語るを聞く

【徳島県神山町】僕らを神山町に導いたもの

徳島県神山町特集のアテンド役を担った堤進太郎さんと西聖平さんは、お互い別々の人生を歩み、そして神山町という場所で初めて出会った若者2人です。

彼らはこれまでどう過ごしてきたのか? そして、彼らはこれからどこへ向かうのか? そんな2人の過去と未来の話をうかがいました。

世界をこの目で見るために旅に出た

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堤 進太郎さん

堤進太郎(以下、堤) 大学卒業後、会社員として3年間働きましたが、この目で世界を見たいと思って会社を退職して旅に出ることにしました。それが、2013年9年のことです。

海外に行く前に、まずはおもしろそうだなと思っていた神奈川県鎌倉市を訪れて、数ヶ月間ゲストハウスに住み込みで働きました。そこでは、想像していた以上の刺激をもらいました。

もの作りを生業とする人、イラストレーターにITベンチャーで働く人たち、地元の飲食店のオーナーや、肩の力が抜けた会社員……。今まで出会ったことがなかったような、気持ちの面で自由な人たちが多かった。自分の知っている世界だけが全てじゃない。まだまだ知らないことが多いのだと肌で感じられたことが嬉しくて、「サラリーマンだけが働き方、生き方じゃないんだ!」と心の底から思いました。

知らないことに出会うほど、自分のルーツが知りたくなる

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 鎌倉市を離れてからは、まずアジア各国の旅に出ました。チベットやインドなど数カ国を渡り歩きながら、自分はこのままフィリピンの語学学校に通って英語を習得して、ヨーロッパやアメリカなど世界一周の旅を続けていくんだろうなとぼんやり思っていました。

けれど、知らない国の土を踏めば踏むほど、そして知らない人や価値観に出会えば出会うほど、自分のルーツ、つまり日本のことが知りたくなる自分がいたんです。体が外へ外へと向かうのに対して、意識が内へ内へと向かっていくとでも言うのでしょうか。今まで当たり前だと思って、気にも留めていなかったことが当たり前ではなかったと気付いて、そのありがたみを噛み締めたり、もっと学びたいと思うようになったり。

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自分のことや家族のこと、友達のことや更には自分の生まれた国のこと。色々なことが知りたくなりました。旅を続けながら変わっていく感覚……これ以上知らない土地に向かっても、今自分が見たいものは見ることができないかもしれないと思うようになったから、世界一周は一度お休みして、今度は自転車や電車で日本国内を巡る旅を始めることにしたんです。

神山町を訪れたのは、その旅の途中です。

好きなことに素直になると変わり始めた人生

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西 聖平さん(写真提供:Yikin HYO / 馮 意欣)

西聖平(以下、西) 僕は今、大工として全国様々な場所を転々としつつ、現場に入っては仕事をするというスタイルで生活をしています。今回は縁あって神山町でとある建物を作るための現場に入ったのですが、そこでお手伝いとしてヘルプに入ってくれた太郎(堤)と出会いました。

もともとは、関西の外国語大学でスペイン語を専攻していました。自分の将来のことなど微塵も考えずに大学生活の大部分を過ごし、4年生の時に何となく就職活動をした結果、一般企業に内定をいただくことができました。でも、正直なところ自分の中では全然しっくりくるものではありませんでした。

自分が好きな事ってなんなんやろうと悶々としながら過ごしている時、偶然手に取った雑誌の中に載っていた「ツリーハウス」というキーワードが目に留まったんです。もともともの作りが好きだったし「ツリーハウスとか自分で作れたらええな〜。」なんて夢物語を描いてはみましたが、やはりあまり具体的ではありませんでした。

でもそれと同時期に、さらに偶然イベントで出会った人が「ツリーハウスを沖縄で作るから、興味あるなら行ってみる?」と声をかけてくださったんです。しかも「今日返事くれるなら言っておくよ?」って(笑)。直感的に「これは絶対行かなあかん。」って思ったんですよね。だから、その日のうちに行くって返事をしました。

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西 聖平さん(写真提供:Yikin HYO / 馮 意欣)

そこから約1ヶ月間、沖縄でツリーハウスを作るイベントに参加しました。その場所には人間の直感にまっすぐで野性的、動物的とでも言うんでしょうか、自分がぼんやりと描いていた生き方をすでに実践している大人ばかりがいる環境でした。普通の暮らしの中では出会えない人たちと同じ空間で生活をすることで、こんな生き方、考え方もありなんや、もの作りを通して自分をこんなにも表現することが出来るんやと、僕の人生の方向性や新しい目標を意識することができました。あの時間は、今振り返っても本当に刺激的だったなぁと思います。

その時間を経てからは、もの作りを通して自分を表現してみたいなとか、自分の空間や好きなものを自分で作り上げて、その中で気の合う仲間たちと何か面白い事ができたらな、なんていうイメージを持ちながら日々大工の勉強をしていました。

