語るを聞く

【かぐや姫の胸の内】写真家・周東明美の光と物語のチベット

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──

ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな。」
「枠にはめられたくない。」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

ほら、今も細腕が店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……

今晩のゲストはチベットに惹かれた写真家・周東 明美(しゅうとう あけみ)さんです。

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***

周東 明美(以下、あけみ) こんばんは?

── 夜だから「こんばんは」で正解よ。お入りなさい。あら、あなたカメラを持っているのね。

はい、私カメラマンなんです。これは仕事道具で。

── いいわね。私もカメラを持っているわ。3つも持っているわ。でも、使いこなせるのは1つもないわ。最近買い換えたiPhone6だけは使えるのよ、他はだめ。

そ、そうですか……。

── どんな写真を撮っているの?

日本では、主にブライダルやポートレートのカメラマンとして個人で活動しています。

でも、私が本当に撮りたいのはチベットなんです。学生の時に初めて訪れたチベットに、惹かれてどうしようもないんです。撮りたい。チベットのすべてを写してみたい。写真とチベットが好きなんです。

── そう……。じゃあ、今夜はあなたの話をもっと聞かせてちょうだい。美味しいお酒を作ったから、まずはゆっくりとお飲みなさい。

チベットを伝えなければいけないと思った

── チベットに行ったきっかけは何?

まず私の生い立ちの話からさせていただいた方がよいですね。私、実は国籍が中国なんです。両親が日本の永住権を取得して、2歳からずっと日本で暮らしています。

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大学を卒業したら日本に帰化しようと考えていたから、その前に中国のパスポートだからこそ行ける場所に旅をしようと思って、大学生最後の夏休みに初めてチベットを訪れました。チベットはとても敏感な場所ですから、外国人観光客の立ち入りを制限していたり、色々と規制がある場所です。日本人であればツアーに参加したりする必要があるけれど、私なら個人旅行で入れる、と。

── チベットってどこにある国なのかしら?

……チベットは中国です。中国人民共和国内の、チベット自治区。

── ……もちろん知ってるわ。続けなさい。

は、はい。チベットを訪れた時は、いろんな悔しいことがありました。私、パスポートはもちろん中国のものなのですが、住所は日本にあるんです。そうすると、不便なことがたくさん出てきます。

まず、中国国内に住所がない場合、身分証が発行してもらえないんですね。身分証がないと、パスポートの身分証番号欄は当然空欄のままになります。すると、「そのパスポートは偽物じゃないのか」とか「中国国内に住所がないなら、日本人と同様だから中国人ではない」とかって言われて、ホテルに泊まれなかったり、首都ラサから出ることができなかったりしました。もっと色々なことを言われたりもしましたし……。

私の国籍は中国だから、日本では在日中国人という扱いになります。でも、本国である中国に帰ったら「日本に住んでいる中国人」。どこに行っても自分の居場所がない。落ち着ける場所がない。それって、どこにいても大多数になれないってことなんです。みんなと一緒になれない。それがすごく悔しくて。

私は漢民族です。でも、身分証がないというだけでこんなに不自由で悲しい扱いを受けることがある。じゃあ、チベットで暮らすもっともっと少数民族の人たちは、どれほどの差別や不便なことがあるんだろうと思って。それを想像したとき、私は「こんな理不尽なことで、美しい文化をなくしてはいけない」と思ったんです。

周東あけみ
チベットの首都ラサにて

チベットは本当に綺麗な場所です。空を撮るだけでも、額に入れて飾っておきたくなるくらいに、自然も文化も、人も本当に美しい。この場所では今も素晴らしい暮らしが営まれているのに、それを否定したり取り除こうとしたりする人がいる。

チベットの感動と自分の体験が重なって、どこか共鳴して、そしてすごくすごく悲しくて悔しかった。だから、私はこれを伝えようと思って。

写真で伝えると決めたからには、撮ることを仕事にして生きていかなければならないとも思いました。

日本で別の仕事をしながら、たまの休みにチベットを訪れて、片手間で撮っても人に伝えられることなんて何もない。だから、最初にチベットを訪れた後、日本に帰国してすぐにカメラを本格的に勉強して、まずはカメラマンとしてのキャリアを積むことを始めました。今はその道の途中ということになります。

写真は光であり本であり、物語を持っている

── あけみさん、あなたはとても複雑な人生を歩いてきたのね。あなたが撮る写真はとても綺麗で、どこか悲しくて温かいわ。カメラは、ずっと好きだったの?

