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「Cooking with Mari」と訪日外国人観光客|日本料理教室でおふくろの味を世界へ

外国人観光客を主な対象として、季節に合わせた日本の家庭料理を教える料理教室「Cooking with Mari」を主催する滑志田真理さん。

2010年からスタートした料理教室は、2013・2014年の2年連続で旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」関東1位のアクティビティに選出されました。2015年8月には英語レシピ集『Japanese recipes from Mari’s Tokyo Kitchen』を発売。

現在、年間1,000人以上が参加するという料理教室の人気の理由は一体? 秘訣は、彼女の家庭料理への愛と飽くなき探究心にあるようです。

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料理教室の様子。この日の料理は南蛮漬け、田楽味噌など

「好きな仕事だけど、執着はしていないの」

── 「Cooking with Mari」の活動は、どのような状況でスタートしたのでしょうか?

滑志田真理(以下、マリ) 前職の医療系の仕事から転職したタイミングで、家庭料理の教室なら平日の夜と週末に、趣味程度で月に1、2回始められると思ったのが最初です。

自分が楽しむためにスタートさせたんですけど、いつの間にか参加してくれる訪日外国人観光客の方がすごく増えて、本業よりも料理教室が忙しくなり、今に至ります。

cooking_with_mari 滑志田さん

── 理想的な流れですね。

マリ 好きなことが仕事になったから、今はすごく楽しいんですけど、そんなに料理教室に執着はしていなくて。料理も好きだし外国人の方も好きだから、このふたつに関わる仕事は続けたいけど、必ずしも料理教室でないと嫌だ、という気持ちはありません。

── 「Cooking with Mari」を始めたときは数件しかなかった外国人向けの料理教室が、この2、3年間で東京だけで100件程度まで、増えましたね。

マリ 東京オリンピックの開催が決まってから訪日外国人観光客の方向けの事業を始める人が増えました。うちにお客さんが流れて来なくなったら、別のことを始めればいいかなあと。切羽詰っているわけではなく、流れに身を任せています。

レストランで食べるよりも、おふくろの味が世界共通でおいしい

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寿司クラス(さば寿司、てまり寿司、いなり寿司など)

── 「Cooking with Mari」という日本の料理教室を始めるきっかけになった原体験は、学生時代にあるそうですね。

マリ もともとは食べることも料理をするのも、そして異文化交流するのも好き。学生のときは海外を旅して現地の人の家に泊まって、お母さんの作ったご飯をいただいたり、作り方を教えてもらったりする機会がすごく多かったんです。

そのときに家庭料理、つまりおふくろの味がレストランで食べる味よりも世界共通でおいしいと感じたことが、すごく印象的でした。

── 一番思い出に残っている旅は何ですか?

マリ それはトルコに約一ヶ月滞在したときのことですね。

トルコの友人の家にお邪魔した際、ものすごい田舎だったんだけれど友人家族の親族100人以上に会いました。トルコではそれくらいの人数が当たり前みたい。私にも兄弟や親戚はいるけれど、自分の親族といっても数十人くらいしか知りませんでしたから、規模の違いに驚きました。

しかも家系図を書いてもらったら、友達のおばあちゃんは8人兄弟で、そのおばあちゃんの兄弟の孫の旦那の家族まで、その場に集まっていることが分かりました。遠い親戚までみんな仲良しで、毎日家々を行き来してお茶したり、ご飯を作ったりして、それが1日3、4回繰り広げられるんです(笑)。

── 親族が集まってご飯を食べることが普通になっているんですね。

マリ 毎日毎日、他愛のないおしゃべりをして、ひたすら食べる。

私は旅の最中、現地の人と同じ暮らしをするのが好きで、そして料理を間近で見るのも好きでから、ひっついて同じ生活をしていたんですよ。ナッツも5種類以上実る木が庭にあって、冬も食事が豊かでね。夏にとった果物でジャムを作って、パスタの麺も全部自分で打って、牛がいるのでチーズも作りました。

もちろんおいしいけど、全部が手作りなんです。しかも家族で食卓を囲んで、時間を共有する。

日本ではおばあちゃんの家に行ったとしても挨拶と他愛ない話をするだけで終わり。でも、自分が将来持つであろう家族も、こういう姿ならいいなと心から思えた。手作りのご飯を改めて意識したのは、トルコへの旅がきっかけです。

