ふたりで雑誌をつくる夫婦。
お米を栽培しながら馬と暮らし、地域で循環する経済を志す夫婦。
ふたりの名前を取ってつけた、パン屋を営む夫婦。
ぼくが地域を訪れて出会ってきた方々のなかでも心に残るのは、パートナーと力を合わせて暮らす夫婦の姿です。
自分のことのように想えるひとがいること。お互いが自立し、助けあい、尊敬しあえる関係にあこがれて、付き合って2年を迎えたばかりの彼女と同棲をすることにしました。
……と、なぜこんな個人的な話をしているのかというと、この記事は編集部員の一人ひとりが自分たちの「これからの暮らし」を考える特集【ぼくらの学び】の企画だからです。
今回ぼくは、「ふたり暮らしに学ぶ」ことをテーマに、彼女のために、自分のために、そしてこれから同棲しようとしているカップルや、結婚生活を始めたばかりのご夫婦の暮らしの参考になるよう、ふたり暮らしをしている先輩に会いに行きたいと思います。前半は、「同棲」から「プロポーズ」に至るまで、そして「結婚生活」についておうかがいしました。ふたりで心地よく暮らしていければ、その先のひとつの答えに、結婚や婚約があると考えたからです。後半は、パートナーと協力して仕事をしている方々に、「一緒に仕事をつくる方法」、「パートナーとだからこそできる仕事のやり方」を教えていただきました。
25歳になるぼくが今、もっとも必要だと考える「パートナーを想いやる心」を知り、学び、その心を養いたいと思います。
さて。前置きが長くなりましたが、初回となる今回。2年間の交際後、2年間の同棲を経て結婚に至ったタナカユウキ・ユウカご夫妻に、同棲を始めた頃のお話をうかがいました。
誰だって、日常生活でゆずれないことはあります。
── お邪魔します! はっ(何かを見つけて)。
タナカユウキ(以下、タナカ) どうされました?
── ……いきなり口を出してしまい恐縮なのですが、この棚にしまってあるタオル、同じ種類で統一されているんですね。
タナカ はい、そうですね。
── ぼくも同じタオルを揃えるのが夢でした。ちょっとお金を出せばできることだと思いますが、だからこそ後回しにしてしまっていました。
タナカ 家電製品の説明書や保証書を入れているバインダーも、我が家は統一して同じメーカーのものを使うようにしていますよ。
── お部屋もとても綺麗で家具の色味も統一されていらっしゃるんですね……。
── 暮らしているものに対して、しっかりとしたこだわりのようなものを感じます。
タナカ こだわりが強いのは、ぼくですね。そもそもの前提として、ぼくは毎日、自分にとって大切なことに集中したくて、日常に起こる些細な出来事に費やすエネルギーを最小限にしたいと思っています。そのために何をするにも効率化したいんです。
ものを選ぶために、あれこれ悩んだり考えたりする時間や労力をかけたくないから、先ほどのタオルも、全て同じものを揃えて、いつも同じ場所に置くようにしているんです。
タナカユウカ(以下、ユウカ) もっと細かい例だと、わたしはドライヤーの電源コードを等間隔でまとめて最後にくるくるって縛っていたんですけど、彼はそうじゃないんです(笑)。
タナカ ぼくは電源コードを束ねてから結んで、定位置に戻したい。結びたい派です。
タナカ そもそもなぜユウカのやり方に合わせないのかというと、ドライヤーのコードの結び方であれば、ユウカのやり方だとほどけるリスクが非常に高いからで。
ユウカ ドライヤーの電源コードの結び方に、リスクなんて考えたことがない(笑)。でもその方法が効率的だと思ったら、合わせられるかな。
タナカ だね。良いなぁって思える型が見つかると、その方法じゃないと落ち着かなくなる。ユウカから教えてもらった下着の畳み方は、すごくコンパクトになるし、効率もいい。納得して、今はユウカ直伝のやり方で下着を畳んでいるよね。
同棲から結婚に至るような、良い関係でいる秘訣って?
