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【地域おこし協力隊】長崎県小値賀島に300軒以上ある空家を活かしたい。島と人をつなぐゲストハウスを|福川諒

地域のリアルな暮らしを、現地で暮らす人たちに聞いてみたい──そんな想いから、地域おこし協力隊の皆さんに15の質問をさせてもらう企画。今回お話をうかがったのは、五島列島の北端に浮かぶ人口2,600人ほどの小さな島、長崎県の小値賀町(おぢかちょう)で活動する福川諒さんです。

Q1:自己紹介をお願いします

福川諒(ふくがわ りょう)です。2013年の4月から長崎県の五島列島の北の端っこ、小値賀島という島で地域おこし協力隊として活動しています。今年で3年目で、任期もあと約4か月となりました。

Q2:あなたが取り組んでいる活動を教えてください

1.これまで・現在取り組んでいること

落花生畑
1年目~2年目までは、小値賀町地域おこし協力隊として、一般財団法人小値賀町担い手公社という、島の農業の中枢を担う団体に所属しました。

そこでは、小値賀島の特産品である「落花生」の栽培、販売、PR業務をしてきました。それと合わせてプライベートでは、地元の「消防団」やご当地ヒーロー「自然児戦隊☆ぢか島ん」に入り、少しずつではありますが、地域に馴染めてきました。

そんな2年目のある日、町中にある1軒の空き家が壊されていました。そのときにひとりのおじちゃんが、「寂しくなるね」とボソッと言ったのが聞こえた。自分の地元を思い出しました。

ぼくの地元は、平成大合併をした町です。その合併から地元が大きく変わり始めました。子供の頃遊んでいた空地や走りまわっていた田んぼ道が壊され、コンビニやアパートが建てられていったのです。

その変化を目の当たりにして、もうここは自分の知っている町ではないんだな、と思うようになりました。その思いを小値賀の人にもしてほしくない。そう強く思うようになりました。

空き家調査
空き家調査の様子

協力隊最終年度の3年目は、小値賀島にある空き家対策の活動に取り組みだし、今は空き家を調査している段階です。

現在小値賀島には空き家が300軒以上ありますが、そのほとんどは人が住めない現状です。これからは空き家の賃貸交渉まで進めて、1軒でも多くの空き家バンクに登録をし、移住希望者に紹介ができるように活動しています。

それと同時進行で、重要文化景観地域の空き家を活用してゲストハウスを作ろうとしています。

2.これから取り組もうとしていること

空き家を活用し、人と人が集まり、つながれるゲストハウスを作ります。現在、築60年の空き家を購入し、自分でできることは自分でやる!をモットーにセルフリノベーションを行っています。今までに数名の方がリノベーションを手伝いに来てくれました。これから、大工さんも入って本格的に改修が始まるのに合わせて、空き家のワークショップの企画も考えています。

さらに、五島列島の各島にゲストハウスを作ろうとしている方が数名います。その方たちと協力し合い、改修の手伝いなどみんなで助け合える体制を築こうとしています。

3.いつかやってみたいこと

小値賀ゲストハウスプロジェクト

まだまだ、小値賀には空き家がたくさんあります。その空き家を1軒でも多く活用して、小値賀島の美しい風景や、そこに暮らす島の人たちの営み、思い出を残せるようにしていきたいと考えています。

その試みとして、ゲストハウスだけではなく、シェアハウスやお店にできたらと思っています。そして気軽に島の人や旅行者が集まり、交流できる場を作っていきたいと思います。

ゲストハウスへのリノベーションや交流を通して、五島列島全体の各島にできつつあるゲストハウスの良さやお互いの島の魅力を旅人に紹介できるような仕組みを作ることができれば、小値賀島だけでなく、五島列島全体が盛り上がるのではないかと思っています。

あくまでもゲストハウスは、手段と方法です。その根底にあるのが、小値賀の文化、習慣、歴史を伝え残すため。そのために、まずは島の人、旅人が集まる場所を作り、同じ時間を共有する必要がある。その中で共感しあうことができれば、何かしらのムーブメントが起きると考えています。

Q3:地域おこし協力隊をはじめたきっかけを教えてください

日本中を巡る旅の最終地点が、長崎県の小値賀島でした

ぼくが地域おこし協力隊になったキッカケは、本当に偶然です。

前職の仕事を辞めて日本中を巡る旅の最終地点が、この長崎県小値賀島でした。本当は鹿児島や沖縄まで行き、そこをゴールにしようと思っていたのですが、途中で予算が底をつきそうだったので、諦めて長崎県小値賀島をゴール地点にしたのです。

