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【岩手県遠野市】「奇跡のリンゴをつくりたい」夢を追うリンゴ農家・佐々木悦雄の第二の人生

もうすぐ、今を変える風が吹く。【岩手県遠野市】特集、はじめます。

「奇跡のリンゴ」を作りたい―。山あり谷ありの苦節10年、今もその道中です。

映画『奇跡のリンゴ』の主人公である木村秋則(以下、木村)さんに影響を受け、岩手県遠野市で自然栽培のリンゴを育てている佐々木ご夫妻。

ゼロから始めた農業の魅力に日々触れながら、定年後の暮らしを楽しみ尽くす悦雄(えつお)さん、昌子(しょうこ)さんのおふたりに、リンゴ農家の楽しさや、大変さを教えていただきました。

佐々木悦男ご夫妻がつくるりんごジュース

自然栽培のリンゴをつくる

── 今日はおふたりがつくっている、「奇跡のリンゴ」……もとい「幻のリンゴ」についてや、遠野での自然栽培のことについて、教えていただきたいと思います。さっそくですが、自然栽培とはどのような方法なのでしょうか?

佐々木悦雄(以下、悦雄) 自然栽培というのは、簡単に言うと肥料や農薬を使わずに作物をつくる方法です。たとえば、自然栽培では害虫を駆除するのに農薬を使いません。農園の生態系を保てれば、害虫と益虫のバランスが取れて、被害は最小限に抑えられます。

リンゴ農家の佐々木さんご夫妻

── よく見るリンゴの畑は雑草も生えていなくて、綺麗に手入れが行き届いていますが、悦雄さんの畑は雑草が生えていますね。少し新鮮な気がします

悦雄 『奇跡のリンゴ』の木村さんも、畑は草をボーボーに生やして自然環境に近い状態にしてから、「木が元気になってきた」と言ってるんだよね。僕もそうしています。

でも、雑草がたくさん生えていると、やっぱり昆虫も増えるし、病害虫も増える。その代わり、生態系としてのバランスがよくなるのかな。あ、足元、気をつけてね。

杉山教授にアドバイスを受ける佐々木悦雄さん

──  何年前から自然栽培を始めたんですか?

悦雄 ちょうど今年で10年目。木村さんのリンゴ畑をずっと研究してる杉山教授に、木村さんの畑とまだ完成されてない私の畑のどこが違うのか、アドバイスをいただきながらやっていてね。それでやっと、なんとなく自然栽培の形が見えてきたところです。

── 自然栽培は、まだ確立されていない農法なんですね。慣行農法と自然栽培ではリンゴの「味」にも違いがあるのですか?

悦雄 よく、果物の美味しさを表すときに、「糖度が何%」とかって言うけれど、機械で測った数値が必ずしもおいしいわけではないと思っていてね。 木村さんのリンゴも、決して糖度が高いわけではありません。でも、食べたときの食感が、他のものと比べるとまったく別物で、おいしい。 牛乳も「高脂肪の牛乳がおいしい」かというと、決してそうではないですから。リンゴも一緒だと思っています。

── 果実の収穫までにはかなりの時間がかかると思いますが、実際のところはどうですか。

悦雄 自然栽培で生計を立てて、生業として暮らしていけるようになるまでには1、2年では難しいですね。田んぼでも畑でも、準備するのに4、5年はかかります。その畑をつくり、商品を実らせるまでの間はとても大変です。

── 4、5年もの期間を要するにもかかわらず、自然栽培を始めようと思ったきっかけというのは?

悦雄 定年を迎えて、第二の人生をどう過ごそうか考えていた頃、たまたま木村さんに会う機会があって。彼は独特のキャラクターで、とても魅力的なんです。一度話してみれば分かるんだけど、みんな、引き込まれてしまうと思います。

本人から『奇跡のリンゴ』の話を聞いてみて、自然栽培は変わった農法だけど、やってみたいなと思いました。肥料も農薬も使わないで作物をつくるということは、環境に一番やさしい方法だからねえ。「奇跡のリンゴ」の栽培方法で、「本当にリンゴを実らせることができるのかどうか検証してみたい」という考えのもと、農業を始めました。

農業が環境を汚している?

── 自然栽培は環境に配慮した農業なんですね。逆から考えると、そうでない場合の農業は、もしかしたら環境に配慮していないのでは? とも思えてくるのですが……。

悦雄 農業が環境を汚している、という事実はあります。農薬と肥料が原因ですね。与えすぎて余った肥料は栄養多価になって、雨とともに畑の外に流れてしまう。それがダムに貯まり藻が発生して、淡水魚が住めない環境になってしまった例もあるんですよ。

自然栽培のリンゴ畑
自然栽培のリンゴ畑

── 肥料のすべててが植物に吸収されるものではないんですね。

悦雄 肥料として植物に吸収されるのは、与えた1割程度だそうです。あとは空気中に気化したり、リンゴの木ではなく雑草の養分となったり、雨に運ばれ川に流れこんだりするのです。

── それでも既存の慣行農法を採用する農家さんが多いのは、どうしてですか?

