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【地域おこし協力隊】8,300枚の美しい棚田は薬草の宝庫?岡山県美作市で地域医療活用と里山再生を目指す|松原徹郎

地域のリアルな暮らしを、現地で暮らす人たちに聞いてみたい──そんな想いから、地域おこし協力隊の皆さんに質問をさせてもらう企画。今回お話をうかがったのは、岡山県北部の中山間地に位置し、8,300枚の棚田が広がっている美作市、上山地区で活動している松原徹郎さんです。

Q1:自己紹介をお願いします

岡山県美作市、上山町で活動している松原徹郎です。2013年の4月に着任して、現在、任期3年目です。

Q2:取り組んでいる活動を教えてください

岡山県美作市、上山町で活動している松原徹郎さん

里山再生活動と、薬草による地域医療の活用

春から秋までを棚田再生、冬場は里山林業と、里山全体を再生しながら地域活性活動をしています。ぼくは薬草を地域の医療に活かしたくて、薬剤師の妻と夫婦で活動しています。

林や藪を切り払い棚田を再生し、維持することで、地表が明るくなり植物の種類が劇的に増加します。それが昔の棚田の姿で、採れる薬草が増えるんです。

上山地区に生えている植物は、現在確認しているだけで約650種。棚田に生える薬草の量はまちまちなので、採れる量が多く、かつ効能が慢性疾患などに効き、加工もしやすい種に絞っていくと、20~30種の薬草が残ります。これらの薬草を活かそうと動いています。

野草茶
ウェブサイトを通じた上山野草茶の販売もおこなっている(引用:上山野草茶

まずは野草茶を30種試して、15種程度パッケージ化しました。薬草を地域内の健康に活用していこうとする理由は、薬草が限りある資源だからです。今、どの地域も高齢化が進んでいるので、たとえば慢性疾患の方々のうち半分でも薬草を試してみてほしい。毎日、毎食、大量に飲んでいる薬の量を減らして欲しいと思っています。

なお、これからは

  • 超小型モビリティの過疎地利活用
  • 採薬学教育機関の創設
  • 薬局(相談所)開設
  • ヘルスツーリズムの実現:滞在型の療養。
  • 地域エネルギーのオフグリッド化
  • 国内外他地域へのコンサルティング、提携、交易

に取り組みたいと考えています。

Q3:地域おこし協力隊をはじめたきっかけを教えてください

机上の空論のままでは誰も認めない。研究を活かす方法を探るため

地域おこし協力隊に着任するまでは、15年間、西日本一帯の自然環境調査業を生業にしてきました。専門は植物分類と植生管理です。研究・調査で年間100日以上、全国津々浦々の山・川・海の植物を見てきたので、頭の中に1000種ほど記憶しています。

前職での経験があってこそ、棚田をはじめとする里山再生活動と薬草による地域医療活用を本気でやるためには、毎日フィールドに出て生活の一部として取り組まなければ、里山は再生できないことがわかりました。

どんなに研究しても、研究した成果を実践しないと机上の空論のままで、誰も認めてくれない。研究を活かす方法探るために、41歳で上山に移住しました。

上山来訪時に野焼きの現場を見た

岡山県美作市、上山町の野焼きの様子

もともと木を間伐したり草刈りをしたり、里山を再生する活動も前職でしていたのですが、今と決定的に違うことがあるんです。それが美作市上山町への移住の決め手です。

前職時代に、もっと農家さんや地域で活動している人とつながろうと思ってFacebookを始めたら、上山地区の投稿が眼に飛び込んできた。それは大規模な野焼きでした。

一般的には野焼きって禁止なんです。でも上山地区の野焼きは高さ10mくらいまで火が登る。馬鹿でかいんですよ。もちろん大規模なものは事前に許可を取って野焼きをしています。こんなに大規模な野焼きができるのは、宮崎県の椎葉村でやっているくらいしか知りませんね。

岡山県美作市、上山町の野焼きの様子

大規模な野焼きができると、圧倒的に里山再生のスピード感が増します。だから美作市の5地域で地域おこし協力隊の募集がありましたが、ぼくは上山地区に行くことしか考えていなかったんですよ。

