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【リトルプレス】「THE SUKIMONO BOOK」好きって気持ちだけでイイでしょ?

誰になんと言われようと、こだわりきりたいもの。理由はないけど、とにかく好きなもの。ことばでは説明できない、否応なく惹かれてしまうものがある人たちの、「好きで好きでたまらん!」という気持ちの詰まった「THE SUKIMONO BOOK」

SUKIMONO BOOK

一見、シンプルな小冊子ですが、扉を開けばそこにはめくるめくモノへの愛が、これでもかと詰め込まれています。

好き者たちによる「THE SUKIMONO BOOK」

「THE SUKIMONO BOOK」。その名の通り、ここは好き者たちの遊び場。おしゃれや流行、マーケティングなんかはさておき、とにかく好きなんだからしょうがないっていう、好き者たちが集めてきたモノに囲まれた一冊。(mo-green公式サイトより)

構成は、とてもシンプル。ジャンキーで個性的な空き箱、一見何に使うのか分からない雑貨、使い込まれたバックパックなどの写真をドン、と真ん中に配置し、ページの四角のどこかにコメントが少し添えられているだけ。

「THE SUKIMONO BOOK」には、毎号「セレクター」がいます。これまで刊行されてきた本のセレクトの多くは、ビンテージ、アンティークものへの造詣が深く、ファッションからインテリアまでのスタイリングを手がける敏腕スタイリストの原田学(以下、原田)さんが担当。

第一号は、「BACKPACK」特集。都内はもちろん関東近郊のビンテージショップや古着屋さんを巡り、ほどよく使い込まれたバックパックが並びます。

第二号は「JUNK」、第三号は「SWEAT SHIRTS」など、その後もセレクトするモノのジャンルを変えながら、最新号の第七号の「character」や果ては「SPECIAL EDITION MAP」まで、さまざまな「THE SUKIMONO BOOK」が世に生み出されています。

「THE SUKIMONO BOOK」第1号のバックパック特集
「THE SUKIMONO BOOK」第1号の「BACKPACK」特集

「好きなことをして生きていく」というフレーズが、定番の謳い文句のように聞こえてくる昨今。でも、「THE SUKIMONO BOOK」に詰まった「好き」は、ステータスでもなんでもない、純粋な愛だけ。

独自のセンスがキラキラ光るセレクトと、短くも愛情いっぱいの文章を読んでいると、興味関心がないものでも欲しくなってくる、不思議な魔力があります。

シンプルなデザインで、愛を紡ぐ

「THE SUKIMONO BOOK」のディレクションは、制作会社の「Mo-Green.Co.,Ltd.」が手がけます。この本を担当している、ディレクターの須藤亮さんと、デザイナーの永野有紀さんにお話をうかがいました。

須藤亮さん(左)と永野有紀さん(右)
須藤亮さん(左)と永野有紀さん(右)

── 「THE SUKIMONO BOOK」が誕生した経緯を教えてください。

須藤亮(以下、須藤) 僕らも社長も、もともと男性向けのアメカジ雑誌の編集部に所属していたんですね。そこでスタイリストの原田くんと出会って、お世話になっていたんだけど、彼がすごくおもしろいバックパックのアーカイブを持つコレクターを知っているということが分かって。

当時は、「Mo-Green.Co.,Ltd.」として、好きなことを好きなように発信したいなと思っていた時期だったこともあって、バックパックの本ってアリかな? と考えてみました。そのときに「自分の好きな物をものすごくコレクトしている人たちって、この世に山ほどいるのに、意外にあんまり表に出てきていないなぁ」と思ったんです。

原田くんが古着やバックパックにすごく詳しいように、いろんなジャンルの好き者たちのコレクションを発表できる場をつくると、読み手も普段知らない世界のディープな部分を知ることができるし、同じもののコレクターであれば自分のコレクションと比較したり、新しいものを知ったりできるんじゃないかと思って。まずはバックパックばかりを集めた第一号をつくりました。

テーマがあらかじめ決まっていたというよりは、バックパックがヒントになって、その後「THE SUKIMONO BOOK」のコンセプトが定まっていった感じですね。

THE SUKIMONO BOOK 7号はキャラクターもの特集
「THE SUKIMONO BOOK」 第七号はキャラクターものを特集

── 本の構成が、写真と100文字前後のモノの紹介文だけですが、読んでいると物欲がすごく刺激されます。

永野有紀(以下、永野) 最近の雑誌は、とても丁寧に作られています。バックパックであれば、どんな風に使えて、価格はいくらで、メーカーに取材に行ってプロの裏付けを取って……と詳細な情報と説明文を載せてある。それもいいんですけど、僕らが伝えたいのは、どちらかというと好き者たちの「好きだ」という想いであって、モノそのものではないので、これ以上シンプルなのはないってくらい、無駄をそぎ落とすことにはこだわりました。

須藤 説明が少なければ少ないほど、コレクションを提供してくれる人の想いがクリアになると思うんです。だから、文章にもあまり手を加えずに、原田くんの超個人的な感想や思い出をそのまま掲載しています。そうすると、「この人は本当にこれが好きなんだなあ」と、読んでいて伝わってきて、好きなものへのワクワクが読者へ伝播していくんじゃないかなと。

「SUKIMONO」同士のコミュニティをつくる

── 「THE SUKIMONO BOOK」は、どこで手に入るのでしょう?

