オーガニックにこだわり、「風で織る」タオルとして有名なIKEUCHI ORGANIC。
当たり前のことですが、糸がタオルの形になって、お客さまの手に届くまではたくさんの行程と時間が必要です。
そんな中、「タオルのすべて」と形容されるポジションがひとつ。それが「タオルの設計」という仕事です。
じつはほんの数年前まで、企画・設計は現代表の池内計司さんが一手にその役を引き受けていました。けれど社長交代や、食品安全マネジメントシステムの国際規格「ISO22000」取得等の組織変革のタイミングで、その役は矢野浩次さんに引き継がれることに。
タオルの風合いを決める大切な「設計」という仕事。会社のかなめに位置する矢野さんの現在の想い、タオル設計の裏話などをうかがいます。
設計とは、どんなタオルをつくるのかを決める仕事
── まずはタオルの設計という仕事について、教えていただけますか?
矢野浩次(以下、矢野) 簡単にいってしまえば、「どんなタオルをつくるのかを決める」仕事です。タオルは設計の言葉通りにつくられます。色・柄・サイズはもちろん、柔らかいタオルを作りたいとか、逆に硬めのしっかりとした拭き心地が得られるタオルがつくりたいとか。
そういったものをすべて計算して、数値に表して、まず設計図に落とし込みます。それを元に糸の手配を行い、織り機でタオルの形にしていく……というのが基本的な流れです。
さまざまな風合いのタオルを作り出すために、他社さんは糸を工夫して設計することが多いと思います。
が、うちの場合はオーガニック素材にこだわってモノづくりをしています。だから、糸はオーガニックコットンか、バンブーレーヨンの2種類だけ。つまり、糸での差別化というものづくりの大前提のところが、すごく限られている(笑)。
その中で細かいところまで突き詰めて考え、いろいろと違いを出すのがうちの設計のやり方です。
── 具体的には、ど……どういうところで違いが出せるのでしょうか……?
矢野 タオルの織りの基本は4つです。1つ目は糸の太さ。細い糸を使うのか、太い糸を使うのか。そして同じ糸を使うにしても、撚(よ)り回数によって風合いがまったく変わってきます。
矢野 2つ目は撚りの具合。あまく撚るとやわらかくなりますし、反対にぎゅっと撚るとシャリ感のあるしっかりとしたタオルに仕上がります。
矢野 3つ目はパイルの長さ。タオルの表面には、糸の輪っかがありますよね。それを短くするのか、長めにするのかによって風合いがまた変わります。
矢野 最後は糸を打ち込む密度。密度をどうするかで、風合いにかなりの差が出ます。
矢野 こういった設計を、数字上でいろいろとああでもない、こうでもないと試行錯誤して、オーガニックコットンとバンブーレーヨンの2種だけで風合いが変わるように苦労しながらやってる、といった感じです。
── おお、なるほど。かなり分かってきました。
代表の「こんなタオルがつくりたい」が開発の始まり
矢野 うちのタオルは、池内代表の想いありきでつくられることが非常に多かったんです。たとえば「オーガニック960」。2016年に発売開始した新しいラインですが、これも池内代表の「最上級のタオルを作ろう」という気持ちから開発が始まりました。
一度触っていただければ明白なのですが、「オーガニック960」の糸はすごく細い。そして、パイルの輪っか1つをつくるために、3本を撚り合わせています。微妙な質感を出すために、1本1本が違う色になるように糸から染め分けています。さらにそれを、「極甘撚り」というすごくソフト感のある撚り方にして……。
とにかく同業者たちから見ると、「なんて面倒くさいことを!」と叫び出しそうな手順を採用している商品なんです(笑)。タグもこの位置は、ぼくは当初反対したんですよ。ここにタグがあるタオルなんて珍しすぎます。
── でも、ここにあることによってすごく高級感がある気が。
矢野 結果的に、そうなんですよね。お客さまにもすごく評判がよいです。池内代表は、いつも本当に実現不可能のギリギリのラインを攻めてくるんです。「これ……本当にやれるの?」ということも、やってみたらギリギリでできちゃう。できちゃったからにはやるしかないよねぇ、ということで、現場はやる選択肢しか持てない(笑)。それが計算なのか運なのかはわからないんですけれど。
よくも悪くも普通じゃないですね、ほんと。なにゆえそんなこと思いつくのか、というところを提案してくるというか。よそでやってないことをやりたがるんですけど、よそでやってないことって、大概……あの、みんな、やりたくないからやらないんですよね。
── (笑)。
矢野 あとは採算が合わないとか、現場に負担をかけるとか。そういった側面ももちろんあります。だからよく池内代表と僕は衝突します。
── そうなのですか?
矢野 はい。池内代表が思いついて「こんなことやりたいから、次はこれやって」と言われたら、「いやそんなこと言うたら僕、現場から総スカンくらうんで、勘弁してください」と言うこともある。
だってそれを言わないと、縫製の方とかに「また矢野が面倒なもの持ってきた」とかって言われてしまうんで。……でもそこで代表がひょいと出てきて、「いいから試してみてよ」と笑顔で言ってプロジェクトが進むと。まぁ、大体こういう流れです。
── (笑)。
初めて作った、自身が自由に開発したタオル「温泉むすめ」
── 矢野さんは、もともと設計のお仕事がしたかったんですか?
