生まれ場所の静岡から、北海道へ、ハワイへ、いまは京都暮らし。食品研究、農業、いまは経理の仕事を。
一つにとらわれずに、暮らす場所、仕事を柔軟に変えていきながら、どこででも目の前にある仕事に懸命に取り組むのは、京都の野菜提案企業・株式会社坂ノ途中で経理を担当する狩野綾乃さんです。
綾乃(かのう あやの)
学生時代は網走にある東京農業大学オホーツクキャンパスでホタテの香気成分を研究。そのあと、ハワイで白菜やキャベツを栽培したのち、2014年7月に入社。店舗販売、出荷、農家さん窓口と様々な業務を担当したのち、意外と数字に強いことが判明して現職。会計楽しい。好きな野菜はとうもろこし。
これからはどこで生きても、どんな仕事をしても、いいと思います。
移動しやすく、コミュニケーションも取りやすくなったいま、暮らす場所も仕事も、自分で選び、挑戦する機会が目の前に広がっています。
じゃあ僕らは何を指針にすれば、自分の選択に自信をもち、自分を信じて暮らしていけるのでしょうか。そのヒントが今回のインタビューにあるように思います。
北海道でホタテの“色ごとの香りの違い”を研究していました
── コーポレートサイトのスタッフ紹介欄を拝見して、学生時代は「ホタテの香気成分を研究」という文言に、なんだこのひとは……!という興味を抱いておりました。
狩野綾乃(以下、狩野) ありがとうございます(笑)。
狩野 大学ではホタテの研究をしていました。ホタテというか、ホタテの干し貝柱をつくるときに出てくる煮汁を粉末化したものの匂いの研究です。
── それはホタテごとに“匂いの違いがある”みたいな感じですか?
狩野 そうではなくて、ホタテの“色ごとの香りの違い”を研究していまして。
── ホタテの色?
一同 (笑)。
狩野 ホタテの成分によって、煮汁は温めるとだんだん茶色くなっていくんです。
身近なものだと玉ねぎを炒めていくと飴色になって香ばしいにおいが出てくるのと同じ原理なんですけど、この「色が変わること」で、食品からいい風味がするようになる現象に注目して研究していました。
ホタテの煮汁だけでなく粉末も、煮汁のような現象が見られたんです。だったら香りも変わってくるんじゃないか? という仮説のもと、研究を進め香ばしい風味が増えていくという結論になりました。
── 世の中の香ばしさのために研究していたわけですね。
狩野 香ばしさのためでもあるし、干し貝柱を生産する過程で出てくる煮汁に価値を持たせて両方高く売れたらうれしいじゃないですか。煮汁も香ばしくていい風味が増えれば価値が上がるんじゃないか、それで高く売れたらいいなっていう、煮汁を無駄にしないための研究なんです。
── なるほど。狩野さんが農業系の高校、大学に通われていたのは、もともと一次産業に興味があったからですか?
狩野 私は食べ物というか、お菓子が好きでした。
── それは農業じゃないですね(笑)。
狩野 私が中学生の頃に姉が農業高校に通っていたんですね。そのときに授業の一環としてお菓子やパンをつくって文化祭で販売していて。頻繁に食べ物を持って帰ってきてくれて、嬉しかったんです。私も農高に入ったらおいしいものを食べられると思って、そっちの方向に進みました。
── ホタテの研究をされていたということは、大学を選ぶときは水産業に興味を持って東京農業大学に?
狩野 いや、違います。高校時代の“つくって販売しておいしいね”っていうのが楽しくて、商品開発に興味を持って農大に進んだんです。けど商品開発の研究室がすごい人気で定員オーバーしてしまって。ホタテに力を入れている研究室に入りました。知らないことばかりで楽しかったですよ。
── 卒業後はどうされたんですか?
狩野 ハワイで農業をしていました。1年間アメリカに渡って農業するプログラムの紹介が大学に来ていて、楽しそうだし行ってみようかなって。大学の頃は季節ごとの農業バイトはしていましたが、1年間続けて携わるというのはそれが初めてでした。
── その頃から有機農業に興味を持っていたんですか?
狩野 はい。ハワイの研修先はなんというかビジネスライクな農業経営をしていて。もうちょっと農業って、商売以外にもいろんな側面があるんじゃないかなんて思い始めたんです。
農業を学ぶために、北海道からハワイへ
── そのあたりで坂ノ途中と出会うことになるのでしょうか。
狩野 ハワイにいたときに北海道の農家さんがこの本を送ってくださって。
狩野 本に載っていた坂ノ途中を知って、面白いなと思いました。それで代表の小野に「話を聞かせてください」とメールして。
── ハワイにいるときに?
狩野 はい。私が日本に帰ってきたときに東京で話を聞いて。で、ちょうど一人ひとがいなくなるタイミングというのもあって、入社することになったという感じです。
── おおきな出会いですね。
狩野 そうですね。帰国後なにをしていくのか、見定めていなかった私にとってはとてもおっきい。
── この本はいろんな農業にかかわる活動や会社のことが紹介されていますが、坂ノ途中にピンときたのはどうしてですか?