悦雄 これまで慣行農法を採用してきた人たちにとって、自然栽培という新しい農法を選ぶというのは難しいことなんですよ。なにしろ蓄えてきた経験や知識があり、それが常識になっていますからね。つまり、「農薬や肥料を与えない農業なんて、ありえない」と考えてしまう。これは、農業に限らず、何だってそうかもしれませんけれどね。

だから、農業について既存の知識がなかった私たちや若者のほうが、自然栽培の良さに気付きやすく、そして実際に始めやすいということは、あるかもしれませんねぇ。

── 慣行農業が自然を汚しているという見方についても、これまでは気付けませんでした。

悦雄 そうだよね。現在の「農業が自然を汚している」という事実に目が向くように、少しでも多くの人の意識を変えたいです。そうすれば、遠野が自然栽培の地域になる可能性はある。もっというと、地域おこしみたいにもなるのかなと思っています。

木が弱り、枯れてしまう時期もあった

佐々木悦雄さん

── これまでリンゴの自然栽培を続けてきて、大変だった時期もたくさんあったかと思います。

悦雄 自然栽培をやり始めた3、4年目の頃はやっぱり大変だったね。葉っぱがどんどん落ちてしまった。そのうち木が弱り、枯れてしまって、それまでリンゴを加工して出荷していたジュースもつくれなくなりました。 一生懸命やっても作物が実らないと、精神的にも弱気になってしまったりね。

── それだけ成果が簡単に得られないものでも、続けられるのはどうしてでしょうか?

悦雄 NHKの『プロフェッショナル 仕事の流儀』で、木村さんと自然栽培を研究している杉山教授が取りあげられたときに、木村さんに影響を受けて自然栽培を始めた人として、私も紹介してもらったんです。

そのとき、番組内で「奇跡のリンゴをつくります」と堂々宣言してしまいした。今思えば、見栄を張ってしまったんですね。でも、だからもう途中では止められない(笑)。頑張りますよ。

佐々木悦雄さん

第二の人生が楽しい理由は「育てる」「繋がる」喜びがあるから

── 見栄もふくめ、自然栽培を続けたいと思う理由というのは……?

悦雄 種を撒いて芽が出てくる、「育てる」という行為が楽しいんです。徐々に成長して、実をつけてくれるとなおさら。食べるときにはたまらなく楽しいし、嬉しいですよ。そしてそれを自慢するとさらにまた……(笑)。

剪定する佐々木悦雄さん

── 楽しみ尽くしてますね(笑)。

悦雄 たしかに私たちは、自然栽培を楽しんでやってますね。「楽農」と言えるかもしれません。

昌子 自然栽培を始めて、同じような価値観を持った仲間がたくさんができて、それも楽しいんだよね。

悦雄 全国各地に自然栽培をしている仲間が増えてきています。今は、ある程度生計を立てている人も出てきたようだけども、まだまだやっぱり、実績があって流通している農法ではないから、みんな四苦八苦してる状態。だからこそ、情報交換する機会が結構あるんです。

── 同じ目標に向かっている人がいるのは心強いですよね。

悦雄 そうだね。自然栽培に取り組んでいるのは若い人たちが多いから、そういう人たちと話ができるようになった人生の第二ステージは、新鮮な気持ちでいっぱいですね。

諦めなければ失敗じゃない。遠野の「奇跡のリンゴ」を夢見て

自然栽培のりんご

── 自然栽培を始めてから10年経ちましたが、今はまだ、自然栽培のリンゴを実らせる夢の途中……なんですね。

悦雄 「奇跡のリンゴ」を目指して頑張っているよ。 だから今のところ、僕たちが作っているのは「幻のリンゴ」ですね(笑)。

── 悦雄さんが遠野で夢を叶えたら、たぶん今度は悦雄さんに影響を受けて自然栽培を始める若者もいるのだろうと思います。

悦雄 ちゃんと成功して生計を立てれば、自然栽培をする人がもっと増えるだろうね。 「諦めなければ失敗じゃない」って言うからね。 死んでも諦めないよ(笑)。

(一同笑い)

佐々木悦雄さん

──  そこまで言えるのは、本当にかっこいいです。

悦雄 成功の途中です。

昌子 何年経ってもね(笑)。

お話をうかがった人

佐々木 悦雄(ささき えつお)
1946年生まれ。県内の工業高校卒業後、茨城県の日立系列の会社に就職。7年後、帰郷。おじが経営していた土建業を継ぐ。60歳を契機に、弟に会社の経営権を譲る。2005年、リンゴ農家の木村秋則氏と巡り会う。古くて新しいと言われる農法「自然栽培」を開始。現在、リンゴを主に野菜・米の栽培中。木村秋則氏がよく語る、「バカになれ」が座右の銘。

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(イラスト:犬山ハルナ

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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