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【北海道下川町】手づくりのフェスティバル「森ジャム2017」。緑に包まれ“好き”を表現する暮らし

一人ひとりが歴史を紡ぐ風を生む【北海道下川町】特集、暮らしながら始めます。

下川町は、ゆるやかな高さの山に囲まれている町です。森林面積の広さだけでなく、歩けばすぐ近くに自由に入れる市民のための森「みくわが丘」があるというのは、贅沢な環境。

去る、2017年7月8日(土)9日(日)の2日間、その森に北海道内や道外から森が好きなひとたちが集まるイベントが開催されました。

森ジャム

イベントの名前は「森ジャム2017」。「森のジャムセッション」を略した名前「森ジャム」は、「森のめぐみをみんなで楽しむ」というコンセプトのイベントで、森好き・森の恵みを活かしたものづくりをしている方々が森の中で出店したり、ワークショップを開催したりします。

森ジャムマップ
森ジャム会場マップ(公式Facebookより引用)

町民有志で開催する「森ジャム」は、今年で4回目。すべて、企画から運営までが町民主体の手づくりです。自分がやりたいことを、自分なりの方法で形にして表現・発信する場にもなっているようです。

「やりたい」かどうか、「好き」かどうかが大事

2010年に下川町にやって来た麻生翼さんは、下川町内にあるNPO法人「森の生活」の代表でありつつ、「森ジャム」の実行委員長。

「森ジャム」を開催するにあたり、毎年大事にしていることがあるといいます。

麻生翼さん
森ジャム実行委員会委員長の麻生翼さん(左)と同時開催のチェンソーアート世界大会の実行委員長木霊光さん(右)

「森ジャムは、自分ができることを楽しく実践したり形にしたりすることを大切にしています。だから少しでも『しんどいからやりたくないなぁ』と思うことがあれば、それはやらない。好きなことを、できる範囲で、楽しくやるという姿勢を森ジャムでは大切にしています」

子ども連れや家族での参加者も多い
子ども連れや家族での参加者も多い

「極論ですが、もし森ジャムの実施そのものがしんどいのであれば、無理に開催しなくてもいい。でも、下川で暮らすひとたちの中で『森ジャムやりたい!』という思いのあるひとがいる限り、それに賛同するひとたちで実行委員会をつくって企画したいし、続けられるイベントでありたいなと思っています」

ゆるやかに、自由な発想で粒ぞろいな方々が集まる「森ジャム」には、どんな方の、どんな“好き”が表現されているのでしょうか。下川町内から「森ジャム」へ出展されている方々のうち3名にお話を伺いました。

森が好きだから、森ジャム実行委員会として携わりました|木工作家・臼田健二さん

「森ジャム」は2回目の参加だという臼田さん。臼田さんは、広葉樹を活かしたモノづくりができる下川町の環境に惹かれ、2015年に北海道東川町から移住された木工作家さんです。

臼田さん

「去年はイベント当日の設営と出店だけ参加したんですが、今年はボランティアとしてイベントの運営メンバーとして準備から携わりました。森ジャム実行委員会では、SNSで出店者さんをご紹介したり、ガーランド(三角形の飾り)や当日のスタッフバッヂをつくったりしました」

スタッフバッヂ

作家さんとして出店するというよりは、森の中にいることが楽しい、と臼田さん。来年はスタッフ専属で森ジャムと関わりたい、とのこと。他の参加者の方々と森の中で交流できる時間が、とても心地よいと言います。

「森ジャムの、出店している方々もとてものびのびしている雰囲気が好きで。森の中にお店を出すって搬入・搬出に労力がかかるんです。だからとても大変なんだけれど、好きだからやっちゃうっていう雰囲気がいい。来年はスタッフとして、よりいろいろなひとと話ができる空間にしたいですね」。

身の丈にあった、ふつうの暮らしを楽しく伝えたい|普久原涼太さん

森ジャムの白いテントの下に、突如現れた自転車。

森ジャム

これをこいでいるのが普久原涼太さん。「22世紀コミュニティ研究会」として、自転車を使った自家発電を体験できるブースを出展されていました。

「ここは『22世紀コミュニティ研究会』主催で、自転車発電で小さな扇風機を回したり太陽光発電でコーヒーを淹れたり、エネルギーを手作りすることを体験できるスペースです。この会自体は、僕と、下川町へ移住してきた名寄新聞の記者の小峰博之くんとで発足しました」

