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【高知県嶺北・土佐町】地元を“世界一の町だ”と誇れるように。「NPO法人れいほく田舎暮らしネットワーク」事務局長 ・川村幸司

大人が本気で遊び、暮らす町【高知県嶺北地域】特集、続けます。

何か、新しい取り組みや動きが見える地域には、必ずその流れをつくりだした、仕掛け人がいます。高知県嶺北地域・土佐町(以下、土佐町)の場合なら、その存在は「NPO法人れいほく田舎暮らしネットワーク」(以下、田舎暮らしネット)かもしれません。

土佐町の田んぼ

人口4,000人ほどの土佐町への移住者は、2012年以降の4年と数ヶ月だけで142人。これは県内、そして全国的に見ても多い数字です。都市部からのアクセスの良さはもちろんのこと、きれいな自然、美味しい水、ひとのあたたかさなど魅力的な点はたくさんありますが、果たして本当にそれだけでしょうか?

「暮らすひとが幸せだと胸を張って言える地域に」と語るのは、田舎暮らしネット事務局長の川村幸司さん。嶺北地域の未来と、幸せな町になるために必要な要素は何かを、うかがいます。

長い年月をかけて、泥臭くコツコツ積み上げてきた

川村幸司さん

── 幸司さんには、前回の土佐町の特集の時から、今回の取材までお世話になりっぱなりしで。ありがとうございます。

川村幸司(以下、幸司) いえいえ、お疲れ様でした。今回の取材は、僕が最後ですか?

── はい、トリになります。よろしくお願いいたします。

幸司 よろしくお願いします。

── まず、田舎暮らしネットがどういうNPOなのかを、教えていただけますか?

幸司 おもに嶺北地域のひとと移住者が交流できる場づくり、コミュニティづくりをしています。具体的に言うと、都心で開催されている移住フェアに出展したり、移住者が地元の方に暮らしの知恵を学ぶワークショップや「お山のてづくり市」というイベントを行ったり、空家を探して入居者を募ったりしています。

ワークショップの様子
ワークショップのようす

幸司 NPO自体は、現会長の山本福太郎さん(72歳)が2008年に発足したのがはじまりです。山本さんは僕と同じ土佐町出身のUターン者で、高齢化していく土佐町を見て危機感を覚え、なんとかしようと思って田舎暮らしネットを立ち上げました。

── 幸司さんも土佐町出身で、Uターンなのですよね。田舎暮らしネットに参画したのは、どういう経緯があったのでしょうか。

幸司 僕は、発足時に山本さんに声をかけられたうちの一人です。

初期の段階は行政とのやり取りが中心だったのですが、活動をするうち、もう少し敷居を低くして移住者の方にも、地元の方にも田舎暮らしネットを知ってもらおうと、子団体のようなかたちで、僕ら若手が中心になって「移住者の会」というコミュニティを立ち上げました。

川村幸司さん

幸司 「移住者の会」を始めて4年ほどは、本当に泥臭く「移住したいひとがおるから話を聞きに行こう」と、移住希望者を町案内したり、うちに泊まってもらったりなど完全ボランティアで活動していましたね。今では活動の価値が認められて、行政から補助金が下り、継続的に取り組めるようにまで成長しました。

僕も、嶺北地域が秘める可能性に魅力とやりがいを感じて、現在は旗振り役として事務局長をやっています。ですから、僕自身はUターンしてきてからずっと、移住者支援に携わっているということになりますね。

ゆるやかなつながりが、地域の可能性をつくり出す

── NPOの正式名称には「れいほく」と入っていますよね。活動の視点としては、やっぱり土佐町だけではなく、嶺北地域全体なのでしょうか。

幸司 そうですね。もちろん、土佐町や本山町、大川村に大豊町と、それぞれの地域に絞って考える視点も必要だとは思いますが。

僕個人としては、どこかひとつの地域にとらわれるのではなく、ゆるやかに4つの町村がつながれば、嶺北はもっとおもしろい場所になると思っています。

── どんな可能性があると感じますか。

幸司 嶺北には、個人でもチームでも、興味深い取り組みをしている方々がたくさんいます。それぞれが自由に情報発信をしたり、ものづくりをしたりすることで、結果的にそれが地域全体の魅力になると思うんです。逆に「嶺北地域はこういう場所!」と変に無理をして枠組みや仕組みを決めてしまうと、それぞれの個性が消えてしまう気がして。

嶺北地域

── その個性は、移住者の方々が増えたことと関係があるのでしょうか。

幸司 もともと土地がひとを惹きつけるちからを持っているのだとは思います。ただ、ひとが増えることで、地域の盛り上がっている雰囲気が醸成されてきたという部分は、あると思いますよ。

── たしかに、ここ数日取材をしていて、地元に暮らしているひとたちの意識は、自分たちが暮らす町だけではなく嶺北地域全体へ向いているなあと感じることがありました。横のつながりががっつりとあるわけではないけれど、意識し合っているのだろうなと。