しかし、この島に足を運ぶと島の皆さんが、知らない旅人であるはずのぼくに挨拶をしてくれることに非常に驚きました。国内を長く旅していて、こんな文化を感じるのは初めてで、一発でこの島に惚れ込んでしまったのです。

そして私は気づくと、その足で役場へ行き「ここに住みたいです!」と相談をしていました。これは偶然か必然か、そのときに対応していただいた役場の方が、ちょうど「地域おこし協力隊」を募集するタイミングだったようで、約5ヶ月後に私は小値賀町に地域おこし協力隊として採用されることになりました。

Q4:あなたの「地域暮らしの魅力」を教えてください

小値賀の人の人柄の良さ、「日本語が通じる海外」であること

小値賀村地域の方々

ぼくが移住を決めたキッカケでもある、よその人を受け入れる小値賀の人柄の良さ。

小値賀に来てからというもの、お母さんたちからご飯をいただいたり、家の玄関を開けたらお米がドーン!と置いてあったり、夜ゆっくりテレビを見ていたら、いきなり玄関が開いて「飲み行くぞー!」と誘われたり……お陰様で小値賀島に来て約8カ月で体重が13キロ太りました(笑)。そのぐらい、小値賀の方たちから可愛がってもらっています。

地域に入れば入るほど、地域とのつながりが増えます。その分、都会で過ごしていた頃のようにプライベートがなくなっていきます。というか、都会で働いているときは仕事の顔、友達といるときの顔、家にひとりでいるときの顔、など色んな顔(自分)がいました。

それが、小値賀島に来て一人に集約されていきます。自分らしくいられる。もう顔を作らなくていいのです。それはまるで自分を包み隠さない、逆に自分を出していかないと生活ができない海外のような環境です。

ぼくは少し海外に住んだことがあります。日曜日はお店が閉まる場所でした。小値賀の商店さんも、そこと同じように日曜日はお休みです。しかし、日本の都会や街中では考えられないことですよね。同じ日本でも地域によって文化も習慣も全く違う。ただ一緒なのは、日本語が通じるということくらいです。

でも、ぼくは今の生活が好きです。たしかに日曜日もお店が開いていたらとても便利ですが「便利さ=生活の豊かさ」になるとは思いません。「生活の豊かさ」とは、もっと根本的なところにあると思います。その根本的な所があるのが、小値賀島だ。と、小値賀に来てそう感じました。

Q5:地域暮らしでの心に残る出来事を教えてください

島を去って行く人へ。友のために、海へ飛び込む

小値賀の漁港

毎年3月頃になると、高校を卒業した子たちが島を出る時期になります。

そんな時期に小値賀のターミナルに行くと、その日、島を出て行く子の同級生、後輩、学校の先生たちの見送りでいっぱいになります。

島を出て行く子を乗せたフェリーが高い汽笛を鳴らしながら出航すると、それまで手を振っていた人たちがフェリーを追いかけて、次から次へと海に飛び込みます。

これから島を出て新しい自分の道を進もうとする友のために、島を出てもがんばれ!と思いを込めて、海に飛び込む。どんな言葉よりも、意味が深く、強い絆を感じさせられます。

そんな光景を目にすると、しんみりと考えさせられる。とても心に残る出来事のひとつです。

Q6:町のおもしろい人を教えてください

  • 江川修一さん(あわび館)

小値賀には、あわび館という施設があります。小値賀があわびで栄えていた時代の歴史や資料などが展示されている場所です。もちろん、ここで小値賀のあわびやサザエ、魚が買う事ができます。地方発送もできるので、ぼくもたまに実家に送っています。

そこで働いているのが、江川さんです。生まれも育ちも小値賀。冗談が大好きで、若者の考えも聞いてくれます。そして、ゲストハウスのために大きな木のまな板をくれる、とてもいい人です。

電話で小値賀の魚、あわび、サザエなどのお取り寄せもできます。

Q7:同世代でおもしろい人はいますか?

