営みを知る

【かぐや姫の胸の内】結果的に誰かを救ったとしても「私が救った」と思うことは永遠にない-「未来食堂」小林せかい-

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──

ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな」
「枠にはめられたくない」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

ほら、今も細腕が店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……

連載 今を生きる女性の本音「かぐや姫の胸の内」

第14回目となる今回は番外編。東京都神保町駅近くに位置する、あなたの“ふつう”をあつらえる飲食店「未来食堂」代表・小林せかいさんを訪ねます。

未来食堂

── こんにちは、お久しぶりね。元気にしていた?

小林せかい(以下、せかい) こんにちは。元気ですよ、ママもお変わりなく。

── なんだかここしばらく、忙しそうだったわね。

せかい 少しだけ。……いや、結構忙しかったかもしれないですね。2015年9月に未来食堂をオープンさせてから、今月で10ヶ月目。テレビや雑誌、ウェブマガジンの取材を受けたり、最近だと雑誌の連載や書籍執筆の仕事なんかも始めたりして。

── ふぅん。ウェブの記事をいくつか読んだりしていたわ。反響はどう?

せかい ありがたいことに、とても反響が大きくて。毎日たくさんの方に来ていただいています。でも、基本的にはひとりで運営しているお店。50分のお手伝いで一食サービスするという「まかない」制度はあるものの、やはり自分で運営している店ですから日々緊張感はありますね。

── こんなに注目を浴びるとは、思っていなかった?

せかい うーん。言い方は難しいんですが、オープンしたら注目されるだろうという予感はありました。なぜなら、誰もやっていないことをやろうとしていたから。

小林せかいさん

── 注目されるのは、「あなたの“ふつう”をあつらえる」というコンセプトもそうだし、「まかない」や「ただめし」、「さしいれ」などの未来食堂独特のシステムが話題になって、ということ?

せかい そうですね。「まかない」「あつらえ」は映像映えするので、たとえばアイドルが「まかない」するだとか、とんでもない「あつらえ」を頼むとか、そういう形でテレビから声がかかるだろうという覚悟はありました。覚悟、というと大げさに感じるかもしれませんが、システムの根幹に触れられることなく、おもしろおかしい形でマスメディアに伝播されていくだろうという、やるせなさや歯がゆさを含めて“覚悟”していました。

── そうだったのね。

せかい 未来食堂の理念を知らしめるためには、清濁飲み込んで有名になることも必要だと考えるので。ただ、現時点はそうした予想とは違う点を評価されることが多いですね。私の“元エンジニア”だという経歴や、事業計画書や決算をネット上でオープンにしている点が注目されているようです。

── へぇ、世の中というのはおもしろいものね。人生は思い通りにいかない。だからおもしろいのよ、きっと。今日は積もる話がたくさんありそうね。たまにはゆっくり話しましょうよ。

せかい あ、何か飲み物お出ししますね。ママ、野菜好きでしたよね。さっき、伊豆諸島から「あしたば」というセリ科の野菜が届いたところなので、新鮮野菜のスムージーとか、つくりましょうか。

未来食堂は、あなたの“ふつう”をあつらえる場所

── 私があなたと出会った頃は、まだ未来食堂はオープンする前……準備中だった。今、どんなお店を運営しているのか改めて教えて?

せかい まずは「あつらえ」について話しましょうか。

── えぇ、ぜひ。

せかい あつらえるという言葉は、次のような意味を持っています。

「頼むこと。特に注文して作ってもらうこと。また、そのもの。」(日本国語大辞典第二版より)|未来食堂公式サイトより

食事って、すごくひとの好みが反映されるものだと思うんです。でもじつは、その好みや気分に合わせて食べられる場所って、少ないのではないかと思っていて。だから未来食堂では、通常の定食メニューに加えて、その日の体調や好み、摂りたい野菜を組み合わせて注文できる制度を設けています。それを「あつらえ」と呼んでいます。

── 「あなたの“ふつう”をあつらえる」。聞いたことがあるようで、なかったように思えるコンセプトね。

せかい 名称は、図書館に通って辞書とにらめっこしながら考えました。「ただめし」や「まかない」、「さしいれ」もそうですね。

「ただめし」とは、50分のお手伝いで一食もらえる「まかない」制度を応用したもの。「まかない」をした誰かが、自分が食べる代わりに「ただめし券」をお店に置いていくんです。それは、店の入り口の壁に貼ってあるから、誰でも使っていい。

