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【徳島県神山町】えんがわオフィス 隅田徹の「この町に投じる次の一手」

2013年、徳島県の神山町に「えんがわオフィス」で代名詞となった(株)えんがわを設立し、4Kコンテンツの配信等の新事業に取り組む隅田徹さん。今回は、「神山町」という地域の仕事についてうかがいました。

多様性があるから、森や棚田の景観維持の活動ができる

── さっそくですが、隅田さんが感じる神山町の魅力を教えてください。

隅田徹(以下、隅田) 神山町は他の田舎よりも多様性がありますね。ぼくらのような映像やIT関連のことに関わる人がいれば、芸術家や自然に関わる仕事をする人もいますし、自給自足に近い人もいます。

よく田舎にいるような人ばかりではなくて、異なる人が混在しているからおもしろい。地元のおじいさんやおばあさんもその中に入っていくんですよ。土地の良さよりも、人が人を呼んで、さまざまな人が集まった「人の魅力」でしょうか

── 町よりも、さまざまな人が集まる「人の魅力」なんですね。

隅田 そうだね。農業や林業、飲食業に加えて、アートやテクノロジーなどの幅広い活動を受け入れる町がいいんじゃないかと思っています。たとえば棚田の景観維持のお手伝いができるのは、映像の本業があるからです。田舎の唯一の課題は寛容性かもしれない。

僕のようなIT関連の仕事をしている人や写真家、自給自足の人や現代アートを描くような人も分け隔てなく受け入れることで、結果的に森も棚田も維持できるようになることがあります。幅広い活動を受け入れる寛容性があるほうが、人が町に入りやすい。事実、林業や農業だけでは行き詰まっている自治体が多くあります。

㈱えんがわ 隅田徹

── 棚田の景観維持の話が出ましたが、地域の活動に興味を持たない人もいるのではないでしょうか?

隅田 その土地で過ごし、いつも森に触れているだけで、自然のバランスを少しでも維持したいと思ってくる。「この木は生え方がおかしいから、自然の植生になったほうがいいよね」と、手入れをしたくなります。そのほうが川の水が綺麗になって、人間や動植物にとってもいい影響があるから。

森にいると理屈抜きに自然と感じられることだから、東京にいて頭で考えていることとは、ちょっと違うと思います。

外から来た人と地元の人が交流できるように

── 地域の人との関わりについて、日々どのようなことを考えて暮らしているのでしょうか?

隅田 繰り返しになりますが、地域では多様性と寛容性が一番大事だと思っています。人口が少ない田舎では、同じような趣味嗜好の人が集まりがちです。ぼくは神山町の外から来た人間だから、移住者や定期滞在者、仕事で来た外の人たちと、地元の人とが交流できるきっかけ作りができたらいいなあと。

えんがわオフィス

── 具体的なアイデアはありますか?

隅田 来春完成予定の宿「WEEK Kamiyama」ができたら、住民も用事がなくても「なんとなく来れる」という場所にしたいと思っています。ちょっとハードルを下げて、野菜やお菓子などの手みやげを持ってこなくても気軽に来れるような。

── いいですね。みんなの顔見知りがいると、住民の方は訪れやすそうです。

隅田 そうそう。「WEEK Kamiyama」では、世代を超えて人が集まる場になるためのことをやっていきたいです。宿泊業だけだったら他にもあるわけですから。えんがわオフィスでもある程度「人が集まる場所」を実現できましたが、まだまだですね。

── 「WEEK Kamiyama」で人が集まる場ができるのが楽しみですね。

隅田 ありがとう。もちろん、「えんがわオフィス」でも用意しているものがあります。地元のおじいさん、おばあさん100人を撮った映像ができるんですよ。

── 100人! すごいですね。

隅田徹さん

隅田 この映像の常設試写室ができたから、「いつでも観られますよ」って。神山町のみんなが知っている人が映像にでてくるので、観に来た人たちの滞留時間が長くなり流動人口が増えるはずです。今より多くの人が「えんがわオフィス」に集まってくれるかも。

誰でも気軽に来れるように映像を撮りに行って、撮った作品をずっと流してしまおうと考えています。ひとりにつき1分間、もし自分が映っていたら、気になるよね(笑)。

── 気になります(笑)。100人分となると大長編ですね。

隅田 100人のおじいさん、おばあさんとお祭りなどの季節の映像を入れて、2時間半くらいかな。50年以上前の神山町の映像を時折入れています。

── 50年も前の映像ですか……。

隅田 「なにも自分に話すことない」と言っているお年寄りの方でも、昔話に花が咲きますよね。

── その構想はいつ思いつかれたんですか?

隅田 2014年のはじめくらいかな。それから1年間撮りためたんですが、名づけて「神山アーカイブス」です。完成予定は2015年の2月末なんですけど、できたものからどんどん流していこうと思っています。

取材後記

「世代を超えて人が集まる場になるためのことを多くやっていきたい」など、仕事を通じた町との関わりについての話をお聞きした今回の取材。はじめて訪れる土地での移住者なりの地域を考えた暮らしとして、田舎や地方に興味のある人にとって参考になると思います。

お話を伺った人

隅田 徹(すみた てつ)
(株)プラットイーズ 取締役会長(株)えんがわ 代表取締役社長
1962年大阪府生まれ。英語ニュースの配信を行う会社を経て、2002年に(株)プラットイーズを設立。2013年、神山町に「えんがわオフィス」を開設。同年、(株)えんがわを設立し、4Kコンテンツの配信等に関する新事業に取り組む。

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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