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【群馬県桐生市】働き方は職人に学べ。桐生和紙職人の丁寧かつ情熱的な仕事への向き合い方

心血を注いで仕事をする姿は大変潔く、清々しい様ですが、骨身を削って働くことと紙一重のように思えます。しかし、両者の間には大きな隔たりがあるのではないでしょうか。

今回、群馬県で唯一の桐生和紙職人である星野 増太郎さん(以下、星野)に、和紙の作り方を教えてもらいながらも、仕事への向き合い方にも感銘を受けました。伝統的な工程で和紙を作り続ける星野さんの仕事から、あなたも働くことについて考えてみてはいかがでしょうか。

和紙と洋紙の違い

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(上)和紙の原料となる皮(下)洋紙の原料となる材木

「和紙と洋紙は全く異なる」と語る星野さん。桐生和紙の原料は、楮(こうぞ)という木の「皮」からつくられます。皮を剥ぐと上の写真のような状態になります。真っ白な棒は「材木」の部分です。皮の表面には粗皮(そひ)というさらに薄い皮があり、これを取り除いたものが和紙の原料になります。これに対して洋紙はモミやマツの樹皮を剥ぎ、「材木」の部分を粉砕した「パルプ」を原料とします。

簡単に言ってしまえば、皮からつくるのが和紙、材木から作るのが洋紙です。繊維の長さは、和紙が1~2センチ。洋紙は数ミリ程度の細かさです。和紙の丈夫さの要因は、この繊維の長さにあります。

和紙ができるまで

ところで、和紙の作り方は知っていますか? まずは和紙ができるまでの工程を知り、星野さんの仕事の取り組み方を見ていきましょう。桐生和紙は、江戸時代から続く伝統的な製法で生産しています。工程は、下記のようになっています。

  1. 煮る
  2. 水洗い
  3. 叩き
  4. 紙漉き
  5. 乾燥

1. 煮る

楮(こうぞ)から剥いだ皮を煮て、柔らかくします。

2. 水洗いする

煮た皮を水にさらして、灰汁を抜きます。

3. 叩く

桐生和紙

皮を丁寧に叩いて繊維をほぐします。細く、長く、しなやかな繊維が生まれ、和紙独特の破れにくい丈夫さを生みだすのです。

桐生和紙
5月頃種を撒き、霜が降りる前に収穫し、保存液につけて一年間使えるように保存する

トロロアオイの根から出る液を原料に使用する理由は、竹簾に原料の入った水を漉(す)きあげた時、水が一気に抜け落ちないようにするためです。一定時間漉き具の中に繊維と水がとどまる、その間に繊維をよく揺すり、よく絡ませると質の高い紙になります。ちなみにトロロアオイの根から出る液は、触るとネバネバしますが、乾くと粘りは無くなります。

桐生和紙

濡れた和紙を重ねても剥がせる、和紙づくりに欠かせない天然の分散剤なのです。

4. 紙漉き

桐生和紙

水の中に一様に分散させるために粘性のあるトロロアオイの根から絞った液を混ぜて、「漉き船」という大きな水槽に満たします。竹簾(たけす)を敷いた漉き具に、とろみの付いた水と一緒に和紙の繊維を汲み上げ、前後左右に揺り動かし均等な厚さの紙に漉きます。

職人の勘で紙の厚さは変わります。人の右腕と左腕の力は違うので、どちらかに力が偏ると横の厚さも変わってしまいます。厚さが均等な紙を作るためには、全神経を傾けて漉きあげる。非常に集中力のいる作業になります。

漉き上げた紙は丁寧に積み重ねたあと、圧力をかけて脱水します。

5. 乾燥させる

桐生和紙

脱水した紙を、再び一枚ずつはがして板に貼りつけて乾燥させれば完成です。

1日でわずか100枚しか生産できない

星野さんと一家では、奥さんと娘さんの家族3人が協力して、1日でわずか100枚程度しか桐生和紙は生産できません。上述したように、江戸時代から続く伝統的な和紙づくりの工程を用いて、丁寧に和紙を漉きあげているからです。

「新聞紙の大きさの紙を3人で300枚作るには、1週間あっても足りません。手をかける分、保存性が優れていたり、水分に強かったり、紙そのものの美しさがあったりといろんな利点があります。逆にそれしか生産できないことがわかっているから、まがい物はつくりたくない。江戸時代と同じ紙をつくるため、誇りを持って仕事をしています。」

丁寧な仕事は、丁寧な暮らしへ

星野さんが和紙に向かい合う姿には、心を一心に傾ける情熱と、細部まで気を配る丁寧さがひしひしと伝わってきます。和紙の一枚いちまいに心血を注いでものづくりしているからこそ、「仕事は過度に拡大しない」と星野さんは言います。

桐生和紙

桐生和紙の発注や問い合わせは、今でも電話やインターネットでよくあるそうです。しかし、いくら仕事が増えても、質の高い和紙を作るためには伝統的な工程を維持しなければなりません。仕事と生産量を取るか、質を保つかのトレードオフなのです。そこで安易に仕事を受注するのではなく、実際に桐生市まで足を運んでくれて、直接目で見て、触って桐生和紙を本当にいいと思ってくれる人とだけ仕事をするのが星野さん流だといいます。

取材後記

この話をうかがった時、いくつかの地域やコミュニティに根付いて、新しい暮らしをはじめる人びとが増加している昨今において、星野さんの働き方はとても参考になると感じました。働くうえで本当に大切なことは何か、桐生和紙を通して教えてくれているようです。桐生和紙そのものも魅力的ですが、和紙を作る職人の働き方は、もっと素敵ではないでしょうか。

桐生和紙
柿渋染めを施した桐生和紙

お話をうかがった人

星野 増太郎(ほしの ますたろう)
昭和12年、群馬県生まれ。生家は桐生市の郊外、梅田地区で代々和紙作りを営む。高校卒業後、地元の繊維メーカーに勤務。30歳代半ばを過ぎてから和紙作りを受け継ぐことを決意し、父から技術の伝承を受ける。昭和49年、一時中断していた和紙作りを父と共に再開。昭和59年以降、和紙作りに専念し、各方面で高い評価を受ける。平成12年「群馬県ふるさと伝統工芸士」に認定。星野家は現在、群馬県内で唯一の和紙生産者であり、市から重要無形文化財に指定されている。

桐生和紙
住所:群馬県桐生市梅田町5丁目7348番地
電話:0277-32‐0201
価格帯:二三判650円~、便箋480円~、封筒350円~、はがき240円~
営業時間:10:00~17:00
公式HP:桐生和紙

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取材協力

日本百貨店 公式HP:http://nippon-dept.jp

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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