メディアからの取材を待っているだけではなく、個人やチームとして発信できるようになっていただくことが、街や村、会社、チームの、本質的な力になれるのではないだろうか──。
日本各地で暮らす人々との関わりを深めていくうちにそう考えるようになった僕らは、メディアとして発信を担うことに加えて、「情報発信」をテーマとする学びの場作りをはじめました。発信を道具に、それぞれのメンバーが人生を一歩進めるための場となることを願って。
今年は青森県十和田市を舞台にスタートした【十和田メディア研究部】。各回、もちろん白熱しています。
9月29日(土)には、第3回目となる「十和田メディア研究部」を開催。会場は前回とおなじ十和田市民交流プラザ トワーレです。
今回の講座のテーマは「お互いのスキルを活かす!パートナーとの仕事のつくり方」。ゲストは夫婦出版社を営むアタシ社のミネシンゴさんと三根かよこさんです。
アタシ社とは
まずアタシ社創業から、現在に至るまでの活動紹介からメディア研究部ははじまりました。アタシ社は、神奈川県三浦市の南端「三崎」を拠点に、夫婦で営んでいる出版社です。
夫のミネさんは編集者、妻のかよこさんはデザイナー。家族という最小単位のチームで本や雑誌をつくっています。
もともと美容師だったミネさんは、リクルート在籍中に、美容文藝誌『髪とアタシ』を創刊。
かよこさんもリクルートで総合結婚情報誌のディレクターを務めながら、桑沢デザイン研究所でデザインを学び、卒業後に夫婦出版社を立ち上げました。
出版社を設立して4年目を迎えた現在は、美容文藝誌『髪とアタシ』のほか、30代のための社会文芸誌『たたみかた』、渋谷発のメンズヘアカルチャーマガジン『S.B.Y』の創刊をはじめ、単行本や写真集を制作。
人気バンド「クリープハイプ」をはじめとする、ミュージシャンのCDジャケットやグッズ制作等もおこなっています。
アタシ社が手がける出版活動は、本や雑誌づくりだけではなく、場づくりまで多岐にわたります。
2018年には三浦市に出版社が引っ越してきたことをきっかけに、築90年の船具店の1階を蔵書室として「本と屯(ほんとたむろ)」をオープン。
今日はあいにくの雨だったので、ちょっとだけオープン。地元の仲間が作ってくれたカウンター。アタシ社の本をずらりと並べつつ、ここで、オススメの本なんかをお客さまに紹介できたらいいなぁ。「マスターオススメの本は?」とか聞いてください。
7月からコーヒーやおやつの販売も準備中ですよ🍭 pic.twitter.com/TziZVGaUDH
— 本と屯 (@hontotamuro) 2018年6月10日
今日はささやかに「本と屯」をオープン。
16時からはMPで「かもめ児童合唱団」が練習をしていました🕊商店街に子供達が歌うエーデルワイスが響いて、なんだか、本当に天国みたいでした。三崎に引っ越して半年、どんどん三崎を好きになっています。 pic.twitter.com/hwvvFFNU2W
— 本と屯 (@hontotamuro) 2018年4月18日
約4,000冊の良質な本を市民に無料開放。大人から子どもたちまで本を楽しめる場となっています。
「おしえてミネさん!座談会」
ミネご夫妻にアタシ社創業から現在に至るまでをお話いただいた後、座談会を実施。ここからは当日モデレーターを務めた『灯台もと暮らし』編集長の小松崎拓郎と、アートディレクターの荻原ゆかが加わりました。
「なぜ紙で出版するのか」「人の巻き込み方とは」「出版社の収支について」など、パートナーと仕事をつくろうとしている当事者の代表として質問。アタシ社が創業から順調に活動の環を広げている理由は、次に続くワークショップにあるようです。
パートナーと仕事をつくるための3つのこと
[1]舞台を知る
どのようなテーマであっても、メディアをはじめて育てていくなら「関わる人が多いほど、人と人とが交わる交差点のようになっていく」とミネさんは言います。
地域は、ドラマでいえば「舞台」。街には登場人物という「役者」がいます。
そのように認識することがメディアを始める第一のポイント。人間模様を俯瞰的に見る癖をつけることを、アタシ社の二人は大切にしているそうです。
そこでワークショップ①は、十和田市を舞台に3C分析をおこないました。3C分析とは企業のマーケティングにおいて、顧客と競合、自社を整理する考え方。事業計画や経営戦略を決定する際に利用されます。
今回は十和田市を舞台に「問題に感じていること」、顧客・自社・競合をふまえた「原因の仮説」、「問題解決への具体的なアクション」までを、各グループで考えていきました。
あるグループは、商店街のシャッターが閉まっていることを問題と定義し、全商店が営業する日をつくるのはどうか?という案を。
またあるグループは、青森県は2017年における外国人延べ宿泊者数の伸び率が全国第一位であるにもかかわらず、「十和田市は本命の観光地にならないこと」を問題と定義し、アートを切り口に、アートを体験しに来るひとたちが滞在できる仕組みづくりを提案。
それぞれのグループの3C分析に対し、ミネご夫妻によるフィードバック。こうして十和田市の現状を把握し、潜在的な魅力を可視化していきました。
[2]パーティーを組む
続いて、ワークショップ②へ。
街の役者とどんなプロジェクトを興せるのか? お手製のワークシートに一緒に活動を始めたいと思える人の名前と、得意なこと、その人とできることを書きだし、物語の展開を構想します。
ワークショップ②は個人ワーク。黙々と考えて書きだしていく参加者に、講師のかよこさんは強調します。
「皆さん、やりたいことは色々と考えていらっしゃると思うんですが、私たちは〝誰とやるか〟が重要だと考えています。誰とやるかで、何をやるかが変わるからです」と。
[3]そろばんを叩く
お昼過ぎからスタートした十和田メディア研究部も、もう日が落ちる頃。さいごのワークショップ③は「そろばんを叩こう」です。
音楽フェス、ブックフェス、暮らしのメディアを企画・運営するグループに分かれて、運営費用と収益を見える化するワークショップをおこないました。
こちらもワークシートに「原稿料」「撮影料」「サーバー代」といった費用項目、「広告料」などの収益項目の横に、各人が考える金額感を書き出していきます。
いざ「暮らしのメディアを企画・運営しよう」と言われても、何に、どれくらい費用がかかり、運営のためにどのくらいの収益が必要か、数値として見える化するのはむずかしいもの。研究部の皆さん、苦戦しながら考えている様子でした。
「収支」と向き合うワークショップを通じて、アタシ社のお二人が研究部のメンバーに伝えたかったこと。それは「自分が主催者になるという気質が大切である」ということです。
「“サービスやイベントを享受する側”でいる限り街や人は変わらない。自分で提供しようとする主体的な気持ちが街を変えていく」と、かよこさんは結びます。
これにて情報発信を学ぶ連続講座「十和田メディア研究部」は終了ですが、スピンオフ企画として10月14日(日)に「ぼくらが編集する青森県十和田市」を開催しました。
トークセッションテーマは「地域を編集する」。こちらのレポートもお楽しみに。
文/小松崎拓郎
写真/撮影協力:字と図
(この記事は、青森県十和田市と協働で製作する記事広告コンテンツです)