私は表現すること、創造することそのものが好きです。ですから、伝える手段としてはカメラ以外にも文章、映像、様々な可能性を考えました。でも、文章にはどうしても言語の壁があるし、生い立ちのこともあるからきっと将来言えないことが出てくるかもしれない。映像は、やってみたけれど肌に馴染まない感覚がある……。私、最終的には私の発信したものをすべての人に見てもらいたいんです。世界中の、ほんとうにすべての人に。

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Tibet. 2013-2014

だから、好きだということももちろんでしたが、伝える手段として最適なのが写真だと思ったんです。写真には、言葉が不要です。解釈が自由で、色んな風に感じてもらえる。

── そうなのね。さっき、チベットは美しくて色鮮やかな場所だとあけみさんは言ったわ。なぜ、モノクロなの? さっきから写真を見せてもらっているけれど、チベットの写真はそのすべてがモノクロよ。

私、写真は光であり本だと思っているんです。モノクロにすることで、光だけが浮き彫りになります。チベットが美しいからこそ、カラーの写真を見て「わぁ綺麗」と思うだけじゃなくて、この色は何色なんだろう、この場所はどんな様子なのだろうと、想像してほしいんです。もっと。

周東あけみ
Tibet. 2013-2014

本って、めくっていく時にふと一文が目に止まって、それが一生心に残って人生を変えてしまったり、その人の支えになったり影響を与えることがありますよね。私の写真も、そうであってほしいと思うんです。一枚一枚本のページをめくるように、一枚いちまいの写真が物語を持っているものとして存在して、そして見ている人に写真を読むという体験をしてほしい。

本は、真っ白い紙に黒い文字で記されていることが多いですよね。それと同じ。光のコントラストの中で物語を読んでほしいから、私が撮るチベットの写真はモノクロなんです。

── 人が必ず写っているのは、どうして?

私、人が撮りたいんです。必ずしも全身である必要はなくて、どこでもいい。手でも足でも、それこそ服の裾でも。髪の毛一本でもよいから、そこに人の営みが写っていることが私にとっては大切で

── あけみさんとカメラが出会ったのは、いつ?

小さい頃から何かを作ることが好きだったので、趣味としてのカメラはずっと続けていました。仕事にしようと決意したのは、先ほど申し上げた「チベットを伝えなければ」と思った時なので、22歳の時ですが。

小学生の頃は、おもちゃのフィルムカメラで写真を撮って、それに言葉を添えて遊びで紙芝居を作っていましたね。桃太郎とか。

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── 今それをあけみさんがやったら、すごいことになりそうね。

あはは、ですね(笑)。今度やってみようかな。

── そのカメラは自分で買ったの? 彼氏がくれたの?

いえ、自分で買いましたよ、もちろん(笑)。

私、妄想が好きで、夜寝る前に悶々と考えていることが多いので、人生もう既に何十回生きたか分からないくらいなんですけど、小さい頃から「夜逃げする時にお金が必要だ」と思って500円玉貯金をしていたんですね。

── ……そうね、現金があったら、夜逃げの時も安心だものね。

でも22歳の時に、500円玉だけで20万円くらい貯めたじゃらじゃら音のするジップロックの袋を持って、家電量販店に向かいました。店員さんに「キャノンとニコンの違いは何?」「絞りって何なんですか?」とか聞きながら、カメラのことなんて全然知らない状態で。でも、カメラが欲しくてたまらなかったんです。

夜逃げ資金をつぎ込むほど、私にとってカメラを購入することが一大事だったって、伝わりますか?

── えぇ。本当に欲しくなった瞬間というものがあったのね。大きな転機だわ。ところで、一応聞くけど、夜逃げしなければいけない事情があったの?

