営みを知る

「あれ?気づけば30歳。私、東京で独りだ」人生を切り開くための鎖国生活からの脱却|刺繍作家 kana【かぐや姫の胸の内】

【かぐや姫の胸の内】多様な生き方が選べる現代だからこそ、女性の生き方を考えたい──

ここは、都会の喧噪から引き離された知る人ぞ知る老舗スナック。
夜な夜な少なの女性が集い、想いを吐露する隠れた酒場。

確かに近年、女性が活躍する場は増えて来たように私も思う。

自由に生きていい。そう言われても、

「どう生きればいいの?」
「このままでいいのかな」
「枠にはめられたくない」

私たちの悩みは尽きない。

選択肢が増えたように思える現代だからこそ、
多様な生き方が選べる今だからこそ、
この店に来る女性の列は、絶えないのかもしれない。

ほら、今も誰かが店の扉を開ける気配。
一人の女性が入ってきた……

連載 今を生きる女性の本音「かぐや姫の胸の内」

第27回目は、刺繍作家のkanaさんの登場です。

刺繍作家のkana ── こんばんは、いらっしゃい。

kana 初めまして。

── なんだかすごい荷物ね。旅の帰りみたいだわ。

kana 今日は仕事終わりで、ワークショップの後なんです。普段は刺繍作家として活動しています。

刺繍作家のkana
刺繍作家のkana
刺繍作家のkana

── なんだか素敵な作品たちね。刺繍に詳しくはないけれど、チクチク手仕事に勤しむ女性はすきよ。今日は温かいアップルジンジャー梅酒を作ったの。まずはゆっくりとお飲みなさい。

朝から晩まで刺繍漬け。手作業が心から楽しくて

刺繍作家のkana

── 刺繍作家の仕事って、一体どんな内容なのかしら。

kana ひとによるとは思いますが、もちろん刺繍の作品作りがメインです。

私の場合は、最近でいうと2017年5月に初めての東京開催の個展が控えていて、週末は都立大学駅前にある、会員制のシェア工房「Makers’ Base」さんで「立体刺繍でつくるピアス/イヤリング」のワークショップを開いています。

その他にも、富山の情報発信拠点「日本橋とやま館」のフリーペーパーの表紙用の作品を作ったり、オーダーメイドを承ったり。

刺繍作家のkana

#wedding #オーダーメイド髪飾り #花嫁 #刺繍 #embroidery #立体刺繍 #珠玉バブル

かなさん(@ckmnxa)が投稿した動画 –

── ふぅん。

kana でも週5日で刺繍作家のアシスタントとして仕事もしています。昨年からは技術向上のために刺繍教室にも通っていて。

朝から晩まで刺繍漬けの、道半ばの修行の身です。

── そんなことない、もうプロね。そしてとても精力的に活動しているように見える。

kana ……いえ、私、5年前に上京してからは本当に刺繍中心の暮らしをしていて。こんなに個人で活動を始めたのは2016年初冬からなんです……。

── あら、そうなの? ちょっと意外ね、何かきっかけがあったのかしら。

大好きな色の洪水、刺繍の仕事

刺繍作家のkana

kana 出身は富山県富山市。大学では金属工芸を専攻して、卒業後は高岡市にあるギャラリースタッフへ。

刺繍作家としての活動は在学中から続けていて、勤務先のギャラリーにも展示もしていました。「図工女子」というグループを母校の後輩や地元のクリエイター女性たちと組んで、ありがたいことに東京でグループ展などさせていただいて。

「図工女子」展示の様子
2012年に渋谷パルコで開催された展示会「それゆけ!図工女子」の様子

── へぇ。

kana ある日、憧れていた刺繍作家さんの求人情報を見つけて、富山ではなく東京を拠点に活動を続けることに。

朝から晩まで、刺繍でいっぱい。テレビもない、新聞もとらない、ネットも見ない。職場と自宅は3駅隣で、友人との食事も沿線沿い。乗換案内のアプリもいらないような、本当に刺繍中心の暮らしをしていました。

そしてそれに、ものすごく満足していたんです。

気が付いたら30代。「鎖国」してたら私きっとこのまま死ぬ?

