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【高知県嶺北・土佐町】ここではないどこかへ、とはもう思わない。暮らしを育む知恵を継ぐ|鳥山百合子

大人が本気で遊び、暮らす町【高知県嶺北地域】特集、続けます。

高知県嶺北地域・土佐町(以下、土佐町)で、移住者と地元で暮らす人々をつなぐ活動を行っている「田舎暮らしネットワーク」。このメンバーのひとりとして働く鳥山百合子さんは、神奈川県から家族4人で移住してきました。

家族で描いた夢を実現するために訪れた土佐町で、鳥山さん一家が見つけたのは、家族の未来の土台をつくる、地域で暮らすことそのものの幸福でした。

(以下、語り:鳥山百合子)

夢を叶えるために移住を決意しました

私が土佐町にやって来たのは2011年8月のことです。当時は末っ子をまだ授かる前でしたので、家族4人で神奈川県から移住してきました。結婚したばかりの頃は、夫が大阪で福祉関係の仕事をしていたため、関西で暮らしていました。

関西にいた時期は、私は保育園で働いていました。長女を授かったことをきっかけに、これからの暮らしについて夫婦で話し合うことが増えて。目の前のことに一生懸命になるのも大切だけれど、子どもが生まれたら、未来のことにももっと目を向けられたら、と。

自分たちで食べものをつくる暮らしを目指したい、という話が出るようになったのもその頃だったと思います。

鳥山百合子さん
鳥山百合子さん

夫は「未来に向けた仕事」と呼ばれる林業をやっていきたいと決意し、私たち一家は、まず私の地元である神奈川へと引っ越しました。

そうしているうちに、2011年の3月11日、東日本大震災が起きました。あの日、まだ幼かった長男と長女をかかえて家を飛び出したときの大地の不気味な静けさは、今もまだ鮮明に覚えています。

スーパーで、わずかに残っている食べものをカゴに入れて、行列に並んでいるとき、お店のテレビから流れてくる津波の映像が目に飛び込んできました。

その時、その瞬間、「私、何もできていない」という思いがこみ上げてきて、本当に、胸にぽっかりと穴があいてしまったようでした。

毎日毎日が葛藤でした。何が正しいのか、どうしたらよいのか分からない日々が続きました。夜が来るのが怖かった。自分の心に自問自答し、夫とも話し合いを重ねるうちに、「生きているうちにやりたいことをやって夢を叶えたい」という想いが芽生えたのです。

移住する時に見つめ直した「一番大切にしたいこと」

震災後、私たちはますます「自分たちの暮らしを自分たちの手でつくる」ことを実現したいと思うようになりました。でも、それを実践できそうな、ここでやっていきたいと思える場所になかなか出会えずにいて。

そんな時、夫が土佐町の林業に関する求人を見つけました。土佐町との出会いは、そこから始まったんです。

薪

すぐに、現地に仕事の様子を見に行きました。非常に魅力的な仕事内容の上、役場の方に案内していただいた家の様子や雰囲気が、私たちが思い描いてきた暮らしをかたちにしてみたい、と思えた家でした。ここだ!と思えたのです。

けれども、その仕事は1年のうち、合わせて半年以上は泊まり込みで遠くに出張するかたちで働くため、家族で過ごす時間がなかなか取れなくなるという不安がありました。その会社へ就職すれば林業の仕事には就けるけれど、家族との時間が本当に少なくなってしまう。その間、知り合いもいない土地で私ひとりで子どもたちを育てていけるのか、不安にもなりました。

どうしたらいいかと悩んでいる時、田舎暮らしネットワークの川村幸司くんと、奥さんのヒビノケイコちゃんに出会いました。ふたりに相談したら「大切にしたいことの優先順位をつけてみるのはどうだろう?」とアドバイスをもらって。そして、もう一度私たちがやりたいことや求めているものを、改めて考えてみたんです。

町長④

……そして、やっぱり私たちは家族で暮らす時間を一番大事にしたいということに気づきました。

私たちが生きているうちに叶えたい夢というのは、自分たちで食べ物を育てて暮らすということ。それを家族みんなで実践して、土佐町で暮らしていきたいと思い、夫はもう一度、地道に就職活動をして、まずは福祉の仕事に就くことを決めました。その仕事でも素晴らしい出会いがありました。今はご縁がつながり、町の森林組合で林業の仕事をしています。

誰かの心の片隅にいさせてもらえるという幸せ

土佐町での暮らしは、本当に豊かです。ここでの生活が始まって、おすそ分けの文化って本当にあるんだなあ、と驚きました。都会暮らしが長かった私にとって、必要な物は買って揃えるのが当たり前になってしまっていましたが、土佐町ではみんな必要なものは自分でつくるんです。

