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【蔵前】コーヒースタンドに音楽事業部?ソルズコーヒー「町の音を変えたい」理由とは

モノづくりの町【蔵前】特集、始めます。

毎日飲んでも胃が痛くならない、身体に優しいコーヒーを提供する「ソルズコーヒー(SOL’S COFFEE)」は、台東区の蔵前で2店舗を運営しています。2015年の9月には「ソルズコーヒーロースタリー(SOL’S COFFEE ROASTERY)」をオープンし、焙煎拠点を茨城から東京に移しました。

前回取材をしてから5ヶ月の間に「大きな変化があった」というオーナーの荒井利枝子さん。コーヒースタンドにも関わらず、わざわざ手間暇をかけて豆を焙煎している理由と、そして新しく設立された、謎多きソルズ音楽事業部についてお話をうかがいました。

東京にロースタリーがオープン。好みに合わせたコーヒーを提供

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── 今年の4月に取材をさせていただいたときお話していたロースタリーが、無事オープンしましたね!

荒井利枝子(以下、荒井) ついに茨城から焙煎機を持ってきました。もともと茨城の筑西市で焙煎をして、東京で注文を受けた分の豆を発注して届けてもらい、そのあとお客様に送っていました。とても手間がかかっていたので、いずれは東京に焙煎機を持ってきたいと思っていたんです。

焙煎機が近くにあれば、お店を運営するのにミニマムな構造になる。もともと自分たちでコーヒー豆から製造管理をするのを目指して始まったのが、浅草橋の店舗計画でした。

── 焙煎機が東京にあるだけで、サービスの幅が広がりそうですね。

荒井 「コーヒー豆も買いたい」「焼きたてのサンドイッチが食べたい」……以前は、そんな声に申し訳なくなるくらい応えられなくて。でも、コーヒー豆を焙煎するところから扱えるようになると、移動・輸送時間が削減されて、お客様からいただけるいろんなニーズに応えられるようになるんですよ。

── そもそも、コーヒーを販売するショップが自分たちで豆から焙煎をするところは少ないですよね。

荒井 焙煎からコーヒーを淹れるところまで一貫してやるお店って、実際は少ないです。焙煎を主要事業にしているロースターは、ロースター(焙煎)の過程だけをやるところも多いくらい。でも私たちは焙煎からお客様に提供するところまでを、自分たちでやりたいんです。ですからバリスタでも、コーヒー豆の焙煎に興味のある人を採用するようにしています。

── バリスタでも、コーヒー豆を選定するハンドピックなど、豆を扱う作業からコーヒーづくりに関わるということですか?

荒井 スタッフ全員が、そうですね。カビた豆や欠点豆を取り除くところから素材に触れて、豆を焼き、保管してお客様に提供すると、もっと自信を持って、お客様にコーヒーを淹れる過程を見せ、その説明をすることができます。

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── スタッフ全員が素材から手間暇をかけて、知識を高められる仕組みはいいですね。荒井さんがこの環境をつくりたいと思う理由は何ですか?

荒井 コーヒー豆を熟知しているからこそ、淹れることができるエスプレッソやドリップがあると思うんです。つまり、コーヒー豆ができた(焙煎された)状態か、コーヒー豆がまだ素材の状態かで、知ることができる情報量に大きな差があると思うんです。後者のほうが、より専門性が高くなると思います。

── 専門性が高くなると、どうなるのでしょうか。

荒井 自分たちの手で新しいコーヒー豆を焙煎できる。お客様の好みに合わせて焙煎具合を調整したり、単発でコーヒー豆を取り寄せて、それを焼いて新しい期間限定の商品が開発したり……そういう柔軟な動きは今までできませんでしたが、これまで培ったスタンダードなコーヒーに加えて、これからはお客様のニーズに合わせたコーヒーを提供できます

そうしたことは、蔵前の店舗にコーヒー豆の焙煎機がないと叶わないことたったんです。

東京では焙煎機が使えない?

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── ところが現在、焙煎機を使用できない……という難題に直面しているという話をうかがっています。

荒井 あぁ、そうなんです、いま悩んでいるところで……。

10キロ釜の焙煎機は、コーヒー豆の皮が外部に飛散してしまうんです。それが洗濯物についたりビルにこびりついたりして、周りの環境汚染に繋がってしまう。東京で焙煎するためには、焙煎で飛散したコーヒー豆の種皮をさらに燃やして、完全に塵にできるアフターバーナーという装置を付けなきゃいけないことがわかりました。ただ、その装置が大体200万ぐらいかかるんです。

── 東京では他のお店もみんなアフターバーナーを設置しているんですか?

荒井 基本的に東京でよく使われるのは、あまり大きくない焙煎機で、5キロ窯の場合、専用のフィルターがあればアフターバーナーは必要ありません。じつを言うと、この10キロ窯の焙煎機を使いこなすには、毎日6、7キロのコーヒー豆を焼かなきゃいけないんです。それって、1杯で10グラムのコーヒー豆を使うのに対して、6、7キロを焙煎するってことです。

もし毎日焙煎して商品がコーヒーだけなら、日に300〜400杯提供する必要がある。これを実現するのは大変だけど、身体に優しいコーヒーをもっと広く知ってもらいたいという覚悟のもと、私たちは茨城から東京に、この焙煎機を持ってきているんです。

sols_coffee-荒井利枝子

── それにしてもお店のオープン後に200万は、予算的にかなり厳しいですよね。

荒井 正直、浅草橋店のオープンでもう予算オーバーしてしまって。どうしよう……とMピウの村上さんに相談したら、クラウドファンディングサイトの「kibidango」さんをご紹介いただいて、できることはなんでもやろうと挑戦することにしました。

