「百年先も続く、農業を」。
「未来からの前借り、やめましょう」。
これは、2009年7月に設立した野菜提案企業「株式会社坂ノ途中」が掲げる大きなメッセージです。
代表は、1983年生まれの小野邦彦さん。おもに何をしている会社かというと、小さな農家さんの野菜の個人宅配事業や、京都・東京の店舗での小売、あとは飲食店さんへの卸売事業等を手がけています。
でも、そもそも「野菜提案企業」ってなぁに?
掲げているメッセージには、どんな想いが込められているの?
そしてじつは、「野菜を売ることだけが目標じゃ、ないんだよね」。
坂ノ途中が「野菜を売る」ことに込めた想いや今後の目指す方向性を、広報の倉田優香(以下、倉田)さんに聞いてみました。
坂ノ途中の目標は「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」
倉田 坂ノ途中が目指しているのは、「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」です。それを通じ、農業を持続可能なものにしたい、ひいては持続可能な社会にたどり着きたいと考えています。
── 「安心・安全な野菜を食べよう」じゃないんですね。
倉田 もちろん「おいしい野菜を売る」これは大前提です。けれど、「農薬や化学肥料に大きく依存した農業をやめ、環境への負担の小さな農業を広げよう」。これが、私たちが「百年先も続く、農業を。」というコンセプトにまず込めた思いです。
── なぜかというと……。
倉田 科学の発展により、農薬や化学肥料に代表されるような、「外部資材」はすごく発展しました。でも、化学肥料に頼って野菜を育てると、ほかの生物との競争に勝てなくなり、野菜やお米などの農産物は弱くなりがちです。生長がはやくなったり、収穫量が増えたりと、よいこともたくさんあるのですが。
そこで農薬を投入し、ほかの生物を排除します。そういった栽培を続けていると、有機物を分解し栄養分を補給してくれる微生物たちもいなくなり、土は痩せて、カチカチになっていきます。
倉田 すると次は、即効性のある化学肥料にもっと頼ることになります。けれど化学肥料に頼って農産物を育てると、また弱い農産物が出来上がってしまい……。
── 農薬を投入せざるをえなくなる。
倉田 そう。じつはいま、多くの農業の現場でこんな悪循環が生まれています。悪循環の中で少しずつ土は痩せ続け、私たちの暮らしや農業は、農薬や化学肥料への依存度を高めているんです。かなしいですね。
農薬や化学肥料に大きく依存した農業では、たしかに「いま現在」のコストは削減できます。それに、安定した収穫も見込めますし、量も増やせるでしょう。けれど一方で、確実に環境への負荷は積み重なっている。
── つまり、「いま現在」安く、楽に収穫できるのは、「将来への持続可能性を捨てていること」と同義だと。
倉田 はい。私たちはこれを「未来からの前借り」ととらえ、「未来からの前借り、やめませんか?」というメッセージを掲げて様々な事業を展開しているというわけです。
倉田 未来からの前借りをやめるためには、農薬・化学肥料への依存度を下げ、土づくりを主体とした農業を季節や土質に合わせて展開できる農家が増えなければいけません。
腕利きの特別な農家だけが農業で経済的に自立できる、ではだめなんです。まじめに努力し、研鑽(けんさん)をつめば、「農薬・化学肥料に頼らない農業」が職業として成立する。そうやって大切に育てられた農作物を多くの人が味わい、その価値を理解し、生産者の努力が報われる。
そんな社会を実現したいと考えています。
だから野菜を売っています
倉田 何より、そうやって育てられた野菜は、じっくりと手をかけられているぶん、とてもおいしいんですよ。私はとくに、ナスをこよなく愛しているんですけれども。
小さな農家さんが大切に育てた野菜を、きちんと世の中に流通させる。多くの方に、しみじみとおいしい野菜を食べてもらう。そうすることで、環境への負荷の小さい農業が広がっていく。
そのために様々な方法で届けています。おもな方法は、以下の3つです。
[1] 個人宅配
倉田 通販でお客さまのご自宅に直接届ける、という方法です。1回ごとのご注文、毎週または隔週お届けの定期宅配のどちらもうけたまわっています。
坂ノ途中のお客さまの多くが、定期宅配を選んでくださっています。
旬で、採れたての鮮度のよい野菜を、坂ノ途中のスタッフが農家さんと相談しながらバランスよくセットにしてお届けします。定番のお野菜から珍しい西洋野菜や伝統野菜まで、幅広く入っているのが特徴です。
- 旬のお野菜セットS(7〜9種類) 2,430円
- 旬のお野菜セットM(11〜14種類) 3,672円