そう考えると日本の、たとえば焼鮭とご飯と味噌汁の朝ごはんとか、私たちにとっての当たり前の食は、外国の人が体験したくてもなかなか食べれないものかもなって

「日本の家庭の味は、お寿司だけじゃないよ」と将来伝えられたらいいなとは、ずっと思っていたんです。

料理教室を運営する3つのポイント

cooking_with_mari 滑志田さん

[1]値段、調理する品数、授業開始の時間も一律に

── 話が変わりますが、運営で工夫しているポイントはありますか? 教室を始めた当初と現在で、ブラッシュアップした点などあれば教えてほしいです。

マリ もともとお客さんの要望に合わせてカスタマイズしていたメニューは、品数に応じて値段が決まるので、参加費はすべて相談しながら運営していました。けれど今は値段、調理する品数、授業開始の時間も一律にしたの。参加するみんなが足並み揃えて料理を楽しめるようなルールを少しずつ増やしていくためです。

── すべてお客さんのオーダーメイドでやっていたら大変そうですね。

マリ すごく大変でした。教室をスタートする時間が毎日違うので、ミスも出ます。時間が決まっているほうが、利用するお客さんにとってもわかりやすいの。今はスケジュールをウェブサイトに掲載しているから、予約するのも簡単になりました。

[2]メニューを少なく、シンプルに

── 料理するメニュー、そして品数を少なくし、シンプルにしたんですね。

マリ 日本の家庭料理を知らない外国人の方は多いから、今までサンプルとしてサイトに100品くらい写真を載せていました。でもそしたらみんな味の想像がつかないので、写真で調理するメニューを選んじゃうの。その選び方をすると、見た目で期待していた味と実際食べてみた味とのギャップが生まれてしまう。

その落差でガッカリさせてしまうのも申し訳ないから、料理に使う食材のサンプルを載せて選んでもらっています。旬の魚や野菜で季節感を取り入れられるので、外国の方も喜んでくれます。

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築地の食材の例

[3]マイナスの料理「和食」を説明する時間を設ける

── 日本人だからこそわかる薄味を伝えるために工夫はしていますか?

マリ 和食はマイナスの料理です。素材の味を出すためには、調理時間を短くし、使用する食材を少なくする必要があります。

欧米の料理は逆です。いっぱい足して、じっくり煮込んで、それで味に深みを出す。そもそも調理の前提が違うことを説明しないと、彼らに理解してもらえない。「さっと湯がく」と、口で伝えてもニュアンスが分からないんです。

── 日本のマイナスの料理をするためには、それぞれの素材のことがわかると味を引き出せると聞いたことがあります。

マリ 特に昆布とか乾物は海外には無いので、彼らは味がわからないし、旬もそうね。でも日本料理を理解するためには、どちらも大事な要素。調理を始める前に30分かけて食材から説明するようにしています。

昆布なら毎回4、5種類用意して、実際に匂いをかいだり触ったりしてもらって、昆布にはいろんな種類があり、香りが違うんだと説明しています。ほかには鰹節やお味噌など、日本の調味料の説明が大切です。

日本人は調理の小さな過程にまで、すごく大事な意図を込めています。こうした調理法はすべて、素材の味を大事にするためなんだと分かってもらいたいなと思っています。

── いきなり手を動かすんじゃなくて、説明を充実させるというのは、意外と盲点かもしれません。

マリ それぞれのメニューや、料理のバックグラウンドの説明をするのは大事です。味噌汁ひとつとっても、地方や家庭で味が全然違うでしょう? お味噌もそうだし、使う野菜もまったく同じものはありません。

一つひとつ丁寧に説明してあげると「豆腐が入っていない味噌汁なんて人生ではじめて! どうして?」という好奇心を満たしてあげることもできます。

── 体験型のアクティビティと言っても、言葉の説明も軽んじてはいけないんですね。

マリ 季節や場所に応じて採れる食材を活かし、その味を大事にしたのが和食です。だから逆に言えば、レシピはあるけど、「基本的には自分の国のものを使って調理してみてください」と毎回お客さんに説明しています。

日本の食材を使わなければ和食ではない、ということではありませんから。日本を出ても、自国の食材で和食をもっと楽しんでほしいですね。

ひとりの相手と接する感覚を忘れずに

滑志田真里さん

── 日本人が外国人観光客の方に接するときに、心がけるべきことや、勘違いしやすいことってありますか? 傷つけたり、怒らせたりしてしまわないかなど、心配している方も多いかもしれないなと。

