手づくりのチョコレートで「Bean to Bar」の文化を広める「ダンデライオン・チョコレート・ジャパン株式会社(以下、ダンデライオン・チョコレート)」。
2016年2月11日に、サンフランシスコ発祥の同社は蔵前に日本第一号店を出店。カフェを併設したチョコレート工房(ファクトリー)を開きました。
代表取締役CEOの堀淵清治(ほりぶち せいじ)さんが志すのは、「消費されるブランドではなく、ずっと愛されるブランドになること」だと言います。
「Bean to Bar」とダンデライオン・チョコレートの存在価値
ところで、「Bean to Bar」という言葉の意味をご存知ですか?
シングルオリジンと呼ばれる単一種のカカオ豆を使用し、生産地の明快な豆を選んでいることが特徴で、豆の選別、焙煎、磨砕、調合、成形といった過程のすべてを手作業でおこなう製法でつくられたチョコレートのジャンルのことを指し、「クラフトチョコレート」とも呼ばれます。
ダンデライオン・チョコレートでは、カカオ豆とサトウキビからつくるケインシュガーだけを素材とし、つくられているのです。そのためダンデライオン・チョコレートは、カカオ豆の買い付けのために農園へ必ず通っています。
「うちの会社が存在する価値は、チョコレートづくりに関わるひとに対してエコシステムをつくろうとすることにある」と、堀淵さんは話します。
「クラフトムーブメントというのがありますが、これは優れた手づくりの技術を応援する世の中の動きのことを指します。たとえばビールの世界ではクラフト製品が産業になりましたね。大量生産・大量消費してきた社会が原点回帰するように、小ロットでも質の高いモノづくりをする流れは、世界的に興っています」
サンフランシスコのスタートアップが生んだ新しいチョコレート
そんな世界の潮流を先読みし、ダンデライオン・チョコレートを創業したのが、スタンフォード大学でプログラミングを学んだトッド・マソニスとキャメロン・リングです。
「彼らはスタンフォード大学在学中に起業して、共同運営していたWEB事業を8年で売却した。その後、彼らはまた、好きなことをやり始めました。もともとはコンピューターのプログラマーで特に食に精通したわけではない男たちが、革新的なチョコレートをつくってみようとしたんですよ」
一般的なチョコレートは、カカオバターや乳製品が使用されていることが多いです。しかしダンデライオン・チョコレートは違います。味の足し算でチョコレートをおいしくするのではなく、カカオの豆そのものの味を追求しているのです。
「既存のものと逆をいく視点が革新的だと思う。彼らはサンフランシスコでベンチャー企業を立ち上げて、カカオ豆を仕入れるところから一枚のチョコレートをつくる方法を、自分たちなりに試行錯誤しながらつくりあげていきました」
サンフランシスコには、ITベンチャー企業がたくさんあり、洗練された市民社会が成り立つ成熟した町。起業家の新たなチャレンジを受け入れてくれる土壌がある地域の風土が、ダンデライオン・チョコレートのような新興企業を生み、単においしいチョコレートが受け入れられたのではなく、『Bean to Bar』という食文化が根付いたのではないでしょうか。
僕らがささやかに誇るべき、日本オリジナル
サンフランシスコ界隈で約40年間暮らしてきた堀淵さん。堀淵さんが話す「Bean to Bar =クラフト」チョコレートとは、小ロットで質の高い手づくりのものだけを指しているわけではないそうです。
「コーヒー業界でサードウェーブコーヒーという文化があるのと同じように、チョコレートもムーブメントをカルチャー(文化)として定着させるおもしろさがあります。僕はダンデライオン・チョコレートを初めて訪れたときに、『Bean to Bar』に同じ可能性を感じたんですよね。社会に差別、格差といった閉塞感がある状況で、小さなコミュニティで手づくりでやる運動が周囲のひとたちを巻き込み、広がって、一つの大きなコミュニティができる。世界が再構築していく流れの中に、クラフトはあると思うんです」
このように語る堀淵さんが仕掛けたのが、4月11日から提供を開始した「KURAMAE HOT CHOCOLATE」。店舗から北へ歩いてすぐ、橙色のレンガと青紫の暖簾が門構えの「NAKAMURA TEA LIFE STORE」が提供しているほうじ茶を使用し、開発しました。