須藤 原田くんには、縁のある古着屋さんがたくさんいたから、まずはそうした古着屋さんに本を置いてもらうことから始めました。あるとき、一部の書店さんに置いてもらえることになって、それをセレクトショップや地方のギャラリーさんが「THE SUKIMONO BOOK」を見つけてくれ、少しずつ広がっていきました。でも、置いてある書店は少ないですね。

僕らは売って収益を上げるためにつくっているわけではないし、今まで洋服屋さんから売れた本という事例がないから、おもしろい流通の仕方だなと思います。

── 以前「THE SUKIMONO BOOK」がファッション誌にならんで配置されているのを見かけましたが、その並びに違和感はないですか?

須藤 この本が、ある種同じような好き者を呼び寄せる、コミュニティづくりに役立ってくれたらいいなって思っています。「こういうのいいね」って思ってもらえる人が増えれば、おもしろいネタやひとが集まってくるだろう、と。

古着屋さんからこの本が出回り始めたことを考えると、届けたい読者には届くカテゴリだなと思います。

── バックパックやおもちゃなど、何を扱うかは原田さんに一任されているんですか?

須藤 そうですね。不定期に編集会議があって「なにかおもしろいもの、おもしろいひと、いないかな?」って話し合います。僕と永野は、原田くんが提案するものに対して、あまり注文しません。

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── なぜでしょう?

須藤 僕らの本ではないから。「THE SUKIMONO BOOK」は、あくまで箱なんです。だから、原田くんや、本をおもしろがって注目してくれているひとたちの好きなものを載せてもらえるように、僕らはディレクションするだけです。

── ご自身がキュレーターになりたいという想いは?

須藤 発信したいという想いはないですね。おもしろいひとたちの手伝いをしたいだけで。

永野 自分が作り手になると、独りよがりになってしまいそうだなと思います。僕らがどう思うかということはあまり関心がなくて、こだわりがあるとしたら「邪魔しない」ということでしょうか。

「好き者=オタク」?

── 本のタイトルにもある、好き者という言葉ですが、これはオタクのことですか? オタクとは違うんでしょうか。

須藤 好き者は、オタクではないです。好きだったら良い。知っている情報が薄くて少なくても良い。逆に、超オタクでも良い。尖っているスーパーオタクで「歴史に裏打ちされたものしかダメ!」っていう基準があっても良い。ただマニアとかオタクだと、間口が狭く感じる場合もあります。

歴史ある一点ものでも、ジャンキーで安いやつでも、両方好きでいていいんですよ。和室でクロワッサン食っても、どっちも好きならいいでしょ? っていうスタンスです。

「THE SUKIMONO BOOK」 7号
「THE SUKIMONO BOOK」 第7号より

── 好き者は誰しもなれるものなのですね。

須藤 そうだと思いますよ。ものすごく知識があるわけではないけど、これが好きだなって思うものは、みんな持っていると思うし。

── 好き者のなかでも、すごくハマってこだわるひとと、ハマらないひとがいますが、その違いは何だと思いますか?

須藤 ハマらないひとは刹那主義なのかなあ……。目の前に起こっていることを流動的に自然に受け入れて、ぽんぽんって次へ関心が移っていく。そういう人の周りには、きっと新しい楽しいことが山ほどあるんだろうなって思います。

「今日は超楽しかったけど、明日の私はちがう」っていうスタンスのような気がします(笑)。

永野 ハマるひとは、欲張りなのかもしれませんね。もう一回あの刺激を味わいたい、もっと知りたい、って根を深めていくような。

須藤 だから何かをコレクションするひとのなかにも、同じものを3つ買って、使う用、観賞用、保存用って分けている人もいるでしょ。

永野 あれはね、変態(笑)。

須藤 うん、褒めていますよ。

── お二人はなにかの好き者、なんですか?

須藤 なんだろう……。あ、僕はコンバースのスニーカーが好きです。コンバースしか履きません。

── それはまた何故ですか?

須藤 べつにコンバースのディティールにも歴史にも詳しいわけではなくて、見た目が好きなんです。80年代か90年代のものがとくに好きで、日本製かアメリカ製かで、シルエットが微妙に違って、その手作りっぽさがいいなって。でもこれも、言わないようにしているんですけどね(笑)。

永野 僕は、書体ですかね、好きなもの。書体のことなら、何時間でも話せると思います。

── 書体のなにが魅力ですか?

永野 うーん、それぞれの書体に意味があるところでしょうか。眺めているだけでも好きですし、それこそ明確な理由があるわけではないですよ。

── 今後「THE SUKIMONO BOOK」では、どんなものがセレクトされる予定なのでしょう。

須藤 まずは原田くんとかと相談してから決めますから、その時出たおもしろいものによって内容は変わると思います。今までアメリカンカルチャーの雑貨や服が多かったけど、もしかしたらまったく違うものになるかもしれない。

いろいろなジャンルの好き者たちの共通言語を「THE SUKIMONO BOOK」に落とし込めたらいいなと思っています。

この本のこと

THE SUKIMONO BOOK
価格:1,080円(号によって変動あり)
編集長:森克彦
編集者:モーグリーン
セレクト:原田学
クリエイティブディレクター:須藤亮
デザイナー:永野有紀
セールスディレクター:三輪翔平
公式サイトMo-Green|SUKIMONO BOOK

NORAH公式サイト

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立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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