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【徳島県神山町】「神山ルビィ」完熟・無添加の梅が田舎と都市をつなぐ|NPO法人里山みらい

灯台もと暮らし編集部が、最初に神山町を訪れたのが、2014年12月。次に訪れたのが、2015年7月。この数カ月の間に、神山町はまた少し、姿を変えていました。

神山ルビィ」。輝く梅が、商品になっている。

作っているのは、2015年4月発足の、NPO法人 里山みらい。「神山ルビィ」って何ですか? 詳しく聞くために、オフィスを訪れました。

NPO里山みらい
左)理事長の有正さんと、娘さん 右)副理事長で地域おこし協力隊の永野さん

町の新たな宝物「神山ルビィ」をつくろう

── こんにちは。「神山ルビィ」について教えてください。

有正あかね(以下、有正) 「神山ルビィ」は、地域の方々が作る梅干しを商品化したものです。神山町は、梅の名産地。昔ながらの製法を守っていて、材料は梅と塩、あとはシソだけ。にも関わらず、各家庭によって味がまったく異なるんです。

「神山ルビィ」の農家さん

有正 梅干しは、地域のじいちゃんばあちゃんにとってはそこにあるのが当たり前のもの。特別なものだとは思っていらっしゃらないと思いますし、「商品価値がある」と伝えても、最初は「なに、そんなすっぱいばっかの」と、とまじめに受け取ってもらえませんでした。

でも、 私たちNPO里山みらいのメンバーのような、他の地域から神山町にやって来た住民にとっては、本当にキラキラした宝物に見えて。

そこで、まずは2015年3月に「神山ルビィアワード2015」を実施。9名の農家さんの梅干しを食べ比べるイベントを開催しました。そのとき、上位3つに選ばれた方の梅干しを「神山ルビイ」として現在商品化しています。完熟、無添加の梅干しは、つるつる、テカテカと宝石のように輝いています。だから「ルビィ」なんです。

神山ルビィアワードのポスター

有正 2015年5月に販売を開始した、5名の農家さんの梅干しが食べ比べできる「神山ルビィ利き梅干しセット」も人気がありますね。

箱詰めされた神山ルビィ

── 地域の資源に価値を見出して、デザインの力で商品化。そして、町内はもちろん、都市のひとに向けて、発信することを始めたんですね。

有正 そうですね。「神山ルビィ」のように、田舎と都市をつなぐ活動が、このNPO法人のひとつの柱です。神山町は、ITに強いひとが集まっているのも特徴のひとつ。デザイナーも町内のひとに担当してもらっています。

「古くて新しいみんなの里山をつくる」とは

── そもそも、「NPO里山みらい」は、どんな団体なのでしょうか?

有正 NPO里山みらいは、2015年4月に発足した、新しいNPO法人です。地域おこしの活動自体は前から行っていたんですが、改めてNPO法人化したのが、2015年の4月ですね。

なぜかというと、理事長である私自身が、神山町の地域おこし協力隊の卒業生第1号なんです。出身は岡山県で、その後は静岡県で働いていたのですが、偶然出会った神山町の魅力に惹かれて、この町にやってきました。

2015年3月の卒業後も神山町で活動を続けたいという私の想いと、取り組んできた活動を継続してほしいという行政の想いが合致して、法人化に至ったというわけです。現在は理事5名に加え、現役の地域おこし協力隊のひとに活躍してもらっています。

15年07月06日10時22分11秒

── 里山みらいの活動の目的はなんでしょう?

有正 古くて新しい、みんなの里山をつくること。これが、私たちの理念です。

神山町で古くから受け継がれてきた里山の風景や営みは、人口の減少とともに失われつつあります。でも神山町は、幸いインフラ整備の力もあって、移住者が増えている。であれば、そういったひとの力を借りて里山を受け継いでいく活動ができないか、と考えているのが私たちです。

「神山ルビィ」のほかにも、「神山すだち住民課」の運営や「神山すだち鶏天巡り」など、さまざまな取り組みを行っています。

NPO里山みらい_神山すだち住民課
「ふるさと納税」の仕組みを使った「神山すだち住民課」
「神山すだち住民課」が定期的に贈る、「里山のおすそわけ便」の例
「神山すだち住民課」が定期的に贈る、「里山のおすそわけ便」の例

じいちゃんとばあちゃんの作った里山を未来に伝えるために

有正 神山町で暮らすひとたち、とくにじいちゃん、ばあちゃんの世代は生きる業に本当に長けています。山から水を引いて、食べる物は自分で育てて、訪ねるといつもはにかんだ笑顔で迎えてくれる懐の深いひとたち。周りには、深い緑の山と、青い川。豊かな自然に囲まれながら、この町のひとたちと暮らすうちに「里山には尊いものがあふれている」と思うようになりました。

そして同時に、それらが今、消えつつあるんだということにも気が付いて。

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有正 今の日本は過疎過密状態で、神山町のような山間地では、人口流出によって里山の存続が困難な場所も少なくありません。野生と人間の営みのバランスが崩れて、田畑の耕作や、水源の確保もどんどん難しくなってきています。それってつまり、日本の原風景が崩れていっているということを示していて。

NPO里山みらいがそれらをすぐに変えることは難しいと思いますが、私たちだからこそできることを、一つつひとつ着実に形にしていきたいなと思っています。

── なるほど。これから、何かやりたいことはありますか?

有正 里山みらいの活動は、NPOになる前から数えると、約3年になります。これまで地道に蒔いてきた種から芽が出て、どれを優先的に大きくするか、選別の時がきているのかもしれません。農家さんや行政、地域の方々の意見を聞きながら、焦らずゆっくりと方向性を定めていきたいですね。

新しいプロジェクトにも取り掛かってはいますが、まだ全貌は、秘密(笑)。できるだけ地域の方々を巻き込みながら、「地に足の着いた」活動をしていきたいと思っています。

── NPO里山みらいは、オフィスも地域に開かれている印象で、とてもやさしく、「地に足の着いた」ということばがとても似合います。今後の活動も注目しています。またぜひ、お話を聞かせてください。

15年07月06日11時12分20秒

お話をうかがったひと

有正 あかね(ありまさ あかね)
1975年岡山県生まれ。神山で暮らし始めて4年。現在はNPO法人里山みらい理事長。以前は静岡の自然学校でインタープリター(自然ガイド)として働く。その時から「里山の価値」や「地蔵可能な暮らし方」を意識し始め、今に至る。森の中で家族とおにぎりをほおばる瞬間が何よりの幸せ。

NPO里山みらいについて

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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