『灯台もと暮らし』編集部のひとりである私(立花)は、まだ未婚で子どももいません。ですが、いつか妊娠・出産を経たら、子どもをたすきがけして働きたいという思いがあります。そこで、編集部自身のこれからの暮らしを考える企画【ぼくらの学び】のなかで、家計のためだけではなく意思を持って仕事をしているお母さんたちに、どうすれば「子どもをたすきがけしながら働けるのか」、生の声をうかがいます。

この取材の前日、私はもとくら編集長・伊佐とともに、コンテンツメーカー「有限会社ノオト」の編集者である田島里奈さん(愛称:たじーさん)に誘われて、新宿のゴールデン街にいました。

ゴールデン街一美味しいレモンサワーが出るとウワサのお店に連れて行っていただいたのですが、チラッと話題に上がったのが、結婚や戸籍についての話。全員いい具合にほろ酔いだったので、あまりそのまま話には触れず解散しました。

翌日、取材のために五反田のオフィスを訪れる最中、そのことについて詳しく聞いてみようと思ったのです。

妊娠中は怒り心頭だったワケ

── 昨日の今日で恐縮ですが、よろしくお願いします。はじめに、改めてですがたじーさんのお仕事と家族構成について教えてください。

田島里奈(以下、たじー) 2011年12月に有限会社ノオトに入社して、編集者としてのキャリアは今年で5年目くらいです。その前は、地元の山梨県で、高校を卒業した18歳から6年間水商売をしていました。まさかその頃は編集者になるとは思っていませんでしたけれど。今は夫と1歳10ヶ月の娘の3人暮らしです。

── 子どもがほしいというのは、結婚当初から考えていたのでしょうか。

たじー 私より夫の方が「子どもがほしい!」と言っていましたね。結婚する前の、付き合い始めた頃からすでに「僕は結婚したら絶対子どもがほしいんだ」って話していました。

夫はもっとほしいみたいなんですけどね……。妊娠中のつわりが大変すぎて、ちょっと。あの頃の私を知っているから、あんまり言えないみたいです。

── そうだったんですね。

たじー つわりで気持ち悪過ぎて、何も食べられないから1ヶ月で10キロくらい痩せた時期もありました。動けないし、つらすぎて旦那に当たることもありましたし、あの頃はただ一日中転がっているだけでしたね。体がしんどいこともあって、私、妊娠している間、いろいろなことに対して怒っていたんです。

── 怒っていた?

たじー そう。どうしてこんなに大変なんだってイライラしたり、朝の満員電車や出勤途中の喫煙所の煙とか、忙しそうにすごいスピードで歩くひとたちとか……あらゆることに怒り狂っていました(笑)。妊娠中に女性が被る苦しさに怒りが収まらなさすぎて、出産直後に自分のFacebookに書き込みましたもん、もっと女性にインセンティブを与えるべきだ!って。

2015年1月27日2:53、出産しました。
疲れました。
大変すぎます。
つい代理出産の費用を調べてしまいました。受精とか、外国の方に産んでもらって子どもを日本に連れて帰る際の航空券とか、もろもろを込みで2000万円〜らしいです。
いや、代理出産を頼みたいとかじゃないんです。
代理母を務める外国の方には、2000万円のうちいくらくらいが渡るのでしょうか、と。今回妊娠、出産してみての実感値なのですが、もしもわたしが代理母を引き受ける場合、日本円でもらって日本で使うなら、最低でも2500万くらいは貰わないとわりに合わないなと感じました。
それくらい大変だし、ていうか自分の命かかってますからね。日本の一般家庭で「よし! 子どもを作ろう!」ってなったときに、身体の構造上、当たり前のように妊娠と出産を引き受けざるを得ない女性に対して、もっとインセンティブを与えてほしいです。
あ、だから、それが、「レディースデイ」ってこと? もしかして?
レディースデイを設定してくださってるすべての皆さまに感謝します。
何を言ってるのか自分でもよくわからなくなってきましたが、とりあえず出産のご報告まで。(引用:田島里奈さんFacebookより)

── たしかに東京は、妊娠中の女性が暮らしやすいかというと疑問ですね。

たじー 私の場合、切迫早産と言って、早く赤ちゃんが産まれてしまう危険性がありました。だから、いつもおばあちゃんたちよりゆっくり歩いていたんです。でも、朝の出勤ラッシュの時、サラリーマンのおじさんがこれ見よがしにドンッてぶつかってきたことがあって。

何事もないように見えるかもしれないけれど、具合が悪かったり、障がいがあるかもしれないひとって、意外といるんですよね。私も妊娠する前は、歩くのがすごく早かったので、もしかしたら誰かにとってはすごく怖く感じられたかもなと思うんです。妊娠する前の自分は、そういうひとがいるかもしれないということを、全然想像できていなかったんだなって思います。

妊娠中から出産後しばらくは、世の中に対する怒りが爆発していたんですが、今はいろんなひとの立場で、ものを考えられるようになったなと思います。

── 子育てをするために、山梨へ戻ろうということにはならなかったのですか?

