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【蔵前】食文化の今と昔を「結わえる」。玄米を味わえるテーマパークを目指して

モノづくりの町【蔵前】特集、始めます。

蔵前駅から5分ほど歩いた裏手に、暖簾が揺れる食事処が一軒。店内に足を踏み入れた途端、ふわりと香るのは、ここ「結わえる」お墨付きの寝かせ玄米の炊けるにおいです。

結わえる, 蔵前

蔵前の食処「結わえる」とは

「ハレとケ」を分かつことなく日常的な食習慣と、非日常的な賑やかな食事とが融合している「結わえる」。昼はおかずや汁物を自由に組み合わせできる、寝かせ玄米定食をいただくことができます。一方夜は、季節の酒肴料理と日本各地から取り寄せた銘酒を揃え、お客様をお出迎え。

昼と夜、それぞれに違ったメニューを用意し、日夜訪れる人々のお腹と心を満たしています。

結わえる, 蔵前

お店に入ってすぐのところには販売スペースがあり、食事をするところは褐色のテーブルが心地よい距離感で配置されています。昭和の蔵を思い起こさせる白熱灯のようにあたたかみのある灯りと、味わいある置物が至る所に飾られていて、どこか別の時代へタイムスリップしたよう。ついついテーブルを囲う見知らぬ人たちとも、「おいしいですね。」と同じ時間を共有したくなってしまいます。

日々の生活に追われるとともに、私たちのベース燃料である筈の「ケ」の食事は、一昔前の一汁三菜と質素な習慣以上に、荒涼なものになりつつあるかもしれません。マネージャーの酒井弘行さんに「結わえる」の今と、これから実現したいことなどをうかがいました。

「結わえる」から食事が変わる

『健康』と言い始めるとキリがないほどに、あらゆる食べ物・習慣に気を使わなければならないけれど、それではなかなか続かないのではないでしょうか。「結わえる」は、まずは1日1食の寝かせ玄米を食事の基本取り入れることを勧めています。必ず100点である必要はなく、60点から70点を続けていく。そうすれば我慢をしなくても、夜はお酒を飲めるし、楽しめると思うんです。

結わえる, 蔵前
「結わえる」のマネージャーの酒井弘行さん

寝かせ玄米を通じて、美味しく健康的な食習慣を提唱していく場所がここ、結わえる 本店の役割だと思って全員で働いています。

一般的に玄米は、栄養素を補いながら代謝や吸収をおこなってくれるので、たくさん食べても太りにくいと言われているそうです。白米では取り除かれてしまう糠(ぬか)をそのまま残しているため、白米に比べるとビタミン、ミネラル、食物繊維が豊富で、より完全食(*1)に近い食べ物です。

(*1)完全食とは、健康を維持するために必要な栄養を豊富に含んだ食品あるいは食事であるが、これだけを食べて健康を維持できるものではない。

結わえる, 蔵前
箱膳定食(850円)

僕も、はじめのうちは疑っていましたよ(笑)。 でもね、実際に食べ続けていると必ず変化が出てきます。僕自身、ここで働き始める前は、健康とは程遠い食習慣を送っていました。もともとお米を食べることが大好きだったため、「結わえる」で働き始めてからもたくさんごはんを食べました。でも、白米ではなく寝かせ玄米を食べていたんです。

そうすると、「結わえる」で働き始めて1ヶ月ほどしてから体重が6kgくらい減ったんです。お昼にお腹いっぱい寝かせ玄米を食べること以外、生活習慣を変えた意識もなく、丁度いいあたりで減量は止まり、それ以降は今の体重を保っています。

結わえる

美味しい上に結果も出るから玄米食をやめる必要もない。それに加え、炊く際に自然塩と小豆も使っているので薄味がついています。

3日間ほどかけてじっくり熟成されるため、通常の玄米に比べると凝縮された香りがして、もっちりとコクがあり、おかずがなくても十分単品で楽しめる美味しさです。

ハレの場としての蔵前を楽しめるように

「結わえる」では食事のハレとケ、どちらも大事にしたいと思っています。ただ、今の「結わえる」は昼の定食屋としてのイメージが強いようですね。イメージが定着してきたことは嬉しいことですが、今後は夜の、ハレの「結わえる」をもう少し盛り上げていく必要があるのかなと思います。

結わえる, 蔵前

最近、蔵前は若手のものづくりをする人たちが増えてきたことで『月一蔵前』や『ものまちの日』という地域ぐるみのイベントも開催されるようになり、以前に比べると賑わいも出てきました。そうは言っても、まだまだ町自体は昔からの問屋さんなどが多いため、夜は人通りも少なく、町も明かりが消えて全体的に暗いです。

