語るを聞く

【島根県海士町】移住希望の若者よ「プレイヤーを目指せ。もうプランは十分だ」

青山さんは海士町の観光協会の職員であると同時に、ご自身が海士町にIターンした一人の挑戦者でもあります。「これから地域に入って生きていきたいと願う若者に向けて、何かアドバイスをいただけませんか」と尋ねると、少し考えてから「今地域にはプレイヤーが足りないと思っている」と、強く静かに語り始めてくれました。
地域おこし協力隊、集落支援、Iターン、旅……どんな形であれ、新しい土地での暮らしを志す人の悩みは共通かもしれません。これから行動を起こそうと思っている人だけでなく、すでに行動に移している人にも読んでいただきたい、非常に参考になるお話です。

僕が海士町に辿り着くまで

まず、僕自身の話をさせてください。僕は9年前に海士町に引っ越し、Iターン者としての生活を始めた者です。大学生の頃は発展途上国の支援に興味があったため、いつかは僕も海外に行って活動するんだと思いながら勉学に励む毎日。

そんな時、大学の先輩から海士町の存在を教えてもらい、気軽な旅行のつもりで島を訪れたんです。その際、人生の転機というか、衝撃を受ける体験をしたのがIターンを考え始めた直接のきっかけです。

青山敦士さん

何かと言うと、静かな田舎で、何もないけどいい島だよと聞いてやってきたのに、初日の夜にいきなり役場の課長と宿のおばさんが涙を流しながら島の未来について論争するのを目の当たりにしたんです(笑)。

「海士町の未来のためにこの政策が必要なんだ!」
「私はそんなことを望んでいるんじゃない……!」

大の大人が熱っぽく地域の未来を語る姿にすっかり魅了され、仲間になりたいと思った僕は、数カ月後には海士町に移住することを決めていました。

地域に対して、僕が生み出している価値は何だ?

「海士町で働きたい」。そう思っていくつかの組織に想いをぶつけてみたところ、運よく観光協会に拾っていただけることになりました。青山さんという未来の上司のアイディアのスケール、実行力、勢いに圧倒された記憶があります。

その頃の僕の年齢は22歳。海士町の未来のために何か自分も動きたい。そう思って、「こんな案はどうか」「もっとこうしたらいいんじゃないか」とプランを練ってはパワーポイントで資料を作り、現場に行って提案して……どうにか自分の描いた青写真が海士町の役に立たないものかと、毎日島の中を動き回っていました。

島根県海士町

そんなことを一年くらい続けた頃でしょうか。僕を採用してくれた課長に「お前は一体、今年いくら給料をもらったんだ」と聞かれたんです。

僕 : 200万円くらいでしょうか。
課長 : その200万円を仕事で稼いだのか?
僕 : いや、稼いでないです。
課長 : じゃあお前の生み出している価値はなんだ?
僕 : パワーポイントの資料200枚くらいでしょうか……。

もうお分かりですよね(笑)。それ以上は何も言われませんでしたが、社会人としての甘さを自覚するのに十分すぎる会話でした。

今、地域にはプランよりもプレイヤーが足りない

振り返ってみると、自分がその一年間でやっていたことはおそろしいなと思います。

今、世の中には22歳の頃の僕がやっていたようなプランが溢れていると思うんです。いいアイディアはたくさんあります。見栄えのいい企画書を作って、提案して。コンサルタントやデザイナーといった職が持つ「描く部分」に憧れる若者が増えてきて、アイディアを作るとか場を作るとか、計画を練ることが仕事になってしまっている。

青山敦士さん

素晴らしいアイディア、未来への可能性。もちろん、それらはどんどん生み出されていくべきです。でも、今地域にはプランよりもプレイヤーが足りない。必要なのはプランではなく、発言した内容に責任をもって、描いたプランを実行していく人、当事者です。

「描いた未来へ導く役を、自分が務めます」と言えますか? 「町づくりを頑張っていきましょう」と口にしても、みんなどこか他人事になってはいないでしょうか。胸を張って言えないのなら、一度立ち止まって考え直してみた方がいい。

これは、海士町観光協会の挑戦でもある

とは言え、地域を目指す人のうち、プレイヤーになりたくない人なんて本当はいないはずなんです。それは僕も理解しています。きっとみんなプレイヤーになりたくて行動を起こしているはずなのに、自分らしさを発揮できず、役割を担えずに前に進めなくなってしまう人がいるんだと思いますし、僕はそれがもどかしいんです。だから悩んでいる人や行き詰まっている人は、もう一度よく考えてみてほしい。これは期待でもあり、自戒でもあります。

青山敦士さん

言ってしまえば、これは僕たち地域住民の挑戦でもあるんです。「仲間になりたい、海士町で自分のステージを見つけたい!」とそこまで思って実際の行動に移してもらうためには、島の人間が活き活きとしていて、地域がその人にとっての魅力的なものでなければならない

訪れたいと思わせる地域にする。それが僕が取り組んでいる観光という仕事のひとつだとも思っています。

お話をうかがった人

青山 敦士(あおやま あつし)
1983年、北海道北広島市生まれ。札幌で野球一筋で育つ。大学進学で上京。途上国支援の活動を共にしていた先輩から海士町のことを聞き、新卒で海士町へ移住。海士町観光協会の職員として「海士の島旅」のブランディングに取り組み、地方の在り方を問う「島会議」の企画・運営を担当。2013年には観光協会の子会社となる㈱島ファクトリーを立ち上げ、旅行業・島のリネンサプライ業を運営。妻と子供2人。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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