いや、まぁ妄想なのでそこは(笑)。

写真家・周東明美がこれから目指すもの

私、チベットでご飯を食べている時に、とある漢民族の方に「自分は日本民族が嫌いだ」と言われたことがあります。昔住んでいたのが過去に戦場だった場所で、日本人に家族が殺されたことがあるのだと。

私はかける言葉を何ひとつ見つけることができなくて。そういう人たちだけじゃないよとか、民族で見ることは意味がないよとか、そんな言葉はそこでは何も意味を持たなくて。もちろん、その人が言っていることはひとつの事実ですし、私が何か言えることでもないです。

でも私が感じたのはそれとはまた違うことで……。

世の中には、自分が作った価値観の中で、作り上げてしまった塀の中で「あれは悪だ」と決めている人がいる

私が自分の写真を届けたい人って、そういう人たちなんだろうなとその時に思いました。これは本当に私の感覚の話なのですけれど、自分が勝手に作ってしまった概念や、社会や歴史、世論などの「誰かに作られた概念」みたいなものによって本当の判断ができなくなってしまうことって確かにあると思っていて。

目の前にすごく尊いものがあるのに、その壁があるせいで見られなくなる。尊いものを自分の目で、心で、素直に尊いと思って欲しいんです。

── あけみさんが思う「尊いもの」ってなぁに?

生きることそのもの。食べること、寝ること、生活、人の営みそのものです。だから、自分のサイトにも、そういった言葉を掲げています。

■参照:Akemi SHUTO Profile

── 次の目標を聞かれたら、何と答える?

直近の目標は、もちろんチベットで暮らしながらチベットの写真を撮ること。そして、その写真を用いて、2015年中にチベットの個展を開くことです。その後、私の写真に文章を添えた写真集を出して、それが終わったら次はアメリカに行きたい。そこで、私の言葉を翻訳してくれる人に出会って、チベットの写真集をもっと多くの人に伝えていきたい。

その後のことは、まだ分かりません。私、行動した先で目標を持つことが多いんです。だから、まずは目の前のことに誠実に向き合っていくだけです。「歴史に残る写真を撮る」という大きな大きな目標はありますが、そこに辿り着く道は、少しずつしか描けない。

自分の理想や到達したい場所が壮大すぎて、今それを言葉にするには経験が足りないって言えばいいのでしょうか。まだ、描く夢に、自分も言葉も追いついてくれていないんです。だから今は、言葉にして目標として捉えるためにも、ずっとずっと撮り続けて、文章にして、言葉に出して、といったことを繰り返すしかないんですよね。

きっと、答えは写真が教えてくれます。自分の撮る作品が、いつか私の道を照らしてくれる気がしています。

── いつまでチベットを撮り続けるのかしらね。

「この一枚ですべてを伝えられる写真が撮れた」と思えたら、でしょうか。「この一枚があれば、死んでもいい」と思えるくらいの、「生まれてきた意味があった」と思えるくらいの写真が撮れたら、きっと。

── 今撮っている写真は、あけみさんの中では何点くらい?

今は15点くらいですね。100点の写真がどんなものか分からないし、撮るときも現像する時も本当に心を込めてやっています。でも、自分が目指すものにはまだまだ到達できていないので、やっぱり15点くらい。

── ねぇ、私も若い頃自分の力で生きていきたいと思うことがあったわ。一人の写真家として、アーティストとして生きることに対して、孤独感というものはないの?

そうですね……時々すごく不安にはなります。でも、自分が何か成し遂げたいことがある人はみな、信念に対しては孤独であるべきだと思います

まだ道のない場所に道を切り拓くと決めたなら、その道はひとりで開拓していくべきなのだろうと思っています。後に、道に賛同してくれる人が一緒に歩きたいと言ってくれたとしたら、もうそれは孤独ではないのかもしれません。でも、道を示すことができるのは自分ひとりだけ。

家族、友達、応援してくれる人。たくさんの人が支えてくださっていると思うから、「私、孤独なんです」とは言いたくありません。そういった意味では私はまったく孤独じゃない。けれど、何度も繰り返すように、成し遂げたい道に関しては孤独であるべきだと思っています。

── あけみさんが憧れる人って、どんな人?