入口横に貼ってある「ただめし券」
入口横に貼ってある「ただめし券」

── へぇ。

せかい 「さしいれ」は、飲み物を自由に飲んでいいですよという制度。未来食堂では飲み物の持ち込みが自由なんです。その代わりに、持ち込んだ飲み物の半分はお店に置いていっていただきます。「さしいれ」は、ほかのお客様が置いていったものが飲めるんです。

── なんだかユニークね。そしてここにあるのが「未来図書」ね。写真集や画集が揃っているわ。初めて開く本がたくさんある。

未来食堂の本

── ……ねぇそういえば、最近18歳以下の未成年に向けたサービスも始めたのよね?

せかい 「サロン18禁」のことですね。

サロン18禁

── そう。それも未来食堂の取り組みの一環なの?

せかい えぇ。「サロン18禁」は、18歳未満の方を対象に、月に一度開催する会員制サロンです。

一期一会の出会いと語らい。
あるいは、未知な書物との出会い。
あるいは、プライベートな書斎。

既存の道徳倫理/固定観念/常識…全てを裏返した聖域。

どうぞ一時のあいだ日々の喧騒を離れ、上質な時間をお過ごしください。
あざやかに世界を塗り替える快楽を、心ゆくまで楽しみましょう。(未来食堂公式サイトより)

── ふぅん。ひとが集う場をつくっているのね。私も「サロン18禁」に参加してみたかったわ。あともう少し若ければ……。

せかい (……。)

でも、サロンは私が主催しているというよりも、本当に場を提供しているだけなんです。私が場を仕切ることもないし、何かお題を出すこともない。18歳くらいの頃って、そういう場って意外に見つからないんです。学校以外で大切なことが学べる場、感じられる場、議論できる場……。ひとりの人間として扱ってもらえる空間があることは、とても意義があるんじゃないかと思っています。

変わり者にはなりたくない。でも、それもきっと個性になる

── ふぅん……。ねぇ、どうしてこういったお店や場をつくろうと思ったの?

せかい うーん、誰もが受け入れられる場所をつくりたかったんですよね。簡単に言うと。

小林せかいさん

── 誰もが受け入れられる場所。

せかい 中学生の頃から、私は将来はお店をやるのだ、とは思っていました。でも当時は形態にこだわりはなかった。ただ、やるとしたら、喫茶店やバーだろうと思っていました。

というのも実は私、昔すごく偏食だったんです。みんなにも笑われていたから、そんな自分が食べ物屋をやるイメージは全く無かった。

ちょっと話は逸れますが、名前もそうです。「小林せかい」は本名で、“世界”という単語を認識する前、物心が付く前から私の名前は「せかい」だった。自分にとっては固有名詞である前に人名なので“珍しい”と思ったことは一度もありません。でも、みんなからは「珍しいね」「変わっているね」と言われる。おそらく永遠に「せかい」という名前が、どう珍しいのかを自分が理解出来る日は来ないでしょう。

個性があるねという言葉は、時として「変わり者」という響きに聞こえることがあります。うれしくはないですね。ああやっぱり言われてしまったかと寂しくなります。

話を戻して……。ええと、偏食であることって、すごく個性が出ると思っていて。理由もないけど人を好きになる、みたいな感じだと思うんですね。理由はないけど、かまぼこ嫌い、みたいな。べつに好き好んで自分から積極的に言うことはないけれど、じつはこれはちょっと苦手なんだよねという食べ物があったり。ママも、そういうものありませんか? そしてそれはなぜと問われても、理由はうまく表現できない。

小林せかい

── うん、分かると思うわ。

せかい そういう、理由のないその人らしさをただ受け入れる場所でありたいと思っています。自分の当たり前が「そんなの変」と言われると戸惑いますよね。私もそうです。“ふつう”だと思ってやっていることが急に笑いの対象になると、辛いです。

── うんうん。

せかい でもそれゆえに、そのひとらしさ、個性というか、素敵な魅力が出ることでもあるなぁと思うんです。偏食ってその代表例かもしれないなって。そこを変だと指差すんじゃなくて、受け入れて、ただただ存在している場所でありたいという気持ちが、未来食堂の出発点です。

── ふぅん、いいわね。食事を通して、誰もが受け入れられる場所を目指す。……そういえば、キャリアの開始はエンジニアだったのに、どこでどう舵を切って料理人になったの?