- 旬のお野菜セットL(12〜18種類) 4,914円
倉田 定期宅配のお客さまには、ちょびっとしかない、だけどおいしい、そんなものを「おまけ」としてお付けしています。初夏にはお茶の新芽、夏には食用のホオズキ、秋にはさつまいものつる、冬にはみかんなど。季節も感じていただけると思います。
初めてのお客さまは「お試しセット」もご利用いただけます。おいしい野菜、違いを感じていただけたらうれしいなぁ……。
珍しい野菜を食べて、「初めて食べたけど、美味しかった!」とコメントをいただくことも多いですし、小松菜やニンジンなど、定番野菜を「ふだんの野菜と違う!」とほめてもらうこともあります。
[2] 店舗販売
倉田 通販だけでなく、お客さまが実際に野菜を手にとれる店舗運営も大切にしています。地域は限られていますが、現在京都と東京をあわせて3つの直営店舗が営業中。
倉田 最初は「じゃがいも・たまねぎ・にんじん」など手に取りやすい野菜を買って、おいしさに気がついた。そして葉物やナス、ピーマン、すずかぼちゃなどほかの定番野菜や、珍しいお野菜にも手を伸ばす。いつしか野菜から派生して、お米やお茶、お味噌や海苔などにも興味を持ってくださる……。
そんな「だんだんと食の意識と暮らしが変わっていく」お客さまとの出会いを、私たちはすごくありがたいなと思っています。
[3] 飲食店への提供
倉田 また、定期宅配や店舗販売のほか、全国の飲食店さんや小売店さんへの野菜の卸売事業も展開しています。飲食店さんは、イタリアンなど洋食が中心。小売店さんの中には、「坂ノ途中コーナー」を作ってくださっているところもあります。
今後もっと、ご一緒できる飲食店さん・八百屋さんの開拓に努めていきたいと思っています! ご希望の方がいらっしゃったら、ぜひご連絡くださいませ。
■野菜を使ってくださっている飲食店さんの例
- 京都市中京区 イル・チリエージョ
- 京都市南区 ホテル アンテルーム京都
- 東京都港区 南青山野菜基地
■坂ノ途中コーナーがある小売店さんの例
- 京都市中京区 明治屋 三條ストアー
- 京都市中京区 大丸京都店
ほかにも“食”にまつわること、いろいろやっています
倉田 生産者さんに野菜を作ってもらって販売する事業だけでなく、2013年秋から自分たちで農場を経営し、野菜をつくったりもしています。
自社農場「やまのあいだファーム」
倉田 愛称は「やまあい」。現在は坂ノ途中スタッフの「あかねぽん」と「ハチ」の2名が常勤しています。
特徴は、農薬や化学肥料を使わないだけでなく、耕すこともしない、有機肥料もまれに油カスを用いる程度という、とても自然に近いスタイルで栽培しているということ。「不耕起自然栽培」とか「自然農」と呼ばれる農法をベースにしています。
倉田 不耕起自然栽培や自然農といった営農スタイルに憧れる方は、昨今非常に増えています。ですがその一方で、自然農で経営が成り立っている農場は、ほとんどないという現状もあります。理由は費用面や、立ち上げ初期はアルバイトの掛け持ちで体力が続かないとか、そもそも農業が肉体労働なために、きついなどいろいろありますが。
だから「やまあい」は、以下のふたつをおもな目的として運営中。
- 「不耕起自然栽培は、本当に儲からないのか?」ということを検証すること。
- 就農希望者がリアルに農業を体感できる場所を用意することで、新規就農者を増やすこと。
もし、不耕起自然栽培や自然農法が経営として成り立つ!という証明ができたら、そのノウハウを広く公開することで、環境への負担の小さい農業の実践者を増やせるかもしれません。
「やまあい」で育った野菜は、定期宅配や店舗でも取り扱っていて、とても人気の商品になっています。土が生きていて、農場には生き物の数がものすごく多い。だからか、「『やまあい』に来るだけでなんだか元気になる」という声も多いです。
農業体験&就農準備トライアスロンも
倉田 また、「やまあい」では農業体験希望者の受け入れも行っています。
就農を検討している方が、毎年30人から50人程度いらっしゃいます。就農といってもそのスタイルは多様。一緒に作業しながら、目指す農家像を膨らませてもらいたいと思っています。実際に近所で就農した方もいますし、就農しないことを選択された方もいます。
そのほか、「子どもに自然や生きものに触れる機会を作ってあげたい」「おいしい野菜が大好き!」といった、ライトな理由での参加も歓迎です。いろんな生き物がいるので、お子さんはバッタを捕まえたり。
- 農業体験の詳細はこちら
またもっと真剣に、本気で新規就農者の仕事や暮らしを体験したいという方には、6泊7日で実施する「就農トライアスロン」というプログラムを提供しています。