小値賀の牛

  • 山田春児さん

2014年に福岡から移住をしてきた人です。小値賀の農業の担い手を育成することを目的に、現在、小値賀で新規就農者の育成「農業研修制度」を担当している人です。

同じ年齢というのもあって、よく彼とはお酒を飲みます。たまに飲みすぎて記憶をなくした彼は、翌日いろんな人に謝罪していたり、カラオケではマイクを尋常なくらい振りながら歌ったり、家は散らかっているけど料理はうまかったり、とてもおもしろい人。かつただの変態ですが、農業と釣りに関しては、尊敬しています。

Q8:地域での失敗談を教えてください

お酒が飲めると言ってしまった

ぼく自身、お酒はそれほど弱くない方だと思っていました。逆に少し強い方だとすら思っていました。

しかし、それが大きな間違いの始まりです。

小値賀島に来て1年目。田舎に行ったら飲ミニケーションが大事!と考えていたぼく。地区の集まりや行事の後は、必ず飲み会が始まります。もちろん、小値賀に来たばかりのぼくは、地区のおじ様たちをお酒で潰す気で乗り込みました。

結果、ぼくは1時間ほどで潰されました。1年目は、何回か二日酔いで仕事を休んだこともあります。今となってはいい思い出です。皆さんも、お酒はほどほどに。

Q9:あなたが考える地域の課題を教えてください

移住希望者に対して、家がない

自分の活動に直結するのですが、今すぐに住める家がないことです。移住したいけど、家がない。空き家はたくさんあるけど、改修にお金がかかるなど、様々な問題があります。今後、それをどう解決していくかが、大きな課題となっています。

Q2でお話しましたが、この課題を解決するアプローチとしてゲストハウスを作りたいと思っています。

Q10:好きな地域のごはんを教えてください

島といえば、とにかくうまい「刺身」

刺身
島といえば、魚です! とにかく、本当に魚がうまい。小値賀で刺身を食べたら、もう他のところでは食べられません。東京にある居酒屋「当地酒場 小値賀町」で小値賀の魚が食べられます。

Q11:ウェブでは知ることができない地域の情報は?

「ふるさと産業まつり」大人しい小値賀の人たちが、変貌する瞬間

「ふるさと産業まつり」

ぼくが小値賀島に来た頃、小値賀には大きなイベントが年に2回ありました。

しかし、去年から実行委員会の決定で1つイベントがなくなりました。厳密に言えば、かなり縮小したイベントに変わりました。

そのたった1つになった大きなイベントこそ、「ふるさと産業まつり」です。じつはこのイベント、小値賀の旬な物、特産品などが安く買えます。もともと小値賀の人たち向けのイベントのため、観光客に向けたPRをしていません。

イベントも盛りだくさん。特に必見なのは「餅まき」です。いつも大人しい小値賀の人たちが、唯一変貌する瞬間です。毎年、11月の第3週か第4週の日曜日に開催します。今年(2015年)は11月22日(日)の3連休に催されるで、ぜひ一度足を運んでみてください。

Q12:尊敬している町の人を教えてください

  • 神崎健司さん(小値賀町役場)

元地域おこし協力隊の担当者。自分が移住相談をした時に対応してくれた方でもあります。ずっと協力隊のフォローをしてくれていて、協力隊の悩みや相談に耳を傾けてくれる、とても人のいい方であり、小値賀町の将来をものすごく考えている方です。

今は協力隊の担当ではないのですが、今でもいろいろと気にかけてくれています。お酒を飲みすぎると、テンションがすごく上がって、たまに止めるのが大変でおもしろい職員です。

  • 藤川光幸さん(小値賀の大工さん)

同じ消防団にいて、自分が入りたての頃の分団長でした。消防団や地区のことを教えていただいて、とてもお世話になった方です。よく自宅に呼んでくれて、よその自分でも優しく接してくれました。今はゲストハウス改修に関するアドバイスや指示をいただいています。

  • 藤松幸子さん(エイダン:食品や日用品を買える小値賀の商店)

70歳を超えてなお、商店のレジで働き、週に1回卓球をしている、とても元気で可愛らしいおばちゃんです。とても気さくで誰に対しても優しく、何かあったときは、1番に相談に行きます。ぼくの友人が島に来ると、必ず会わせる方です。

Q13:注目している地域おこし協力隊を教えてください

小値賀の海

  • 北海道羽幌町天売島地区 木内健太さん

天売島は小値賀島よりも小さく、人口も少ない。そんな小さな天売島で唯一の高校を存続させようと日々がんばっています。木内さんとは一度天売島でお会いしたことがあり、そのときの印象として気さくでとてもおもしろく、本当に憎めない、みんなに愛されるキャラクターの持ち主の方だと感じました。

そして凄くがんばり屋さんなのですが、うまくいかないこともあるようです。でも、その一つひとつが木内さんを成長させてくれると思いますし、何より周りが「応援したい!」と思うのは、木内さんの人柄の良さゆえだと思います。今後の木内さんの活動にとても注目をしています。

