2016年に初めて十和田を訪れて以降、編集部の伊佐は取材やイベント登壇、はたまたプライベートでの旅行と、十和田を複数回旅しています。
その際、ひとつ絶対に寄ろうと決めているカフェがあります。それが、十和田市現代美術館からほど近い、商店街の中心に位置する「カフェハッピーツリー(Cafe Happy TREE)」。
日本ではなかなか味わえない本格派アメリカンベーグルサンドと、店主の飯田雄治(以下、飯田)さんがていねいに淹れてくれる珈琲がおいしく、どうしてか癖になってしまうのです。
そして多分なんだけれど、惹きつける魅力は味だけではなく、手づくり感あふれる店内の様子と、ちょっぴり不思議な空気を纏う飯田雄治さん、パティシエの白山紋子さんのふたりな気がして。
けれども、知っていることは、飯田さんがミュージシャンの顔を持っているということと、ベーグルのおいしさの秘密がネイティブ・アメリカンに興味を持ったことをきっかけに旅したアメリカでの経験だということ。そして、白山さんはおいしいパンケーキを焼くだけではなく、じつは世界でも数少ない「UKジャズダンサー」なのだということだけ。
ちょっぴり情報を聞くだけでも、なんだか引っかかりポイントがたくさん出てくるカフェハッピーツリー。ひっそりたたずむそのお店を、取材させていただきました。
カフェハッピーツリーのキーワードは3つ
カフェハッピーツリーで味わえるのは、美味しいコーヒーとベーグルサンド、そしてパンケーキです。
今のこの時代、東京では珍しくない組み合わせかもしれませんが、ここ十和田では珍しいメニューたち。
ふたりは役割分担を明確にしていて、飯田さんはコーヒーを。白山さんが調理を担当しています。
「お店をオープンさせた当初は、十和田にコーヒーとベーグルの文化が根づいていないため、簡単には受け入れられないだろうなと心配していました」と飯田さん。
そしてその通り、オープン当初はあまりお客さんが来ず。来てくれても、喫茶店のようにパスタやグラタンのメニューはないのかと聞かれたり、コーヒーが高いといわれたりしたそうです。
けれど、4年目を迎えた2018年は違います。カフェハッピーツリーの味を求めて、市内在住者の常連はもちろん、観光客も足繁く通う名店となりつつあるのです。
本物のコーヒーのおいしさと深さを伝えたい
「はじめは懸念していたものの、オープンからしばらく経つと、十和田に多い高齢の方こそ、コーヒーのおいしさを理解してくださるということに気づくようになりました。
なぜかというと、昔の純喫茶ブームをご存知だから。サイフォンなど、手で淹れるコーヒーに馴染みがあるそうで。昔、東京に出稼ぎに行っていた時に代官山で飲んだとか、渋谷で飲んだコーヒーの味が懐かしいとか。年配の方のほうが、じつはコーヒーに精通している。そういう方々が、ゆっくりと店内でコーヒーを味わってくださる姿を見るのは、すごく嬉しいですね。
逆に、20〜30代の若い世代の方々は、缶コーヒー世代なのでミルクとコーヒーが入っていないとだめ、という方が多いです。
でも、世界的にいえば、品質のいいコーヒー豆が手に入らなかったニューヨーカーたちが、よりコーヒーをおいしく味わうためにシロップを足してキャラメルマキアートやフラペチーノなどを作り出したのがセカンドウェーブ。シアトル系のスターバックスは、その代表例です。
それがおしゃれでおいしいとなっているところに、本物がおいしいんだというのを伝えてくれたのがサードウェーブ。うちは、本質を提供したいのでもちろんサードウェーブです(飯田さん)」
今でこそ熱を込めてそう語る飯田さんですが、じつは若い頃はコーヒーが苦手で、どちらかというと嫌いだったそう。
「粉をお湯で溶かして飲むタイプのコーヒーしか知らなくて。コーヒーを飲むと胃が痛くなると思っていました。
でも、20歳頃に音楽活動のために住んでいた高円寺の近所に、すごい老舗のコーヒー屋さんがあってね。背伸びして入ったんです。緊張しながら、面白そうな名前だからってグアテマラをひとつ下さい、とかって言って。
そしたら、『これがコーヒーなのか……』という衝撃を受けたんです(飯田さん)」