せかい 新卒で入った会社でエンジニアとして採用されて、そこで尊敬する上司に出会いました。その方が、エンジニアの職種で別の企業に転職することになったと聞いて、私も一緒にいきたいと。その転職先の企業が、料理レシピのコミュニティサイトを運営しているクックパッド株式会社だったんです。

── じゃあ、そこで料理を覚えたの?

せかい はい……と言いたいところですが、実際はエンジニアだったのでそうではありません。お店を開こうと決意したあと、クックパッドは退職するんです。そのあと、料理人の修行を別の場所でしました。クックパッドでは、お昼にフリーランチをふるまっていて。

あしたば

── フリーランチ?

せかい クックパッドはベンチャーの空気にあふれていたこともあり、すごく忙しいひともいて、私が在籍していた当時は、ちゃんとランチを食べられていないひとが多かったんですね。それを、なんとかしたいなと思って。

── へぇ。なんとかしたいと、思ったのね。

せかい うん。とはいえ会社員ですから、自由に使える時間はそんなに多くない。だから、まずは朝少しだけ早く出社して、とりあえずお米を一升炊いて、お味噌汁をたっぷりつくることから始めました。すごく気軽にできるかなっていうテンションで。で、お昼に配る。

── あら、素敵ね。

せかい 最初はぽつりぽつりとひとが来る程度だったのに、気が付いたらあっという間に長蛇の列になって賑わい始めました。驚きましたね。

小林せかいさん

── 温かいごはんは、元気のみなもとだものね。みんな、きっととてもうれしかったのよ。

せかい 私、いただきますって言って誰かがいる空間でごはんを食べることが、ひとにとってはとても大事なんだなと思う瞬間を経験したことがあるんです。高校生のとき、“救い”とはなんだろうと考え続けて、大阪の実家を出て2ヶ月ほど東京で暮らしていたことがあったんですけれど。まぁいわゆる家出、ですかね。

家出をして、誰も知り合いがいない都会のなかを、高校生の18歳そこらの若者がひとりで歩いて。ものすごく寂しかったというか、世界から切り離されているような感覚を覚えました。

でも、アルバイト先でみんなでごはんを食べる機会があって。ふつうの唐揚げ弁当みたいなものを、小さく囲んでいるだけだったんですが……。そもそもそういう状況下だから食欲もないわけです。めんどくさかったけれど、自分だけ弁当を頼まないのも角が立つので注文しただけで。

けれど、「いただきます」と手をあわせて、誰かと一緒に食べる瞬間が訪れた時に、あぁ、これは尊いことだなと。ひとは、ひとと結びつかないとだめなんだなって思いました。そのときはこんなに言語化できていなかったんですけれど、あぁこれだ、と感じたんです。

ひとがそこにいること。別に分かり合うとか、話をするとかではないんですけど、ただそこにひとがいるということが、そのときの自分にはとても欠けていたんですね、きっと。

── そのあとは、家に帰れたのかしら。

せかい みんなでお弁当を食べたその日に実家に電話をして、次の日には帰りました。

出てくるときは、もう本当にパッと出てきちゃったんです。9月2日です。もう夏も終わるのに、あまりにも突然だからテンパって日傘を持って家を出て……「これどうしよう、もうすぐいらなくなっちゃうよ」と思ったのを、今でもなぜかはっきりと覚えています。

家に帰ったのは、11月2日です。季節が変わっていました。

小林せかい

あの頃の自分がまだどこかにいる気がして

── あなたは、誰かのために未来食堂をつくりたいという気持ちもあるけれど、もしかしたらあの時の自分が立ち寄れる場所をつくりたいのかもしれないわね。

せかい まぁね。自分なんですよね、結局は。あんまりそこを深く掘られると、過去の自分の想いや弱い部分にメスを入れられるようで辛いんですが。でも、人間誰でもそんなものではないでしょうか。何かを補完するために行動している部分は、誰しもあるんじゃないかと感じます。たとえばコンプレックスの裏返しだったり、小さいときにあったこととか、満足いかなかったこと、思春期の頃に思いがけず受けた傷だったり。

