青森県十和田市に農業をするために移住、そして結婚した丹上聡さんと嘉美さん。1歳の優佳里ちゃんと3人で暮らしています。
就農2年目。僕らの目に写ったのは、農家としての知識を蓄え技術を高めていくために積極的に行動し、学んでいる丹上さんの姿でした。
丹上 聡(たんじょう さとし)さん、丹上 嘉美(たんじょう よしみ)さん、優佳里(ゆかり)ちゃん
平成26年に十和田市へ移住。青年就農給付金を受給しながら市内の個人農家で研修をした後、平成28年4月奥瀬地区にて就農。妻と1歳の娘の三人家族。トマト、ブルーベリー、タラの芽、キヌサヤ、ブロッコリーなど多数栽培。
(以下、丹上聡)
全国の農家のせがれが思っていること
十和田で農業をしています。僕の出身は千葉県。
実家も農家で以前から僕も農業をやりたいなと、漠然と思っていました。
大学を出たら福岡県の北九州市で3年弱、介護の仕事をしていたんですね。そこで家内と出会って、実家に帰って2年間畑を手伝ったり自分で野菜をつくったりするようになりました。
千葉でそのまま農業を学び続けてもよかったんだけど、父の下(もと)でやるのはおもしろくない(笑)。親父がいると自由になれない。これは全国の農家のせがれが思っていることだと思います。
千葉にいた時はどうしても“やらされている”という感覚があったし、同時に“自分で農業がしたい”って考えていましたね。
学び、出会い、その先で。誰かが手を差し伸べてくれる
結局、十和田に来ることにしました。何十年も前に税金対策で買ったそうなんですけどね、父が手を付けないまま放置していた山があったので活かそうと思ったんです。
農業の研修先も十和田で見つけました。上北地域県民局の紹介で、国の制度で青年就農給付金っていうのがあります。国から年間150万円支給してもらって、十和田市内の農家で2年間実習しました。
農業のことをちゃんと勉強するようになったのは、十和田に来てからです。本を読んだり、講習会に行ったり、上手に農業をしているひとのところへ行ったり。
自分で自分が学びたいことを探して、学びに行くようになった。環境が変わったら自分の中で何かが変わりました。こんなことをやりたいなって思うことも増えました。そういう意味では家を出て良かったと思っています。
2年間の研修中、いろんなひとと出会いました。研修生をやっているだけで周りのひとが声をかけてくれて、ある方に、農業用ビニールハウスの骨材が欲しいって言っていたら「うちに使ってないのがあるからばらして持って行っていいよ」って。
これは普通のハウスより背が高い、タバコ用のビニールハウスです。今はタバコ農家を辞めるひとが多くて、あちこちでタバコハウスって余っているらしいんです、それを僕がもらってきて、建て直して、これでハウスが手に入ったぞと。譲っていただいた方には本当にお世話になっていて今もたまにお手伝いに行くんですが、それ以上にお返しをいただいたりして、もう頭が上がりません。
そのひととは別に、近所にも僕が十和田に来て以来目をかけてくれている農家さんがいます。 「どこかに借りられそうなビニールハウスはないですか?」って相談してみたら、空いている100坪のハウスを紹介してくださった。
そうしたらそのハウスの持ち主の方が、「おじいさんが亡くなって農業をやれるひとがいないんだけど、良いトラクターがあるからこれも使ってもいいよ」って言ってくれて。いま僕が十和田で農業できているのは、色んなところで周りのひとに助けてもらっているからですね。
十和田に来てからは3年経ち、今は借りているものも合わせてハウスが200坪くらい。今の状況で何ができるのかと考えてミニトマト、ブルーベリー、タラの芽、キヌサヤ、ブロッコリーを栽培しています。
野菜を中心にスーパーとか道の駅とか、売り先もだんだん増やしています。
上手なひとほど教えてくれる
いま、ブルーベリーに興味があるんです。農業の月刊誌があるんですけど、これに岩手で田んぼの上にブルーベリーを布でできたポットに入れて育てているひとが載っていたんです。ちょうど訳あって自分の名義になった田んぼをどうやって活用しようかと考えていた時に知ったので、それはおもしろいなと思って見に行きました。いきなり見学させてくださいって電話して行ったのに、どうぞどうぞと案内してくれて。
そこから更に「ブルーベリーの苗木をつくるんだったら一番上手なこのひとのところに行けばいいよ」と他のひとを紹介してくださって、今度はその方を訪ねるとその方も快く技術と経験を教えてくれました。
ブルーベリーの栽培って、機械も何もいらないのに、自由自在に増やせる。まだ僕はそんな風とは言い難いけど、一本の木から挿し木をして何十倍にも増やせますからね。やり方によってはすぐ大きくなるし、食べておいしい。それがおもしろいなぁと思った。
去年の2月から育て始めた苗木は、今年ようやくホームセンターに卸すことができました。まぁ、買い叩かれたんですけどね。師匠に電話したら「それじゃあ投げ売りだ」って怒られました。
農業って上手なひとほど教えてくれます。志が高いからだと思います。教えてくれないひとは、“教えると自分の稼ぎが減る”と思っている。一流のひとが教えてくれるなら、二流のひとが教えてくれなくても別に困らないんです。それに教えてくれない二流のひとってかっこ悪いじゃないですか。僕はまだ三流ですけど、ひとに教えられるひとには憧れますね。
自分で試行錯誤することも大事ですが、うまくやっているひとのところに行って、見て聞くのはこれ以上ないくらい良い勉強です。うまくやっているひとがなぜうまくいっているのか、実際にそこへ行かないと分かりませんし、そこからの繋がりもできます。
「ちゃんと育ってくれた」というのが嬉しいんです
せっかくある山を活かすためにも、ここを観光農園にしようと思っています。
農協を通して市場に野菜を出荷するっていうのは、キヌサヤもそうなんですけど、箱詰めして農協に持っていったらそこで終了。極端に言えばキヌサヤの形をしていれば(農協が定めている規格に合えば出荷できるので)お金になる。誰が食べるかわからないし、食べたひとがおいしいと感じるかどうかすらわからない。そういう意味では直売や観光農園だったらお客さんとの距離が近いです。
この山は、いい観光農園にできるという確信があってですね。
地元のひとはなんにもないって言うけど、僕みたいによそから来た人間、東京とかのコンクリートジャングルに住んでいるひとたちが十和田に来たら、感動するだろうと思うんです。奥入瀬渓流とか八甲田山の雪の回廊とか、他では見られないようなすごいアトラクションがあり、素敵な景色もあって入場料はタダ。テーマパークを歩いているより楽しい。そういう場所が近くにあって、八甲田山が綺麗に見えるうちの山は地元のひとが気付かない魅力を秘めていると思います。
今やっていることを続けていればブルーベリーの苗をつくりこなせるようになって、いつの間にか観光農園ができているのかなと。芽が出たとき、苗がうまく育ったとき、びっちり実ったときもそうだけど、植物に癒されてるっていうかね。ちゃんと育ってくれたというのが嬉しいんです。
自分が手塩にかけたものが形になるのは楽しいですよ。逆に見事に期待を裏切られたり、思った通りにいかなかったりすることもよくありますが、それも農業なんでしょうね。
(この記事は、青森県十和田市と協働で製作する記事広告コンテンツです)