林業に興味を持つ町の若者は、少ないといいます。そんな高知県嶺北地域・本山町に、本気で林業を生業とするべく移住した川端俊雄さん。彼には山仕事・製材・6次産業化といった様々な分野にそれぞれの師匠がいるそうです。そのひとりは「地域の総合商社になる」を合言葉に、「もくレース」などの木工事業や農産品加工事業を展開するばうむ合同会社代表の藤川豊文さん。
100年後も地域に資源を残すために、次の世代と山の未来のための林業を実践しようと、今日も働くふたりから僕が学んだこと。それは「ひとの手が加わったものは手入れをして良い状態を保たないと、自分たちの首を絞めてしまう」ということ。
ひとの暮らしは自然の一部。僕らの暮らしの一つひとつを、見直していきたくなるインタビューです。
藤川豊文さん
2010年に「ばうむ合同会社」設立。6次産業化を促進する同社の加工場では、木を伐るひと、製材するひと、デザインするひとなど、林業にたずさわるひとたちが集まり、ともに仕事をしている。
川端俊雄さん
この春、協力隊の任期中に山の作業を一緒にしていた仲間2名とともに、「山番 有限責任事業組合(LLP)」を立ち上げ、林業を主軸に、林閑期に充てる副業を模索しながら奮闘中。
本山町にはじめて、本気で林業をしたいひとがやって来た
── おふたりの出会いから、教えていただけますか?
藤川豊文(以下、藤川) うーん、忘れたぞぉ(笑)。4年前に会ったかな?
川端俊雄(以下、川端) 3年ちょっと前になります。
藤川 川端くんが地域おこし協力隊に着任して、挨拶に来てくれたときがはじめの出会いやったかな。
川端 ばうむ(合同会社)でお会いしたんだと思います。
藤川 はじめてがっつり林業をしたいというひとが本山町に来たので、どういう展開になるかすごく楽しみやった。ぼくらの商売は木材を仕入れること。協力隊の任期の3年間で川端くんのやりたいことを聞きながら、ばうむの仕事をお願いしたり、力になってほしいときには声をかけさせてもらったりしている関係やね。
── はじめて本気で林業をしたいと思っているひとに出会ったとのことでしたが、藤川さんは川端さんに対して、初対面のときにどんな印象を持たれたんですか?
藤川 最初は変わった子だなって思ったよ(笑)。
けど、森のことを学びたいというひとが現れたら、全面的にサポートしようと決めていた。川端くんだけじゃなく、この地域に来てくれるひと全員に対してね。
この地域に一週間、一ヶ月いるだけでも人生経験になるでしょう。そういうスタンスなので、移住者に対して、あまり深く気を遣わないんですよ。だいたい、いい意味で変わったひとしかここに来ないので、警戒せずに自然体で接しているほうが楽しい(笑)。
川端 移住者は、おもしろいひとが多いですね。
林業の未来につながる仕事をしています
── おふたりが一緒に取り組まれている仕事について教えてください。
藤川 親子で学習机を制作するワークショップをしているんやけど、机の用材になる原木を調達する役割を、彼にやってもらっています。
── 川端さんと一緒に親子で山に入って、用材になる木を選ぶところから始まるんですか?
