2013年、徳島県の神山町に「えんがわオフィス」で代名詞となった(株)えんがわを設立し、4Kコンテンツの配信等の新事業に取り組む隅田徹さん。今回は、神山町での暮らしについてうかがいました。
複雑系のゲームのよう。喜怒哀楽があるから作物を育てるのはおもしろい
── さっそくですが、日々どのようなスケジュールで過ごされていますか?
隅田徹(以下、隅田) 1日を大きく分けると3つあります。ひとつは映像の仕事、もうひとつは「WEEK kamiyama」という宿を作っています。開業に向けて、関わっているいろんな人とやりとりをしています。
最後のひとつは、神山町の地域の活動です。映像をやりたいという徳島の若者に技術を教えたり、神山町の耕作放棄地の清掃や棚田を保全したりする活動を、地域の一員としてやっています。あとは協同作業があります。神山町では正式に移住して戸主になると「講中」という町内会のようなものがあります。祭事や冠婚葬祭、神社の境内の掃除や修復を地域のみんなでやります。
── 地域の活動にしっかり時間を割かれているんですね。
隅田 地域のことは仕事でもあり楽しみでもあるからね。3つの仕事や活動があるうえで、午前中はだいたい「WEEK kamiyama」の仕事。午後は映像または地域の仕事をしています。
── 神山町で暮らしてみて、新しく取り組んでいることはありますか?
隅田 田んぼをはじめましたよ。
── なぜ、はじめたんですか?
隅田 耕作放棄地がちらちらと目につく中で社員みんなで多少なりとも貢献できないかとおもい近隣の農家の方に「誰かが耕してくれたら嬉しい農地はありませんか?」って聞いてみたら、紹介してくれたのが今の田んぼです。
── 実際に農作業をやってみてどうですか?
隅田 はじめてみるとすごく面白いです。作物はどんどん大きくなって、最後に収穫できるから達成感があるよね。職として農業をしている人は大変だけど、喜怒哀楽があるわけで。「台風で稲が倒れちゃった」「虫にやられた」「病気になった」とか(笑)。複雑系のゲームのような感じで、作物を育てるのは面白いなあって。
── お米作りを楽しんでいるんですね(笑)。収穫したお米はどのようにして食べていますか?
隅田 会社で毎週2日間は、地元のおかあさんが来てくれて料理を作ってくれる「まかないデー」という日があるんだけど、そのお米に使っています。
米ってすごいよ。たった1反もしくは1,5反で400キロも取れるんです。ぼくらは素人だから本業でやる人の7割くらしか採れないけれど、それでも400キロは10キロ袋×40個です。
── 自分で食べものを作れるって、不思議です。お話を伺っているだけで素敵な生活をされていると感じます。
隅田 昔の田舎は不便でした。便利さを求めてぼくらの世代は東京や大阪といった都市部に来たけれども、当時の幸せの基準は「便利か、そうでないか」。今は便利よりも充実感だからさ、幸せは。
近くにいる安心感や肌の触れ合う充実感を求めている
── 充実感。隅田さんにとっての地に足のついた暮らしとはなんでしょうか?
隅田 地に足着いているのかな、おれ。そういう意味じゃあ、ふわふわしているよなあ(笑)。さっきの田舎と東京の話に戻るけど、地域に根ざす暮らし方は、今だからこそ新鮮なんだろうね。講中や戸主会は楽しい。プライベートがほとんどない生活も楽しい。ぼくの車はちょっと変わった車だから、どこを走っていても、どこにいるかみんな分かります。
── 道路を走っていても公開中なわけですね。
隅田 そう。昔はどこでも地域のつながりがありました。それがインターネットの発達によって、地域じゃないコミュニティでよくなった。だから同じ地区に住んでいなくても、好きな人同士が、好きなことでやりとりをすれば友達になれます。地域じゃなくてよくなった結果、同じマンションに住んでいる人を知らなくても平気な暮らしになりました。
最近はTwitterやLINEなどのSNSの利用者がどんどん増えてソーシャル化しています。でも、近くにいる安心感やちょっと肌が触れ合う感覚を、僕らは動物だから求めていて。再び回帰しているんだよね、きっと。
── 友人とのコミュニケーションだけではなくて、仕事においてもソーシャル化の流れがますます強くなっているのかもしれませんね。
隅田 そうだね。東京だって広いけど、住んでいる地区は違っても一緒に仕事ができますよね。ぼくの仕事の場合、カナダの編集者に映像の編集をしてもらって、台湾やノルウェーで完了できるようになってきているので、普段の仕事のコミュニティはどんどんソーシャル化しています。だから実生活は、ある程度リアリティのあるほうが充実感がある。安心できるし、地に足着くと思っているんですよ。
── たしかに、SNSで一言挨拶を交わすよりも、実際に会いに行くととても安心することがあります。
隅田 Skypeをすれば顔を見て会話ができるから「地域付き合いはいらない」というかもしれないけど、ぼくは逆に、暮らしがある程度地域に根ざしているほうがいいと思います。中和しなきゃいけないというか、どこかでバランスをとらなきゃいけない。海外の人と仕事ができるけど、それだけだと空虚なんだ。「せめてそうじゃない部分があってほしいな」と心のどこかで思っていて。その埋め合わせをしようとしているのかもしれません。
取材後記
もともと映像の仕事をしていた隅田さんが、なぜ宿泊事業をしようと考えたのか。経営者として利益視点はなくてはならないものですが、神山町で暮らし得た体験や仕事のコミュニケーションが徐々に変化してきていることからモチベートされていると感じるお話でした。新たな一歩に、今後も注目していきたいですね。
お話を伺った人
隅田 徹(すみた てつ)
(株)プラットイーズ取締役会長(株)えんがわ代表取締役社長
1962年大阪府生まれ。英語ニュースの配信を行う会社を経て、2002年に(株)プラットイーズを設立。2013年、神山町に「えんがわオフィス」を開設。同年、(株)えんがわを設立し、4Kコンテンツの配信等に関する新事業に取り組む。
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