前回は、瀧本さんが生業としている「藍染め」を中心に話をお聞きしました。今回は今年の2月に生まれる予定の、子供との暮らしについて。
■【徳島県神山町】今は暮らしを選択する時勢。若者にとって“古き良き文化は新しい”
生まれてくる子供の自主保育がしたい
── これからはどのような暮らしがしたいですか?
瀧本染昌(以下、瀧本) 子育てを考えた暮らしがしたいな。
── お子さんがいらっしゃるんですか?
瀧本 今年の2月(2015年2月に出産予定)に生まれるんよ。
── ……もうすぐですね! おめでとうございます。
瀧本 ありがとうございます。今年は子育てを考えながら生活するようになるだろうね。これからも染めものをして生計を立てるスタイルは変わらないだろうけど、子供を育てていく上での、お金の収入と自給率のバランスは少し変化していくかもなあ。今までは自給率を上げるために、田んぼや畑で食べもん作って、野良仕事して、現金収入とは関係のない活動もたくさんしてるんよ。
そして、もうひとつが子供の教育の面。自然学校などの自主保育(*1)をしたい。
神山町の子供を持っているお母さん方の間で「学校では経験できないような学びを得られる、自然学校のようなものがあればいいね」というアイデアが出とって。子供たちに、この土地にある山や川や田畑などの豊かな自然に触れる機会をたくさんつくってあげたい。
(*1):自主保育とは、保育園や幼稚園などの施設保育に頼らず、母親たちが自分たちの手で子育てを行う活動。
当たり前に食べられる「ありがたみ」がわかるように
── お子さんとの暮らしでイメージしていることはありますか?
瀧本 薪集めや田畑の作業を子どもと一緒にしたいと思っているよ。家で作ったものや知り合いが作る、目に見える範囲で採れたものを食べさせてあげたいけんなあ。
── 目で見える範囲で採れたもの……?
瀧本 信頼できるよね。採れたものはその土地の人が食べて、うんこして、循環したらええ。地のものを食べて回っていったら理想的だと思うんよ。
── 地産地消ですね。
瀧本 そうやね。あと大切なことがもうひとつ。子供と一緒に作業をすると、作る過程が見えるようになるよな。種を蒔いて、稲刈りをして……収穫をする。実際に作業をしてはじめて、お米が作られてから食卓に運ばれるまでのありがたみや苦労や、喜びがわかるようになる。
── ……ぼくらは、正直なところわかりません。小さいころの当たり前になっていると、一生の当たり前になるから、羨ましいですね。
瀧本 食べられることのありがたみをわかっていくと思うんよね。「人間も大きな自然の中の一部であって、恵みをいただいて生きているんや」って。
作る過程を知ることで、よりリアルにわかると思う。動物の肉を食べるのもそうやな。「うわ、うまそー!」と当たり前のように肉を食べている人がいるけど、テーブルの上に並ぶまでに、殺されて、肉になって、食べている。お米や野菜も、生物や生産者の地道な働きがあるからこそ、この食卓に来ているんよね。
今の時代に必要なのは、感謝の意識と、リアルを知ることのできるきっかけだと思う。
お金を出せばリアルを知らなくても、当たり前に食べられるけんね。でも、お金を出す前のステップに意識を向ける人が増えたら、消費者は自ずと信頼できる食べものを選ぶようになり、生産者は信頼してもらえるものを作ろうと変わるはず。
その土地にあるもので、生活のサイクルを回すこと
── 瀧本さんにとっての、地に足の着いた暮らしを教えてください。
瀧本 地に足の着いた生活とは、人それぞれのライフスタイルの中で、自分が良いと思う方向に「意識をしっかり向けて生活」していくことだと思う。我が家の場合だったら、できるだけ自分の暮らす土地にあるもので生活のサイクルを回せるようになることだったり、食べるためのお米や野菜、火を焚く薪を身近で賄えるようにしたりすること。
ただ、身近なものだけで留まってしまうのではなくて、意識として自分の周囲(=信頼)にあるもので生活していくことを大事にした生活だね。そして地域の人でお互いを助けあい、人間同士の付き合いをすることが、地域に根をおろした暮らしかな。
お話を伺った人
瀧本 染昌(たきもと そめしょう)
(昭和57生)徳島県出身。京都の染工房で修業したのち、地元徳島で独立。幼少時の楽しい思い出から神山へと導かれ、染めものを生業としながら稲作や畑をして家族で生活を営む。
藍や柿渋の他、様々な草木を使って染める染めもん屋。天然染料と、麻、絹、木綿などの天然繊維にこだわって自然の色目を大切に、自然体に染め上げている。
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- [3]あなたにとっての地に足の着いた生活とは?|瀧本染昌さん
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