夜。
仕事、遊び、学校、お付き合い……今日も一日、お疲れ様でした。
さ、家に帰ろうか。
と、言いたいところですが、まっすぐ帰りたくない日もあるのです。西荻窪(以下、愛を込めて西荻)駅で降りて、家路につくまでの途中、夜遅くてもふらっと立ち寄れる、もうひとつの居場所。そんなところがあったなら。
「夜に寄り道するおすすめスポットは?」
そんな無茶ぶりに快く答えてくださった、食とセラピー「ていねいに、」の店主・福田倫和さんに、とっておきの場所へ連れて行ってもらいました。
美大の仲間たちのシェアハウスを改装した「喫茶凸(デコ)」
やって来たのは、駅南のちょっとわかりづらい細道。小さな扉がぽつぽつと並び、小窓からこぼれる室内の灯りが揺れ、中では静かな宴がおこなわれている様子。
その中のひとつ、茶色の扉の向こうにあるお店は、「喫茶凸」(以下、デコ)。2015年10月にオープンしたばかりの、新しいお店です。
「いらっしゃいませ」と出迎えてくださった、店主の赤川広幸さん。美大出身で、学生時代の仲間たち4人とルームシェアをしていた物件を改装して、飲食店であるデコを開店しました。
「ルームシェア時代、持ち回りでご飯を作ったり、よく飲み会を開いたりしていました。でもシェアを解散することになった時、仲間が集まる場所をなくしてしまうのはもったいないなと感じたんです」
お店を持ちたいと漠然とは考えていたけれど、みんなが集まれる場所を残すために料理学校まで通い始めたという赤川さん。飲食店をやりたいという発想よりも先に、場を保ちたいという意思から、調理師免許まで取得してしまうその行動力に驚きです。
大学では彫金を専攻。シェア時代は作品作りにも勤しみ、卒業後に務めていた美大の予備校の講師を辞めるタイミングと、シェア解消の時期が重なり、デコを開店するに至りました。
「お店を始めてからは、作品作りは全然できていませんね……最後に作ったのはお店のドアにある『凸』のエンブレムです(笑)。店名も、美大時代のサークルが由来になっていて。僕が学生時代に入っていた写真部の部長で、シェアメイトにも写真部の後輩がいたんです。凸っていう文字は、カメラにも似ているから、自分の仲間たちのサロンになるように、という気持ちを込めて凸という店名にしました」
本日は、ごはんは引き続き「春キャベツの具沢山スープ定食」、その他「サバメンタイマヨディップ」「牛肉ガリバタソテー」「ウィンナーとピーマンの土佐醤油炒め」などなど週末はおつまみ多数です。自家製プリンは残りわずかです! pic.twitter.com/g68nTvc2J3
— 喫茶凸(きっさでこ) (@caffe_deco) 19 March 2016
今日のごはんは、「鶏肉とアスパラとその他諸々具沢山コーンスープ」です。
写真はスープパスタにしたものですが、スープ単品やリゾットでのオーダーもできます pic.twitter.com/7Vph2A1EGE
— 喫茶凸(きっさでこ) (@caffe_deco) 23 March 2016
デコの開店時間は、18時から24時の夜のみ。毎晩、日替わりのメニューをTwitterでつぶやき、告知をしています。オープンしてまだ間もない赤川さんですが、学生時代から西荻に入り浸っていたからか、あまり新参者という雰囲気がなく、貫禄があります。
「西荻は、西荻好きな人しか暮らしていないイメージです。ここに住むと、西荻の外へあんまり出たがらないし、出る必要もないんですよね。だからと言って、外から来る人を拒むこともしないし、村意識は低い。新しい人でもお店を出しやすいんじゃないかな」
福田さんの友人が、赤川さんとのシェアメイトの一人で、開店してしばらく「同じ飲食店を営む身として気になっていました」と福田さん。西荻でお店をやっている人がお客様として来てくれたり、ずっと暇だったのにラストオーダー近くに数組のお客様が来て焦ったり……そんな飲食店あるある話で、赤川さんと盛り上がっていました。
気張らない、友だちがサッと作って出してくれるようなごはんが食べられる、というのがデコのコンセプト。「今日の日替わりはなんだろう?」と気になったら、Twitter(@caffe_deco)をのぞいてみてください。
夜21時から開店するリサイクルショップ「ジェット」
時間の都合で、福田さんに情報だけいただいたのが、次に向かうリサイクルショップ「ジェット」。
「『ていねいに、』を開店させるとき、お店で出すコップや備品を『ジェット』さんで買ったんですけど、開店時間が21時以降なんですよね」とのこと。この日は福田さんと別れ、日を改めてもとくら編集部で乗り込むことに。
