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【高知県嶺北・土佐町】「とんからりんの家」高齢者が最期まで笑って生きる町へ

大人が本気で遊び、暮らす町【高知県嶺北地域】特集、続けます。

高知県嶺北地域・土佐町(以下、土佐町)の中心部・田井地区にある、福祉施設「とんからりんの家」。

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

毎週、月・水・木・金の朝9時半から15時まで開いており、地域で暮らすお年寄りの生きがいづくりを目的に、2006年に地元有志によって運営が始まりました。

スタッフも利用者も、高齢者。「自分たちの幸せは自分たちでつくり出す」という意気込みは、創設から10年経った今も変わりません。今とんからりんの家では、どんなことが起きているのでしょうか。

創設メンバーのひとりだという、社会福祉協議会の山首尚子さんに、創設の経緯と、取り組みに対する想いを聞きました。

健康で充実した暮らしを実現するため、ふれあい、学びあい、支えあいながら仲間づくりの輪を広げ、心豊かに生きる、夢と希望のもてる町づくりを目的とする(「とんからりんの家」運営規約より引用)

(以下、語り:山首尚子)

「とん・とん・とんからりと隣組~♪」

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

突然ですが、「ド・ド・ドリフの大爆笑~♪」という歌の一節を知っていますか? 昭和を代表するお笑い番組「ドリフ大爆笑」のオープニング曲として親しまれたこの曲は、じつは戦時歌謡「隣組」の替え歌でした。福祉施設であるとんからりんの家の名前の由来は、「隣組」の歌詞。近隣に住む者同士、助け合って暮らすという意味を込めて名づけました。

体操、レクリエーション、食事など参加者の方の希望に合わせて活動しています。運営は参加者の利用料、または2升一口のお米を納める「米会員」の寄付によってまかなわれています。

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」 高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

参加資格は、土佐町で暮らしていること。利用料は、送迎、食事、おやつ代込で1日650円。体操のみの参加であれば、無料です。ひとりあたり週に1回まで利用可能ですが、「『とんからりんの家』に行くのが待ち遠しい」とおっしゃってくださる方も多いです。平成27年3月末現在の利用者数は、延べ6,055名にまでのぼりました。

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

日々の運営は、地域で暮らす60代から70代を中心とした、約70名のボランティアスタッフが担当しています。地域の高齢者が後期高齢者を支えるという珍しい取り組みは、徐々に世間の注目を浴び、2009年には介護の現場で顕著な活動をしている団体、個人を表彰する「毎日介護賞」の毎日新聞高知支局長賞を受賞しました。最近では、幸せの国ブータンが、土佐町の予防医学の視察にやってきたりもしましたね。

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

住民同士が支え合う場をつくりたい

山首尚子さん
山首尚子さん

なぜ、こうした仕組みをとんからりんの家で採用しているのかというと、高齢者率が4割を超えている土佐町では、近隣住民同士が支え合うことが重要だからです。都会のように介護サービスをお金で買うという仕組みは、土佐町ではビジネスとして成り立たせるのが難しいんです。

これには大きく2つ理由があると思っています。ひとつは、そもそも人口が減少する中で、中山間地域の田舎に新しく介護サービスを導入するのが容易でないこと。もうひとつは、サービスがあっても、田舎のひとは現金所得が都会に比べて少ない傾向にあるので、住民にとって、対価を払い続けることが難しいという理由が挙げられます。

ではどうするかというと、やはり昔の「結」のように、住民同士が助けあって、足りない部分を補い合っていく仕組みづくりが必要になってきます。

これは特に違和感のあることではなくて、田舎では誰かを手伝ったら、今度はそのひとが自分を手伝いにきてくれる文化が根付いているので、とんからりんの家も、その延長線上の意識でできるのではないか、と思ったことがはじまりです。

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

でも、都会ではデイサービスや介護施設という名前で成り立っているサービスを、田舎でボランティアの形で実現できるはずがないという意見が多く、立ち上げ当初はメンバーみんなで本当に苦労しました。

話し合いやワークショップ、関係各所への説明を重ね、構想開始から立ち上げまで、約1年の歳月をかけて、2006年に「とんからりんの家」の運営を開始しました。2016年からはそれまで参加費用や寄付でまかなっていた送迎を、行政からの補助金(高知県あったかふれあいセンター事業費)で運営できるようになっています。

なぜ山首さんは、福祉の道に?

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

私は土佐町生まれ、土佐町育ちで、町を出た経験は、高知県市内に勤めに出ていた期間だけ。高知県から出て暮らしたことは、ありません。土佐町が好きなんです。だから、昔からこの町のために何かやりたいと思っていたし、お世話になった方々に恩返しをしたいという気持ちをずっと抱いてきました。

保育園、小学校、中学校……子どもの頃から、地域の方には本当にお世話になってきたんです。一度、もう何歳頃の話か忘れてしまいましたが、小さい頃に山道を歩いていて、「明日天気になぁれ」って、履いていた靴をぽーんっと、ヤブに向かって投げてしまったんですね。そして、案の定見失いました。

それを見ていた地域の方が、10人くらい大人を連れて来てくださって、みんなで草刈りして、探してくれて。結果見つかったんですが、そういったことが、土佐町では日常なんです。父も母もそうやって育ってきたから、私も次の世代にその姿を見せたい。

お金を生み出すことが第一の目的ではなくて、集まったお金をもって、社会のためにどう役立てていくのか。そのビジョンを考えていくと、地域に限らず、世の中はもっと魅力的になっていくんじゃないかなと。「とんからりんの家」は、その想いを具現化した一例なのだと思います。

山首さんがこれから目指したいこと

高知県土佐町の福祉施設「とんからりんの家」

「とんからりんの家」の運営を続けていくことはもちろんですが、ほかにも認知症の方や、発達障害の方など、そういった方が地域で働ける仕組みもつくりたいですね。

地域の支え合い活動とお金を結びつけることが、当面の私たちの目標です。でも、10年前のことを思えば、今の「とんからりんの家」の状況は、夢のようですよ。仕組みが成り立っていて、幸せだなと思います。

地域で暮らすひとが、自分たちの力で、より幸せに生きること。そのために、これからも頑張っていきたいと思っています。

(この記事は、高知県土佐町と協働で製作する記事広告コンテンツです)

お話をうかがったひと

山首 尚子(やまくび なおこ)
昭和36年土佐町生まれ。地元嶺北高等学校卒業後高知市内の会社に就職したが、祖母が倒れたことを機に帰郷。農業を手伝いながら、地元の建設会社に就職、愛媛出身の男性と結婚後、2児を育てる。その後社会教育関係の仕事を始め、生涯学習ボランティア活動を学び、平成8年に社会福祉協議会ボランティアコーディネーターに。「とんからりんの家」の立ち上げに関わるなど、福祉の視点での町づくりを進めている。平成22年4月より土佐町社会福祉協議会 事務局長に就任。現在に至る。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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