語るを聞く

【妖怪を学ぶ#6】「これからの暮らし」と「妖怪」のつながりって何?

これからの暮らしを考えるために【ぼくらの学び】特集、はじめます。

編集部自身のこれからの暮らしを考える企画【ぼくらの学び】。僕は幼い頃に、地元にあるお城のお堀で河童(かっぱ)を見た記憶があります。あれは本当に河童だったのか、それとも他の何かなのか、今でも会うことができるのか……。
 
民俗学者の柳田國男が書いた『遠野物語』を読むと、妖怪は日本の暮らしに古くから根付いている存在ではないかと感じられます。実際に遠野では、多くのひとが妖怪の存在を受け入れ、目には見えないけれど存在するであろう何かを大切に扱っています。
 
また別の地域へ取材に言っても同じようなお話を聞く機会があるかもしれません。これからの暮らしを考える上で、妖怪のような目に見えない不確かな存在について学ぶことは、必要なことに思えたのです。

2016年、5つの記事にわたってお届けしてきた【妖怪を学ぶ】。今回はそのシリーズの振り返りと反省を兼ねて、12月に編集部が拠点にしていた世田谷代田の「Hi Monsieur(ハイムッシュ)」さんに集まりました。

収録前に各自仕事をする様子
収録前に各自仕事をする様子

「学び」を振り返る

くいしん(以下、くい) 今日は「ぼくらの学び」特集の【妖怪を学ぶ#6】と題して、#1から#5までの記事をつくってみてどうだったのか、何を学べたのかというところを振り返りたいと思って、お集まりいただきました!

立花実咲(以下、立花) 集まりました!

伊佐知美(以下、伊佐) 毎年夏になると妖怪の話って増えますが、なんだか2016年は特に多かった気がしています。

タクロコマ(以下、タクロ) たしかに。

立花 記事で取り上げたもの以外に、雑誌『ユリイカ』で特集が組まれたり、フリーライターのさえりさんも妖怪の記事を書いていましたよね。

くい 僕の考えでは「これからの暮らしを考える」ことと「妖怪」を学ぶことはめちゃくちゃ直結しているんです。その前提をもっとていねいに読者の方々に共有したかったなぁと思い、今日の機会をつくってもらいました。

伊佐 「これからの暮らしを考える」と「妖怪」のつながりとはなんですか?

くい 妖怪って、人々が暮らす様を具現化したような存在だと思うんですね。取材を始める前からなんとなく思っていたのは、ひとの暮らしによって、妖怪が生まれているのかな?という仮説があって、それを取材でお話を聞いて確認していったんですけど。結論としては「めちゃくちゃ直結している!」って思いました(笑)。

伊佐 その仮説はくいしんさんの中で満たされたんですね。そもそも、人々が暮らす様を具現化したって、どういう意味でしょうか?

考えるくいしん

くい たとえばひとが山で暮らしていて、山の中は、迷子になりやすいと。怖いから、つまり妖怪が出るから、気をつけよう!みたいな話ですね。それをていねいに言うと「妖怪は自然への畏敬を具現化したものである」みたいな、田中さんの話になるんです。

伊佐 ふむふむ。

妖怪のとっつきやすさ、とっつきづらさ

伊佐 ちなみに私が一番納得したのが、生前の姿で現れたときに「幽霊」、生前の姿と異なる姿で現れたときに「妖怪」になると言われているという考え方でした。

くい 大妖怪展の安村先生のお話ですね。

伊佐 もうこれくらい、妖怪について素人なんです、私。

くい でも僕も「幽霊と妖怪の違い」はすごく、なるほど!ってなりました。

立花 そもそも妖怪ってなんだろうとか、妖怪がなぜ流行っているのか考えたことがないひとにとっては、「妖怪と暮らしが直結している」と言われてもイメージしにくいのかもしれないですね。

伊佐 そうそう、そうです。「なぜ日本のひとはここまで、妖怪や、物の怪といった異形のものへ高い興味関心を示すのか?」という疑問もありますが「そもそも、関心を示しているのか?」が大前提として納得しきれない、という方は多そうです。

タクロ そうですね。僕はほとんどの取材に同行させてもらったのですが、#4は素人目線では興味をもちやすいですが、#1のほうが理解しやすかったです。

伊佐 そうですね。#1は一見するととっつきづらいですが、読むとスルスルと分かる。#4は、入り口として知っている単語が多いから入りやすいのですが、腑に落ちた感はそこまでないかもですね。

タクロ ゴジラもポケモンも身近だけど、現実の暮らしに存在しなくてファンタジーだから、自分の暮らしと比べられないんですよね。逆に田中さんが仰ることは、基本的に全部自分たちの暮らしのことでした。

だんだん話が深くなっていく「ぼくらの学び」

伊佐 くいしんさんは、どの取材が一番楽しくて「これが聞きたかった!」というお話でしたか?

くい 田中さんのお話(#1と#2)を聞いた時点では、人々の暮らしと妖怪の関係性に「これこれ!」って思い、畑中さんの話を聞いたときには「妖怪は祖霊でもあり、人々はゴジラにも同じことを感じているのかもしれない」という話に「これこれ!」って思ったんですよね……。つまり学びを深めていったので、より深いことが聞きたくなって、聞けた、という話です。

伊佐 #4は、いろいろ文脈をわかっていないとちょっと難しいですよね。畑中さんが仰っていた「妖怪は祖霊でもあり〜」というのは、「妖怪」と「祖霊」が、どうつながっているのかある程度文脈を理解していないと届きづらいんでしょうね。実咲さんはどうですか?

