ラフティング、スタンドアップパドル(SUP)、カナディアンカヌー。
日本各地には、水と戯れる自然体験があふれています。
そして「自然体験」とひとくちに言っても、体験を通して見える世界は様々です。
激流のスリルを体験できるものもあれば、のんびり湖上で静かな時間を過ごせるものまで。たとえおなじ自然の中にいても、どんな体験を通して自然と触れるかで、感じることはまったく違うことでしょう。
2018年に設立された「Towadako Guidehouse 櫂(かい)」は、カナディアンカヌーとネイチャーランブリングの自然体験ツアーを事業とするチームです。
日本有数の美しい湖・十和田湖をメインフィールドにツアーガイドを務めるのは、村上周平さんと太田泰博さん。
村上 周平(むらかみ しゅうへい)
北海道夕張郡栗山町に生まれ、岩見沢市で育つ。アウトドアガイド養成専門学校卒業後、北海道でリバーガイドとアウトドアショップの店員として働いたのち、2008年にガイド仲間の誘いで十和田に移住。青森県内でアウトドアグッズ販売・ツアー企画を手がけるノースビレッジ、ネイチャーエクスペリエンス グリーンハウス(NEx)でガイドを務めたのち、2018年の春からはTowadako Guidehouse 櫂のガイドとして活動中。
太田 泰博(おおた やすひろ)
青森県十和田市出身。高校卒業後は音楽活動のために上京し、バンド活動とアウトドアショップ店員をしながら暮らす。2010年に地元・十和田で音楽フェスを開催するべくUターンし、村上さんとおなじくノースビレッジに就職する。その後、ネイチャーエクスペリエンス グリーンハウス(NEx)でガイドを経て、2018年の春からはTowadako Guidehouse 櫂のガイドとして活動中。
Towadako Guidehouse 櫂(以下、櫂)の理念は、「漕いで、この地球をもっと好きなろう」。
緑豊かな十和田湖の中をカナディアンカヌーで漕ぐ。それがどんなふうに地球を好きになることにつながるのでしょう?
櫂でガイドをすることになった経緯から、ガイドやカヌーに対する想いをおふたりに伺っていくと、やがて「自然をじっくり見ること」の価値が浮き彫りになっていきます。
「十和田湖カヌーツアー×蔦の森ランブリング」から知る十和田の自然
── 櫂の事業について教えてください。
村上周平(以下、村上) メイン事業は、十和田湖での「カヌーツアー」と、日本屈指のブナの森・蔦の森の「ランブリング」をやっています。
── カヌーツアーとランブリング、それぞれどんな自然を見ることができるのでしょう?
村上 僕たちのカヌーツアーのメインフィールドは休屋(やすみや)エリアと言います。
休屋は、パッと見は岩が露出しているところが多く険しい環境なので、松とか針葉樹が多いんです。そしてその奥に広葉樹が広がっているため、秘境感が溢れているように感じます。
太田泰博(以下、太田) 宇樽部(うたるべ)エリアとはまた雰囲気が違いますよね。休屋は日没が綺麗だし、宇樽部は日の出がいい。
村上 うん。僕らはもともと、十和田湖の中でも宇樽部エリアをメインにカヌーガイドをしていたんです。
宇樽部エリアはブナの森主体の広葉樹に囲まれていて、やわらかい光が湖面に差し込みます。
太田 十和田湖全域ってわけではないけれど、これから宇樽部エリアも含め、もう少し広域的にカヌーツアーをしていきたいという気持ちです。
── ランブリングのフィールドである蔦の森の自然形態についても、教えてください。
村上 蔦の森は、純粋なブナの森。
太田 ブナが優占して森をつくっているんです。ブナって歴史もあるし、幹が白いから女性的でセクシー。だから、蔦の森は全体的にやわらかい雰囲気です。
村上 蔦の森は一周3キロの遊歩道がついていて、6つの沼を巡るコースになっています。
その中に小さな沢や湿地もあったりと、いろんな環境がコンパクトにまとまっている。だから、軽い装備でいろんな自然を楽しめます。その気軽さと目にできる自然の充実度が、蔦の森のランブリングの魅力です。
「自然をベースにしたカヌーツアー」の実現まで
── 現在は櫂でガイドを務めるおふたりですが、出会ったのはいつなのですか?
太田 もう8年前になりますよね(笑)
村上 いい出会いなんですよ〜! 僕が10年前にネイチャーガイドとして北海道から十和田市にやってきて、青森県内でツアー企画をやっている会社に入社して。ヤスくん(太田さん)は、その2年後におなじ会社に入社してきました。
太田 でもいちばん最初の出会いは、まだ僕が入社する前、十和田湖の宇樽部エリアでキャンプをしていたときでした。
村上 自分はガイドの仕事で早朝カヌーツアーをやっていたんですけど、キャンプをしていたヤスくんがテントを張っていたのが、僕のカヌーラックの横で。
太田 本当にいい場所だった。
村上 「邪魔だからどいてくれない?」っていうのが最初の出会い(笑)
── そんなふたりが今では櫂で一緒にガイドをやっている。
村上 ヤスくんと一緒にいる時間は、奥さんより長いですからね。
太田 僕は前の会社に入りたての頃、周さん(村上さん)のカヌーの漕ぎ方をお手本にしていたんです。フィーリングで、「このひとを真似よう」と思って。そこから今日まで、何度もふたりで現場に出ましたね。
そのせいか、周さんと一緒にガイドをやると安心します。
村上 ガイドって自然を相手にしている分、常に最悪のリスクを考えて立ち回らないといけないんです。だから、風の向きとか岩の位置とかでフォーメーションを組む必要があります。
そのフォーメーションは、ヤスくんとがいちばん組みやすい。培ってきた時間の長さがお互いの信頼にそのままつながっている気がします。
── もともと前職でもネイチャーガイドをされていたおふたりが、「櫂でガイドをやろう」となったきっかけはなんでしたか?
