蔵前界隈を歩いてみると、雑貨やファッションなどを扱うものづくりの店が、ぽつぽつと散らばっています。だから、お洒落であるかとか町の賑わいが感じられるかと言われると、一見そうではありません。しかし蔵前という大きな木に、多くの熟れた果実が実りつつあります。
地域のおもしろさは場所や土地というハードよりも、ソフトの部分に宿っている。それを教えてくれたのは、蔵前で革の鞄や財布、ポーチやケースなどの機能性の高いプロダクトを製作する株式会社エムピウの村上雄一郎さん(以下、村上)です。
蔵前で暮らす人は自由な雰囲気を持ってる?
そもそも蔵前の特徴は、ものづくりに従事している人が多いところ。つまり、個人で店を構えている人も多くなります。いつまでも話が尽きないという地域内での人と人との話題は、もっぱらビジネスのことだと村上さんはおっしゃいます。
「蔵前あたりは個人事業主のような人たちが多くて、自由な雰囲気を持ってるよ。それに、みんな一回悩んでる話を共有し合えたりする。だから、みんな近しく感じて話しやすいし飲みやすいんだね。」
個人事業主としてビジネスを継続していくためには、ジャンルが違えど、少なからず似たような問題にぶち当たり、やるべきことも共通してきます。ものづくりであれば、商標登録の申請方法や在庫管理の方法などがそれに当たるのでしょう。
はたらく上で抱えた疑問や悩みを、すぐ近くで店を構えて暮らしている人に相談できるのは、心強く感じられそうです。
野心家が集まる町
現在は様々なメディアによって「蔵前」という地域は光が当てられ、週末には多くの買い物客が訪れるようになりました。しかし、村上さんが蔵前でエムピウを創業した約10年前は、問屋街として「職人が訪れる町」であり、買い物に来るお客さんはほとんどいなかったそうです。
「日曜日に店舗を営業してもお客さんは来ない。道には誰も歩いていない。当時は、全国チェーンのコーヒーショップだって、日曜日はお休みでしたよ。」
静かな職人の町だった蔵前に活気をもたらしつつあるのは、この町で暮らす若者たち。「30代程度の若い世代が店を構える。極端に言えば野心家が多い」と村上さん。
「みんな僕より10歳くらい若いですよ。蔵前を頑張って引っ張っていただけたら、僕はそれに便乗するんで(笑)。」
蔵前から他の地域へ規模を拡大している店には、蔵前が第一の拠点であると思ってもらえると嬉しいと話します。場所そのものに加えて、蔵前で暮らす人への愛情を持つ村上さんが考える蔵前の魅力とは、どのようなものでしょうか。
「おもしろい店がぽつぽつある、例えばうちの隣にある老舗の豆腐屋さんや、新しくできたばかりのお茶屋さんとか、そういう人たちと、いい関係を保てる距離感なんですよね。このバランスがいいんじゃないかと思う。だから近所づきあいが下町感覚です。」
この町を楽しみ方を、村上さんはこう続けます。
「KONCENTやカキモリなどの有名店に加えて、できたばかりの小さなお店もたくさんある。町を歩きながら、散策すると楽しいはずですよ。」
この町でものづくりを持続していくために、作り手は消費者とのコミュニケーションを重視し、自分が製作する作品を上手に伝えていく文化があるようです。様々なお店で「人」と関わり、その輪の中に入っていくこと。見知らぬ誰かと心を通わす瞬間が、蔵前の魅力を引き立たせる隠し味です。
お話をうかがった人
村上雄一郎(むらかみ ゆういちろう)
革製品ブランド”m+(エムピウ)”オーナー。建築設計事務所に勤務していたが、素材としての革に興味を持ちフィレンツェで修業、2001年m+をスタート。
お店の情報
エムピウ 蔵前ショップ・事務所
住所:台東区蔵前3‐4‐5 中尾ビル
TEL: 03‐5829‐9904
最寄り駅:浅草線 蔵前駅A0出口または、大江戸線 蔵前駅A6出口
公式HP:m+ online : http://m-piu.com
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