営みを知る

【蔵前】10年愛される革製品を、m+[エムピウ]で

モノづくりの町【蔵前】特集、始めます。

私たちが毎日呼吸し、汗をかき、ご飯を食べて、寝るのと同じように、一枚の革も生きています。その一枚を職人の手によって活かし、丸める、畳む、包みこむものとして作られるのは、m+[エムピウ]の革製品です。

「日常のシンプルな動作によりそう機能性」を追求した、植物タンニンでなめした天然皮革が持ち味である同製品を作る、台東区の蔵前に店を構えるエムピウの店主・村上雄一郎(以下、村上)さんに、職人としてのこだわりやこれから目指すことについてうかがいました。

革新的な財布を生みだすデザインの発想法とは

エムピウ店主・村上雄一郎さん
エムピウ店主・村上雄一郎さん

村上さんが製作している数ある革製品の中でも代表作は、革財布「millefoglie」(ミッレフォッリエ)。「1回使うと、ハマる人はハマってしまう他にはない設計」と村上さん。

「札を差し込む」「小銭とカードを一度に見れる」などの使いやすさを重視した構造となっており、非常にコンパクトな財布です。

millefoglie ‐ Ⅱ P25
millefoglie ‐ Ⅱ P25

「財布を作ろうという発想ではなく、小銭と紙幣とカードを入れて持ち歩くものを作りたいと思って完成させました。デザインを考えているうちに、いつもの二つ折り型に行きつくんですけど、一枚の革で巻くような構造にしたいと思って。そうすると横から紙幣が落ちてしまうから、それを留める最小限の何かが必要でした。

ぐるぐると財布を巻いたらひとまとめになります。カードも重ねて入るので、これらの構造はとてもコンパクトになり、便利で使いやすいんだと思います。」

「とんち」を効かせるのは、道具として使いたいから

centoⅡ [CARD CASE]
centoⅡ [CARD CASE]
村上さんが手がける製品のデザインで、意識して気をつけていることは「とんち」を効かせること。どういうことかというと、構造的にひねりを生みだして、今までにない機能を一生懸命編み出すことだといいます。

「例えばこの名刺入れは、普段は薄く、小さくなります。でも名刺の数が増えていくと、収納されていた革が広がって、100枚程度が収納できるようになるわけです。この構造と同じデザインの長財布もありますよ。」

centoⅡ [CARD CASE]
centoⅡ [CARD CASE]
村上さんがこのような独自の構造の革製品を作る理由は、元建築家として、そして20代の頃にイタリアで職人修業をしていた暮らしが影響しています。さらに「道具として製品をデザインしたい」という考えを持っています。

「『のこぎり』はとんちを効かせている好例ですね。木を切るなら、シャープで鋭利なものの方が切れ味が鋭い印象です。ところがギザギザした刃先を考えだした。こそげ落とすちゅうか、そういう自由な発想を引きだしていきたいですね。」

一般的なデザイナーは、既に主流となっている構造をもとにデザインを考える傾向があります。「二つ折りにするか長財布の型にするか」「小銭入れの位置はどこにするか」「カードの入れ方はどうするか」を選び、当てはめていくことで、財布などの革小物を作っています。

村上さんの場合はそうではなく、「こういう構造で、こんな収納方法があってもいいのではないか」と、新しい機能を提案しています。だからこそ誰でもフィットするわけではなく、合う人には合う。結果的に、現在ではリピーターも多いそうです。

失敗もあるけど、次の10年の「一等賞」を作りたい

2001年にエムピウのブランドが立ち上がってから、早14年。今でも試行錯誤を繰り返せば、失敗もします。経営者として、在庫管理能力が求められることについて、「モノづくりの仕事は、博打みたいなもの」と村上さん。

これくらいの在庫を積んでおけば、いつまでに売り切れるだろうというのを自分で判断しなければなりません。少なすぎて品切れてもダメですし、多すぎると品物が残ってしまいます。これまでの失敗から得た反省を活かし、村上さんは「くたびれる」ことに注意しています。

エムピウ店主・村上雄一郎さん

「昔はOEMなどの他ブランドのお手伝いをよくやっていました。春夏秋冬の展示会のシーズンごとにアイデアを出してお客さんを呼ばないといけないから、お金になるけれど単発的で、くたびれてしまうんです。エムピウの製品はアイデアにかけるスパンが長いので、考案した製品はずっと売りたいわけです。だってこの財布は、10年ずっと、うちの一等賞ですから。」

革職人としてこれからの目指していることは、「10年を愛される革製品を新しく作ること」と村上さんは続けます。

「エムピウを創業した当時は、メンズもレディースも、布や革も問わず全種類をやってみたかったんですが、A3が入るバッグがいいかなとか機能性の高いデザインをあれこれ考えているうちに、この歳になりました。職人でいられる人生にも終わりが必ず来るから、あちらこちらに手を出してそれなりのものを作るのではなくて、何かひとつ、本当にいい一等賞と言えるものを作りたい。」

誰だって、作るものはあります。食べ物の材料を生産する人も、それのレシピを考えて調理する人も、長く食べ続けてもらえることが、単純に嬉しいはずです。村上さんの職人としての生き方に、同じ作り手として、共感できる部分も多いのはではないでしょうか。

 m+[エムピウ]の外観

お話をうかがった人

村上雄一郎
革製品ブランド”m+(エムピウ)”オーナー。建築設計事務所に勤務していたが、素材としての革に興味を持ちフィレンツェで修業、2001年m+をスタート。

お店の情報

エムピウ 蔵前ショップ・事務所
住所:台東区蔵前3‐4‐5 中尾ビル
TEL: 03‐5829‐9904
最寄り駅:浅草線 蔵前駅A0出口または、大江戸線 蔵前駅A6出口
公式HP:m+ online : http://m-piu.com

(写真:m+ online : http://m-piu.com

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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【蔵前】NAOTの靴を履いて遠く遠く、どこまでも|株式会社loop&loop代表・宮川 敦 【蔵前】 「古きよきをあたらしく」。日本のものづくりを伝えるsalvia(サルビア)という活動体

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