村上 「もっと自然をベースにしたカヌーツアーをしたい」という気持ちが、共通してあったからです。
── 自然をベースにしたカヌーツアー。
村上 「ただ湖でカヌーを漕ぐ」という体験を売りたいわけではないんです。まずは自然がベーシックにあって、カヌーを使うことで解像度高く自然を見ていくことができる。
太田 僕も周さんも、川下りとかカヤックとかスポーティな自然体験ツアーももちろん好きなんです。でも自然を最大限に楽しむことを考えたときに、水の中で融通が効くカヌーが道具として最適だと思いました。
櫂の代表はうちの父親なんです。オフィスは、ここ休屋エリアの喫茶店「憩い」の一角。もともと父が自営業で「憩い」を経営していたので、スムーズに拠点を持つことができました。
太田 この環境だったら自分達がやりたいことができると思って、今年の4月から、僕と周さんは櫂でガイドをはじめたんです。
漕げば、この地球をもっと好きになれる
── 自然を最大限に楽しむのに、どうして「カヌー」が最適なのですか?
村上 カヌーは、自然との距離がとっても短い。岸辺の近くまで行けるし、水の中も覗けるし、森全体も見渡せる。水と森(陸地)の境界線を「水界」と言うのですけど、その両方をじっくり味わえるのがカヌーの魅力だと思います。
村上 湖が凪いで、穏やかになる瞬間があるんです。そのときパッて景色を見るのが僕は好きですかね。
太田 カヌーは寄り道できるのがいいですよね。何かおもしろいものを見つけたときに、方向転換して側まで行って観察できる。
── 太田さんはカヌーガイドはどうやって学ばれたのでしょう。
太田 ガイドに関しては、前職で周さんや会社のみなさんに教えてもらって覚えました。もともと、東京で音楽活動をしていたのですけど、地元・十和田で音楽フェスをやりたいと思って、2010年にUターンしたんです。
そのときに、働き先として雇ってもらったのが前職の会社で。だから最初はカヌーは全然漕げませんでした。
でも少しずつ思い通りに漕げるようになったときに、カヌーを通して学んだことがあって。
── カヌーを通して学んだこと?
太田 なにをやるのにも当てはまると思うんですけど、最初は自分の身の回りのことや言われたことをこなすだけで手一杯じゃないですか。半径5メートルの世界しか見えない。
だけど、基礎が身につくと今まで見えなかった遠くのものも見えるようになってくる。
既知が増えると未知も増える。そんな教訓を、カヌーを通して得ました。
── 自然の素晴らしさだけではなく、人生教訓も得たのですね。
村上 昔のひとは、自然から日々に活きるいろんなことを学んだと思うんです。
自然と共に生きて、自然を非常に見てきたからこそ、育まれた精神や文化や知恵があるのではないかなと。
── そういえば村上さんは以前、「自然を個として見ること」についてお話ししてくれました。
ひとと同じように、ブナも全く同じブナなんて存在しません。そうやってじっくり自然を見ていくと、ひとつの生命には個性があって、自分以外の命(個性)が無数にあることに気づく。
個を見るということは、ただ美しい姿を見るだけでなく、ハンティングのシーンや骸(むくろ)など「生」だけでなく「死」の場面を垣間見ることもあります。
そういうふうに感性を磨き個として自然を見られるようになると、きっと、ひとにも優しくなれると思います。
村上 自然を見ることは、ただ癒されるためだけではなく、生きていく上でとてもだいじなことだと思います。
自然をじっくり見る手段っていろいろあると思うのですけど、僕らはカヌーが好きなので「漕いで、この地球をもっと好きになろう」という姿勢を櫂の理念にしたんです。
ひとと自然と未来をつなぐ、インタープリターでありたい
── カヌーツアーをメインした櫂が目指すのは、どんなガイドでしょうか?
村上 「ひとと自然と未来をつなぐ」ガイドです。
やっぱり来てくれたひとには「自然って綺麗だね」で終わるんじゃなくて、もう一歩踏み込んで「どうして綺麗なんだろう」と考えてもらいたいんです。
僕らガイドとしては、その「なぜ」を解説できることが大切だと思っています。「なぜ」を解説されたら理解が深まるし、理解が深まることでまた新しい疑問が生まれたり、今まで以上に自然が好きになれたりするから。
自然の価値に気づく人たちが増えれば、未来にも残していけると思っています。僕は子どもが生まれたので、やっぱり子どもが大きくなってもこの自然を見せたいという想いがあります。
太田 そのために「カヌー」「自然」「地域」、この3つの切り口で十和田湖エリアの自然の素晴らしさを伝えていくことがミッションですかね。
今は、カヌーと自然と地域の魅力を最大限に伝えられる、ツアーのメニューを模索中です。
カヌーはここまでお話ししてきたような、カヌー体験の魅力について。自然については、ひとつひとつの特徴について。地域については、この地域の歴史や文化についてガイドしていきたいです。
村上 ガイドって、インストラクター要素が強く思われがちなこともあります。でも僕らが、この自然の魅力を伝えるために追求していきたいスタイルは、解説者、つまりインタープリター(*1)。としてのガイド。
(*1)インタープリター:自然と人との「仲介」となって自然解説を行う人物を指す。
ひとと自然と未来をつなぐインタープリター。それが好きを追求した僕たちのひとつの答えだったのだと思います。
編集/小山内彩希
写真/小松崎拓郎
(この記事は、青森県十和田市と協働で製作する記事広告コンテンツです)