徳島県神山町の江田集落で、農を営む植田彰弘(以下、植田)さん。彼が地域での暮らしで見聞きし、感じたことをお聞きしました。曰く、田舎の暮らしで一番大切なことは”草を刈ること”だと言います。
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事前に得る情報は、意外と役に立たない
── 実際に江田集落での暮らしをはじめてみて、気づいたことはありますか?
植田 ……なにかをやる前に事前に得る情報は、意外と役に立たないことですね。
これまで28年間東京にいたときは、インターネットで調べた情報や方法を”絶対”だと思って、それを得れば成した気になっては、また調べる……ということを繰り返していました。しかし実際江田集落の暮らしに入ってみると、事前に調べる情報はほとんど役に立たなくて。
お米や野菜作りにおいても、わからない場合はインターネットでまず調べることが今まででした。でも実際に作物を育てるときには、あくまでも情報はひとつの参考例でしかない。土や水などの環境は、その場所に行かなければわかりませんよね。
── 正解だと思っていたことが、正解ではなかったんですね。
植田 そうそう。土を作り作物を植えるときは、今はインターネットで調べるのではなく、地域の人にまず聞きます。そして種を蒔く時期や土の性質、水の源流を踏まえて作物を育てます。そのときに持っている情報では上手くいかなかったり誤差が出てきたりしたときに、師匠に更に教えを仰ぎます。それでもわからなかった場合にはじめて、インターネットや図書館で情報を得て、またすぐ実践に生かしています。
定年退職した男性の活力が溢れている
── 神山町に来ていちばん印象に残っていることを教えていただけますか?
植田 神山町は定年退職した男性たちがとても活力に溢れていて、生き生きしています。
活動している江田集落には師匠が2人いるんですけど、1人は御年86歳。それでも、自分でお米や野菜を作っているし、なんでもできます。もう1人の師匠はたしか65歳くらいです。その人も猪(いのしし)猟が解禁される11月15日になると、猟をしに山へ行きます。お世話になっている男性の皆さんは、すごく元気だなと。
── 今回の神山町の取材でもそう仰る若い方々がたくさんいらっしゃいますね。
植田 神山で暮らすお爺さんやお婆さんの多くは、お金を必要とする暮らしではなく、自分でできるものは自分でやろうとします。都会では感じられなかった、自分で生活の基盤を作る暮らし方だなって。とても刺激になりますね。
── 師匠と呼べる人がいるなんて、羨ましいです。なかなかご年配の方とそうやって接する機会は都内では少ないので。師匠や村の方々とはどうやって出会いましたか?
植田 神山町で暮らす人は、みんな師匠がいると思いますよ。山や木、田んぼや畑などのいろんな分野でそれぞれの師匠がいます。
── 人生の先輩から、やはり日々影響を受けるのでしょうか?
植田 もちろんです。そうしてなんでも自分たちで作る姿を1,2年間見てきて、その人の生き方や暮らし方、使う言葉や考え方を一つでも、いろいろ吸収していきたいと思ったので、自然と師匠と口に出すようになっていました。今でも時間があれば師匠の家に行って師匠やお母さんと話したり、一緒に御飯を食べたりしています。
そういうわけで自分の神山町での暮らしは、師匠やその家族の暮らしに根ざしています。
田舎でいちばん大切なのは、草を刈ること
── 植田さんは地域の人との関係を大切にしているんですね。地域ではどうすれば信頼関係を築けるのでしょうか?
植田 田舎で信頼関係を築くためには、実践あるのみだと思います。というのも、言葉でお互いを理解しあうのはとても難しい。お米を数年間作ることや「野菜を作りたいので畑を貸してください」と言うこと。そしてなにより田舎で一番大切なのは、草を刈ることだと思います。自分の活動を通じて、田舎で一番の労働は草を刈ることだと感じたからです。
地元の人に言われてから取り組むような受け身の姿勢ではなくて、自分で刈らなきゃいけないと思ったタイミングで草を刈っていました。そうすると、遠目からでも見てくれる人が実は多かったみたいです。「オレンジ色の兄ちゃん(植田さん)、草を刈っているね」と。ちゃんと見てくれているなあって。草刈機を2台壊したけどね(笑)。
── たくさん草を刈った証ですね。江田集落での暮らしで、これから取組みたいことはありますか?
植田 江田の暮らしに、より深く入り込みたいですね。さっき言ったように、ぼくの活動の一つとして、「草を刈ること」はとても大事なことだと考えています。
お米作り、野菜作りと同じくらい重点を置いて「草を刈る」。草刈りは、地域のコミュニケーションの一つです。こういったシンプルな行動を実践するほうが、言葉より伝わることもあります。一人一人と信頼関係を結べば、また新しい暮らしの楽しみ方を作っていけるはずです。今は自分のもつ田畑だけを刈っているので、来年は少しずつお隣の草を刈るような時間を作っていきたいですね。
江田集落での暮らしに寄り添いながら、農作業をしっかりやっていきたいことが目標でもあり、これからも変わらないこと。やっていきたいことはずっと同じです。
お話を伺った人
植田 彰弘(うえた あきひろ)
1983年 神奈川県横浜市生まれ。東京農業大学卒。出版社でカメラマンに従事。料理写真、物品など商品撮影を担当。2012年に徳島県へ移住、NPO法人グリーンバレーが主催する「神山塾」に参加。神山町在住。
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