── お話いただいたようなこだわりがあっても、おふたりが仲良くいられる理由はなんでしょうか? どんなカップルでも、日常生活でゆずれないことや思い入れの強いことがあると思うんです。
タナカ 一緒に住んでみないと見えてこない、お互いの生活観ってありますよね。ぼくは、ユウカがぼくの生活に合わせてくれているのをすごく感じています。物の置き方やしまい方となると、ぼくはこだわりが強いので。
ユウカの立場に立ってみると、「えっ、こんなふうに物をしまうの?」とか「こんなところまでこだわるの?」と思うことが、今も結構あるはずなんです。
ユウカ めっちゃありますね。性格的な面で、わたしは大雑把で彼が繊細。整理整頓が上手です。わたしの暮らし方に合わせてもらうとなると、彼のやり方よりも少し部屋が汚くなったり、物の置き方が雑になったりする。
だったら、より良い生活観に合わせたほうがいいと思って、彼の考え方に寄り添ってきたところはあります。自分自身の生活の矯正にもなるかなと(笑)。
── 一緒に暮らしてく上で、ふたりが別々のこだわりを持っている場合、どちらかがどちらかに歩み寄らないと、うまくいかないことのほうが多いと思います。
ユウカ そうですね。しばらくは彼の価値観に寄って楽しく過ごしていたけれど、途中からはお互いの価値観をぶつけてみる時期もありました。
タナカ 同棲して1年くらい経った頃かなぁ。
ユウカ 彼のやり方に合わせ過ぎなくてもいいんじゃないか? という疑問が湧いてきたんです。どちらかが相手の主張を受け入れて、自分の価値観を溜め込んでしまうと、結果的に喧嘩をしたり日々のストレスが溜まってしまったりすることにつながります。
相手の生活観に違和感を感じるときは、マメに、溜めずに、その都度伝えると良い関係でいられると思います。わたしたちは、お互いが納得いくまで話し合うことを経て、お互いを尊重できる関係になれました。
同棲に必要な家具。どんな選び方をしてきましたか?
── ここからは、ふたりで家具や家電を選ぶことについて教えていただきたいです。というのもぼくと彼女はシェアハウス住まいから同棲に至るので、お互いに持っている家具がほぼないのです……。
ユウカ わたしたちは一緒に住む前、お互い寮で暮らしていたので、持ち寄った家具もあります。これは彼がもともと寮で使っていた椅子です。
タナカ この椅子がずっとほしくて、初任給で買ったんです。どうぞおかけになってください。
── 失礼します(タクロコマ、座る)。
── すごい。めちゃくちゃ座り心地がいいですね。
タナカ これは天童木工で販売されている、日本の家具デザイナーの長大作という方がつくった低座椅子です。
ユウカ この椅子に合わせた、もうひとつの低座椅子とダイニングテーブルを買いました。基本的に家具の投資は一回きりなので、後悔しないように選ぶほうが良いと思います。
── じつは寝る環境もちゃんと整っていないので、ベッドを買いたいと思っています。ですが、大きな買い物になるので、どんなベッドにするか決めかねていて……。
ユウカ ふたりのベッドを買うなら、セミダブルじゃなくてダブルのほうが絶対いいですよ。
── えっ、セミダブルのベッドの購入を検討していました。
タナカ ストレスなく足を伸ばせて、かつ身体を広げられるスペースがあったほうが疲れがとれると思います。睡眠はとても大切ですから。
── 彼女は仕事の時間がやや不規則なので、ベッドは投資します。ちゃんと寝てもらって、ここぞという時に底力を発揮できるように。
タナカ ですね! それから、ベッドを選ぶ時に気をつけて欲しいことがあります。背が低くて角(かど)のあるベッドフレームは絶対選ばないほうが良いなと思いますよ。しょっちゅう足をぶつけるので。
ユウカ わたしは足の小指をぶつけちゃって、骨を折りましたもん(笑)。
── えぇっ、本当ですか。
タナカ ちゃんと4本足で、そこそこ高さのあるベッドフレームが使いやすいはずです。部屋が広くて歩くスペースに余裕があるなら、低くて角のあるベッドフレームを選んでもいいと思いますけどね(笑)。
タナカ 最後にもうひとつ。枕の上の部分のヘッドボード、ここにホコリが溜まるので、ヘッドボードは1枚板の型をおすすめします。
── 持ち帰って、彼女に相談します。
ふたりのお金はどうやって管理していますか?