普久原さん

「研究会では、自給自足ができる暮らしを目指しています。それを楽しくおもしろく、いろんなひとに体験してもらえるような活動をしているんですね」

自給自足といっても、やりたいことをやるというだけで孤立したいのではないと普久原さんは言います。

ふだん何気なく使っている電気やガスは、誰がどうやってつくっているのか実感しづらいのが現状です。ですが、自分で発電をしてみると、エネルギーをつくる喜び、エネルギーを受け取るありがたさ──そうすると、エネルギーに対する考え方や使い方が変わるのではないか、と普久原さんは話します。

「こうして森ジャムに出ることで、僕らが日々、日常の暮らしとしてやっていることを『楽しいよ』って伝えたいですね。良いことだからこうすべき、とか、ライフスタイルを改めなくちゃ、とか強制するつもりはまったくなくて。そもそも暮らしにまつわることって、無理をしたら続かないから。子どもたちは純粋に『楽しそうだからやりたい』って自転車をこいでくれるんですけど、そこで『疲れたな』って感じることもすごく大事だと思います。エネルギーはタダじゃないって実感できるから」。

薪のある暮らしの中の「あったらいいな」を形にしました|「薪屋とみなが」

2016年から「森ジャム」に参加している「薪屋とみなが」。2017年にNPO法人森の生活から独立した、下川在住の富永紘光さんから直々に薪割りを教わることができます。

薪屋とみなが
斧を振りかぶるときの力の入れ方は見ている以上にむずかしい

「森ジャムは下川町のひとと町外から出店される方との人間関係がとても気持ちがよいですね。お互いがお互いのやりたいことを認め合っているような……」と、奥さまの富永さいこさん。

「私ももともとは森ジャムに遊びに来る参加者だったんです。出身は北海道の十勝なのですが、広い地域だからか町中が顔見知りという雰囲気ではなくて。だから尚更、下川ではひとのあたたかみを感じます」

今年のブースでは、さいこさんお手製の「キャリーエプロン」も販売。薪を使う中で「こんなのあったらいいな」と思ったものを形にしてみた新しいエプロンだといいます。

薪屋とみなが
手づくりのキャリーエプロン

「もともと裁縫が趣味で、今履いているズボンも自分でつくりました。薪ストーブを実際に使っていると(薪を)運ぶとき服におが粉がついちゃったり、両手がふさがって薪小屋から家の中に戻るときに不便だなぁって感じたりして。ご自宅で薪ストーブを使っている方はもちろん、プレゼントとしてご購入していただいたり、農家さんが『使いやすそう』と買ってくださったりしますね」

今年の森ジャムでお客様から上がってきたリクエストも取り入れてエプロンも改良したいし、新しいものづくりをしたい、とさいこさん。

薪屋とみなが

薪のある暮らしをご自身で実践されているからこそアイディアがピカン、とひらめくもの。薪の提供に加えて、暮らしに彩りを添えるエッセンスが、ぎゅっと詰まった「薪屋とみなが」。その楽しそうな姿を見ていると、思わず薪ストーブを取り入れたくなります。

自分でできることを、まずは自分の手でやってみよう

森ジャム

わたしも普段、このみくわが丘に遊びに行くこともあるのですが、「森ジャム」の期間中は魔法にかかったように、森の中がより一層キラキラして見えました。誰もいない静かな森もいいですが、賑やかで人気(ひとけ)のある場も、あったかくて気持ちが良いものです。

手づくりを貫き通す「森ジャム」。来年は、どんなひとの、どんな“好き”が森の中で表現されるのか、今から楽しみです。

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探求者

立花実咲

1991年生まれ、静岡県出身の編集者。生もの&手づくりのもの好き。パフォーミングアーツの世界と日常をつなぎたい。北海道下川町で宿「andgram」をはじめました。→ さらに詳しく見る

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