結局は地元の住民の方に、野焼きを許容してもらえるかどうかです。上山地区は昔から野焼きができる文化だったんですね。

Q4:あなたが考える「地域暮らしの魅力」を教えてください

当事者として、物事を自分で決めて動かせる

田舎って、人が少ないじゃないですか。地域の暮らしには昔からの役割、生業がいくつもあって、何役もこなさなければならない。たとえばぼくは神社の宮総代の仕事を、移住して3年目で任されています。集金、お供え、神主とのやりとり、お社の管理などをおこなっていて、評論家ではいられない、すべてが当事者になるんです。専門家でもない自分が考えながら、いろんな地域住民の立場や地域性を汲みながら、判断して動かさなきゃならない。

都会では大きな組織に属すことも多く、働いていても組織の歯車のひとつになりがちだと感じます。好きなことを言えても影響力は少ないことのほうが多いです。当事者として考えるかというと、他人事。田舎はそうはいかない。当事者として何かを決めて動かせる。意欲や野望があったり、能力が高ければやりがいはすごくありますよ。

Q5:地域暮らしでの心に残る出来事を教えてください

棚田で工作中にトラクターごと2m転落

うちの地域は、すぐ実践。先輩は手取り足取り教えてはくれないからやりながら覚える。「どうやったらいいんですか?」って聞くと、「こうやるんだよ!」と、ざっくりしか説明されないことも多い(笑)。

棚田は美しい反面、作業はとても危ない場所です。ぼくは棚田で運転中にトラクターごと2m転落したことがあります。翌日には30km離れたところに住むおじいちゃんが、ぼくが落下したことを知っていたことにもびっくりしたけれど、当然怒られてしまいました。トラクターの方が作業効率はいいですが、気をつけたいと思います。

Q6:好きな地域のごはんを教えてください

岡山県美作市、上山町で活動している松原徹郎さん

血と汗の結晶。棚田米

血と汗の結晶。これに勝るものはない。自分らで育てている米だから、なおさら味がおいしい。稲を収穫できたら、はぜ干し(*1)して自然乾燥させます。お米一粒一粒がじっくり乾燥し、でんぷんを蓄えるのでお米本来の甘さが引き立つんですよ。

(*1)はぜ干しとは刈った稲を束にし、一房ずつハゼの木に干して自然乾燥させること。

Q7:ウェブでは知ることができない地域の情報を教えてください

近所のおじいは朝4:00からロケット花火を打つ

田舎はみんな好き勝手に生きる。やりたいことを好きなように、すぐにやるんです。近所のおじいはイノシシが来ないように、朝4時だろうが夜中の10時だろうが、村中に爆発音が広がるロケットを打ちますね。もし上がらない日があると、逆に心配になりますよ(笑)。それぐらい獣害には悩まされてるってことなんですが。

Q8:地域での失敗談を教えてください

棚田に入る水を独占していたら、下流のおじいに激怒された

田んぼは6〜8月まで水管理が勝負。毎日水を見て、足りなかったら給水し、入れ過ぎたら排水します。

棚田は軽トラ一台が落ちてしまうくらい大きな穴がぼんぼん空くんですよ。田んぼの下には至るところに水道があるからです。穴が会いたら塞いで、また水を給水しないといけないんだけど、給水にはすごく時間がかかる。ぼくが耕している下側に位置するおじいさんの田んぼにも水を流さないといけない。でもその日だけは自分の田んぼの給水にたくさん時間を使ってしまって……。「うらああ!ふざけんじゃねえ」って、おじいさんを激怒させてしまいました。

Q9:同世代でおもしろい人はいますか?

  • 西口和雄さん(一般社団法人上山集楽代表理事)

西口和雄さんは大阪出身。林業がやりたくて移住して、個が連携して新しい価値を創造する協創LLPを組織し、上山にも一番に移住した人です。日雇い労働者が集まる大阪のあいりん地区のおっちゃんを棚田に連れて来て、人間らしく豊かに暮らせるのではないかと彼は考えています。今の上山地区の棚田・森林再生をベースにエネルギーに依存しないオフグリッド集楽の構想など、西口さんが考えています。

Q10:町で尊敬している人を教えてください

  • 高橋毅さん(農家)