── 家賃や光熱費、食費といった、ふたりで出し合うお金はどうやって管理していますか?
タナカ お金は大事なことですよね。まず、ぼくらはお互いの財布を分けた上で貯金できるように、ふたり共用の口座をつくっています。貯金用の口座と生活費用の口座がありまして、毎月給料が入ったら、ふたりの貯金口座と生活費用の口座に、ふたりで決めた額を振り込むことでお金を管理しています。
ユウカ この仕組みにすれば、お互い口座にお金を振り込んだら、その後に残るお金は自由に使えますよね。お小遣い制にすると、わたしか彼のどちらかが管理しないといけないし、変な罪悪感が生まれそうで(笑)。
── 罪悪感というのは?
ユウカ 「俺はこんなに仕事を頑張っているのに、これだけしかお金が使えないのか」って、彼に思われるのは嫌です。自分がお金を使う時に、彼に対して申し訳ない気持ちにもなってしまうと思います。貯金の口座と生活費用の口座をつくったほうがお互いストレスが少ないだろうと考えて、今のお金の管理の仕方になりました。
── 生活費の口座に含まれるのは、家賃と光熱費、あとは食費と日用品。
ユウカ あとはネット通信費だとか、ふたりで共有するもの全てを生活費用の口座から引き落とします。この口座用のクレジットカードもつくったので、食費は全てカード払いです。ポイントも貯まるので便利ですよ。
── たとえば家具や家電を買う時は、どういうお金の使い方をしていましたか? ふたりで同額出し合っているのか、こだわりが強いと仰っていたタナカさんが、ご自身だけでお金を出すこともあるのか、教えていただきたいです。
タナカ ふたりで使う家具家電は、ふたりの貯金口座から出しますね。ベッドも本棚も、鏡にしても。お金を均等に使えるように、家具と家電は基本的にふたりの貯金用の口座から出して買いましたよ。
貯金口座は結婚資金や引越し用の資金にも当てていました。結婚する前までは結婚式用の資金として、月に5万ずつ貯金していましたね。
── 結婚を視野に入れると、毎月それくらいの貯金が必要になってくるんですね。
ユウカ 貯める期間や金額にもよると思うので、一概には言えないですけどね。またその後の生活に合わせて、貯金する金額を変えましたよ。
── お金はトラブルのもとですから、おふたりのお金の管理方法は明快で勉強になります。
ユウカ ふたりで出し合っている金額を明確にしておくべきだと思うんです。毎月口座には同額ずつ入れているので、仮に同棲が破綻しちゃっても、計算はしやすいです(笑)。これをお小遣い制にしちゃうと、何かあった時に揉め事の原因になると思います。
── ……最悪のケースを考えておくことも必要ですね。今日は本当にたくさんの学びがありました。ありがとうございました。
タナカ・ユウカ いえいえ、こちらこそありがとうございました。お気をつけてお帰りくださいね。
── (帰り際の玄関にて)あれ、この棚上にあるハンカチも、ふたりのものとして統一しているんですか?
タナカ ハンカチはユウカと共用しているんです。洗濯したら、畳んでここに置いておきます。
ユウカ 指輪と時計も家に帰ってきたら外して置いておいて。朝、ハンカチと指輪と時計をセットで持って出かけるんです。
- 学び1)相手の生活観に違和感を感じるときは、マメに、溜めずに、その都度伝えると、良い関係でいられる
- 学び2)ふたりで出し合っている金額は明確に。そのために生活費用の口座と貯金のための口座をつくり、お金の管理をする
- 学び3)家具の投資は一回きりなので、後悔しないように。ベッドはストレスなく足を伸ばせて、かつ身体を広げられるスペースがあるサイズを選ぶ
お話をうかがったひと
タナカユウキ
88年生まれ。おなかの弱い一級建築士。ライター。建築写真家など。好きなことは、小さな居酒屋で好きなひとたちと語りあうこと。いくつかの媒体で“けんちく”について書いたりしています。「Archi.etc」を運営。
タナカユウカ
90年生まれ。会社員。普段は会計のお仕事、休日は夫のアシスタントをしています。音楽、おいしいもの、心のこもったデザインが好き。趣味は散歩をしながら街を開拓していくこと。