それに、つくって食べるだけではなく、つくることそのものがコミュニケーションにもなるんですね。

和田農園⑤

「ねむの花が咲いたら大豆をまくといいよ」とか、干し芋を干す時の風通しが良くなる方法とか、近所の方々にいろんな知恵を教えていただきました。引っ越してきた私たち家族のことを、とても気にかけてくださって、本当にありがたいなあって。精神的にも大きく支えていただきました。

うちの向かいに上田さんというおじいちゃんとおばあちゃんがいらっしゃるんですが、私たちが移住して来た頃からとても気にかけてくださっています。うちの息子は、おばあちゃんがつくった干し柿が大好きで、おばあちゃんも「結(ゆう)君のために」と言って干し柿をつくってくれます。

夜は、上田のおばあちゃんたちの家に灯りがつくと、うちからその様子が見えます。すると結が、「おばあちゃんち、電気ついたね」と私に言います。私がそのことを上田のおばあちゃんに伝えたら「ああ、うちも同じように、鳥山さんちに灯りがついたなあと思っとったよ」と教えてくださって。

土佐町では、お互いの存在が心の片隅にいる暮らしができる。ここに来て初めて、私たちのことを思い浮かべてくれるひとがいるということが、どんなに幸せな気持ちを運んでくれるものかを知った瞬間でした。

ここではないどこかへ、とはもう思わない

田舎暮らしネットワークのひとりとして働くようになったのは、土佐町で暮らし始めてから、一年くらい経った頃でしょうか。幸司くんから「新しく移住者向けのサポートをしようと思っとるき、手伝ってくれんか」と声をかけてもらって。

田舎くらしネットワークの川村幸司さんと。
田舎暮らしネットワークの川村幸司さんと、鳥山さん

私と同じように、よそから移住されてくるひとの力になれればと思って、一緒に仕事をすると決めました。保育士として働いていた私が、まさか移住支援の仕事をすることになるとは思ってもみなかったですけれどね。

移住支援の仕事を始めてから、土佐町での暮らしを紹介する手づくりの冊子をつくったんです。移住を希望されている方や、子育てをしている同世代向けに、土佐町がどんな暮らしが営まれている場所なのか、季節の移り変わりや行事はどんなものがあるのか、子どもの育つ環境のことなどを伝えたいと思ったのです。完成後は意外にも地元の方々や同じ移住支援をしている方から大きな反響をいただいて。

ますます、この町の素晴らしさを伝えたいと思うようになりました。

鳥山百合子さん

私にとって土佐町は、いまや大切なひとたちが暮らす町です。ふとした時に、大切なひとの顔がたくさん浮かんで、感謝の気持ちを伝えたくなってきます。家族以外で、大切なひとがいっぱいいるところで暮らせるなんて、とても幸せだと思います

だからこそ、思ったことは毎回きちんと相手に伝えるようにしているんです。感謝の気持ちも「会えてよかった」という、うれしい気持ちも。不思議ですね、若い頃は同じ場所でずっと暮らし続けることが、あまり得意ではなかったのですが、土佐町から動こうとは、もう思わないんです。

いま行っている田舎暮らしネットワークの仕事も、ますますやりがいのあるものになってきました。最初は食べるものをつくるという夢を実現するために移住したけれど、今ではまた新しい夢ができつつあります。

ここで培われた暮らしの知恵というのは、とてもおもしろいし、残すべき価値があるもの。四季があるということ、その四季に沿った季節の仕事、この地に暮らしている方々の知恵。それらは素晴らしい文化です。田舎暮らしネットワークの活動を通じて、そうした暮らしを育む知恵にも、光を当てていきたい。そして、私自身もその知恵を身に付け、次の世代へ引き継いでいきたいと思っています。

鳥山百合子さん

(この記事は、高知県土佐町と協働で製作する記事広告コンテンツです)

お話をうかがったひと

鳥山 百合子(とりやま ゆりこ)
2011年に神奈川県から土佐町へ移り住む。幼稚園や保育所などで子どもと向き合う仕事をしてきた。3人の子どもの母。NPOれいほく田舎暮らしネットワークで働きながら、家族で食べるお米と野菜をつくる。昨秋、家族5人で1年間食べていける量のお米が初めて収穫できてとてもうれしかった(野菜はまだまだ修行が必要)。山の暮らしの知恵を学び、それを自分自身の身につけながら、次の世代へも引き継いでいけるように、「かくこと」「記録すること」でも引き継いでいけるよう取り組み中。

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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