これは、坂ノ途中の業務や、坂ノ途中が提携している新規就農者の実際の農作業を、1週間にぎゅっと濃縮して体験できるプログラム。1週間で、就農するかどうか、「人生を決めちゃいましょう!」というものです。
これまでに10名程度の方が参加されました。「もっと大規模に農業をしたい!」と北海道で就農された方や、育てるだけでなく販売もしたいと、野菜の移動販売を始められた方もいます。
みっちりと農業を濃く体験してもらいたいと考えているため、1度の催行につき定員は2名限定としています。3名以上でご利用をお考えの方は、別途プログラムを組みますのでご相談ください。
- 就農トライアスロンの詳細はこちら
途上国でも、「100年先もつづく、農業を」
倉田 そろそろ、「手がけている事業、たくさんあるな……」と思ってきましたか?(笑)。じつは、まだまだあるんです。坂ノ途中は、海外の発展途上国での有機農業普及や商品開発にも積極的に取り組んでいます。
[1] ウガンダオーガニックプロジェクト
倉田 2012年から、アフリカ・ウガンダで有機農業を普及させるオーガニックプロジェクトに取り組みました。ゴマやシアバター、バニラなどを栽培してもらって日本に輸入し販売しています。2016年、担当者の結婚などがきっかけとなり、担当者夫婦で現地で設立した会社に事業を移管しました。
[2] メコンオーガニックプロジェクト
倉田 2016年から、東南アジア・ラオスで取り組み始めたオーガニックプロジェクト。森の木々と様々な農作物を共生させる農法「アグロフォレストリー」の考え方を用いたコーヒー栽培に取り組んでいます。
木陰でコーヒーを育てることで、実がゆっくり熟し、おいしくなるんです。
森と一緒にコーヒーをはじめいろいろな農作物を育てることで、ラオスの豊かな森を保全しつつ、山間地域に暮らす人たちの生活を支えたいと思っています。このプロジェクトは始まったばかり。毎シーズン、コーヒーがおいしくなっていくはずなので、その変化も楽しんでもらえたら。
farmO(ファーモ)
倉田 そのほか、新しい挑戦として、オーガニック・エコ農産物の売り手と買い手をつなぐマッチングサイト「farmO(ファーモ)」の企画・運営を始めています。
コンセプトは、「オーガニックを、ひらこう」。各地域に点在している有機農家さんや、有機農業を応援したいと思っている方が出会う機会になったり、それぞれの試行錯誤が共有され前向きな変化が生まれていくきっかけとなったりするようなウェブサービスに育てていくつもりです。
「おいしい野菜」から見えてくる、いろんな「今」と「未来」がある
倉田 すべての事業を通じて、とにかく実現したいのは「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」。「百年先も続く、農業を。」という言葉には、この想いが詰まっています。
いま、新しく農家になりたいという若者が増えています。その大半のひとが、有機農業に興味があると言ってくれている。でも、どうしても生計が立てられるひとが少ない。一番の理由は、最初は小ロット・不安定な収穫量であることが多いため、安定した買い手が見つけられないからです。私たちはそこを変えたいと思っています。
有機農業に奮闘する若手農家や新規就農者が、兼業アルバイトをやめて、農家一本で生計が立てられるようになれば。子どもができても、必要に応じた教育費をかけられるようになれたら、とか想像するんです。
たまには休んで、街中でデートして、自分の野菜を使っているレストランでディナーをして、「ここの野菜をつくっているの? かっこいいね」なんて会話が生まれるようになれば……!
倉田 そうしたら、「農業なんて儲からないからやめたほうがいい」なんて言う農家さんは減るし、「がんばれば報われる。応援してくれるひともたくさんいて、楽しい産業」が農業になるんじゃないかと考えています。
土づくりを大切にする農業を、楽しみながら実践するひとが増えていくとしたら、少しずつ未来からの前借りをやめていけるんじゃないだろうか? そんな未来を描いている会社が、「野菜提案企業 坂ノ途中」です。
坂ノ途中について
企業名:株式会社坂ノ途中
住所:〒601-8311 京都市南区吉祥院西ノ庄東屋敷町126
※2017/10/16より、以下住所に移転いたします。
〒600-8888 京都府京都市下京区西七条八幡町21
電話番号:075-200-9773
代表者:小野邦彦
設立日:2009年7月
従業員数:約40名程度
公式サイトはこちら
(この記事は、株式会社坂ノ途中と協働で製作する記事広告コンテンツです)
文章:伊佐知美
写真:タクロコマ(小松﨑拓郎)