川端 そうですね。けど、実際は手鋸(てのこ)で木を伐ってもらうので、机の用材になるような太い木の間伐体験をしてもらうと日が暮れてしまうので切りません(笑)。
あらかじめ僕が程よい太さの木を親子の組数分選んでおいて、順番に切ってもらいます。さいごに用材(*1)になる太い木を僕がチェーンソーで切る。実際に製材(*2)して乾燥して、加工したものを、2~3ヶ月後に机を組み立てるためにもう一度来てもらいます。全国のいろんなところから参加してくれますね。
(*1)用材:物を造るのに使う材料。特に、建築用・家具用の材木。
(*2)製材:製材(せいざい)とは、丸太を板や角材に加工すること。
藤川 あとは2015年の4月から、フリーパネルをつくっているんですけど、この原版になる一枚の板をつくる作業の工程を、川端くんにレクチャーしてもらっています。
このフリーパネルは、林業の未来につながっていく仕事です。 今までの林業だったら、一次産業者が木を伐って市場で販売する。それでは原木単価(*3)でしか売れんと。自伐林家(*4)の方でも製材までして売ることはあるんけど、木材を加工までして付加価値を付ける方は、とても少ない。
(*3)原木単価:原木市場や製材所では、木材価格は「1本いくら」という価格付けではなく、「1㎥当たりいくら」というように表す。一般的な杉の並材価格は原木単価で8,000円~15,000円/㎥。参考:大根より安い?:日本の木何でも講座
(*4)自伐林家:自分の持ち山で、伐採から搬出、出荷まで自力で行なう林家のこと 引用:自伐林家_現代農業用語集
半農半X(*5)という言葉がありますが、イメージとして林業の「半林半加工」みたいな感じやね(笑)。というのも林業は主伐期といって、9~3月までが木を伐る期間なんですよね。逆に言うと4~8月の間は、木を伐らん期間なんです。だから林業だけやるんだったら、そんなに忙しくないとも言える。だからその間に伐った木を加工して販売できる商品にする。で、加工してできたフリーパネルなどの木製商品を販売することによって、年収が倍くらいになるがやね。
(*5)半農半X:京都府綾部市在住の塩見直紀氏が1990年代半ば頃から提唱してきたライフスタイルで、自分や家族が食べる分の食料は小さな自給農でまかない、残りの時間は「X」、つまり自分のやりたいこと(ミッション)に費やすという生き方です。引用:「半農半X」|幸せ経済社会研究所
── それはすごいですね。
藤川 地域資源を加工して販売まですること、つまり6次産業化に力を入れたい理由のひとつが、市場に卸すよりも木材の買取価格を高くできるから。
川端 それはすなわち、木を伐らせてくれる山主さんにお返しするお金が増えるということです。加工まで手がけていけば、今まで「価値がない」と言われて眠っとった山からお金が生まれ、地域の山そのものが活性化されると思うんですよね。
血縁で家業を継承しない仕組みがあってもいいと思うんです
── おふたりの仕事の話を聞くと、やっぱり、山を想う気持ちはお互い同じように思えます。その点いかがでしょうか?
川端 向いている方向性は一緒だと思います。でも……、僕はまだ藤川さんより経験も知識も浅いので、山を想う深みが違いますね。
藤川 そうは言うても、10年前までまともに山のことなんて考えてへんかったよ(笑)。ただ、山の未来のことを言うと、今の本山町でも嶺北全体でも、人工林(*6)は3分の1くらいに減らすべきだと思っています。
(*6)人工林:おもに木材の生産目的のために、人の手で種を播いたり、苗木を植栽して育てている森林のこと。参考:人工林と天然林 – 森林・林業学習館
田舎の山に人工林の杉と檜しかない現状がおかしい。じゃあ、なぜこうなってしまっているのか? 疑問に思うでしょうが、答えは単純。儲かるからです。けれども、もともとあった山を人工林にしたなら、間伐したり、下草の管理をしたり、必ずひとが手入れをしなきゃならない。
だったらいっそ天然林に戻して、自分たちがきちんと管理できて稼げる山を残したいと思っています。つまり僕らは、人工林を減らしていく組織になっていくような感じ(笑)。
(*7)天然林(てんねんりん):主として自然の力によって成り立った森林のこと。 自然林ともいう。引用:天然林 – Wikipedia
── 人工林では、稼げないのでしょうか?
藤川 現在の人工林は、木材としてたいしたことのない、未来のことを熟慮せずに植えられた木です。僕らからすると、植林する段階から今まで、管理しきれていない木が山に植えられていること自体がおかしいんですよ。
── ひとの手が加わったものは、良い状態にするために手を入れ続けないと、自分たちの首を絞めるんですね。
藤川 そう。自分らの世代では首を締めないかもしれないけど、次の世代に影響を及ぼす可能性は十分ある。100年後も使える資源を残すためには、世代ごとで、ひとの手が入ったものを管理し続ける必要があるんでしょうね。農業は昔から長男が残り、家業を継ぐ仕組みがありましたが、あえてそういうルールにしたんだろうと僕は考えているんです。
でも今は、血縁で家業を継承しない仕組みがあってもいいと思うんですよね。都会に住んでいても林業に興味のあるひとに継いでもらえばいいわけですから。大切なことは、次の世代の暮らしを想いやって、里山を管理・保全することなんです。
川端 実際、山では木の価値が下がり、林業従事者も少なくなってきています。だからぼくみたいなよそ者でも、財産として残るような山にしていきたい想いがあれば、木を伐らせてもらえる機会が増えているんです。今は挑戦しやすいですよ、本当に。
林業の未来を話そう。
── 藤川さんと一緒に仕事をする中で、川端さんが挑戦しやすいと感じることはありますか?