だから、やっぱり高校生のときの、居場所が見つけられなくてさまよっていた自分みたいなひとが、なんとかなったらいいという気持ちは……あると思いますよ。

ただめし券にはそれぞれメッセージが書かれている
ただめし券にはそれぞれメッセージが書かれている

せかい 別に場所でなくてもよかったんです。場所っていうと、三次元になるじゃないですか。でも、家出中のワンシーンのように、ひとがただただそこにいるだけって、別に特にコミュニケーションを要していない。いただきますと同じ空間に向けて言っただけ。でも、会話までいかずとも、言葉を交わしたという事実が、たしかに私を救ってくれたんです。

場所にこだわっているわけではなくて、なんだろう。エネルギーというか熱というか、そういうものが尊いなと思って。

── ふぅん……これからもきっと、あなたはこの場所で誰かを救っていくのでしょうね。

せかい うーん、でも「誰かを救おう」と思うのは、自分のエゴですよね。私はやろうと決めたことを、ただ実行するだけに過ぎません。結果的にそれが誰かを救うことになったとしても、私自身はただの触媒でありきっかけに過ぎないんだとおもいます。「私が救った」は、違うかなと。

【かぐや姫の胸の内】いつか月に帰ってしまうとしても

── かぐや姫は、月に帰ってしまった……。もしあなたが明日、月に帰らなければいけないとしたら、最後の1日は、何をする?

せかい あ、それ。ママが来たらなんて答えようかと、ずっと考えていたんですけれど、それって残りどれくらいあるんですか? ちゃんと聞かないとほら、イメージできないから。できることも変わってしまうし。

── 明日帰らなければいけないから……今から、丸々24時間はあるとして。

せかい いきなり言われてしまうんですか? 今。

── えぇ……。

せかい じゃあ帰るのは明日の夜ですね。今日の晩はどうしようね、晩ごはんは。あと、明日は晴れますかね。

── どうかしら……。

せかい みんなに、手紙を書きたいですね。ありがとうという気持ちを伝えるために。会いに行きたいのは山々だけれど、あと24時間で全員に会うっていうのも難しいですもんね。移動にも時間はかかりますから。

だから手紙を書きます。今から書きはじめて、第一稿を仕上げて、推敲して。

── 推敲するのね。

せかい しますよそりゃあ。手書きがいいですしね。……いや、パソコンかな? メールかもしれない。あとは、土手に行きたい。

── (?)

せかい 私、さっき話した家出の最中、北千住の家に住んでいたんです。家を一軒貸してくれたひとがいて。で、その家の近くに土手があった。ここは一体どこなんだろうってぐるぐる徘徊していたら、パッと視界が開けて、光が見えたんですね。それ、今思うと荒川だったんです。当時は分からなかったんですけれど。

荒川の河川敷

── うん。

せかい その場所で、初めて私、家出中に泣いたんですよ。あぁ、遠くまで来たんだなって。精神的に追いつめられすぎると、逆に涙も出ないんですね。そのときは夜だったんですけれど、対岸に2階建ての高速道路が見えました。大阪では2階建ての高速道路を見たことがなかったので、東京に来たんだなと思いました。

じつは今でも、1年に1度、その場所へ行くんです。当時、少しずつ食べていたコンビニのみたらし団子を持って。

だから、もしかしたら地球で過ごす最後の日も、その土手に行きたいって思うかもしれない。ひとりぼっちだった頃の、原点に。最後の日は、川の対岸に行きたいかな。まだ一度も渡ったことがないんです。いつも“遠いな”と思って眺めています。すぐ近くなんですけどね。

── いいわね。いろんなひとにこの質問をするけれど、回答にはかなり人柄が出るなぁと思うわ。私は……何をしたいかしら。どこか海外に土地を借りて、お店を開く準備をするかもしれないと、今は思う。

また、お店に遊びにこさせてちょうだい。そのときあなたは、一体何をしているのでしょうね。きっと、未来食堂の延長線で、やりたいことと、目指すことに向かって一歩ずつ進んでいるのだと思うけれど。

ところで、お腹がすいたから今日は定食を食べて帰っていいかしら?

小林せかい

― 立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花 ―

お話をうかがったひと

小林 せかい(こばやし せかい)
東工大理学部数学科卒。日本IBM、クックパッドにてエンジニアとして6年間勤務後、約1年半後の修行の後「未来食堂」を開店。

このお店のこと

住所:東京都千代田区一ツ橋2-6-2 日本教育会館 B1
電話番号:03-3239-3900
営業時間:11:00~22:00(火は15:00迄) ※本の閲覧は平日ランチタイム以外でお願いします
定休日:日・月曜日、祝日
公式サイトはこちら

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探求者

伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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