狩野 「安心・安全を謳わない。環境問題にフォーカスしている会社です」と明言していて、そこに共感したんです。たしかに私、有機農業が100%安心で安全だとは思っていません。
でも、私がお世話になった農家さんたちは、みんな元気なんです。だからそこまでして安心安全を謳わなくていいんじゃないかと思っていて。坂ノ途中みたいな安心安全を謳わない会社は珍しいなと。
── 実際に珍しいですよね?
狩野 唯一だと思います。「環境負荷の小さい農業で育てられた野菜を扱う会社です」とだけ言っているのは、おそらく私たちだけですね。
会社としてちゃんと数字を追いかけていこう!経理に転身することに
── 話は進んで、入社してからのことをお伺いしたいです。現在就かれている「経営管理」というのは、具体的にどんなお仕事を?
狩野 坂ノ途中はwebショップや卸、店舗といろいろなチャネルで野菜を販売しているのですが、その部門ごとの収支を管理しています。数字を細かく見て、この部門はこんな感じでお金を使っているからこうなったらいいよね、みたいなことを各部門のスタッフと話し、考えています。
── めちゃくちゃ大事ですね。それまで担当者はいなかったんですか?
狩野 私が担当になるまでは、専任はいませんでした。これから整えていくぞ!という時期だったので、私が経理を始めたころはまだ結構混乱が……。なんなんだこれは! みたいな数字があって、それを綺麗に整えていく日々でした。「あれ?このお客さんに請求したっけ?」みたいなこともありました(笑)。
── 大変でしたね。
狩野 経理は私が今までやってきたこととは全然違うことだったので、一から勉強して今に至るという感じです。
── 東京農大オホーツクキャンパスで研究された後にハワイで農業もしています。どちらかといえば生産者側に立って仕事をしていくのかなと思えたのですが、どうして経理に?
狩野 代表の小野が、いい意味で“私の心が死んでいる”と言うんです。数字を扱う経理は偏った目線にならないひとのほうが向いてるって。私には経理に必要なドライさがあるということですね(笑)。
広報・倉田 彼女は実家が自営業をやってるお家で。「サラリーマン家庭の育ちではない、お金に対する染みついた感覚みたいなものがある」と、小野は彼女のことを称しています。
公平な数字で、よりよい判断をする手伝いをしたい
── 会社が事業を運営していくためには、数字が伴うことが必須ですよね。経理の方が支えられる部分ってすごい大きいなと思います。
狩野 数字の良し悪しはモチベーションになりますが、逆のインパクトも与えかねないと思いながら扱っています。
── 数字が怖いものに見えるときもあるんですね。
狩野 はい。数字はひとの気持ちを左右するなって。仕事の結果を数字で見て、どういった判断を下していくか。数字は私の気持ち次第で偏りがでるものではありません。
その公平さをちゃんと利用して、それぞれの部門をお手伝いできたらいいなと考えていて。
その数字を見て私は何を伝えることができるんだろう? というのが悩みでもあります。こうしたらいいんじゃないかというアドバイスなのか、この野菜を売ってほしいというお願いなのか。公平な経理の立場だからこそ見えてくる話を伝えられるようになりたいです。
新しい事業や取り組みを始めたスタッフ、表からは見えにくいけれど日々の仕事を積み重ねているスタッフ、そんなみんなの頑張りが経理の仕事を通して読み取れると、うれしい、楽しい!と感じますね。
支えたいのはビジョン。「環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと」
── 狩野さんは食品研究や農業、経理といった、さまざまな視点から会社を見ていると思うのですが、坂ノ途中をどういう会社だと捉えていますか? たとえば、生産者と消費者をつなぐという仕組みをつくっています。
狩野 ほんとうに生産者さんとのやり取りが細かくて、こんなに新規就農者とお付き合いしているところはないだろうなって思っています。なかには「お野菜を10袋しか出せません」というぐらい小規模な農家さんもいるんです。
その方とお付き合いするぞって“言う”のは簡単ですが、実際の作業量的に本当にそうするのはむずかしい。効率化をつきつめた企業ではできないだろうなって思う。事務作業に慣れていない農家さんには納品書の書き方からお伝えしますから。
一人ひとりの農家さんとの関係性を築くのを大事にしているからこそ、お付き合いしている方もすごく増えてきているように感じます。
狩野 農業を持続可能なものにしよう、持続可能な社会にしようなんて、大きくて遠くにある未来像に思えてしまうんですけど、私は“環境負荷の小さい農業を実践する農業者を増やすこと”という(坂ノ途中の)ビジョンを支えたい。
日本中の農家さんといっぱい取引して、環境にやさしい農家さんが増えたらいいなという思いがあります。そうして、お客さんにおいしいものを届けたい。おいしいものはおいしい。あまりおいしくないものは改善していこうね、と生産者さんと一緒に成長していけたら。
── 二人三脚で。
狩野 そうですね。支えあっているというか一緒にがんばってる感があるので(笑)。数字を管理するという仕事の中でも、その泥臭さは忘れずにいたいです。
文・写真/タクロコマ
(この記事は、株式会社坂ノ途中と協働で製作する記事広告コンテンツです)