開店時間も特徴的ですが、立地も分かりづらいのが冒険心をそそるお店「ジェット」。駅北の商店街を歩き、右手ある階段を登りきると目の前に看板と商品と思われる雑貨や古着が並んでいます。
パッと見では「どこから入ればいいの?」と、かなり戸惑いますが、立派に営業中。店内へ入るには体を横にして、左右に設置された棚や古着の間をすべるようにして入店するのがコツです。
いざ、中へ入ると上下左右に所狭しと雑貨が。上から垂れ下がるバックやベルト、左右にはビンテージもののアクセサリーやお皿やコップ、貯金箱や鍋、やかん、薬箱、マネキン、鏡、スカーフや人形などなど。
店内でしゃがんだり振り返ったりしようものなら、ご用心。うっかり後ろの棚のものを落としたり倒したりしてしまいそうなほど、ぎゅうぎゅう詰めなのです。
「最初はバーとしてお酒を出していた時代もあって、その頃はモノももっと少なかったんです」と「ジェット」の金子さん。金子さんご自身は、「ジェット」がオープンしてからすぐ、お店の常連さんになり、学生時代は学校からの帰り道に銭湯と「ジェット」に立ち寄るのが日課だったそうです。
「店長がもともと洋服を作る仕事をしていて、店内にも古着や家具が今よりも多くありました。同時に地元の人からの買取もおこなっているので、徐々にモノが増えていきました。今ではひとつ売れると次の新しいものをすぐ仕入れて置く、というサイクルです」
倉庫などを別で設けているわけではないため、店内に置いてあるすべてが商品。金子さんは店の奥に座っていますが、金子さんのいるスペースにも商品が並んでいます。もし気になるものがあれば、思い切って声をかけてみましょう。
ちなみに、店内はぼんやりとした明るさですので、本当に気に入ったものがあれば、商品の色を確認するために、一度出口付近で確認するのがおすすめです。
見る人によってはガラクタかもしれなくても、古着やアンティーク好きな人にとっては、まるで宝の山。その上、専門の業者が買い付けに訪れるほどの良品が、安く手に入る穴場なのです。それでも「リサイクルショップ」と店名に入っているのは、ビンテージやアンティークという言葉による敷居の高さを無くすためだったといいます。値段の安さも、そうしたお客様への配慮によるものなのです。
「昔は、店の周りに古い家や長年暮らしている方も多かったため、近所の人からの買取だけで仕入れが済んでいたんです。でも、マンションが増えたり暮らす人が入れ替わったりして、だんだん仕入れの範囲を広げなければならなくなり……。開店時間が夜の数時間なのも、日中は仕入れや商品の手入れをしているからなんですよ」
「うちは幅広いジャンルのものを扱っていて専門店ではないので、値段も安く設定できます。でも、扱っているものはアンティークやビンテージものが多いので、ふつうのリサイクルショップを想像して来られたお客様は、ビックリするかもしれませんね(笑)」
かつてはアンティーク好きな近所の人が集まって、朝方までおしゃべりをしていることもあったという「ジェット」。今では若いお客様が増え、西荻の町もかつてより様変わりしたと金子さんは言います。
「最近の西荻は、だいぶ垢抜けたなあと思います。昔の西荻を知っている人からすると、つまらなくなったと感じる面もあると思いますね。自虐的に『西荻っておしゃれだよね』と話していたのに、今では本当にこじゃれた町として知られていますから。それが悪いわけではありませんが、昔のような、ちょっと個性的すぎる西荻も、懐かしいなと思います」
取材中も、何人か若い人が入れ代わり立ち代わり、お店へ訪れては何やらお目当てのモノを探していました。かつて西荻の夜会が行なわれていた「ジェット」。昼間の西荻の、のんびりとした明るい町並みからは感じられない、ちょっと気だるい雰囲気を味わえます。
西荻の夜は、騒がしくない、ゆったりとした時の流れ。夜道にふらりと寄れば最後、ちょっと夜更かししてもいいかな、なんて魔法をかけられてしまいそう。もし、まだ物足りなく感じたら、思い切って西荻の酒場へ繰り出すのも良し。のれんをくぐれば、また違った賑やかしい夜を過ごせることでしょう。
このお店のこと
喫茶凸
住所:東京都杉並区西荻南3-16-3
営業時間:18:00~24:00
定休日:日曜日、不定休アリ
リサイクルショップ ジェット
住所:東京都杉並区西荻北2-11-9 2F
営業時間:21:00~25:00
定休日:日曜日、月曜日
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