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【東京都品川宿】「NPO法人 ふれあいの家―おばちゃんち」老若男女、世代を超えて共に暮らそう

東海道五十三次の宿場町【東京都品川宿】特集、はじめます。

「子育て・子育ち」を軸に、赤ちゃんから高齢者までが、世代をこえて触れ合い暮らせる、そんな「まち」をつくりたい―。(「ふれあいの家―おばちゃんち」公式サイトより引用)

「子育て」するのは、誰でしょう? お母さんでしょうか、お父さんでしょうか、それともおばあちゃん、おじいちゃん? いえ、かならずしもそうとは限りません。「子育て・子育ち」を軸に、赤ちゃんから高齢者まで「まち」で暮らすすべての人が、関わり合い、認めあい、そして新しい生きがいを探せるような、そんな形を目指せたら。

品川を拠点に活動する「ふれあいの家―おばちゃんち(以下、おばちゃんち)」は、さまざまな人とのふれあいを通して、新しい風を「まち」に吹かせるべく、活動を続けて2015年で14年目を迎えます。

まちの子どもをまちが育てる「おばちゃんち」とは?

NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち

「おばちゃんち」は、2006年に開設されたNPO法人です。活動の主軸は「ふれあい広場」「まなびあい広場」「あずかり広場」「きかくの広場」「つながりあい広場」の5つ。

「NPO法人 ふれあいの家―おばちゃんち」組織図
「おばちゃんち」事業一覧

「ふれあい広場」では、乳幼児と大人のいこいの場「みこちゃん&しょうちゃんち」や、どろんこ、水遊び、火起こしや木登りなどが楽しめる「北浜こども冒険ひろば」などを実施。

「北浜こども冒険ひろば」の様子
親子で外遊びが楽しめる「北浜こども冒険ひろば」

「あずかり広場」には、短時間の就労や介護、通院、その他の理由で保育を必要とする方が、安心してお子さんを預けられる「ほっぺ&わっこ」や、登録した自主グループや団体のグループ保育に保育ボランティアを派遣する「えくぼ」などがあり、ほかの広場とあわせて21の事業を展開しています(2015年8月現在)。

理由を問わずに安心してお子さんを預けられる「ほっぺ」
安心して子どもを預けられる「ほっぺ」

「おばちゃんち」の活動を支えるのは、保育士や栄養士等の資格を持った方や、元児童館職員の方だけでなく、自分の子育てが一段落した世代やシニア世代の方々など、品川のまちに暮らす様々な世代の「おばちゃん」「おじちゃん」たちです。

ただの「子育て支援」にとどまらず、「まちづくり」を目指した理由は何なのか? そして、そこにある想いとは? 代表理事の幾島博子(以下、幾島)さんと、理事の宮里和則(以下、宮里)さんに、お話を伺います。

現代の暮らしにおいて、誰もが居場所を持てる「まち」へ

── おふたりのお仕事について教えてください。

幾島 代表理事を勤めている幾島です。代表理事は、私で二代目になり、初代代表理事の渡辺美惠子(2014年4月没)は、もともと児童館などで子育てに関わってきた人物です。私も学生時代に都内の児童館でアルバイトをして以来、自分の天職だと感じた児童館職員となり、ずっと子育ての分野に関わり続けてきました。

現在は、渡辺の遺志を継ぎつつ、新たな「おばちゃんち」の活動を模索していきたいと思っています。

「NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち」の代表理事の幾島さん
「おばちゃんち」の代表理事の幾島さん

宮里 理事の宮里です。「北浜こども冒険ひろば」施設長や、プレイワーカーを兼任しています。

「NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち」プレイワーカーの宮崎さん
「NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち」プレイワーカーの宮里さん

── 「おばちゃんち」に関わる方は、どのような方が多いのでしょうか?

幾島 若いお母さんから、シニア世代の男性まで、本当にいろいろな方がいますね。

「おばちゃんち」は、拠点や施設はありますが、特に「ここがおばちゃんちだ」! と定めているわけではなくて、100人のおばちゃん、100軒の「おばちゃんち」が独立して、同時並行的に活動することを目指しています。

モットーの1つに「やりたい人が、できることを楽しく!」がありますので、子育てのサポートはもちろん、ホームページや情報誌作り、講座開催や、イベントなど、各自ができることを持ち寄りながら、おばちゃんち内外と有機的につながっている、という組織だと言えます。

── 何か資格がなければ、サポーターとして参加できないというわけではないのですね。

幾島 もちろんです。最初は「おばちゃんち」を利用する側だったお母さんが、「自分もなにかやってみたい」と思ったときに受講できる「保育サポーター養成講座」もあります。

受講生は女性の方が多いですが、竹中くんのように、若い男性が受講することもあります。

旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会の竹中茂雄さん
旧東海道品川宿周辺まちづくり協議会の竹中茂雄さん

幾島 彼は、放課後に子どもたちにサッカーを教える活動を続けていて、その中でスポーツとまちづくりの関わりに興味を持ったそう。いろいろな人がいろいろな想いで「おばちゃんち」に関わり、そしてそこからまた新しい「おばちゃんち」が生まれる構図が理想です。

── 「おばちゃんち」の名前はもちろん、「えがお」や、「なんくるないさ~」など、それぞれの事業の名前はやさしい響きで、親しみやすさを感じます。

幾島 そうですね。新しい事業を始める時は、みんなのアイディアを持ち寄って事業の名前を決めるのですが、イメージを親しみやすい名前で表現できるように工夫してきました。

── 喜びを感じるときは、どんなときですか?