刺繍作家のkana

kana でも、ある日ふと気が付きました。

「あれ? 私はいま、東京に独りだ」って。

「図工女子」のような仲間が東京にはいないことが、そう気付いた原因の1つかもしれません。

私は昨年30歳になったのですが、地元の友人たちは子育ての真っ最中。ずっと一緒に活動を続けてきた「図工女子」のメンバーも、伴侶ができたり、子どもが産まれたり。活動の機会が一時的に減る時期を迎えました。

好きなことが仕事になる人生は幸せです。誰にも会わずに刺繍だけして満足していたけれど、「これ、おばあちゃんになってもできるんじゃない?」「東京じゃなくてもいいんじゃない?」と、ふと不安になる日々が訪れました。

刺繍作家のkana

── 「これって、まるで鎖国みたい」というような?

kana まさにそれ。20代が終わってしまう、という気持ちもあったのだと思います。

── へぇ……分かる気がするわ。鎖国は幸せで安心だけど、不安もある。私も、30歳になるのがこわかった。なってみれば、そんなこわいことは、何もないのにね。

kana はい。とにかく、このままではいけない。ある種の引きこもり状態からなんとしても脱却しなければならない。強く自分を変えたい、と思うようになりました。

先ほども申し上げたように、それがちょうど今から1年ほど前のことです。

刺繍作家のkana

世の中にこのような生き生きとした女性がいるとは知らず!

kana 鎖国を解くためにまず手を付けたのが、テレビを買うこと。そしてネットをつなぐこと。あとは、出歩くための武器として乗り換え案内のアプリをダウンロードすることでした(笑)。

── うん。

kana そして満を持して参加したのが、とある女性が集うイベントです。

私はSNSは見るだけであまり更新していなかったのですが、行動力のある友だちが「いいね!」していて偶然その存在を知りました。

それまでセミナーやイベントなんて、行ったことがない。展示会に来てくださった方との名刺交換や、自己PRすらちょっとためらう。でも、勇気を出してえいやっとイベントに応募しました。

動いて動いて、毎週のようにいろんなワークショップに参加して、刺繍の学校にも通い始めて。

自分ひとりで黙々と作業するのではなく、モノ作りの喜びを共有できるようにと、ワークショップの準備も始めたりして。じつは、まずは生徒として通い始めた「Makers’ Base」さんが、現在のワークショップ実施先のメインとなっています。

刺繍作家のkana

── すごいわね。「自分が変われば人生が変わる」。そのことを、あなたはこの1年間ずっと肌で感じていたのね。

kana 未だに自分が信じられない気持ちです。でも、世の中にはもっと生き生きと好きなことに夢中になって暮らしている女性がたくさんいるのだと、最初に参加したイベントで知ったから。やっぱり実際にひとに会うって、すごいパワーを持っているんだなって改めて気が付いたんです。

それまでは、とにかくモノ作りが好きで、自分ひとりの世界で刺繍だけできていれば、満足だった。でも、よくよく考えてみたら、私は金属工芸だってやめたわけじゃないし、ほかのクリエイターさんとのコラボだってしてみたいし、刺繍の本だって出したいし、モノづくりの喜びを誰かと共有したいし……。

だから次の個展では、作家として好きなモノをつくるだけじゃなくて、ちゃんとほかのひとに好いてもらえる、買ってみたいと思ってもらえるような刺繍作品をつくろうと思っています。

刺繍作家のkana
大学時代の金属工芸の作品例

── 大きな意識改革ね、作家にとって。

kana だと思います。自分のためにはもちろん、誰かのために、刺繍がしたい。自分の知らなかった世界を垣間見られることが、こんなに楽しいことだって、今はもう知っているから。

もう後悔したくない。チャンスは準備した者だけが掴めるから

kana じつは私、刺繍作家の活動をしながら、後悔していることが大きく2つあるんです。

── なぁに?

kana ひとつは、有名な歌手の方がPVやTwitterで私のつくった上履きズックを使用してくれていたのに、私にPRの準備が足りなくて、多くの人に知ってもらえる機会を逃したこと。

ふたつめは、東京で初めて展示会をしたときに、大手出版社さんに書籍出版の打診をいただいたのに、作品にバリエーションがなくて、また自分のこだわりが強すぎたために、期待していただいたモノをつくる余裕が私側になかったこと。