いつも飲んでいたコーヒーとは、まったく別物のコーヒーに出会ったのだという飯田さん。すごくおいしいというよりも、「苦味が甘さに変わる」「漂白した砂糖ではなくブラウンシュガーを入れると、黒糖が増すというか、苦いカラメルっぽくなる」など、自身でも驚く体験に満ちていたのが、本物のコーヒーの世界だったといいます。
「海外では当たり前ですが、コーヒーとチーズ。これは最高なんですよ。
チーズは、いってみればミルクじゃないですか。苦いコーヒーと一緒に食べると、牛乳と一緒にいただくよりもよく合う。本当に贅沢だと思いますよ。ひとりでコーヒーといいチーズを楽しむ時間。僕はちょっと濃い目のヤギや羊のゴーダ系と一緒に飲むのが好きです。スイスですと、それが日常的に楽しまれていたりしますしね。
アフリカではもともとコーヒーは、生の実を煮詰めてスープとして飲まれていたし、今でもメキシコはトマトを入れて飲む人も多いです。アメリカでは、ミントとライムを入れてモヒートコーヒーみたいにしたり。これはアイスにするとすごくおいしいんですよ」
飯田さんの話を聞いていると、コーヒーの楽しみ方が無限大であることに気が付きます。それを理解した上で、カフェハッピーツリーのメニューを眺めると、なんだか奥深い世界への小さな入口のような気もしてきます。
日本に迎合しない本場のベーグルとパンケーキのおいしさを届けたい
さて、カフェハッピーツリーのもうひとつの楽しみは、食事です。
カフェハッピーツリーの看板メニューのひとつ、ベーグルサンドは飯田さんが若い頃に旅をしたアメリカでの経験が大いに反映されています。
「これぞアメリカ、という食事を提供したかったんです。たとえば海外に行った時に、日本食を食べたら『これ厳密にはやっぱちょっと違うよな』という日本食が出てくることがありますよね。
僕はちょっとそれは嫌だなと思っていて。だから、カフェハッピーツリーに海外のひとが来た時に、おふくろの味とか懐かしい味とか、できることならそう思ってもらえるものを出したい。
僕は、ささいなことがきっかけで、20代の頃に、ネイティブ・アメリカンに興味を持ちました。アメリカ人の友人を頼って1ヶ月ほど西海岸を旅した。その時に勉強した味が、今のお店の味の原型になっています(飯田さん)」
もともと、日本の義務教育に疑問を持っていた飯田さん。ネイティブアメリカンが「音やリズム」で代々器や壺の作り方を引き継いでいる点や、日本人に似て自然に信仰心を抱く姿に、どこか親近感を抱いたのだといいます。
「十和田で育ち、一度は東京に出たものの、やっぱり東北の自然はすばらしくて。東京に住んでいたら、週末に時間もお金も使わないと触れられない豊かな自然が、こんなにも身近にある十和田に感動したことも、ネイティブアメリカンに興味を持つきっかけにつながっていると思います。
『何もないことに価値がある』というかね。そういうことに、大人になって気が付きました」
4年目を迎えたカフェハッピーツリー
「音楽活動も『カフェハッピーツリー』も、すべてクリエイター活動をしているつもりだ」と語る飯田さん。
やりたいことは、まだまだあります。
これからの目標は、とにかくお店を続けていくこと。そして、カフェハッピーツリーをさらに価値あるブランドに成長させること。
コーヒーをもっと追求するために焙煎士を探したり、じつは2階部分もある店舗を改装し、ダンス教室や映画祭、アパレル店舗など幅広く活用すること。周囲に新しくできた「14-54カフェ」などと連携して、テイクアウトメニューの提供を開始することなどなど……案は尽きません。
…と、あれ……? 飯田さんのお話が濃すぎて、パティシエ兼ダンサーの白山さんの話がぜんぜん盛り込めませんでした。
まぁけれど、知れば知るほど深みを増すカフェハッピーツリー。気になる方は、ぜひお店でお話を直接聞いてみてください。
飯田さんも白山さんもとても魅力的な方で、ゆったりとお話をしてくださいます。一度訪れたら、多分あなたも「次に来たらまた絶対行こう」と、ファンになってしまうと思うけれども。
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文章/伊佐知美
写真/小松崎拓郎
(この記事は、青森県十和田市と協働で製作する記事広告コンテンツです)