立花 一文だけ読んでもあまり理解できないんですけど、私はゴジラという映画自体、じつは小さい頃からほぼ全シリーズ見ていて。

くい へぇー、すごい。

立花 当時はゴジラの映画がつくられた時代背景を知っていたわけじゃないんですが、社会派だということは理解していたということもあり、「暮らし」という文脈でも比較的距離は近かったです。あとは「妖怪編」が始まったときに「人は何かを妖怪のせいにしたいのでは」という説が私の中ではあったので、その「何か」が祖霊だとしても、納得できました。

くい そもそも立花さんは妖怪好きですよね?

立花 はい、興味津々です。

くい 「ぼくらの学び」は、取材を重ねるごとに徐々に学びを深めていくシリーズなので、#1より#5、#5よりも#10のほうが前提とする知識が増えていきます。だからいきなり#5とかを読者の方が読むと、難しく感じるかもしれません。回を重ねるごとに、今までの記事も読んでもらう工夫をより意識したほうがいいですね。

伊佐 妖怪の特集は、もともと妖怪に興味があるひとは単体で読めるとして。そうでない場合は、シリーズを最初から総なめするのがよい、と。ぜひ今一度、読んでみて欲しいですね。

立花 白黒つけられないもののよさを伝えたい!

考えるくいしん3

編集長・伊佐は妖怪っぽい場所が好き?

タクロ 伊佐さんは、妖怪っぽいエネルギーがあるところ好きですよね。遠野や、群言堂もそうじゃないですか。

伊佐 遠野に最初に行ったときに、語り部の方に取材をして博物館に行きました。そこで遠野の地形や歴史の話を聞いたんです。年配の方は当たり前のように妖怪の存在を前提にお話をされます。ただ、遠野の方々は、私と同世代の方々も、妖怪の存在を認めていて、妖怪が「いる」前提で話ができちゃうんですね。「遠野は、妖怪の町だからね」とか、「あそこは妖怪の伝説が残っているからおもしろいよ」とか。

タクロ 遠野は歴史的にも飢饉が多かった地域なので、育てることができずに捨てられてしまった赤子に、食べ物は与えられなくてもせめて水だけでも与えたいという親の気持ちがあって、川に捨てられた赤子がカッパになった……みたいな話を、いろんな方から聞けます。

立花 私は絵本にたくさん出てきたから、有無を言わさず「妖怪はいるもんだ」と思っていましたね。太ったおじさんの後頭部が、お肉で3つに食い込んでいたりすると「あれはじつは妖怪の口なんじゃないか」とか思う子どもでした。

伊佐 発想力がすごい……。

タクロ 僕は幼い頃に「ゲゲゲの鬼太郎」を観ていたので、当たり前のようにいると信じ込んでいました。

くい とにかく編集部みんなが妖怪はいると思っていることはわかりました(笑)。

自分と似た感覚のひとに出会えると感動する

伊佐 くいしんさんは、特集5記事を通して、妖怪について、納得いきましたか? それとも、もっと興味を持ちましたか?

くい もっと興味を持ちました! 僕が「妖怪はいます」と言う理由は、妖怪って生物ではなくてツチノコみたいなものではないからです(笑)。「妖怪」と呼ばれる、人間の気みたいなものってあるよね、ということで。だから「気のせい」っていうけど、それが時と場合によっては「妖怪のせい」ということになるんだと思います。

タクロ ちなみにくいしんさんの妖怪はいるのか?という問いに対して、一番ビビビッときた回答はありましたか?

くい 鬼太郎茶屋の店長の金城さんですかね。「だから僕は、妖怪は存在すると思っているんですが、感じられるかどうかはひとそれぞれです」。これです。

なんでかって、僕自身が一番「えっ」って思ったんですよね。「いる」って断言してるんですよ、金城さんは。前のめりで「あっ、いますいます」みたいな。「それを記事に書いてもいいですか?」って聞いたら、「もちろんです、いると思っているので」って。グッと来ました。

立花 断言する強さ。疑う余地無しだったんですね。

くい 30代半ばで、東京で働いている金城さんに「あっ、いますよ」と言ってもらえたことの衝撃?というか、「あっ、やっぱりね!」みたいな共感は大きかったですね。

タクロ たしかにめちゃくちゃふつうに、いますよ!って仰ってました。

伊佐 大事ですよね、同志を見つけられたような気持ちを抱けることは。

くい やっぱり、自分と似た感覚のひとに出会えると純粋に感動します。自分にとっては、この特集はそういうものでした。実際に会ったときに「妖怪の記事、よかったです」と言ってくれる方がたくさんいましたし。また夏になったら、いくつか記事をつくっていきたいなと思います。

伊佐 たしかに。夏の風物詩にしていきましょう!

立花 お盆もやりましょう!

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くいしん

編集者。1985年生まれ、神奈川県小田原市出身。→ さらに詳しく見る

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【ジョブチェンジを学ぶ#0】3年以上同じ会社で働いたことがないふたり。編集長・伊佐とくいしんの転職話 【妖怪を学ぶ#5】大妖怪展監修・安村敏信先生に聞く!「どうして今、妖怪がブームなんですか?」

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