── そうだったんですね。達成できること、応援しています。

「人と人はもっと繋がれる」。町の音を変えたい理由

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写真左から、左右田靖大さん、荒井利枝子さん

── 今回荒井さんにお聞きしたいテーマがもうひとつあります。ソルズコーヒーに音楽事業部ができたとうかがっていますが、これも大きな変化ですよね。

荒井 じつは昔、音楽をかじっていて、プロを目指していた時期があるんです。だからなんとなく音楽に関係することも何かできたらと思っていて。たまたま知り合いになった左右田が、とてもセンスのいい作曲やバンド活動をしていたので、声をかけました。あ、音楽事業部のことは、ソルズサウンドって呼んでくださいね。

── ソルズサウンドでは、どんなことをしたいですか?

左右田靖大(以下、左右田) 目標は町の音を変えることです。信号や踏切の音とか、どうして今のあの音なのか疑問です。もっといい音をつくって、変えていきたいですね。

左右田やすひろさん

左右田 たとえば、お客さんがこういうコーヒースタンドに入ると、まずお店の雰囲気を感じて、商品を見る。コーヒーの香りを嗅いで、店に流れるBGMを感じながら、味を確かめる。この時間は、すごく五感が使われています。でも普段町にいるとき、聴覚は意外とないがしろにされていると思いませんか?

── そうかもしれませんね。左右田さんは、どうしてそんなふうに考えるようになったのか興味があります。

左右田 ぼくは茨城出身です。田舎から東京に来てまず感じたことは、耳を塞いでいる人がすごく多いこと。耳が塞がってしまうと、人は思考もどんどん閉じていきます。それは、もったいない。じゃあ、東京の人はどうして耳を塞ぐのだろうと考えると、外で流れている音が心地よくないからだと思いました。

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左右田 町の音がよくなれば、人の視線は上がり、いろんな物事を見渡せるようになって、世界はもっと開けます。ぼくがソルズサウンドで描いているのは、音というアプローチから背中を一押しするような感覚です。人と人は、もっと繋がれるはず。

そんなことを考えているときに、ソルズコーヒーがクラウドファンディングをすることになり、そのムービー作成にあたって楽曲担当することになりました。PR動画などの映像作品にも、音楽のエッセンスを加えるだけで、作品は引き立ちます。

ソルズサウンドは事業として立ち上がったばかりです。まずはソルズコーヒーの胸を借りて、なんでもやるスタンスでがんばります。

町おもしろくする働きかけは「音」から

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── ソルズサウンド、すごくおもしろいですね。どんなことを仕掛けていきたいですか?

荒井 ソルズサウンドを生かして音に関連づけたアプローチをしたいと考えています。たとえば楽曲をつくって、ソルズコーヒー店内だけではなく動画とコラボしたり地域と人を結びつけるようなイベントを企画したりして、町に進出していきたいですね。コーヒーも、音楽もひとつの手段ですから。

── やっぱり荒井さんは、蔵前に思い入れが強いんですね。同じ地域に3店舗も店を構えるところは、なかなかないと思います。

荒井 蔵前でお世話になっている方々が「ソルズ蔵前を育てる運動」みたいなことを、声をあげてやってくれて。ソルズコーヒーが蔵前をおもしろくする、いいはたらきかけをするのではと、期待してくれていると思うんです。その期待に応えたいし、私たちも応援してくれている方々にパワーをいただいて、もうひとがんばりしたいですね。

── 新店舗がオープンして、ますます地域内でのソルズコーヒーの存在感が増していくと思います。蔵前でどんな「いいはたらきかけ」ができるのか、楽しみですね。

荒井 ソルズに寄ると何かおもしろいことがあるよね、とか、ソルズががんばっているから自分たちも何かやってみようとか思ってもらえたらなって。今まで自分が持っていなかったアイデアに出会える、セレンディピティな場所であり、素敵な偶然を生み出せる人がいる企業になりたいと思っています。

sols_coffee-荒井利枝子

お話をうかがったひと

荒井 利枝子(あらい りえこ)
2009年4月にSOLISM株式会社を設立。同級生の親が研究していた自家焙煎珈琲を引き継ぎ販売することを決心し、SOL’S COFFEEとして通信販売と移動販売を開始。その後、江戸川区にて実店舗、蔵前にてコーヒースタンドSOL’S COFFEEを開店。2013年11月からオフィス内コーヒーショップ業態運営をはじめ、2014年1月には珈琲豆卸業開始。デザイン雑貨KONCENT蔵前本店内にてコーヒースタンドを開店。2015年9月に東京ロースター店をオープン。

左右田 靖大(そうだ やすひろ)
15歳からギターを手にし、バンド活動を積極的に行うようになる。独学で作曲編曲の知識や技術を磨きつつ、数々のセッションワークへの参加、スタジオでのレコーディングエンジニアリング経験を経て、2015年8月にソルズ音楽事業部「SOL’S SOUNDS」を始動。店内BGMプロデュースをはじめ、動画作品への楽曲提供等、「音と空間と人々を繋ぐ」をテーマに創作活動に励んでいる。現在、映像と即興演奏を交えたインスタレーションアートプロジェクトを進行中。

このお店のこと

ソルズコーヒーロースタリー(SOL’S COFFEE ROASTERY)
住所:東京都台東区浅草橋3-25-7 NIビル1F
営業時間:8:00~20:00
定休日:水曜日
電話:03-5829-8824
公式サイトはこちら。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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