郷に入っては郷に従え、ということわざがあります。西荻窪に移るなら、郷をよく知る人に見て倣いたい。ということで、地元密着型の不動産屋、株式会社東京トラストの川邊社長と西荻窪を歩いてみました。
ご自身も長く西荻に住み、西荻と住んでいる人との交流も広い川邊さんから、郷のルールを学びます。
開発の手がつかなかった町
「西荻は、東京に出てきて最初に住んだ場所でしたね。だから俺にとっては第二のふるさと。風呂なしの家に住んでいたけど、東京なのに都会っぽさを感じなかったから、すごく落ち着いたことを覚えています。」
懐かしそうに当時の西荻を語る川邊社長。昔は、現在建っている駅前の雑居ビルは無く、小さい商店が密集していたといいます。今でもその名残で西荻窪駅の前には大型のスーパーや複合施設などはありません。
こうした特徴を守りきれたのは、西荻窪と呼ばれるエリアに秘密がありました。
「例えば隣の荻窪は駅前に青梅街道が走っていて、近くに環八通りもあるでしょう。こういう大通り沿いには大型のオフィスビルが建つから、その周りに人も集まる。でもそうすると、駅の北と南でコミュニティが分断されてしまうんですね。
でも西荻は、南に五日市街道、北に青梅街道が走って駅はちょうどその真ん中にある。周りは住宅街になっているから、大きな車も西荻にはそんなに入ってこない。幹線道路がないから、北と南が行き来しやすいんだよね。」
西荻窪の駅には改札がひとつしかなく、数本の道が線路下を通っているため歩いて南と北を横断できます。まだ西荻窪が田んぼや畑ばかりだった頃、井荻村(※1)の村長だった内田秀五郎という人物が区画整理をしたおかげで暮らしやすい町になったようです。こうした、ちょっとそこまで歩いて回れる規模感が、暮らしやすさにも繋がっているのではないでしょうか。
(※1)井荻村は現在の西荻窪駅の北口一帯を指す
お金持ちも貧乏人もごちゃまぜ
「区画整理されたとき、街を碁盤の目に切ったことで、住みやすくなったみたい。地元の人同士が昔から仲が良くて、その雰囲気が今でも続いてるんだと思うなあ。わきあいあいとしているんですよね。」
「あとよく言われるのが、貧乏人と金持ちが同居する街。戦争のときに空襲のあった町に住んでいた文筆家とか大手の社長や会長たちが、こっちに移り住んできたみたいです。もともと百姓たちの町だったところへ、そういう人が入ってきたことでいわゆる貧富の差みたいなものに縛られずに暮らしていける雰囲気ができあがったんだと思う。」
地理的条件と、かつて暮らしていた人々の来るもの拒まず去る者追わずな精神が、西荻窪の雰囲気を作り上げていきました。実際は、駅前の開発計画も進んでいたようですが、バブルの崩壊とともに頓挫し、地元の方々の強い反発もあって今の西荻の町ができあがりました。
飲めば分かるさ
川邊社長のような会社のトップと仕事をせず飲み歩いている人が一堂に会する小さな飲み屋が、駅を中心に散らばっているのも西荻の特徴です。
人の動きが見える血の通った西荻窪という街は、誰をも受け入れるやわらかさを持っています。飲み屋街に入ればその空気はより色濃くなります。
「西荻ではみんな平等だと思いますよ。誰が社長でも社員でもフリーターでも気にしないし、関係ない。飲めば誰だって自分と同じような悩みを持っていたりするものでしょう。西荻はなかなか気軽に打ち明けられないようなことを、肩書きとか気にせず話せる最後の砦みたいな場所かなあ。」
そんな最後の砦である西荻窪で暮らすにあたり、新入りの心得を伺うと「まあ、まずは飲もうよ。」と一言。
「飲めなくたって、美味しいものがいっぱいある町だから、ごはんを食べてみてほしいね。お金持ちが多く住む町には、自然と美味い店が増えるものです。まあ西荻に住めば、飲めない人も飲めるようになるけどね。」
決して急がず、だからといって堕落的でもない、ほどよいゆるさを持った町が西荻窪。川邊社長のおっしゃるとおり、ほろ酔い気分が町の雰囲気とちょうどマッチしているのかもしれません。
お話をうかがったひと
川邊 日出海(かわなべ ひでみ)
昭和37年2月12日生まれ(とら年)、みずがめ座。趣味はゴルフ、家庭菜園、ミニ盆栽。夢はハリウッドの映画に俳優として出演すること。時々ラジオのトーク番組や映画やドラマに出演してます。好きな言葉は「明・元・素」。明るく元気で素直な心、ここが大事ですネ。今宵も西荻の夜をうろついていますので、西荻で一杯やりたい人は連絡ください。
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