  • 栃木県市貝町 柴恭弘さん

ブログの内容が、協力隊の現状や地域と行政と協力隊の関係性など、とても率直で素直な内容のものでした。柴さんが書くブログの内容に共感する部分が多々あったため、ずっと読んでいたんです。しかし最近はそのブログが削除され、読めなくなってしまったのがとても残念です。

ぜひ一度お会いしてみたい協力隊でもありますし、また他の形で、協力隊の現状を発信していってほしいと思います。

  • 福岡県大刀洗町 奥平大さん

一度仕事の関係で奥平さんが小値賀島に来たときに知り合いました。当時はお互い協力隊になったばかり。すぐに意気投合しました。今年度で協力隊の任期が終わる奥平さんは、大刀洗町に残る道を選び、現在「T-CARGO」という、移動コーヒーをやっています。ブログでは、お客さんとの交流や日々の協力隊の活動を書いています。私も小値賀島に残る道を選んでいるため、奥平さんの今後の活動にとても注目しています。

Q14:任期後の進路を教えてください

来年3月で協力隊の任期が終わります。そのため、取り組んでいる最中の空き家の改修をなんとか終わらせ、4月から本格的にゲストハウスの運営をやっていこうと考えています。

先ほどお話しましたが、ゲストハウスはあくまでも手段と方法です。小値賀島の文化、習慣、歴史、小値賀の美しい風景を、いま生きている人に伝え残すため、まずはゲストハウスを作り、そこに人の流れをつくる。

人が集まる場で価値観の共有をし、共感が生まれる。共感が生まれると、人と人とがつながり、新しい動きが生まれる。そのためにも今できることを、できる人がやる。

ぼくの場合地域の方たちと触れ合った結果、小値賀の今を残し続けていきたい。そう思いました。地域にある物事をうまく活用でき、かつ自分の興味がある物を結びつけていくと、「ゲストハウス」にたどりつきました。

きっと協力隊の任期が終わった後が、本当の自分を試せるのかもしれません。

Q15:これから地域おこし協力隊へ応募しようと思っている人へのアドバイスをお願いします

小値賀の海水浴場

「この地域で勉強させていただきます」というスタンスでいい

正直な話、地域おこし協力隊をおすすめできますか?と言われたら、すぐに「はい」と答えるのは難しいです。

なぜなら地域によって協力隊が活動できる幅の広さ、そして深さがまったく違うからです。

協力隊を活かすも殺すも、協力隊の体制(起業型なのか、就業型なのか、副業はありなのかなど)、行政のフォロー、地域住民の理解などで大きく変わってきます。

そのため協力隊になろうと考えている方には、しっかり3年後の自分を見据えてほしいということと、お金と時間が許す限り、その地域に足を運んで協力隊担当者の方と話し、地域住民と接することをおすすめします。

3年後の自分を見据えるとは、絶対に定住しないといけないとか起業や就業しないといけない、など難しく考えることではありません。「この地域で勉強させていただきます」というスタンスでいいと思います。この地域に入って、いろんな方と出会い、刺激され、悩み、チャレンジなどの経験をし、3年後こんな自分になれたらいいなとか、地域の人から3年後に「帰らないで!」と言われたいなとか、近い将来をイメージすると必然的にやるべきことが決まってきます。一番怖いのは、目の前の仕事だけをこなすこと。これだけは止めてください。

「地域おこし」という名の下、その地域で何かをしなければならない……と、そんなに気を張らず、もっと地域の方の力や知恵を頼ってみてください。

人は、人から頼られるとうれしいものです。それは、地域の人もそうです。口ではああだ、こうだ、と言われるかもしれませんが内心は、うれしいはずです。

お話をうかがったひと

福川 諒(ふくかわ りょう)
1988年生まれ。福岡県宮若市出身。日本映画学校卒業後、映像制作会社に入社。その後、仕事を辞め、国際ボランティアとしてオーストリアに行く。帰国後、東京の学童保育で先生を務めたのち、2013年から小値賀町地域おこし協力隊として活動中。「人に会いに行く旅」をコンセプトに旅をするのが趣味。景観資産に登録されている地区の空き家を活用して、ゲストハウスのオープンを目指している。そのブログ「長崎県五島列島のおぢか島の空き家を活用し、交流型ゲストハウスを作るプロジェクト」をほぼ毎日更新中

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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