「カフェを併設したファクトリーの建設には一棟貸しの物件が必要条件でした。そのため、東京の東側に物件を探していたところ、蔵前で理想的な建物と出会うことができました。すぐ近くに店を構える西形(NAKAMURA TEA LIFE STORE)くん、かっこいいでしょう? このお店が同じ通りにあったのも、ダンデライオン・チョコレートの日本初出店先を、蔵前のこの物件に決めた一つの要素かな。店舗の目の前の精華通りは、小さな個人経営のレストランやお店が5軒くらい集まっている。どれも本当においしくて、心がこもったものばかり。情熱と技術があり、自分の主張がある職人、シェフ、パン屋……アーティストがいる。だから蔵前がいいなと思いました」
「Bean to Bar」を文化として根付かせるためには、「地域コミュニティに馴染み、受け入れてもらうことが重要」だと語る堀淵さん。「NAKAMURA TEA LIFE STORE」のほうじ茶を使って商品を開発した理由の一つは、できるだけ近くにいるひとたちと事を興したいという想いがあるからだそうです。
「僕らがささやかに誇るべき、日本オリジナルの商品が、蔵前のホットチョコレートです。ほうじ茶とチョコレートを合わせた『KURAMAE HOT CHOCOLATE』は、想像を超えるおいしさです。これは大ヒットすると思う。ほうじ茶と風味とチョコレートの甘みが、圧倒的に合うんですよ」
なお、サンフランシスコにあるダンデライオン・チョコレートの本店では、ミッションストリート(ミッション地区の街路)にちなんだオリジナルホットチョコレートを開発、提供しています。カイエンペッパーなどのスパイスが入っているそうです。風土に合わせてオリジナリティを生んでいるのがわかります。
ずっと愛されるブランドに
このような新商品の製造開発は、工房(ファクトリー)があるからできること。チョコレートの味を楽しめるカフェを併設したり、つくる過程を知るワークショップや工房見学(ファクトリーツアー)を開催したりする理由についてうかがいました。
「根源的なモチベーションは『一からつくる本来のチョコレートを伝えたい』ということ。それが僕らの目的であり役割だと思っている。僕らの考え方ややり方に共感してくれて、同じ想いをもってくれる仲間を増やすためにワークショップや工房見学を開催しているんです」
さらに、アメリカのダンデライオン・チョコレートのウェブサイトには、「PROCESS(チョコレートをつくるまでの過程)」や「OUR BEANS & SUGAR(使用しているカカオ豆と砂糖)」など、製法から使用機械、生産地から原材料の1キロ単位の買い付け価格まですべて包み隠さずに公開し、透明性を守っています。
「Bean to Bar」が注目されつつある昨今の状況で、「ダンデライオン・チョコレート ファクトリー&ストア蔵前」の立ち位置を、堀淵さんはどのように考えているのでしょうか。
「ここはブランドのコンセプトやモノづくりの背景にある物語を、きちんと伝える基地です。一つひとつの商品づくり、ワークショップ、工房見学を、手づくりで真面目にやるんです。そうすれば自然とチョコレートができるまでに関わったつくり手の想いが、ブランドの色としてにじみ出ると思う。
ダンデライオン・チョコレートは日本に進出したばかりですから、これからも『Bean to Bar』を愛してくれる仲間を増やしていきます。そして、ずっと愛されるブランドを育てたい。それが僕の、今のテーマです」
(写真一部提供:ダンデライオン・チョコレート・ジャパン株式会社)
お話をうかがったひと
堀淵 清治(ほりぶち せいじ)
ダンデライオン・チョコレート・ジャパン株式会社代表取締役CEO。1952年徳島県生まれ。早稲田大学卒業後75年に渡米。放浪期を経て、86年小学館出資のもと、アメリカで出版社ビズコミュニケーションズを設立。アメリカに日本のマンガ文化を定着させた。合併を経て、2004年にビズメディア共同会長に就任。05年には、アメリカで日本映画の配給を行うビズピクチャーズを設立。09年サンフランシスコに日本映画と日本のポップカルチャーを発信する複合施設NEW PEOPLEをオープンさせた。また、サンフランシスコ発のサードウエーブコーヒー文化の紹介など、日本とアメリカ・サンフランシスコの文化的な懸け橋となっている。
このお店のこと
ダンデライオン・チョコレート [ファクトリー&カフェ蔵前]
住所:東京都台東区蔵前4-14-6
営業時間:10:00~20:00(L.O.19:30)
定休日:不定休
電話:03-5833-7270
公式サイトはこちら
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