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【西荻窪】15年愛される古本屋「古書音羽館」がセレクトする本の秘密とは

帰りたくなる町に暮らそう。【西荻窪】特集はじめます。

2000年から15年もの間、西荻窪(以下、愛を込めて西荻)に人の往来が途絶えない古本屋があります。「古書 音羽館」(こしょおとわかん)(以下、音羽館)には、いつも学校帰りの学生や仕事帰りのサラリーマン、さらには感度の高い文学少女や雑誌の編集者などが訪れます。

店主・広瀬洋一さんが話す、町の古本屋の役割とは「再評価すること」。今日も本好きな人々が入れ代わり立ち代わりで訪れる音羽館が、息長く続けられる秘密に迫ります。

古本屋をやる理由

西荻窪の古書音羽館

── 西荻の駅の近くには本屋さんがたくさんありますが、音羽館さんが新書ではなく、あえて古書店をやる理由を教えてください。

広瀬洋一(以下、広瀬) 2つあります。ひとつは、古本屋ならリーズナブルでかつ、新刊書店にはない本を買えること。お客様の中には、値段がどんなに高くても貴重な本を探している人もいます。逆にね、貴重なものではなく安い本を探している人もいっぱいいるわけです。古本屋に行けば、定価5,000円の本でも1,000円で買えますから。

── お得な気分を味わえますね。

広瀬 その得した気分を味わうのが楽しいんですよね(笑)。わざわざ中央線に乗って西荻まで来たことで得られる達成感がある。中央線沿線は本屋が多く、たとえば高円寺で8,000円で売っていた本が西荻に来たら1,500円で売っている、なんてこともあるから尚更です。

── 個性ある専門書のお店ではなく、音羽館は幅広いジャンルを扱っていらっしゃいますが、手に取りやすい価格で売り出せるのはどうしてですか?

広瀬 とにかく安く売るということにこだわっています。だから市場の最低価格を調査して本の値段をつけるんです。Amazonの古本より安く値段設定するとかね。

── でも値下げをすればするほど、販売利益が小さくなります。もっと違うやり方をするほうが、お店としてはよいのではないでしょうか。

広瀬 専門書を扱う本屋は安売りしません。ある程度、価格体系を自分たちでつくって、他の店より高価になるくらいの気概を持って値付けするやり方です。「こんな本は、ここにしかないぞ」とお客さんに思ってもらえる充実した品揃えを保つこと。それが専門店の条件です。

西荻窪の古書音羽館

広瀬 専門店が、そうした本のストック型であることに価値があるとすると、うちはフロー型です。町の古本屋はどんどん本を売って、お客さんから買い取って本を仕入れています。定期的にうちに来てもらうといい本に巡り会えて、安く本が手に入ります。この旨味を知っているお客さんは、1週間に1回くらい西荻を定期巡回しているんですよ。

── なるほど。定期的にお店に来るお客さんは、西荻の町も回遊しているのでしょうか。

広瀬 せっかく西荻に来たなら、うちだけではなく、お茶を飲んでいったり、おいしいカレーを食べていったりして欲しいですね。

── 西荻には個人店が多いと、よく伺います。

広瀬 そうです、だから店同士で補完しあっている町だと思います。音羽館だけで本を探して見つからなかったら、そこで諦めるのではなくて西荻南口にある盛林堂書房さんとか、他の古本屋さんも見て回ってみてほしいですね。目当ての本がなかったとしても、骨董屋さんもあるし、西荻のお店でご飯を食べて帰れます。店同士が助けあって成り立っている部分もありますから、西荻という町そのものの実力に助けられていると思いますね。

お客さんにとって居心地のいい本屋とは

西荻窪の古書音羽館

── 音羽館は、立ち読みするお客さんが多いですよね。(取材している)今も、必ず立ち読みしている方がいます。

広瀬 入り口を2つ設けて、入りやすくて出やすい店にしているんです。入る人と出る人がチェックできるような構造になっている。入り組んでいるから、防犯面では不便利ですが、お客さんにとっては居心地がいい場所になるんですよ。店主の目を気にしなくていいですからね。

── 西荻の本屋さんは、音羽館を含め、夜遅くまで営業しています。お客さんにとっては嬉しいことですよね。

広瀬 音羽館がオープンした15年くらい前までは、西荻の終電まで営業している古本屋さんがありましたよ。

── すごいです。

広瀬 夜までお客さんのために営業している本屋さんが身近にいるのだから、うちも夜11時までは営業しようかなあって、思ったんですよ。吉祥寺や中野など大きい街を回ったあとや、仕事を終えた遅い時間帯に本屋を巡って、帰宅直前にうちに来るお客さんがいます。

店をたたむ古本屋が増えている

西荻窪の古書音羽館

── 西荻の古本の町と言われることも多いと思いますが、状況として実際のところはどうでしょうか。

広瀬 たしかに西荻は骨董と古本の町とは言われます。しかし実際、古本屋も骨董を扱う店もどんどん減ってきています。2013年には15件ほどあった古本屋は、今では10軒くらいになっているんじゃないかな。で、食べ物屋さんも頻繁に新しい店と古い店が入れ替わります。