たじー ならなかったですね。私、東京大好きだし、田舎の方が子育てに向いているとも一概には言えないと思いますし。それに夫婦ふたりとも都内で仕事をしていたし、辞めるつもりもなかったので、山梨で子育てしようという発想自体、持ちませんでした。

結婚制度、戸籍制度って本当に必要?

── 都会と田舎、それぞれいいところも悪いところもありますよね。ちょっと話題が変わってしまうんですが、今回、たじーさんはどういう思いで仕事上は旧姓を使っているのかなと、うかがってみたくて。

たじー うーん……逆にどうしてそんなに自分の名前を変えるのに抵抗がないのか、聞いてみたいです(笑)。

── 私は夫婦別姓派なので、未婚ですが、結婚したとしても旧姓のままでいたいです。

たじー うんうん。私は、別姓派であろうと同姓派であろうとどの選択も尊重されるのが一番いいと思うんですけれどね。だから、既存の結婚制度とか戸籍制度にも、いろいろ疑問があります。

田島里奈さん

── その話、昨晩もされていましたよね。たとえばどんな疑問ですか? とても気になります。

たじー たとえば、私がもし起業しようとした場合、旧姓の「田島里奈」では登記できない(*1)んですよね。それは、戸籍上存在しない人間だからです。さらに、新姓で登記した場合、私の仕事上の実績は新姓にはありません。その場合融資を受けづらくなったり、戸籍上の存在と「田島里奈」が同一人物であることの証明が大変だったりしないのだろうか、と不安があります。

(*1)記事公開後、平成27年2月27日から旧姓でも法人の登記ができるように変更されていることが分かりました(平成28年12月5日17:00現在)。混乱を招き失礼いたしました。参照:役員の登記の添付書面・役員欄の氏の記録が変わります(平成27年2月27日から)|法務省公式サイト

たじー 去年、夫婦別姓に関する最高裁判所の判決でも、夫婦別姓禁止は合憲(*2)って出てガッカリしたし……どうして合憲かというと、夫婦が同じ名字を名乗ることは社会に定着しており、家族の呼称を一つに定めることは合理性が認められるからだそう(*3)。そりゃあ、日本の法律で定められていれば、そこに住む私たちは適応せざるを得ないですよね。だから定着しているように見えるだけで、実際に私はその法律に精神を傷つけられています。

(*2)参考:2015年12月17日記事:夫婦別姓禁止「合憲」の理由づけは弱いーー弁護士が「最高裁判決」の内容を読み解く|弁護士ドットコム
(*3)参考:平成27年12月16日最高裁判所判決全文

たじー 戸籍制度も、世界的に見て機能しているのは日本と台湾だけみたいですし。日本には無戸籍のひとたちがいるんですけど、ご存知ですか?

── いえ、知らなかったです。

たじー 戸籍がない理由はいろいろあって……天皇家は戸籍がないんですが、これは特例ですね。あとは、子どもが産まれて2週間以内に出生届を出さなきゃいけないけど、それを知らなかったひとや忘れてしまったパターン。それから戸籍制度に反対して、意図的に出生届を出さないひとたちもいます。

でも戸籍登録をしていないと、今の日本の制度だと学校にも行きづらいし保険証もつくれない。大人の場合は働いてお金を工面できるとしても、子どもが無戸籍で頼れる大人が居ない場合、病院へも行けないんです。(*4)

── なるほど……。

田島里奈さん

たじー それから、戸籍を得られない大きな理由として、離婚した女性は6ヶ月間ほかの誰とも結婚できないというルールがありました。離婚後、もし他に付き合っているひとがいたとしても、300日以内に出産すると戸籍上は元旦那との間にできた子どもということになってしまっていたんです。離婚する前から前夫とは別居状態で全然会っていなかったとしても、です。だから女性が「前の旦那との間にできた子として登録されるのが嫌だ」と考えたり、前夫からDVやストーカー被害を受けていたりすると、子どもの無戸籍を選択する場合もあります。(*5)一応、2016年6月に、女性に対しての再婚禁止期間が離婚後300日から100日に短縮された(*6)のですが、長く別居状態にも関わらず相手に離婚を拒否されているなどの状態で、他の人と子どもができた場合などは、この法改正、全然意味ないですよね。

いろんな状況があるにも関わらず、法制度に縛られて、苦しい思いをしている女性がじつは一定数いるんだということを知ると、納得できないと思います。

── 現代の暮らしに対して、制度にいろいろ穴があるんですね。たじーさんが戸籍とか結婚制度に対して違和感を持ったきっかけというのは?

