いつもと暮らし

なぜ自然とのつながりを求めるのだろう?【心地よさと自然との距離感】#4 

自然との距離感は、人の心地よさにどう影響するのか?

心に安らぎを与えてくれる自然がいまだ存在する、とあるニュータウンで育った筆者が、失われつつある自然と人にとっての心地のよい距離感を探っていく本特集。

ドイツの首都ベルリンで出会った、緑を愛する女性を訪ねた。

maia
Maia Frazier 「いろんな国で生活してきて、最終的に、静かな環境で緑に囲まれて暮らしたいっていう思いが湧き出てきたんです」

#4でMaiaは、現代病とも言える精神疾患や生活習慣病の原因について「不自然な生き方にあるのではないか」と問う。

そもそも人は、なぜ自然とのつながりを求めるのだろう。

森林が人に与えるさまざまな効果を、実際にドイツで普及している事例をふまえて考えていく。

──なぜ人は自然とのつながりを求めるのだと思う?

庭に向かうようにして、室内のグリーンが増えていく。自然と繋がっている感覚をもてる
外交官の父のもとで育ったMaiaは、シンガポール、インド、南アフリカ、トルコ、ドイツ、アメリカで過ごし、ベルリンにもどって来た

「私たちって極端にいえば動物。人間の本来の姿として、自然の中にいるべきなんだと思います。

逆にいつもコンピューターの前にいたり、混み合った電車のなかで過ごすほうが不自然じゃない?

そういう生活を続けているからこそ、精神疾患や生活習慣病みたいな問題が生まれてきていると思います。

こういうお庭で植物を育てていたら、うまくいかないこともある」

「自然と関わることで失敗や成功から学んでいくことができるし、自然とじかに触れ合うことで、身体も動かせるから健康にもつながる。

そういう暮らしって都会にいるとなかなかできませんよね?

自然と都市が離れちゃって、一つのものとされていないから」

世界各国で生活してきたMaiaがベルリンで暮らす理由は、ルーツがあり安心感を得られるから。都市であっても湖があり、森があり、クレイジーな夜の遊びもあれば、多国籍な料理も楽しめる。求めているものがある場所だという

「こんな話を聞いたことがあります。

精神病の患者をふたつのグループにわけて、片方のグループには薬だけを与え、もう片方のグループには自然の中を歩くような治療をする。

すると自然と接触がある患者さんのほうが回復が早いそうです」

「だから人が自然と触れるべきであることは、どの世代にも言えること。

子どもも森や湖に連れて行くべきだし、お年寄りも、人生リタイアというタイミングでも、自然と触れ合うべきだと思う。

私たちは旅行するときに観光都市に行きがち。だけど、あえて『ビーチに行こう』だとか『山に行こうよ』って、自然を目的地にしてもいいんじゃないかな?

自然が人に及ぼす影響

Maiaが教えてくれたように、自然と接触することで得られるさまざまな効果が実証されている。

2日間にわたって森を2時間歩いている男性は、ナチュラルキラー細胞(体の病気の治療薬)のレベルが50%増加 参考:Forest Bathing is an Evidence-based wellness practice
森林療法はドイツで健康保険の適用が認められる自然療法として確立されている。たとえばセバスチャン・クナイプによって提唱されたクナイプ療法は、重要な柱である運動療法のなかで、森林浴を推奨している

じっさいにベルリン市民は自然とふれあう機会が多い。

週末になると子どもから大人までサイクリングやハイキング、湖水浴に出かけている姿を見る。

ぼくはMaiaに習って、平日は公園や芝生のうえで過ごす時間を、週末は森での散策や湖水浴する時間をつくった。

ドイツの森に設立された療養所では、森林によるさまざまな空気の利点が報告されている

今年はドイツも猛暑だ。

ベルリンの南側に位置するゼッディナー湖に浮かびながら青空を見あげた瞬間、胸が熱く満たされていくような感覚が、波紋のように広がっていった。

いっぽう木陰のベンチで過ごす毎日は、心が熱くなるほどではないけれど、穏やかで落ちつけるひと時になる。

自然に触れることで緊張や疲労といったストレスが緩和され、活気が満ちてくるということを肌で感じることができた。

たしかに人には自然との適切な距離感覚があるのだと思える。自然とのなんらかの接触が、人の精神や生体のリズムの「不自然」を「自然」な状態にリセットさせるのではないだろうか。

20分間森林の景色を眺めた人の唾液コルチゾール(ストレスホルモン)の平均濃度は、都市部の人々のそれより13.4%低かった。参考:Forest Bathing is an Evidence-based wellness practice

「いまの社会は知る機会から離れすぎていて、自然のことってなかなか考えないですよね。

人間は地球で暮らすいち個人。そういう感覚を持てていないから、私たちは自然と上手に付き合えないんだと思います。

もう一度自然との関係を築いていくのであれば、彼らに対して敬意と好奇心を持つ必要があるんじゃないかな?

ベルリンでは Back to the roots (バック トゥ ザ ルーツ)する動きが盛んなんですよ」と、Maiaは言う。

 

「Back to the roots……? それって具体的にどういう動きなんですか?」

 

#5 生活で出会うものから問いかける【心地よさと自然との距離感】に続きます。

 

maia

Maia Frazier

自然の美しさと感動的な物語を探すベルリンを拠点とするライター。ライター、翻訳者および編集者として代理店やスタートアップ企業で働いた後、独立。より良い世界を鼓舞し、貢献する人々やブランド、プロジェクトのためにフリーランスのコピーライターとして活動している。

Maia believes that every individual has the potential to have a powerful impact on the world. Together we can work to make it a better place.

Back to the rootshttps://bttrstories.com/

 

■参考

International Nature and Forest Therapy Alliance – INFTA 

Forest Bathing is an Evidence-based wellness practice 

日本衛生学会森林医学研究会

特定非営利活動法人森林セラピーソサエティ

森林浴 Waldbaden | 学ぶ | 連載コラム「エコレポ」|| EICネット『エコナビ』

セバスチャン・クナイプ | Kneipp社(クナイプ) 

森林浴の歴史について

文・写真 /  小松﨑拓郎
翻訳 / 田村由以

 

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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環境問題に触れたベルリンの若者は「Back to the Roots」運動を始めている【心地よさと自然との距離感】#5 新しいものを買わないベルリーナーは、なぜ好きなものに囲まれているのか?【心地よさと自然との距離感】#3

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