でも、立地としては浅草や上野などにも近く、御徒町と蔵前を示すエリア「おかくら」という呼び名も浸透しつつあり、これからさらに盛り上がっていく場所でもあると思っています。だからこそ、蔵前で夜に楽しくお酒が飲める場所として、美味しい食事と日本酒を用意して「結わえる」がハレの場を担っていけたらうれしいですね。

夢は、テーマパークとしての体験型食処

「結わえる」という店名は「昔ながらの日本人の食習慣や伝統文化と現代を結わえる」という願いを込めて付けられました。現代は西洋の食文化が流れ込み、昔ながらの食生活をする人自体が減ってしまったと思います。

でも、どんな形でもお米を食べてもらうことによって各地域の農家さんやお米づくりに関わるところは活性化されますし、食べればみんなが健康になる。「結わえる」が実現したいことは、お米を食べることによって日本が良くなっていくために「寝かせ玄米」を広げることですね、壮大なことではありますが。

そしてお米だけではなく、調味料も地域ごとに作られるものを地元で消費していく。おいしく楽しい食事をすることで、日本が元気になっていくといいなと思います。

結わえる

今後は寝かせ玄米を使ったおむすび屋さんの「いろは」をもっと増やしていく予定です。チェーン展開をしている居酒屋さんなどに比べると、ここではすべてのメニューに下ごしらえが必要な上、混ぜ物(添加物)を含まない調味料や食材を使うため、「結わえる」が他店舗にわたって展開するのは難しいんです。ですから、今後「結わえる」がチェーン展開していくのは……無いのではないでしょうか。

その分、普段は「いろは」やネットショップを利用して、玄米生活をしている方たちにも「結わえる」は寝かせ玄米発祥の地として、足を運んで欲しいと思っています。食事ができるスペースに加えて、お墨付きの全国各地から取り寄せた、本物の調味料や食材がずらりと並ぶ「よろずや」コーナーもあります。舌で味わい、その味をすぐに手に入れられるところが実店舗の良さだと思います。

ですから本店はテーマパークのように、体験型の食処として全国のお客さんに足を運んでもらえる場所になることが夢ですね。

結わえる, 蔵前

取材後記

今回は昼下がりの訪問でしたが、夜の「結わえる」では季節を感じながら、おいしいお酒と料理を楽しみ、普段はできない本音の会話がぽろぽろっとこぼれ落ちたりなんかして……。会話が弾むにつれて気持ちも解け、いつも以上にリラックスした時間を過ごせるのではないかなぁと想像します。

結わえる, 蔵前

基本を安定させてしまえば、あとはそれをベースに自分なりに調整していく。食事はもちろんのこと、あらゆる暮らしの場面で参考にできる考え方だと思いました。多くの雑誌やテレビの中で、ハレの食事について知る機会は多いですが、日常的なケの食事について、考えたり知っていく機会は意外と少ないように感じます。

今はまだ、「お腹を満たせればそれでいい」。つくることに時間をかけなくても、出来合いのものがいくらでもどこでも手に入る。実際そうかもしれませんが、家族や子供が出来たとき、健康に変化を感じたときなど、いずれかのタイミングで日常の”食”を見直すタイミングは人それぞれに訪れるものでしょう。

日本の食文化もテーマパークになってしまうほどに、それ自体が日常から離たものになってしまうのは少し寂しい感じがするなぁ、と思いながら、だからこそ、伝統的な食文化と現代を繋げてくれる「結わえる」さんのような食事処は大切な存在ではないでしょうか。

このお店の情報

結わえる 本店
住所:東京都台東区蔵前2丁目14-14
電話:03-5829-9929
営業時間:ランチ 11:30~14:30(L.O.14:00)、ディナー 平日17:30~23:00(L.O.22:30)土祝17:00~22:00(L.O.21:30)
/物販 11:30~15:00、16:00~20:00
公式HP:結わえる

書いたひと

中條 美咲(なかじょう みさき)
昭和64年1月3日生まれ。2014年 暮らしの中で出会ったものや人、そこから感じたことを文章で伝えていきたいと思い「紡ぎ、継ぐ」というブログを始める。” 見えないものをみつめてみよう。” ということをテーマに、書くことを通じて多くの出会いに触れながら、感じる力を育てていきたい。現在は「灯台もと暮らし」と「大人すはだにてライターとして活動中。

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探求者

中條 美咲

1989年生まれ、長野県出身。奥会津 昭和村に根付く”からむし”と”織姫さん”の存在に惹かれ、2015年から、昭和村に通い取材を重ねている。 ” 紡ぎ、継ぐ ”−見えないものをみつめてみよう、という心構えで。紡ぎ人として、人・もの・場所に込められた想いをつないでいきたい。

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