生きていれば、誰だって大小あれ何度かチャンスが舞い込んでくるものだと思います。でも、私はみすみすそれを逃してしまったんですよね。

刺繍作家のkana

kana たとえばSNSや公式サイト、オンラインショップをしっかり運用していれば、もっとたくさんの方に私の作品が届いたかもしれないし、自分が満足するものじゃなくて、周りのひとが愛してくれるものを考えられていたら、もっと拡がりを持って仕事ができていたかもしれない。

自分のキャパシティの把握も大切なだと思っています。昔、お子さんの靴をオーダーいただいた時、「もっと早く完成させてほしかったな」と言わせてしまったことがあるんです。

お子さんの足は、すぐに大きくなってしまいます。オーダーいただいた時に、それを私がきちんと加味して、お届けまでに1ヶ月ほどかかるのでもうワンサイズ大きいものをおすすめします、とか一言添えられたら良かったなとか。

作家として、良いものをつくることはもちろんのこと、誰かの手に届けるための工夫や努力をもっとしていきたいなって今は思います。

チャンスは準備していないと掴めない。そのことを、痛感した数年間だったから。

【かぐや姫の胸の内】明日月に帰ってしまうとしたら

── そう……。ねぇ、最後にひとつだけ聞かせて。かぐや姫は月に帰ってしまった……。もしあなたが、明日月に帰らなければいけないとしたら、最後の日は何をする?

kana そうですね……とりあえず、糸と布を大量購入するかな。月に手芸屋さんがあるかは分かりませんから(笑)。

── いいわね。あなたは刺繍と手仕事を愛している。

人生をかけて愛せるかもしれない、というものに出会えたひとは、幸せよ。たとえそれを選んだことで、なにか試練が起こったとしても。またお店に遊びにいらっしゃい。あなたの作品が、海外にまで広がる日を勝手に願ったりしているわ。

(一部写真提供:kana)

【お知らせ】kanaさんともとくら編集部がコラボします!2/25(土)@奥浅草

モトクラフトこんにちは。『灯台もと暮らし』のアートディレクションを担当している荻原 由佳(おぎゆか)です。

来たる2月25日(土)に、刺繍作家のkanaさんと一緒にワークショップを実施します!

スタンプワークという裏表なく縫える刺繍の技法を使ったイヤリング・ピアスをつくるワークショップです。自分の好きな色の糸を使い、『◯△◻』の形の中に好きな模様を縫えます。

また、会場がある奥浅草エリアにほど近い浅草橋はビーズや金具の問屋街で有名です。そこのビーズをつかい刺繍 + ビーズ + タッセルを組み合わせたピアス / イヤリングをつくります。タッセルアクセサリーは普段のファッションにも合わせやすく、今大注目のアクセサリーの1つです。

初心者でも大丈夫! 自分の好きを詰め込んだオリジナルの刺繍アクセサリーを一緒につくってみませんか?

限定8名の少人数開催なので、お申込みはお早めに〜!

■参加申し込みはコチラ

お話をうかがったひと

刺繍作家のkana

刺繍作家 kana
富山県出身。上履きズックや地下足袋などに染色・刺繍を用いた作品を制作。ガールズアートユニット図工女子の一員として渋谷パルコ、丸ビル、中野ブロードウェイ「Hidari Zingaro」他、展覧会多数参加。現在は東京で刺繍アーティストのアシスタントをしつつ、個人で制作活動も行っている。ウェブのセレクトショップ「密買東京」にて作品販売中。毎月、都立大学の「Makers’ Base」にて刺繍ワークショップを開催。詳細はこちら
公式サイトはこちら
Instagram:@ckmnxa
Twitter:@yume_kana

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探求者

伊佐 知美

旅するエッセイスト、フォトグラファー。1986年生まれ、新潟県出身。世界中を旅しながら取材・執筆・撮影をしています。→ さらに詳しく見る

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【かぐや姫の胸の内】遠回りが正解になる人生だってある。歌のない音楽「インストゥルメンタル」の魅力をもっと広げたい|studio iota label代表・前田 紗希 【かぐや姫の胸の内】好きな世界にもっともっと近づくために、気張らずに進みたい|デザイナー・荻原由佳

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