── 変わり続けないと町の活気を持続できないですが、少しずつ町の力が落ちていくのが不安でもありますね。

広瀬 いつか気がついたときに地域が閑散として寂しい状態になっているのではないか、という危機感は西荻の各商店が共有しています。西荻案内所の奥秋さんは、観光案内パンフレットを作ったりイベントを企画したりして、すごく頑張っている。

── そうですね。お話をうかがったことがあります。

広瀬 西荻は小さなイベントが毎月のようにあるんですよ。毎年高円寺で開催している阿波踊りのような大きなイベントはないんけれど、西荻っておもしろいことやっているなと思ってもらえるといいですねえ。

古本屋は人の往来が途絶えない交差点

── 西荻という町において、音羽館というお店の役割は、どうお考えですか?

広瀬 古本屋の機能は、再評価だと思っています。つまりそれはお客さんが売ってくれた過去の本を、最大限活かすことですね。次の最適な人に渡すことを心がけています。

── 再評価のためにどんなことをしていますか?

広瀬 あえて、自分で棚作りはしないことですね。あまり意識せずに、店に並べる本を取捨選択しています。だから今、棚にある本の全体で、お客さんに何かをやんわり提案しているような感じ。

うちはセレクトショップみたいにお店の人が選んだ商品がイチオシというわけはありません。

── 最近の本屋の動きとしては、むしろセレクトショップのような棚作りが主流だと思うのですが。

広瀬 今ね、若い店主たちが、新しい本屋を作る動きもあるんです。彼らは自分の主張を棚で表現しようとする気概があって、本のセレクト感が強いんですよ。

僕も同じように、約15年前までは自分のこだわりを押し出すところがあったんですけど、音羽館を営業しているうちに、自分で主張するモチベーションがなくなってきたんです。

── なぜでしょうか?

広瀬 10年間、高原書店という総合書店で働いていましたが、そこでは、どんな要望を持つお客さんにも対応していました。書店を開業した社長は「いつかは、どんな本でも役に立つ」という信念を持っていて、僕もそういう社長の思いに影響を受けているので、音羽館で扱う本のカテゴリも、自然と幅広くなるのだと思います。

西荻窪の古書音羽館

広瀬 それに、本を選んで店の棚を作っているのは、本を売るお客さんだと思うんです。古本屋はお客さんが過去に選んで買った本を仕入れて売っているわけですから。

だからお店という空間を自分の主張で埋めるよりも、たまたま来た編集者や出版社の人、作家さんが雑談や仕事の話を始めるくらいの雰囲気がいい。本屋は交差点です。人の往来が途絶えない、風通しのいい空間でいいんじゃないかなあ。

── 一方的に、お店から何かを提案するよりも、場を提供すると。

広瀬 音羽館を使って、お客さんに買う本、売る本を選んでいただく。店主の個性は、特に際立たなくていいんじゃないかなあって、開き直っているところなんですけど(笑)。

西荻窪の古書音羽館

やりたいことをとことんやれば、おもしろい本屋ができる

── 古本屋の魅力って何ですか?

広瀬 自由なところだね。ふつう、出版業界は垂直的な構造です。本をつくる出版社があって取次が本をまとめて、全国の本屋がお客様に本を売る。

── その構造では、上下関係があったりするんですよね。

広瀬 そうです。だから昔はね、反体制運動のようなことをするアウトサイダーな人が、垂直的な構造の中に入れないから、独立系の古本屋になるしかなかった。あとは地方公演とかで忙しくて、なかなか仕事に時間を割けない演劇をやっている人が、片手間で古本屋をやっていたんですよ。

── 自由な人が古本屋をやるから、おもしろいんですね。

広瀬 格式が高い店がいいんじゃなくて、とことん自分のやりたいようにやる店がおもしろい。そういう古本屋で共通していることは、本の品揃えが充実していて、しかも安いこと。社会のメカニズムからは少しだけ外れてしまったからこそ、一軒として同じような店がないところが、古本屋の魅力ですね。

西荻窪の古書音羽館

お話しをうかがったひと

広瀬 洋一(ひろせ よういち)
1965年川崎市生まれ。大学在学中に町田にある「高原書店」に入社。10年勤務したのち独立。2000年に杉並区西荻窪で「古書 音羽館」を開店。また地域の有志と運営するマンスリーイベント「西荻ブックマーク」のメンバー。著書に『西荻窪の古本屋さん』(本の雑誌社、2013年)がある。

このお店のこと

古書音羽館
住所:東京都杉並区西荻北3丁目13−7 ベルハイム西荻窪 1F
営業時間:12:00-23:00
定休日:火曜定休、年末年始
電話:03-5382-1587

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小松﨑拓郎

ドイツ・ベルリン在住の編集者 / フォトグラファー。茨城県龍ケ崎市出身、→ さらに詳しく見る

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