心に安らぎを与えてくれる自然がいまだ存在する、とあるニュータウンで育った筆者が、失われつつある自然と人にとっての心地のよい距離感を探っていく本特集。
ドイツの首都ベルリンで出会った、緑を愛する女性を訪ねた。
#4でMaiaは、現代病とも言える精神疾患や生活習慣病の原因について「不自然な生き方にあるのではないか」と問う。
そもそも人は、なぜ自然とのつながりを求めるのだろう。
森林が人に与えるさまざまな効果を、実際にドイツで普及している事例をふまえて考えていく。
──なぜ人は自然とのつながりを求めるのだと思う?
「私たちって極端にいえば動物。人間の本来の姿として、自然の中にいるべきなんだと思います。
逆にいつもコンピューターの前にいたり、混み合った電車のなかで過ごすほうが不自然じゃない?
そういう生活を続けているからこそ、精神疾患や生活習慣病みたいな問題が生まれてきていると思います。
こういうお庭で植物を育てていたら、うまくいかないこともある」
「自然と関わることで失敗や成功から学んでいくことができるし、自然とじかに触れ合うことで、身体も動かせるから健康にもつながる。
そういう暮らしって都会にいるとなかなかできませんよね?
自然と都市が離れちゃって、一つのものとされていないから」
「こんな話を聞いたことがあります。
精神病の患者をふたつのグループにわけて、片方のグループには薬だけを与え、もう片方のグループには自然の中を歩くような治療をする。
すると自然と接触がある患者さんのほうが、回復が早いそうです」
「だから人が自然と触れるべきであることは、どの世代にも言えること。
子どもも森や湖に連れて行くべきだし、お年寄りも、人生リタイアというタイミングでも、自然と触れ合うべきだと思う。
私たちは旅行するときに観光都市に行きがち。だけど、あえて『ビーチに行こう』だとか『山に行こうよ』って、自然を目的地にしてもいいんじゃないかな?」
自然が人に及ぼす影響
Maiaが教えてくれたように、自然と接触することで得られるさまざまな効果が実証されている。
じっさいにベルリン市民は自然とふれあう機会が多い。
週末になると子どもから大人までサイクリングやハイキング、湖水浴に出かけている姿を見る。
ぼくはMaiaに習って、平日は公園や芝生のうえで過ごす時間を、週末は森での散策や湖水浴する時間をつくった。
今年はドイツも猛暑だ。
ベルリンの南側に位置するゼッディナー湖に浮かびながら青空を見あげた瞬間、胸が熱く満たされていくような感覚が、波紋のように広がっていった。
いっぽう木陰のベンチで過ごす毎日は、心が熱くなるほどではないけれど、穏やかで落ちつけるひと時になる。
自然に触れることで緊張や疲労といったストレスが緩和され、活気が満ちてくるということを肌で感じることができた。
たしかに人には自然との適切な距離感覚があるのだと思える。自然とのなんらかの接触が、人の精神や生体のリズムの「不自然」を「自然」な状態にリセットさせるのではないだろうか。
「いまの社会は知る機会から離れすぎていて、自然のことってなかなか考えないですよね。
人間は地球で暮らすいち個人。そういう感覚を持てていないから、私たちは自然と上手に付き合えないんだと思います。
もう一度自然との関係を築いていくのであれば、彼らに対して敬意と好奇心を持つ必要があるんじゃないかな?
ベルリンでは Back to the roots (バック トゥ ザ ルーツ)する動きが盛んなんですよ」と、Maiaは言う。
「Back to the roots……? それって具体的にどういう動きなんですか?」
#5 生活で出会うものから問いかける【心地よさと自然との距離感】に続きます。
Maia Frazier
自然の美しさと感動的な物語を探すベルリンを拠点とするライター。ライター、翻訳者および編集者として代理店やスタートアップ企業で働いた後、独立。より良い世界を鼓舞し、貢献する人々やブランド、プロジェクトのためにフリーランスのコピーライターとして活動している。
Maia believes that every individual has the potential to have a powerful impact on the world. Together we can work to make it a better place.
Back to the roots:https://bttrstories.com/
■参考
International Nature and Forest Therapy Alliance – INFTA
Forest Bathing is an Evidence-based wellness practice
森林浴 Waldbaden | 学ぶ | 連載コラム「エコレポ」|| EICネット『エコナビ』
文・写真 / 小松﨑拓郎
翻訳 / 田村由以