宮里 やっぱり、子どもたちが思い切り笑ったり、泣いたり、ケンカしたりするのを見ることでしょうか。最近の子どもは、昔に比べて感情を表に出さない傾向があると思います。お母さんに対してはもちろん、周りのおとなに対してもね。「やりたい」とか「嫌だ」とか、はっきりと言えない子も中にはいます。

「NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち」の幾島さんと宮崎さん

宮里 でも、「北浜こども冒険ひろば」に遊びに来るうちに、それが変わっていったりもするんです。その変化も嬉しくて。

最初はどろんこ遊びに抵抗があった子どもも、泥まみれ、水まみれになっている友達を見て、ある日突然自分もやりだしたり。「シャボン玉は、水に濡れた手で触ると割れづらい」なんてことを発見して、シャボン玉と水たまりを使って、自分で新しい遊びを生み出したりなんてこともありました。「北浜こども冒険ひろば」には、最近の公園では見られなくなったような、懐かしい子どもの遊び方が見られます。

幾島 それを、品川宿に住む子どもだけでなくて、再開発でできた高層マンションに住む子どもたちが混ざってやっているのも、いい光景ですよね。

もっと言うと、私はお母さん自身の変化を見るときにもすごく喜びを感じます。もともと、「おばちゃんち」開設時に、渡辺は以下のように言っていて。

現代の暮らしは人々にプライバシーを確保するという「心地よさ」をもたらした一方で、無関心と孤立を生み出しました。若者は、ありのままの自分を受け入れてもらいながら「自立」していくことが難しくなっています。母親は、密室化した子育ての空間の中で子育ての悩みを一人でかかえ、悲しい事件が数多くおきています。父親や高齢者も、共に暮らすまちの人々とのふれあいの場を持ちにくくなってきています。だからこそ「おばちゃんち」は、気軽に声をかけ、心の通いあう「まちづくり」をすすめていきます。(「ふれあいの家―おばちゃんち」公式サイトより引用)

幾島 「いいお母さんでいなきゃ」「これは私の責任」と自分に言い聞かせて子育てをする中で、お母さん自身が苦しくなってしまう時期って、絶対にあると思うんです。

でも、「おばちゃんち」に関わる中で、「あぁ、私はこれでいいんだな」とか「ひとりで頑張らなくていいんだ、たまには甘えよう」とか、ふっと肩の力を抜いてくれるようなきっかけになれたなと思う時が、私はとても嬉しい瞬間です。

「NPO法人・ふれあいの家―おばちゃんち」の幾島さん

子どもは未来の宝物ではなく、「今の宝物」

宮里 子どもを中心に「まち」の人が関わりあうという光景は、見ていて「幸せ」を感じます。昔は普通に見られた一般的な光景だったと思います。

よく、子どもは未来の宝物、なんて言いますが、僕は「未来だけじゃなくて、今もすでに宝物だよ」と思うんです。子どもがいるのは、幸せの種がまちにたくさんあるということ、まちの幸せがそこから生まれてくるのです。

「北浜こども冒険ひろば」で遊ぶ子どもたちの様子。みんなどろんこです。
「北浜こども冒険ひろば」で遊ぶ子どもたちの様子。みんなどろんこです。

宮里 今は、世の中にルールが多すぎて、子どもたちが自分の遊び場の主役になれていないことがあるんじゃないかなと感じます。公園で遊ぶ時も、慣れていない子は「この遊びをしていいですか?」なんて聞いてくるんです。

そうじゃなくて、子どもの思考は本来本当に自由なのだから、やりたいことはやってみなよ、と言いたい。危ないときは注意をするし、やってはいけないことは、もちろん叱る。でも、やる前から子どもの行動を制限するようなことは、僕たちはしたくないですね。

子どもの行動には理由があるから、それを見守って、背景にある「ものがたり」を知ることも大切。それを目指す分、運営側の幾島さんや僕には、ものすごく責任も生まれますが、これからも引き続き「おばちゃんち」でたくさんの人との触れ合いが生み出せたらと思います。

幾島 おばちゃんち界隈には、さまざまな分野の才能あふれる人たちがたくさんいます。子どもの成長はもちろん、それに関わる人の力が活かされる場所として、これからもずっと品川を拠点に活動していきたいですね。

お話をうかがったひと

幾島 博子(いくしま ひろこ)
2012年まで児童指導員として品川区の児童館、学童保育クラブ、すまいるスクールに34年間勤務。2002年よりNPO法人ふれあいの家-おばちゃんち事務局長。品川区退職後おばちゃんんち理事、2014年より代表理事。他にNPO法人JAMネットワーク理事、NPO法人しながわチャイルドライン会員、NPO法人日本冒険遊び場づくり協会地域運営委員、TOKYOPLAY運営委員など。信条は「自分自身の『やりたい気持ち』を大切に」「目の前のたった一人の人を大切に」「誠実」。活動のよき理解者である夫との間に二女。

宮里 和則(みやさと かずのり)
1954年東京・品川・大井町で生まれる。「NPO法人ふれあいの家―おばちゃんち」理事、北浜こども冒険ひろば施設長、プレイワーカー。そのほか、元品川区役所職員(児童館・学童保育・すまいるスクール)、日本ダンゴムシ協会主宰、「NPO法人 青い空―子ども・人権・非暴力」理事、共立女子大・東京家政大 非常勤講師など。主な著書に「ファンタジーを遊ぶ子どもたち(共著 いかだ社)」1987年演劇教育賞受賞。

「NPO法人 ふれあいの家ーおばちゃんち」についての情報はこちら

※利用方法や、料金詳細については、公式サイトをご参照ください。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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【東京都品川宿】「古きよきものに、磨きをかけよう」まちづくりコーディネーター 佐山吉孝

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