「藍染めは古いけど、若い人にとっては新しい暮らしの文化だよね」──そう語るのは、徳島県神山町で、草木染め職人としての生活を営む瀧本染昌さん。「藍染め」の魅力とは、どのようなものなのでしょうか。
藍染めは、自然に寄り添う暮らしの仕事
── 藍染めをはじめた経緯を教えていただけますか?
瀧本染昌(以下、瀧本) 社会人になってから、10年ほど徳島県外で暮らしていたんよ。外から見るといろいろな故郷の良さを感じられるようになって、また徳島で暮らしたくなってね。徳島の伝統文化の藍染めは、自然に寄り添う仕事がしたいという自分の考えにすごく合致していました。藍染めをやりたい気持ちに、火が付きました。
── 藍染めは、自然に寄り添っているのですか?
瀧本 藍染めは原料が自然のものだから、使うものはすべて土に還るんよ。原料のたで藍という植物の種を畑で栽培したら、その生葉で染めたり、葉っぱを発酵させたものと木を燃やした灰から得られる灰汁や、小麦の皮などをいっしょに混ぜて再び醗酵させた液で染めたりする。
できた藍の液を使って染め終えれば廃液になるけれど、来年の藍を栽培する肥やしになるから畑に蒔く。こうして土に還して、また来年種を蒔いて藍を育てる。地球にも負担の少ない、自然の循環になっているよね。
古き良き文化を見つめなおしていかんと
── 藍色はジャパンブルーと言われていますよね。
瀧本 室町時代以降、藍染めは庶民の衣服や生活財などのあらゆるものを染める生活の基本色として、日本の人々の生活に密着しとったみたいやけんな。だからジャパンブルーって言われとんよ。藍の成分は衣服の素材を丈夫にすることはもちろん、抗菌や防虫、蛇避けの効果があるけんね。徳島は、藍染めの原料である「すくも」の生産地として有名だったんよ。
── 藍染めは暮らしに溶け込んでいた文化だったんですね。
瀧本 うん。古き良き文化をもっと見つめなおしていかんとと思うよ。昔の、身近なものを使って生活する暮らし方は、とても理にかなっていて、あたりまえのように持続可能なスタイルが基本にあったんやと思う。いまの便利な機械や化学の発達はもちろん素晴らしいんやけど、環境を汚染して取り返しのつかないほど、やり過ぎになってるところもあると思う。
藍染めに限らず、古き良き日本の文化を見つめなおして、ひとりひとりが少しずつできる範囲や楽しめる範囲で生活に取り込んでいけば、豊かになるんちゃうかな?という思いがあるんよ。暮らしの中で、天然の染めものをひとつでも身につけてみたいと思うだけでもいいと思う。ぼくの場合は、衣・食・住の「衣」に色をつける古き良き文化に目をつけて生業にしているだけやから。
知るきっかけを、発信できたらええな
瀧本 普段、あたりまえに着ている衣類の色はどのようにして色が付けられているか、考える機会ってあんまりないよね。衣類の色は付いていてあたりまえだよね。でも昔の人は、衣類に色が欲しかったら天然染料で色を付けるしかなかったし、それをきっと楽しんでいたんやと思う。
化学染料が一般的になった今だからこそ、天然染料の藍染めは古いものやけど、若い人にとっては、むしろ新しいよね。
── たしかに、捉え方を変えることができますし、藍染めの価値は上がっていますね。良いものってなんだっけ?と見返しているのが今なのかもしれません。
瀧本 普段の生活では、衣類の色の染め方なんて知るきっかけがあまりないけれど、草木染めの仕事をしている立場だから、その魅力を発信していきたい。知るきっかけをな、みんなで作れたらいいと思うよ。
── みんなで知るきっかけを、作りたいですね。
瀧本 染めものに興味を持って実際に徳島まで会いに来てくれる人もおるけん。若い人は学びたくて、ぼくら作り手は人の手がほしい。お互いが「おもしろい経験ができた」「とても助かった」と言い合えるような、藍染めをはじめ草木染めや、田んぼや畑など野良仕事を体験できる場所を、近い将来に必ず作りたいと思っているよ。
見たり知ったりできるきっかけがあれば、暮らしに必要なものをより豊かに選択していけるライフスタイルが良いと思う人もいると思う。これからは、高度経済成長を支えてくれてたおやじ世代の意識よりも、次の時代を担う若い世代の意識が変わる必要があると思うけん。だから若い人に来てほしい。「こっちには受け皿があるよ」って。そうやってつながったら、またなにか新しい豊かさが生まれると思う。
お話を伺った人
瀧本 染昌(たきもと そめしょう)
(昭和57生)徳島県出身。京都の染工房で修業したのち、地元徳島で独立。幼少時の楽しい思い出から神山へと導かれ、染めものを生業としながら稲作や畑をして家族で生活を営む。
藍や柿渋の他、様々な草木を使って染める染めもん屋。天然染料と、麻、絹、木綿などの天然繊維にこだわって自然の色目を大切に、自然体に染め上げている。
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- 有料オンラインコミュニティnote「灯台の管理人」
- [1]地に還る藍染めをはじめるまで。神山町での暮らし|瀧本染昌さん
- [2]都会の若者と田舎をつなぐ構想とは?草木染め職人|瀧本染昌さん
- [3]あなたにとっての地に足の着いた生活とは?|瀧本染昌さん
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