たじー 妊娠中に「なんて暮らしづらいんだ!」って怒っていたことの延長かもしれませんが、自身の子どもが無戸籍になった経験を持つ女性が書いた『無戸籍の日本人』という本を読んだことも、影響しているかなと思います。「結婚制度があることで私たち(女性)が受けるメリットって何なんだろう?」って改めて考えさせられたというか……。

私たちは憲法や法律、制度に守られています。でも同時にしばられてもいて、実際に現代を生きているひとが暮らしやすい選択ができず、不利益を被っていると感じるんです。

(*4)井戸まさえ著『無戸籍の日本人』集英社学芸単行本 Kindle版 522参照
(*5)参考:民法772条(嫡出推定制度)及び無戸籍児を戸籍に記載するための手続等について|法務省公式サイト
(*6)参考:女性の再婚禁止100日に 期間短縮、改正民法成立|毎日新聞

今ある制度の中でどうするかを考えたい

田島里奈さん

── 国のルールが時代に追いついていない感がすごいです。

たじー そうですね。でも私自身は、憲法や法律、制度を変えることに対しては今のところあんまり興味がなくて。戸籍制度や結婚制度に納得はできないから、あれこれ言うけど(笑)、国のルールを変えるのにはものすごく時間と労力がかかりますよね。

── そうですね。

たじー でも私は、変わるまで待てないし、自分が裁判を起こすことも今は考えていません。法制度を変えるために政治活動したり裁判を起こしたりする方たちに感謝をしつつ、私の場合は今のところ現在の制度の中でどうやって子育てや仕事をしていくかを考えるほうに注力したいなって思っています。

だから、娘が生後1ヶ月くらいの頃から会社に連れてきて、会社のひとに子どもの存在を理解してもらって、自分がイベントや打ち合わせをやっている間に、ちょっとめんどうを見てもらったこともあります。当時、周囲には子育て中のひとが全然いなかったから、子どもを実際に見てもらったら何か変わるかもしれないと思って。

── まさに「子どもをたすきがけしながら働く」のイメージです。妊娠・出産前後は、どんな働き方をしていたんですか?

たじー ノオトは裁量労働制なので、24時間のうち好きな時間帯に働けるんです。その制度には、妊娠中も出産後もとても助けられましたね。もちろん産休も取りましたが、当時、小説家の毎日連載を担当していて、絶対担当を外れたくなかったんです。2年がかりでやっと自分の企画が通った、念願の仕事だったから……。

とはいえ毎日連載なので、休めない。ずーっと働いていましたよ(笑)。会社の制度としては育休はもっと取れたんですけれど、自分で選んで働いていました。

── そこまで仕事を優先したい!と思ったのは、どうしてなんですか。

たじー 働かないっていう選択肢はなかったですね、生活のためというのが大きいですが。育休期間は、国から給付金も出るんですけど、休みたくなかったですし。

でも今思うと、私の場合は自分のことで精一杯過ぎて、産休前の引継ぎまで手がまわらなかったから、毎日連載やほかの仕事を全部手放して休んで本当に復帰できるのか、自信がなかったのかもしれません。結婚する前からずっと働いていたので、自分のペースが崩れて燃え尽き症候群みたいになってしまうのが怖かったというのもあります。

会社の制度云々というよりは、自分の責任感とかモチベーションの面で、上手く戻れるだろうか、という気持ちです。ノオトっていう会社が好きで入ったので、会社を辞めようとも思わなかったですしね。

── 仕事を優先できる状況を、自分でつくり出すというのは、大事かもしれません。受身じゃなくて、やりたいことをできるように身の回りを変えていくというか。

たじー そうですね。私は編集者という仕事じゃなかったら、子育てしながら働けなかったかもしれません。

ある日、大事な会議があったのに、娘が熱を出して行けなくなったことがあったんです。だから、その日以降、旦那が休みの木曜日に会議を変えてもらったことがありました。取材とか打ち合わせもなるべく午後に入れるようにして。午前中に仕事の予定があると、保育園に娘を預ける時間があるし、子どもって突然体調を崩したりするので、間に合わなかったり行けなくなったりする可能性があるから……。融通を利かせてもらえるかどうかも、自分で掛け合ってみないと分からないことだと思います。

── 母強し、です。

たじー オフィスに勝手に、子守用のバウンサーっていう椅子を持ち込んだりしましたよ(笑)。その上に生後数ヶ月の子どもを座らせて、揺らしながら会議したりとか。

子育てに限らず、どんな状況になっても、誰も過去には戻れないじゃないですか。子どもが産まれた、でも働きたい、じゃあどうする?って自分で考えて、実現できる方法を切り開いていくしかないんですよね。今この瞬間から最善を尽くさないと、いくらあの時ああすればよかったとかいろいろ後悔したとしても、現状は変わらないから。

お話をうかがったひと

田島 里奈(たじま りな)
山梨県出身。有限会社ノオトで働く編集者。ノオトが運営するコワーキングスペース「CONTENZ」で時折イベントを開催し、#ライター交流会でつぶやいていることもしばしば。車とお酒が好き。Twitter:@tajimarina0115

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