営みを知る

西荻窪のCDショップ「雨と休日」の店主が勧める、これからの音楽の聴き方

帰りたくなる町に暮らそう。【西荻窪】特集はじめます。

いつもの暮らしに、音楽はなくてはならないもの。移動中や自宅でゆっくりしている時、集中して作業したい時、いつも音楽を聴いています。音楽が隣にいてほしいのは、どうしてなのでしょうか。

ということで、西荻窪のCDショップ「雨と休日」にやって来ました。選んだCDを、雨の日や休みの日にゆったり聴いてほしいという思いが込められたお店です。店主の寺田俊彦さんに音楽のある暮らしについて伺いました。

いいものは、流行に左右されない

── お店を開いたきっかけを教えてください。

寺田俊彦(以下、寺田) もともと大手のCDショップで10年ほど働いていました。でもいつかは、小さなお店で質の高い作品だけを販売するCDショップを作りたいと思っていて。2009年の、CDが売れなくなったことが当たり前になった時期に「雨と休日」はオープンしました。

── なぜそんな時期に自分のお店を持とうと思われたんですか?

寺田 一般的なCDショップでは紹介しにくい作品があると思うんです。なかでも静かな作品は、ポップスのヒット作や、ロックの名盤などの話題性のある曲の陰に隠れてしまうものが多いです。コンサートに行って、わーっと騒いだりする曲もあれば、家に帰って疲れた時に、ふと、いつも聴くようなパーソナルな作品があったりしますよね。家で静かに愛聴しているような作品は、きっとみんなあると思うんです。でもそれはあまり表に出てこない。

── リピート率の高いお気に入りのBGMは、持っている人は多いと思います。

寺田 そういう作品を集めたお店を作ることができたら、おもしろいお店になるだろうなって考えたのがきっかけのひとつです。もうひとつは、昔からひっそりと愛されていた穏やかで綺麗な曲がたくさんあります。そういうものは流行とは関係なく良作が多いので、埋もれさせることなく、やっぱりいいものはいいのだと紹介したかったんですね。

暮らしのシチュエーションで音楽を選べる魅力

── 穏やかな音楽の魅力ってなんでしょうか?

寺田 難しい質問ですが、敢えて言うならシチュエーションを含めた音楽の聴き方ができることじゃないでしょうか。夏の暑い時は、ちょっと明るくなれるような爽やかな音楽を聴きたいし、冬の寒い時は、ひとり内面に入っていくような作品をじっくり聴きたいと僕は思います。そういう気分や場面に応じて聴いて欲しいし、人それぞれの「暮らし」がまずありきで、そこに穏やかな音楽がプラスされていけばと考えます。

── 暮らしから、聴く音楽を選んでいくんですね。

寺田 そうですね。暮らしのシチュエーションごとに色んな作品を選んで聴くのがいいのではないでしょうか。「雨と休日」にはいろんなテーマを設けてるんです。例えば読書や散歩をしている時のBGM。朝昼晩。春夏秋冬だとか。季節や時間など、その時々によって聴きたくなる音楽が変わるのはみなさん同じように感じているんじゃないかと。それにピッタリ合うような音楽が見つかると、嬉しいじゃないですか。

── はい。

寺田 日々の暮らしの中に、一歩引いた存在感を持っているような音楽が隣にあることそのものがいいなって思います。

音をフラットに聴く。音に心を開いていこう

── これからの暮らしを考えるうえで、音楽とどういった関わりを持つといいですか?

寺田 音に対する意識が大事になってくるんじゃないかと思っています。

例えば渋谷のスクランブル交差点のようにいろんな広告で音の飽和状態のような場所があれば、山奥のような静寂の中で葉っぱが擦れる音しか聞こえない場所もあります。まったく違う音の環境ですよね。

それはちょっと極端な例ですけど、場所によって聞こえる音が違うことに対して、敏感になることが大事なんじゃないかと思います。人間の五感のうち、目で見える情報はいっぱいあります。人間は目でいろんな色や形を見ることによって、自然と経験として学んでいくことができます。でも音に関しては意識的にならないと、全部聞き流してしまう。

── 抜けてしまいますよね。

寺田 耳という器官は必要なものしか取り込まないように脳が働きます。だから意識的にならないと、音に対しては敏感になれません。ロックをずっと聴いていたら、普段聞こえなかったベースの音が聞こえるようになる、なんてのも一緒だと思うんですよね。そういうふうにだんだん音に対する意識が高まっていくと耳の精度も高まり、自分が今「どんな音楽を求めているのか」というのも、おのずとわかってくると思います。

編集後記

以前は聞こえなかった音が聞こえるようになると、嬉しくなるものです。例えば身近にいる野鳥の鳴く声についてもそう。バードウォッチャーの人は、遠くにいる点にしか見えないような小さな鳥を見つけて種類を判断するために、鳴き声でそれを判別しています。声に耳を傾けていくことで、日常生活の中で聞き流してしまっていた野鳥の声に、耳が反応するようになるそうです。

音に対してフラットに聴けるようになることで、日常にまた新たな発見があるのでしょう。それを視覚で言えば「今まで見えなかったものが、見えるようになる」ということなのかもしれませんね。

お店の情報

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photo by Shin Kikuchi

雨と休日
※実店舗は移転準備中のため、現在はオンラインショップのみの営業となっています。
移転次第、ぜひ訪れてみてくださいね。下記の情報は移転前のものになります。
住所:東京都杉並区西荻南3-16-8 山下ビル1F
最寄駅:JR中央線西荻窪駅
電話番号:03-6676-8245
定休日:火曜日&木曜日(祝日は営業)
営業時間:14:00~20:00
公式サイトはこちら

(写真:Shin Kikuchi)
(イラスト:とりす)

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探求者

小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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西荻窪の本屋さん「青と夜ノ空」で、五感で味わう本の世界を。 【西荻窪・番外編】レトロかわいい縁側付きの古民家一軒家に住みたい!

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