幸司 暮らしているひとが、そういう感覚を地域に対して持っているということも、嶺北がおもしろくなる予感がする理由のひとつです。

川村幸司さん

幸司 僕らの活動自体は、一般的には移住促進と呼ばれるだろうけれど、仕事の根っこはひととひとをつなぐことにあります。地元のひとと移住してくるひとの希望や条件がマッチするよう、うまくサポートができれば、暮らすうちにどこから来たかはあんまり関係なくなってくる。

地域に受け入れられるためには、移住してくる本人の努力はもちろん、僕らがどう地元のひとたちにアプローチするかも、重要だと思っています。Iターン者が増えると、Uターン者も増える。Iターン者が新たにお店を開くことなどを通じて地域の魅力を発信することで、「俺の地元って改めて見てみると、じつは良いとこやったんか?」と地元の魅力を再発見してもらいやすくなります。Uターン者のひとたちは、地元に帰ってくるわけやから、地域の勝手も知っていて馴染みやすいし、Iターン者たちの橋渡し役になっていただける可能性も高いです。

Iターン者のひとたちが、地域に溶け込んで一緒に暮らしている様子を、地元出身者が見てUターンしてくるという循環が起きれば、僕らが積極的にアピールしなくても、自然に地域へとひとが動くようになる

このサイクルをつくり出すのが、田舎暮らしネットの活動のひとつのゴールやと思います。

地域を変えるのに必要な「粘り」と「覚悟」

── 移住を希望する方の相談に乗るうえで、幸司さんが大切にしていることは何ですか?

幸司 移住してくるひとの未来はもちろん、このひとが来ることで地域はどう変わるかとか、地元のひととの相性はどうだろうとか、子どもができたらどうかな等……長期的なスパンで考えるようにしています。

── 移住を希望するひとに求めるものというのは、あるのでしょうか。

幸司 せっかく嶺北を選んでくれるんやき、「この地域が好きだ」と思ってもらえるに越したことはないです。移住って、人生においては大きな決断ですよね。ほかの方々も、みんな人生をかけて来ています。「嶺北で生きていくぞ」というエネルギーがあれば、そのひとにとっても嶺北にとってもプラスになると思います。

── 一方で、地元の方への理解というのは、今後より大切に考えたいとおっしゃっていましたよね。

幸司 そうですね。僕ら(田舎暮らしネット)は、両者のクッションになれるように、イベントやワークショップをする際も、ひとが集まりやすい雰囲気づくりをすごく意識しています。

幸司さんと鳥山さん
幸司さんと鳥山百合子さん

幸司 田舎暮らしネットでいっしょに活動している鳥山さんは、神奈川県から家族で移住してきました。彼女自身の経験もあるから、移住相談に来る方に対して一人ひとり寄り添って話を聞いてくれます。それに、地元の方々への敬意もとても強い。僕より地元愛があるんじゃないかなって思うくらいです。

彼女は確かにIターン移住者で、その事実はどれだけ暮らしても変わりません。でも、鳥山さんは地元のひとにとっては、もう「移住者」というよりも「地元住民」になっていると感じることが本当によくあります。

── 鳥山さんにも取材にご同行いただいてとてもお世話になりましたが、嶺北で暮らす人々に対して、深い愛情を持って接していらっしゃると感じます。

幸司 僕たちが取り組んでいることは、今すぐに成果が見えるものじゃありません。移住してくるひとは暮らしに根を張る覚悟を、地元のひとは移住者を受け入れる覚悟を、それぞれしなくちゃならなくて、僕らは本質的な心構えまで押し付けることはできませんから、じっくりゆっくり、いろいろな方々と向き合う必要があります。

── 幸司さんにとって、未来の嶺北はどんな姿になっていたいか、イメージはありますか?

幸司 僕の中では明確で、とてもシンプル。暮らすひとにとって、嶺北が世界一いいところだって思えるような町にしたい。僕らの子どもたちや、その次の世代にも、町に対する誇りが継がれてゆく町でありたい。べつに、生まれてからずっと嶺北にいてほしいとは思いません。日本全国や世界のいろんなところに散らばってもいい。各地で暮らす彼らが、「僕らのバックボーンは嶺北にある」と、誇りに思っているひとが増えたらいいなと、思っています。

川村幸司さん

お話をうかがったひと

川村 幸司(かわむら こうじ)
1976年生まれ。立命館大学卒。2006年土佐町へUターンし「れいほく田舎暮らしネットワーク」にて移住者の受け入れサポート、田舎に住んでからの「地元の人と移住者をつなぐ」活動をしている。 人口1万2千人程度のれいほく地域への移住者は、2012年からの4年間で324名。子どものいる家族連れが多い。『田舎暮らしの本』(2013年9月号)では、西日本の移住支援団体TOP3に選ばれた。

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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【高知県嶺北・土佐町】子どもたちに一歩踏み出す勇気を与えるアドベンチャーレース!|A-TEAM代表・谷泰久 【高知県嶺北・土佐町】元ブラウンズフィールド・マネージャーが移住。「むかし暮らしの宿 笹のいえ」で実践する「自分経済」とは

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