矢野 はい。前職も同じタオル屋で、そちらで入社以来ずっと企画・設計オンリーでやっていました。うちの会社にも、企画職の募集で入社して。
でも企画の募集で入ったものの、品質管理と設計の兼任が1年ほど続きました。それまでは代表と、現在はISOを担当している曽我部(そがべ)室長がタッグを組んで設計を担当していたんです。でも「創業120周年の2073年までに、赤ちゃんが口に含んでも大丈夫なタオルを作る」ために食品安全マネジメントシステムの国際規格「ISO22000」を取得する、と決め、大黒柱である曽我部を異動させたので。ぼくがスライドして設計の専任となった形です。
── それは、嬉しかった?
矢野 何よりも驚きましたね。ぼくが専任ということよりも、曽我部室長をISO専任にするという点に。それまでは「食べられるタオル構想」なんて冗談かと思っていたけれど、「あぁ池内代表は、本気で食品向けISOを、タオルのために取りに行く気なんだな」と実感した。
── なるほど。
矢野 専任になって1年。設計のポジションに就いて、初めて代表がほとんど関与しない商品を企画・設計しました。それがこの「温泉むすめ」、通称「おんむす」です。
── IKEUCHIさんのタオルラインナップから鑑みると、なかなか異色の商品に見えます。
矢野 「エンバウンド」という会社が、全国の温泉地をモチーフにキャラクター化した「温泉むすめ」というプロジェクトを手掛けていまして。とあるフェアで、コンテンツを立ち上げたばかりの段階で縁を持つことができ、「温泉むすめ × IKEUCHI ORGANIC」のコラボとして商品開発が進みました。
はじめは当然、柄をプリントする形式でつくったんです。でも、うちがやる意味がないですし、経年劣化も目立ちます。
ではうちでやる意味はなにかを考えた時、やっぱりジャガード織で柄を織り込んで表現して、品質の変わらないタオルをつくるべきだろうと。1つのパイルを設計図でいうドット1つに見立てて、デザインに落とした時に潰れてしまう髪の毛の細い箇所や、瞳の輝きを手入力で順番に修正して。
矢野 詳細は省きますが、これは……ものすごくめんどくさい作業なんです(笑)。結果、一番手がかかった「有馬楓花タオル」には、すごく愛着を持ってしまったのですが。
矢野 ただ、単純にコラボレーションした商品をつくりたかったということではなくて。ぼくにとっては、地域活性化の一端も担う会社としての新しい地域貢献の手段を模索したプロジェクトでもありました。
「温泉むすめ」は日本全国の温泉をモチーフにしてキャラクターをつくっています。そして、愛媛県内には全国でも有名な道後温泉がありますから。これまでにない角度からの商品づくりは、様々な面において、大変でしたがとても楽しかったです。
これからの話。ぼくは、代表の技術をとにかく盗みたい
── 2014年の社名変更に続き、池内計司さんは社長の座を現社長の阿部哲也さんに受け渡し、代表の立場へと変わりました。そして、その後間もなく設計のポジションに就いた矢野さん。ある意味では経営は阿部さんに、設計は矢野さんへ、という見方でもできるのではないかと思いました。
矢野 どうなんでしょうねぇ……。あの人はとにかく自分が作りたいものがありますから。代表になってやっとそれに専念できるぞ、と思っているんじゃないですかね。モノづくりが本当に好きなひとなんです。
ある意味では、僕はそれに巻き込まれているような(笑)。
池内代表 (隣の部屋から池内代表が、「聞こえてるんだぞ〜!」と、突然の一言を取材陣に投げかける)
一同 (笑)。
矢野 ある程度、聞こえるように言っていますからね、僕も!
── やっぱり、イチ設計者として池内代表の後継に、という気持ちはありますか?
矢野 うーん。それはちょっと難しいところでもありますね。
IKEUCHI ORGANICのタオルを求めているひとって、やっぱり「池内計司のつくったもの」を欲しがっている気がするんです。ある意味では、「IKEUCHI ORGANICイコール池内計司」というブランドが出来上がってしまっているのかなと思うときがあるくらいです。
だから現時点では、たとえば「矢野が設計しました」といって新商品を売り出しても、求められないかなと。そして僕には、「池内計司のつくったブランドを守りたい」という気持ちもあるんです。
── ふむ……。
矢野 池内代表のようになりたい気持ちもありつつ、代表の陰でいるべきという想いも持ちつつ。なんというか、微妙なポジションだと認識しています。
だから目標を、と聞かれるとすごく悩みます。ぼく自身が、どこに向かっていくべきか計りかねているところがあるから。いずれ池内代表が代表の座も退く日がくるとして。社長の阿部が完全に1人でトップを担っていかなければならないってなったときに、さぁぼくは一体どういうポジションで支えるべきなのかと。そういったことを考えながらやっていたりもします。
矢野 繰り返しになりますが、今はちょうど、難しい時期なのだと思います。社長交代は、2016年とごく最近のことですから。
社長の阿部が、池内計司のようなカリスマ的トップに立って、「僕が前面に出るよ」というのであれば同じように全面的に陰で支えたい。逆に「もっとみんなが前に」という方針であれば、「矢野が設計したタオルです」と売り出せるようになりたい。そこらへんは、今後会社がどう変わっていくかによるのではないでしょうか。
何にせよ、今はとにかく目の前にあることを一生懸命やりながら、ずっと設計畑を歩いてきた池内代表の技術を吸収したいという一心です。
お話をうかがったひと
矢野 浩次(やの こうじ)
愛媛県今治市出身。小学校が池内代表と同じで後輩にあたる。30歳のときに別のタオル会社から転職してIKEUCHI ORGANICに入社。好きなタオルはストレイツ220。
(この記事は、IKEUCHI ORGANIC株式会社と協働で製作する記事広告コンテンツです)