共通の想いは「フラットに人が出会える場を作りたい」

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(写真提供:Medicala / アズノタダフミ)


 国内外問わずに旅をする中で、たくさんのおもしろい経験をすることができました。ゲストハウスで働き、シェアハウスに住み、そして神奈川県の箱根での場作りを経て、世の中には「おもしろい場」というのがたしかに存在するのだと肌で学びました。そういった多様な人が集まる場でのフラットな人との出会い方というのは最高に楽しいし、何より人と人が繋がって、今までになかった何かが生まれる瞬間をこの目で見るのが僕は大好きなんです。

これから、都市部と地方の間での人の移動はますます増えていくのだろうと思っています。そして、そういった世の中では人と人を繋ぐ場の重要性や必要性が、更に増していくのだろうなとも感じています。

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(写真提供:Medicala / アズノタダフミ)


西
 フラットな場所での出会いについて言えば、僕は自己紹介はあとでいいと思っているんですよ。その人が普段何をしている人で、肩書は何で……といったことを知るのは出会って数日経ってからでいい。まずは話をして、「あぁこの人いい人だな」とか「おもろいな」と思えることが大切で、そのあと「で、普段は何されてるんですか?」って聞く方が順番としては自然なんじゃないのかなぁと。

ある意味、太郎とはその理想型の出会いだったのかなと思っています。年齢も20代後半で上過ぎないし、下過ぎない。けれど、一度社会に出て働く経験をしたことで、学生の頃よりは少し大人になれている。自分たちでもし場を作れたとしたら、様々な年代や背景を持った人たちの間に入り、その人たちを繋いでいく役割を担うことができるかもしれないというイメージがあります。

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 神山町で初めて出会ったけれど、この土地で一緒の時間を過ごしたことで
兄弟のように仲良くなれた聖平(西)、そしてノリ(矢崎典明)とサユリ(川上沙由理)。今は、尊敬し合える仲間と一緒におもしろいものを作ってみたいと思っています。

動機はそれぞれ少しずつ異なるけれど、想いも経緯も理解して、そして全員がフラットに人が繋がるということの大切さを共有している。場を作ることに対しても、きちんとその地域に還元性、必要性がある場にしたいという想いも共通しています。

僕、仲間が何かもの作りをしている場面を見るのも大好きですしね。

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左からサユリさん、ノリさん


西
 僕は、これまでは誰かの下で勉強しながら空間というものを作ってきましたが、そろそろ自分の頭で考えて、作りたいものを一度作ってみたいなという気持ちが出てきました。神山町の現場に入ったのは、ちょうどそんなタイミングだったんです。

太郎を始め、仲間を見つけてそれぞれの考えを聞いた今は、大切にしていきたい想いや価値観を丁寧に表現して、自分たちなりにこれだ!と思える空間を作ってみたいと考えるようになりました。みんな自立した考えを持っているからこそ、同じ目標に向かったとしても、それぞれが成長できるし挑戦できる。一人でやるよりも、やれることが広がる感じがします。

こういうことを言葉にすると、何か大きいことを成し遂げたいのだという野望のように聞こえるかもしれないけれど、少なくとも僕は、毎日のご飯を美味しくいただけて、あたたかい布団で眠ることができて……。そういった暮らしが当たり前のようにできる環境があるだけでも幸せだなと思っています。

自分が幸せで、家族が幸せで、周りの人も幸せ。多くの人がそうであれば、それが一番いい。地球単位で考えることももちろん大切かもしれないけど、まずは自分の手の届く範囲を大切にしていきたいなと思っています。

 聖平は僕よりずっと平和なんですよ(笑)。みんな個性が違うから、一緒に集まるともっとおもしろいことになる。

神山町での1ヶ月半の滞在や今回の特集のアテンド役を通して、やっぱり人と人を繋ぐ場を作りたいという想いは自分の中で強くなっているのだなと自覚しました。これからどうするかはまだ定かではないけれど、仲間と一緒に楽しい未来を創っていきたいという想いは変わりません。

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(写真提供:Yikin HYO / 馮 意欣
(写真提供:Medicala / アズノタダフミ

お話を伺った人

堤 進太郎(つつみ しんたろう)
Facebook/Twitter @shintarooooo

1987年東京都生まれ。中央大学経済学部卒。
3年間のサラリーマン生活の後、2013年から様々な文化を見るために国内外を旅する。興味を持った土地や人を訪ねて一緒に手を動かす、WWOOF的な旅を好む。現在は旅を続けながらも、地方での定住を検討中。

西 聖平(にし しょうへい)
Facebook

1989年滋賀県生まれ。関西外国語大学スペイン語学科卒。
災害支援、海外ボランティアの活動を経て、2012年より関東を拠点に本格的にものづくり、内装大工の勉強を始める。現在は全国各地でさらに経験を重ねつつ、自分が表現したいことを模索中。

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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