マザーテレサ、ナイチンゲール、ヘレンケラーといった過去に活躍した女性でしょうか。私、小さい頃から漫画の歴史偉人シリーズが大好きで、特に彼女たちの本はよく読んでいたんですね。大人になって、なぜあのシリーズがあんなにも好きだったのかを振り返ってみた時、彼女たちに共通していたのは自分の信念に従ってどんな困難も克服してきたことだと気が付いたんです。

心の中に揺るぎのない信念を持っている人は、自分の中に希望を見いだせる。そんな人たちの瞳は美しいと思うし、私もそうでありたいと思いますね。

── そう……私はAKBが結構好きよ。それは置いておきましょう。話を聞いていて、あなたは人生と仕事に対して、とても誠実な人なのだろうと思ったわ。

それは嬉しいです。私、一番大切にしたいことって、自分にも人にも嘘をつかない、誠実であることなんです。1つ目標を見つけると全熱量をそこに注いでしまう傾向があるのですが、でも夢に対してだけじゃなくて、周りにいてくれる人に対してもいつも感謝の心を持っていたいと思っています。

── いいわね。ところで、私はきっとチベットに長くいたら、そこで恋をするわ。あなたはしなかったの?

しましたよ(笑)。苦い思い出でもありますが……実は彼がいてくれたからこそ1年間もチベットにいたのに年間20万円くらいで旅を続けることができたんですよね。もう過去の話ですけれど。

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── あら、いいじゃない。今はどう? パートナーがいたら、仕事に支障が出ると思うのかしら。

私、さっき言った通り、一度目標を持ってしまうと、それに全精力を注いでしまう傾向があります。それは恋も一緒かもしれないと思っていて。

だから、今は恋をするのが少しだけ怖い。恋に傾きそうになったら「だめだよ、あけみ」って悟してくれる男性がいたらいいな。あとは、これからしばらくは場所に縛られずに動いていたい。だから、それに付き合ってくれる方でないと……難しいかな? って。

── そんな人がいたら、私が交際を申し出たいくらいだわ。でも、近い将来、あけみさんにふさわしい男性が現れるわ、きっと。

【かぐや姫】いつか月に帰ってしまうとしても

── 最後にひとつだけ聞かせて。かぐや姫は月に帰ってしまったけれど、もし明日、月に帰らなければならないとしたらあけみさんはどうする?

もし今日が地球で過ごす最後の一日だったとしたら、ということですよね。うーん、そうですね。きっと家族と一緒に、うんとおいしいものを食べますね。

やっぱり私は家族のことが大好きだし、いつか同じように温かい家庭を築きたいとも思っています。いつまで経っても、家族は私の原点ですから。

── いいわね。

また、遊びにきてちょうだい。そして、撮った写真を見せて。きっとたくさんの言葉を交わすより、あけみさんが撮ったものを見ることで、あなたの心が深く理解できるようになるのでしょうね。これからもっと。私、あけみさんを応援しているわ。

良い人生を過ごすのよ。

(一部写真提供:Akemi  SHUTO)

Akemi SHUTOの作品はこちら

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Tibet. 2013-2014
akemi5
Tibet. 2013-2014
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Tibet. 2013-2014
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portrait. 2014
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portrait. 2014
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portrait. 2014

祈ることは、生きること。

食べること、眠ること、着ること、住むこと、話すこと、歌うこと。

全て人の営みは、生きること。

人の営みは文化であり、文化は人の生きた証である。

消えゆくものが、消えてしまう前に。

どうか、自分の目で見た尊さを信じる強さを。

■引用:Akemi SHUTO Photography.com

—立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花— 

お話を伺った人

周東 明美(しゅうとう あけみ)
1990年生まれ。フリーランスフォトグラファー/写真作家。中国天津出身、2歳より日本へ。明治学院大学経済学部国際経営学科卒業。初めてのチベット訪問時に、チベットの文化や宗教に心を打たれ写真家を目指す。在学中に、ミスユニバースや来日アーティストの撮影などを多く手がける大島央照氏に師事。大学卒業後フリーランスフォトグラファーとして活動。映像・スチール、美学生図鑑、ポートレート、アーティスト撮影など人物撮影を中心に撮影を手がける。2013年9月〜2014年8月、撮影のためチベット自治区に単身滞在。

公式サイト:http://www.akemishuto-photography.com/
Twitter @akemishuto

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伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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【かぐや姫の胸の内】常に、見晴らしのよい場所を求めています。- 鈴木 絵美里 - 【かぐや姫の胸の内】「盛り上がってたら盛り上げてた」―サムギョプサル和田―

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