マリ みんな外国人の方のことを全部ひっくるめて「外人」と呼ぶけれど、日本に来ている外国人は欧米の方だけではなくて、東南アジアやアフリカ、南米の方もいます。

外国人でも、目の前にいるのは個人です。相手が何を求めているか一人ひとりに寄り添って話を聞くと、性格や何を求めているかが分かる。個人を見ることで初めて相手にギブできる。ところが日本人は、英語をしゃべる人は全員外国人という記号で一括りにして、個人に寄り添わない印象を受けます。

── 自ら相手との距離をとってしまう結果、きちんと話が聞けていない、と。

マリ 単純に相手の立場になって考えたとき、何が好きで、何をしたいのか、コミュニケーションをとれると嬉しいですよね。

日本人は基本的に「人の助け」になることが、すごく好きだと思います。普段はみんな当たり前のようにやっていることだから、意識さえ変われば、すぐに彼らへの見方も変化すると思います。

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料理教室の様子。この日は餃子、芋餅など

── マリさんが外国の方と接するうえで、大事にしていることはなんですか?

マリ 「自分が楽しむこと」。だって自分が楽しくないと相手も楽しくないし、そういう雰囲気はお客さんにも伝わると思うんです。

もし私が料理教室をビジネスとしか思っていなくて、「生徒を増やして拡大したい」とか「お客さんにもっと来てほしい」という意識でいると、それは参加者にも伝わります。すると途端にビジネスライクな料理教室みたいになってしまいます。

私が料理を教えるときは、いつもホームパーティーを開くような気持ち。もちろん基礎はしっかり参加者に教えるけれど、きっちりルール通りにやるというよりは、自分も含めてみんなでワイワイ楽しみたいんです。

日本の家庭の味よ、世界に届け

滑志田真里さん

── 「Cooking with Mari」をやってきてよかったと思えることを、教えていただけますか?

マリ 国を超えて人と繋がれること。日本人でも一緒ですが、気が合う人って一瞬で仲良くなれるんですよ。お互いなんとなく、この人好きだなと思えるし、そういう感情は外国人に対しても同じように感じます。

言葉が違ってもすごく仲良くなるし、今でも連絡を取り続けている人がたくさんいます。

── 参加者が帰国しても繋がりを維持できるのは、この仕事だからこその喜びなのではないかと思います。

マリ そうね。母国に帰った彼らが、学んだ日本料理を作ってくれることが嬉しいです。

芋餅ってわかります? じゃがいものお餅のようなものがあるのだけど。

── 潰したお芋みたいな……?

マリ そう、マッシュポテトみたいなものをお団子にするの。

── 甘辛のタレをかけて。

マリ そうそう! ドイツ人はクリスマスに必ずお芋のパンケーキみたいなもの食べるんですって。芋餅の調理の仕方を教えたら、ドイツから参加した人が今年からクリスマスに出す料理を芋餅にしたみたいなの(笑)。

── いいですね。

マリ 家族の団らんの場に伝統的な料理を振る舞うべきところで、芋餅を作ってくれる。料理教室のみんなは帰国後も「うまく料理ができたよ」「お母さんが気に入ってくれた」と写真を交えて報告してくれます。

母国に帰っても日本の家庭の味を楽しんでくれている、その様子がわかる連絡をもらえるとすごく嬉しいです。

日本人でも郷土料理を調理することはなかなかありません。そんな状況で、アルゼンチンの方が出汁を取ったとか、イカ飯を作ったと聞くと、教えられてよかったなと。

これからも、「Cooking with Mari」を通して、日本の昔からの調理方法を伝えていけたら嬉しいです。

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南蛮漬け
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あげなすの白味噌田楽づめ
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サバ寿司
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茶巾もち

お話をうかがったひと

滑志田 真理(なめしだ まり)
4年生看護学部卒業。病院勤務経験。アメリカ/中国留学経験あり。中国漢方ライフアドバイザー、薬膳インストラクター、雑穀マイスターの資格あり。主に外国人観光客を対象として、季節に合わせた日本の家庭料理を教える料理教室「Cooking with Mari」 を主催。2015年現在、旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」にて関東1位のアクティビティに選出される。外国人向け英語雑誌として日本で最も長い伝統を持つ雑誌「Tokyo International Journal Magazine」にて、レシピ/エッセイを連載中。その他、雑誌掲載/テレビ紹介など。これまで多くの料理教室で学び、現在は岡村径子氏に師事し金茶流(茶懐石)を学んでいる。著書に『JAPANESE RECIPES from MARI’S TOKYO KITCHEN(英語)』

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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