農作業はあらゆる意味で完璧にこなす。獣害を防ぐ柵の作り方など、農林業のあらゆる仕事を完璧にこなす。穏やかで温和、決して自慢しない人。人の話を聞くときはニコニコしているんですけど、やるときはやる男。

  • 佐々木守さん(椎茸農家)

上山地区では少ない生粋の農業者。自然環境と農業についての生字引。

Q11:注目している地域おこし協力隊を教えてください

強いて言うなら、上山地区の地域おこし協力隊として1期生の水柿大地、3期生の梅谷真慈ですね。いずれもOBです。

  • 水柿大地さん

みんなの孫プロジェクト・代表取締孫。協力隊任期終了後も上山地区で暮らし、農林業に従事。2013年春からは、高齢者の方々の生活の中での困りごとをお手伝いし、作業合間には一緒にお茶をしたりご飯を食べたりしながら孫のように話し相手となる「みんなの孫プロジェクト」を開始。なんでも明るく全力でチャレンジする若者です。

  • 梅谷真慈さん

きつい仕事もいとわない武闘派の梅谷くんは、大学在学中に環境学を専攻し、現場で中山間地域のライフスタイルを実践。「現代の百姓」としてのワークスタイルを、上山集楽で確立すべく奮闘しています。

Q12:あなたが考える地域の課題を教えてください

中年世代の無気力化

中年世代の無気力化ですね。地域の高齢者は、昔から自分が地域でどうやったら生き抜けるか若い頃から苦労して、試行錯誤してきています。ずっと戦ってきて生き残ってきた人たちなので、生きる術を知っている。でも50代以降の高齢者の息子世代は、田舎にこもっていて、新しいことをやろうとする意欲がない人もいっぱいいます。これは都会でも同じかもしれないですね。

ぼくらが狙っているのは、高齢者の孫世代の20〜30代の方々です。彼らの世代になると人口が飽和している都会よりも、田舎のほうがチャンスは絶対にある。若いというだけで目立ちますし、個人として認めてもらえて、当事者意識を持てるので成長にもつながる。ビジネスチャンスなんです。

Q13:任期後の進路を教えてください

岡山県美作市、上山町

薬草とヘルスツーリズムによる地域医療に注力したい

任期を終えたら、薬草による地域医療と、滞在して療養医療するヘルスツーリズムの事業に注力していきたいので、2016年3月までには法人をつくります。そしていつかは雇用もつくりたい。

上山地区には温泉や宿泊施設もある。ヘルスツーリズムを実現できるパッケージングサービスをつくりたいですね。ぼくは上山地区だけがよくなればいいわけではないと考えているので、地域で結果がでれば、活動を他の地域にも伝播させていきたいです。

Q14:これから地域おこし協力隊へ応募しようと思っている人へのアドバイス

覚悟がなければやめた方がいい

全国の地域おこし協力隊は3,000人まで増やす動きがあります。最近では地域おこし協力隊という制度が認知されてきて、なんとなく制度のレールに乗ろうと思っている人が集まってきている節があります。

「ぼくは行政と喧嘩したから、たぶん来年は隊員をやめて、他の地域で活動していると思います」とか言ったりする声もちらほら聞くようになりました。

地域で暮らし始めて最初のうちは大変だろうけど、移住先のルールにも沿って3~4年もがき苦しんでいたら、みんなが自然と認めて協力してくれる。移住者側の問題は、時間が解決してくれることもあるということをぼくは伝えたい。地域に入ったら、ひとつ何かの結果出すまでは、必死にやってみることが大切だと思います。

若い人ほど社会経験が少ないので、何かやろうとすると地域のおじいさんたちに潰されるでしょう。なんにせよ、老いも若きも、本気でやる覚悟がないといけないですね。美辞麗句ばかりならべるつもりはありません。やるかどうかはあなた次第です。

お話をうかがったひと

松原 徹郎(まつばら てつろう)
1971年生まれ。兵庫県宝塚市出身。15年間、西日本一帯自然環境調査業に従事。専門は植物分類と植生管理。調査だけではなく、農耕・林業などを通じて人と自然の共生を考え、上山へ移住。かつての里山での人の暮らし・経験をお手本とし、眠っている資源の掘り起こしから生業を作り、中山間地の振興活動に励む。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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