川端 ……藤川さんの前でやりたいことをボソっというと、叶えてくれます。
藤川 ハハハハハァ(笑)。
川端 林業を本格的に始めた頃に奈良県の吉野にも視察に行ってみたいと言ったら、その2ヶ月後くらいに吉野に連れて行ってもらいました。
藤川 単純に僕が行きたかっただけだよ(笑)。
── 奈良県の吉野……?
藤川 吉野郡川上村というところですね。
川端 林業地として、群を抜いて有名なところです。
藤川 最高の木材をつくる林業地域なんです。「こういう林業をしたい」って思える、お手本になる地域です。
── 全国を取材してきて、これまで林業に明るい話というのはあまり聞いてきませんでしたが、ロールモデルが日本にあるというのは希望ですね。
藤川 うん。僕は大手を振って「林業をやってます」と言える地域は、川上村しかないと思う。もちろん他の林業地もすごいところはたくさんあるんだけどね。
なかでも、川上村が最終商品をイメージした林業をしている姿勢は、学びたいところです。
── 最終商品をイメージした林業……?
藤川 商品をつくることを前提に木を植え、育てていくということです。
川端 だから端材も余すことがないんですよね。木材を使い切る生産方法が地域内にあるんです。たとえば醤油樽をつくって、残った端材が割り箸として活かされるとか。
藤川 林業を勉強すればするほど、割り箸を馬鹿にできないんです。あらかじめ商品に使うことを想定して木材をつくっているから、必然的に良い木材になるし、その端材まで無駄にならない。余すことなく木材は商品になってお金を生みます。川上村に行くと循環する林業を目の当たりにするんですよ。だから、嶺北でも良い木を育てたいと思うんです。
助け合い、利用し合える関係性でいたい
── おふたりのこれからのことを聞きたいです。お互いどんな関係でいたいですか?
藤川 川端くんも今年からLLPを立ち上げて、組織的に動いているからね。お互いが助け合い連携していくことが、これからも良い関係でいるためのミソだと思うんだよね。がっちりチームを組むより程よい距離感がいい。いつでも気軽に相談し合える関係でいたいよね。
うちが手伝うことで、もし川端くんがやりたいことができるんやったら手伝うし、うちも川端くんを利用してやりたいことができるんだったら、やる。お互いがうまく利用しあえたらいいのかな。
川端 そうですね。
藤川 僕から連絡するときはだいたい、「手伝どうてくれんかい?」って相談することが多いよね。
川端 でもまだまだ、声がかかる機会も多くないので、もっとがんばります。
藤川 ふふ(笑)。川端くんも、なにかあれば頼ってくれていいんだよ。
お話をうかがったひと
藤川 豊文(ふじかわ とよふみ)
1964年高知県本山町生まれ。高校卒業で横浜市の建設会社に就職、32歳で家業の継承の為に帰郷。田舎を元気付けようと、39歳のとき所属していた本山町商工会青年部に声を掛け一年後「木部会ばうむ」を立ち上げ、嶺北杉を使用した学童机の製作・販売を始める。2010年に「ばうむ合同会社」設立。現在は木製品、米焼酎等々、地元の地域資源を活用した製品の製造・販売をしている。
川端 俊雄(かわばた としお)
大阪府出身。43歳。2013年に本山町地域おこし協力隊 林業振興活動員に採用されたことを機に高知へ移住する。この春、協力隊の任期中に山の作業を一緒にしていた仲間2名とともに、「山番 有限責任事業組合(LLP)」を立ち上げ、林業を主軸に、林閑期に充てる副業を模索しながら奮闘中。