か工夫を凝らしたものにしたいですね。」

「はなささら」実店舗の様子
かつての中野にあった「はなささら」のようす

花を贈り合うという行為が日本で文化として希薄なのは、花屋のやり方のせいでもあるのでは、と東さんは言います。

「花は自然のものなので、定価をつけるのが難しいんです。だから値札もなかなか付けられない。

でもそうすると、予算が見えづらいから買う人も不安になってしまって、余計お店に入りづらくなります。オンラインショップは、好きなだけお花を選べますし、『はなてがみ』みたいに値段が決まっているものが多いから、少し他のお店よりは敷居が低いかなと思います。」

どうしても個人店の花屋は、おしゃれさやデザイン性の高いものを求めがち。ですが、追究していくほどじつは逃しているお客さんも多いのかもしれません。

東さんは、花屋にとって今一番重要なのは、センスの良さよりも利便性かもしれない、と言います。

「多くの人に届けたいと思うなら、洗練されたデザインにしていくのもいいですが、値段表があったり、贈りたいブーケが待たずに早くできたり。いかに買いやすいかを考えることも同じくらい大事なんじゃないかなって。」

はなささら

「私ができることは、今は限られていますが、私も含め、これからの花屋はもっと工夫していかなきゃいけないことがたくさんあるし、できることだっていっぱいあるはずだと思っています。」

自分の世界観を表現する役割もありつつ、「はなささら」のようにお客さんのニーズに寄り添ってかたちを変えていく花屋さんもあります。

どちらが良い悪いではなく、どちらの花屋もあるからこそ、花をとりまく楽しみ方はどんどん多様に変化していくのかもしれません。

このお店の情報

はなささら
参考価格:はなてがみ 1,690円(税込)
公式サイト:はなささら

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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